捻れた世界のアリス「今回ばかりは譲りませんからね!」
「こっちだって引き下がるわけにはいかないなー!」
「──おや、キミたちが痴話喧嘩とは珍しいね」
そう声をかけたリドルの方に振り返るや否や、ケイトはぱっと表情を輝かせる。
「聞いてよリドルくーん!今度の『なんでもない日』のパーティーでユウちゃんに着てもらいたい服があるんだけど、全然オッケーもらえないんだよー!」
「それはキミの選んだ服が悪いからじゃないかい?」
「そんなことないってー!ほらこれ見て!」
そう叫びながらケイトが付き出したスマホの画面を見てリドルは一瞬目を見開いた後、納得の表情を浮かべる。
「……なるほど、これは是非とも着てもらいたいね」
「でしょー!」
「そ、そんなぁ……」
あからさまに不安そうな顔をする監督生の姿にリドルは思わず笑みを溢す。
「キミがケイトの頼みを拒む理由は誰かに笑われたり貶されたりする未来が予測できるから、かな?」
「う、」
「あー……エースちゃんあたりはからかってきそうだよねー……」
「その辺りのケアは交渉材料に入れたのかい?」
「もち!でもご覧の有り様ー……」
「それはつまりキミが信用されてないということじゃないかな?」
「ええっ!?」
「いえあのそんなつもりは決して」
突然早口で言い訳を始めた監督生にリドルとケイトはほぼ同時に吹き出す。
「あ、あの……?」
「心配は無用だよ、監督生。万が一キミを貶す輩が現れたらすぐさまボクが首をはねてあげよう」
「リドルくんが守ってくれるなら安心だね、ユウちゃん?」
やんわりと承諾を強制する空気に監督生は乾いた笑みを浮かべた。
「ほらやっぱりかわいいー!」
パーティー当日、監督生はケイトが指定した服──その昔ハートの女王が治める国に迷い込んだ少女が着ていたものと同じデザインのエプロンドレスをその身に纏い、注目の的になっていた。
「いやー、男物も女物も着こなせるって話は本当だったんだなー」
「最初からそういうことを言ってればリドルに首をはねられなかったのに、お前って奴は……」
肩を竦めながらトレイはエースの頭を軽く叩く。
「か、かかか、かわ……」
「うん、気持ちは充分伝わったからこれ以上無理しなくて良いよデュース」
「デュースちゃんってばウブでか~わいい~」
「かっ!?」
「最早謎の鳴き声と化している……」
顔を真っ赤にして固まるデュースの姿に監督生は苦笑いを浮かべた。
「そういえばリドル先輩、この服ってそんなに特別なものなんですか?」
パーティーも終わりに差し掛かった頃、監督生がふと訊ねてきたことにリドルはぽかんとする。
「……ああそうか、キミは知らないんだったね」
「えっと……何を、でしょうか?」
「その服を着ていた少女のことさ」
紅茶を一口啜り、リドルは薄く笑う。
「突然現れたかと思えば突然姿を消した不思議な子。どことなくキミに似ていると思わないかい?」
「ど、どうですかね……」
「まぁキミが突然姿を消すなんて事態は起こさせないだろうけどね」
離れたところで写真撮影に明け暮れるケイトを眺めながらリドルはぽつりと呟いた。