憩いのひとときを「あのーユウちゃん?」
「はい何でしょうか」
「これは一体どういう状況かなー?」
オンボロ寮の個室──諸々の事情があって利用するようになった一室でケイトは監督生の背後に立つヴィルに圧をかけられていた。
「ケイト先輩に対する不安をヴィル先輩に相談した結果こうなりました」
「簡潔な説明ありがとうそしてどうしてよりにもよってヴィルくんに相談にしちゃったかなー!?」
「お黙り」
「ぎゃん!」
魔法で尻を叩かれ、ケイトは情けない悲鳴を上げる。
「ううー、ヴィルくんひどいよー……」
「だ、大惨事だ……」
当惑する監督生の頭を撫でながらヴィルはほくそ笑む。
「ユウ。良い機会だからケイトのことをたっぷり罵ってやりなさい」
「え、」
「悪い顔しながらとんでもないこと言うの止めて!?」
「冗談よ」
「あっ良かった……」
安堵の息を吐く監督生に対し、ケイトはげんなりした顔をする。
「ほんっと止めてよねそういうの……心臓に悪すぎ……」
「ようやく仮面が剥がれてきたわね」
「へ、」
「今のアンタ、中々良い顔してるわよ」
嫌味ともとれるヴィルの称賛にケイトはさらに表情を歪める。
「いい加減に……」
「だ、ダメです!」
制止の言葉と共に監督生が抱きついてきたことでケイトは我に返り、胸ポケットからマジカルペンを引き抜こうとした手を下ろす。
「ユウちゃ──」
「しんどい時はしんどいってちゃんと言ってください!」
「……え?」
ポカンとするケイトの額を小突き、ヴィルは溜め息を吐く。
「取り繕うにしてもやりすぎなのよ、アンタは」
「ちょっと待って何の話?」
「見て見ぬふりが出来ないくらいにケイト先輩が無理をしすぎてるって話です」
「アンタがここまで強情じゃなかったらアタシだってこんな手荒な真似はしなかったわよ」
「ホントにー……?」
疑いの眼差しを向けてくるケイトにヴィルは肩を竦める。
「まぁこの子を不安にさせたことへの報いは別個で受けてもらうけど」
「そんなことだろうとは思ってたけどねー!」
「と、とにかく!今はゆっくり休んでください!」
「何ならこの特製睡眠薬で強制的に──」
「休む!休むからそのリーサルウェポンしまってヴィルくん!」
「余計なお世話、でしたかね……?」
不安そうに呟く監督生の頭を軽く叩きながらヴィルは苦笑いを浮かべる。
「寧ろ手緩いぐらいよ。アンタに言われなきゃ倒れるまで無理をし続けてたかもしれないわね」
「め、目に浮かぶ……」
「当分はこのやり方で睡眠時間を確保していくのが無難かしらね」
「倒れてからじゃ遅いですもんね……」
ベッドで眠るケイトを横目に見ながら監督生とヴィルはほぼ同時に溜め息を吐いた。