1章 1話「なー焔、今からゲーセン行かね!?」
「今から?.....あー悪ぃ、金ないからパス」
鞄から財布を取り出し、中身を確認しながらそう返す。
「えー!?俺が奢るから!な!?行こうぜ!?」
「どうしてそんなすぐに行こうとするんだ.....」
財布を鞄にしまいつつ、俺は少し呆れながらそう返す。
「明日は家でゲームしたい!」
「ゲーム三昧か.....」
「良いだろ!?」
別にいいとは思う、思うが少しは勉強したらどうかと。俺が言えることじゃないが。
大事な事だから2回言う、俺が言えることじゃない。
「なぁ〜今!今行こうぜ!」
「うーん.....」
別に遊びに行っても構わない。俺には心配してくる親なんて居ないし。
むしろ遊んで帰りたい、すぐに家に帰りたくない。
ならこいつ.....岡本の誘いに乗ってゲーセンに行くのもありだよな。まだ16時くらいだし。
遅くなったって心配されないだろうと言う考えに至って、返事を返そうとする。
「なぁ、さっきの話だけど」
「さっき?」
「あぁ、ゲーセンの話だけど」
本当にお前が奢ってくれるなら行っても良いぞ。と、喋ろうとしたその時.....
「グルゥゥゥ.....」
.....?なんの音だ、今の.....
「なぁ、さっきの聞こえたか?」
「さっきの?......
何も聞こえなかったけど」
「そうか.....」
自分の聞き間違いか.....そうだよな、こんな所にそんな鳴き方をする動物みたいなのは居ないわけだし。
俺が聞き間違えたんだよな、絶対そうだ。
「で、ゲーセン行く気になったのか!?」
なら行こう!すぐ行こう!!と何度も言ってくる。
それに俺は犬みたいだと思いながら了承の返事を返そうとする。
けれど、それを拒む声が。
「グルゥゥッ」
またか。それに、何となくだけどさっきより声が近付いた気がする。
.....聞き間違いなんかじゃない、確実に、何かがいる。
「.....焔?生きてるかー?」
「生きてる!」
勝手に殺すな、と言ってそいつの頭を軽く叩く。
「だって返事無かったし別のとこ見てたから聞いたのにー」
と、ぶーぶー言いながら先に歩いていく。まぁ確かにその声がした方をずっと見てはいたけど。
見てただけで死んだわけじゃないから勝手に殺さないで欲しい。後を追いながらそう思う。
そう、ただ自分は見てただけ.....で.....
「なんだ、あれ.....犬.....?」
“犬のような何か”がこちらに向かってくる。
「犬.....?何もいねぇよ?」
「いやいるだろ、変な犬みたいな.....」
犬.....にしてはデカいような.....?でも他に例えようはない、よな
.....そうだ、気づいてない振りをすれば.....襲ってくるようなことも無いよな、と。そう考えて、やっぱり自分の見間違いだよなと1人で勝手に片付ける。
.....それが、駄目だった。
「グルゥァァ.....!!!」
「.....!?」
明らかに、こっちに.....俺の方に向かってくる。
「焔、お前急にどうした?さっきからおかしいぞ?」
「あれ見えてないのか!?」
「だからお前は何が見えてるんだよ!?」
「.....くそっ、なんで俺だけ見えてるんだよ.....!」
どうして俺以外には見えてないんだ?あんなの、普通だったら今頃パニックになってるはずだろ!?
.....とりあえず、どうやってこの犬みたいなのから逃げようか。まずはそれが大事だろ。
「.....悪い、俺やっぱり帰.....」
やっぱり帰る。と、そう言おうとする。けれどその言葉は言えなかった。
.....どちらかと言うと、言葉を遮られた。
「フレイム!」
「グギャァァア!!」
「.....!今の.....」
犬のようななにかが倒れる前、よく聞きなれた声が耳に届いた。
「ホムラ!大丈夫!?」
「イナバ.....」
やっぱり、さっきのあまり聞き慣れない単語を発したのはイナバか。
.....でも、あのデカい犬みたいなやつ、どうするんだろうな.....?燃えた、けど
「あれ、陸奥じゃん」
「岡本くん.....見てないよね?見えてなかったよね?」
「え、お、おぅ.....俺は何も見えてなかったけど」
岡本がそう言うとイナバは安心したかのような表情を浮かべる。
「そう.....なら良かった。.....ホムラはこっち来て」
「.....分かった」
ゲーセンついて行けねぇや、と言うとあいつは別に気にすんな!と大きな声で返してくる。
.....あいつが優しい性格で良かったと思った。
先を歩くイナバの後ろを着いていく。
何処まで行くんだろうと思う。
だんだんと人気のない路地に来るところで、ようやくイナバが歩みを止める。
「.....ホムラには、さっきの“ウルフ”...見えてた、よね.....?」
さっきのあのデカい犬、ウルフって言うのか.....
「見えてた」
他のやつは見えてなかったみたいだけど、何故か俺は見えてた。.....どうしてだろうか。
「.....うん、やっぱり連れていくしか無いよね.....」
「連れていく.....?」
「.....ホムラ、この扉通って」
「扉?」
そう、と返しつつ、扉に変わった形の鍵を挿し込む。
「通ればいいのか?」
「うん、私も通るから」
なら俺が先に通らなくてもいいんじゃないのか?と思う。
.....まぁ、別になんでもいいか、家に帰らなくていいんだし。そう思いながらその扉を通る。
____その先で、全く予想もつかないような事実を伝えられるとも知らずに。