推測ビルドアップ「──多分なんですけど、エペルの美意識ってポムフィオーレ寮の人たちから見ればマイノリティーの部類ですよね」
デュースが走り去った後、監督生がぽつりと呟いたことにカリムは首を傾げる。
「ん?どういうことだ?」
「エペルが美しいと思うものは強くてかっこいいとイコールで……だからえーと……えーと……」
こめかみを押さえて悩む監督生の背中を軽く叩き、ルークは柔らかく笑みを浮かべる。
「焦らず落ち着いて、ゆっくり考えてごらん。そうすればキミが言いたいことに最も相応しい言葉が思い浮かぶ筈だ」
「んー…………あっ、ボディビル!」
「ボディビルって何なんだゾ?」
「単語そのものの意味はウェイトトレーニングや適切な栄養摂取、そして休養を行うことで筋肉を発達させることだけどユウくんが頭に思い浮かべているのはその競技会。鍛え上げられた身体の美しさを審査する場のことだろう」
ルークの説明にグリムは渋い顔をする。
「オレ様の頭にはバルガスみたいなのがゾロゾロいる光景が浮かんだんだゾ」
「そのイメージで大体合ってるよ」
「ふなっ!?」
「つまりエペルにとっての美しいは筋肉ムキムキ、ってことで良いのか?」
「はい。エペルには強いと美しいは違う、って怒られそうな気はするんですけど……」
「私はそう思わないよ。逞しい肉体が魅せる美にエペルくんが惹かれていることは事実だろうからね」
「けど筋肉ムキムキのエペルってなんていうかこう……変、だよなぁ」
「ぜってー似合わねぇんだゾ」
「大きな声では言えないけど、自分もそう思う……」
「ユウくんは奥ゆかしいね。そこがキミの美点ではあるけれど──」
ずっと浮かべていた笑みを崩し、ルークは険しい顔を監督生に向ける。
「忘れないでくれたまえ。キミもまた、殻を破るべき雛鳥であることを」
「へっ?」
「そうだぞ!お前はしょっちゅう「オレには関係ない話だな~」って顔をしてるけど、全然そんなこと無いからな!」
「い、いきなり何の話ですか!?」
「魔法を使えずとも、性分化が不十分な身であろうとも、キミは私たちと同じナイトレイブンカレッジの生徒。舞台の中央に立つ資格を持つひとりだ」
ぽかんとする監督生の手を取り、ルークは微笑む。
「黙々と裏方の仕事に精を出すのも良いけれど、時には舞台袖から飛び出して観客を驚かせるやんちゃさを見せてほしいね」
「良いなそれ!ユウも一緒に踊ろうぜ!」
「名案だ黄金の君!」
「これそういう話でしたっけー!?」
必死な形相で監督生は叫ぶものの、カリムとルークの勢いを止めることは出来なかった。