サンプル:”第一次大規模侵攻犠牲者リストNo.37 [枕崎 苺 女性 享年20歳]”「バチバチ」という異音が響いていた。
それが何の音であるかは分からない。私が知っているものの中で一番近いのは、ホッピングシャワーを食べた時に口の中でする音、だ。けれどこの音は、コーヒーショップの大きな窓ガラスを貫通して店内に鳴り響く、突風、雷、地震、そういうスケールの大きな音。幹線道路沿いに店を出す全国チェーンのこのお店は、そこまで安い造りの建物ではないはずだけれど、直に天災に触れたような轟音だ。
ホッピングシャワー状の天災。そんなものは私は知らない。客席に座る人、コーヒーを運ぶ店員、誰もが、空ろに顔を上げて、「何」に注意を向ければ良いのかも分からないままでいる。
窓ガラスの向こう、県道の車線を、土埃が覆い隠した。ミルクティーのように不透明な煙が、一瞬で店外の全てを覆い隠し、ゆっくり、ゆっくりと晴れていく。私は両手を温めてくれていたショコラモカをそうっと手放した。逆に私の対面では、友人のサッコが、手元のキャラメルマキアートを掴んだ。助けを求めて縋るにも、武器として振り回すにも不適なそれを、掴まずにいられなかったのだろう。とけい座生まれの筈なのに、しれっとぺんぎん座モチーフのシャツを着て来る、そういう図太さのあるサッコには似合わない。でも、私はその行動を笑えない。笑う暇も無かった。
軋むような音がして振り向くと、窓の反対方向、カウンター近くの天井が落ちる。白っぽく、無機質な柱が突き立っていた。