宛名不要 内番も一区切りしたところで同じく当番に当たっていた者からいつもの包みを持たされた。この男は年少者が可愛いと言ってはいつだって特別好きではない甘いものをくれる。恐らくはわざと。
「はぁ」
断るのも忍びなくて毎度惰性で愛想笑いを浮かべて貰っているオレもオレなのだろうが、好きではないが断らないことを承知で持たせてくれているのだろうからたちが悪い。ああ、結構重たいから今日はたぶん大福やら饅頭といった中身がぎっちり詰まっている物に違いない。
いや、オレだって可愛がられるのが嫌なわけではない。ただできればもっと違った形がいいなといった我儘なだけで。一方的な好意の鬱屈を払いながら何とか国広と消化するのがお決まりだった。
「おい、いるか」
自室に戻っても小さな姿はなく、代わりに机には白い紙が乗っていた。近づいて手に取ってみるとどうやら国広の置手紙らしく、見慣れた字が行儀よく並んでいた。
内番でしょ、ちょっと行ってくるから暫らく待っててね。宛名の必要無い手紙の文面はこうだった。たった一行だけのどこに何をしに行ったのか何の情報もない置き手紙。どうせ国広が戻るまでは暇なのでどこで何をしているか勝手に推測でもしよう。
手紙のあった場所に包みを置いて状況を整理し始める。今分かっている事は墨の乾き具合からこの手紙はついさっき書かれたということ、そして走り書きで本当に簡単な連絡だということ。
「まあ、考えるまでもないか」
結論から言えば暇潰しにもならなかった。待っていればじきに国広が番茶でも持ってくるだろう。