1章 2話扉を通って出た先は、見たことも無いような場所。近くにあるものといえば扉を出た時に見た祠みたいなものと見渡す限りの草原だけ。
「着いた。.....こっち、着いてきて」
イナバに促されるがまま後を着いていく。......着いていくのは別にいい、でも何処まで行くんだ?
「なぁイナバ」
「なに?」
「別に着いて行きはするけど、何処に行くとかは教えてくれねぇの?」
俺がそう聞くとイナバは少し考えてから「テラスって場所に行くんだよ」と答える。
「テラス?」
「うん、1度そこに寄ってからまた別のところに行くから」
テラス.....聞いたことないな。そもそもここが何処なのか分かってないわけだから、聞いたことないのは無理ないか.....?
「.....ホムラ、ちゃんと着いてこないと死んじゃうよ?」
「死.....!?」
なんだよここ、そんなに危険な場所なのか.....!?.....どうしてそんな場所に連れてくるんだ.....
「まぁ、死んじゃうっていう冗談は置いといて、危険ではあるからね?」
「冗談、って.....」
さっきの本気で言ってるように聞こえたぞ.....!?
「大丈夫だよ?.....私から離れさえしなければ、だけど.....」
「それって要は少しでも離れたら危険ってことだよな.....?」
どっちにしろここは危険なんじゃないか。.....と言うのはやめといた。置いて行かれそうだ。置いていかれるのは不味い、こんなよくわからない場所で死ぬとかは嫌だ。
「.....置いて行ったりしないからね?まだホムラ1人だと危険だもん」
「.....」
なんで考えてることが分かるんだ。.....エスパーか何かか.....?
「ホムラ.....声に出てたからね.....」
「マジか」
気を付けてよ。と注意を受ける。これで先生に怒られたりするんだよな.....。いやこれだけじゃない、小テストの点の悪さとかでも怒られるよなぁ.....俺だって好きでそんな低い点取ってる訳じゃねぇし。
「見えてきた」
「?」
見えてきた?何が.....
そう思って足元を見ていた顔を上げて前を見る。
「あれがテラスだよ」
「あれが.....?立派なんだな」
特にあのデカい家、と言うとイナバは「魔法使いの一族が住んでるからね」と言う。
「魔法使いの一族.....?」
「うん、とにかく偉い人達なの」
と、少し.....ほんの少しだけ、悲しそうな顔をしながら言う。.....その家と何かあったのか.....?そう、聞きたい。でもきっと答えてはくれない気がする。
「.....いつかちゃんと話すから」
「だからそれまで待ってて」と小さく呟く。
「そうか、.....じゃあそれまで待つ」
そう返す。別に今すぐに知りたいわけじゃない。イナバが自分で話したいと思った時にでも話してくれればそれでいい。
「あれ、イナバちゃん?」
「リースおばさん!」
話してるうちにいつの間にか街の中に入っていたらしい。.....そしてイナバは街に入って少しした所の家の人と話を始める。
「今日はどうしたの?」
「.....少し、ストーリア国まで用事が.....」
ストーリア国?.....次はそこまで行くのか......?まぁまだしばらくは家に帰らなくて良さそうだし、別にいいか。
「あの男の子が、そうなのかい.....?」
「うん、そうだよ」
.....そう、って何がそうなんだ......?
話の流れからするに、多分ストーリア国ってところに行く理由は俺をここに連れてきた事と関係があるんだろうとは思うが.....
「ストーリア国までは少し遠いから、気を付けるんだよ!」
「はい、行ってきます!」
「行こう、ホムラ」と言ってイナバは俺の制服の裾を引っ張りながら歩いて行く。
それをリースって人はニヤニヤしながら見ていて、イナバを見ると顔が少し赤い。......一体何を話してたんだ.....わかんねぇなぁ.....
まぁ、いいやわからないものはどう考えてもわからないままだし。
「イナバ」
「なっ、何?」
少し声が上ずってたような.....?って、そうじゃない、次の行き先を聞こうとしてたんだ。
「次ってさっき話してたストーリア国ってところか?」
「そうだよ」
「よく覚えてたね?」とイナバが言う。流石に覚えるだろ、これから行く場所だし。
「何をしに行く、とかは......」
「あ、うんそれは教える」
「何から話そう.....」と呟く。恐らく話す順番を考えているんだろう。
別に何から話してもいいと思う。.....難しいのは聞きたくねぇけど。
「まず、ストーリア国に行く目的は女王様への報告、かな」
「報告.....」
それって、俺もついて行かなければいけないのだろうか。と思ったが言うのはやめよう。
ついて行かなきゃいけないから今こうやって半ば強制的に引っ張られてるわけだし。
「それと、報告が終わってから次に何処に行くかっていうのも決めるから」
「決めること多いんだな」
「仕方ないよ」
「必要な事だもん」とイナバは呟く。必要なこと.....なのは仕方ないとしても、何となく急いでいるように感じる。
「何かあるなら」
「?どうしたの.....?」
俺が力になれるのかなんて、分からないけど
「俺に出来ることなら、その.....言ってくれよな?」
「.....うん、ありがとう」
「なら今は私に着いてきて欲しいなー」と、いつもの調子でそう言う。
それに俺は「わかった」とだけ返して引っ張られながらも後を着いていく。
「ホムラは、何があっても.....絶対、守らなきゃ」
ボソッと、イナバは小さく呟く。
「?何か言ったか?」
「ううん、別に何も!」
「ほら早く」そう言いながらさらに裾をグイグイと引っ張って先へ進む。
.....何となく、“守らなきゃ”.....そう、聞こえた気がした。