1章 13話「.....と、まぁこんな感じだぞ」
話し終えるとシオンは閉じていた目を開け「そういうわけだからお姉ちゃんと行方不明になってる人を一緒に探して欲しいぞ」と桜の木の周りをクルクルと回りながら言う。
「そういう事なら.....探すか」
「うん、一緒に探そう」
俺とイナバがそう答えるとシオンは表情を明るくして「ありがとう!」と言った。
「.....っていうかシオン、王子だったんだな」
「そうだぞ!」
「でもだからといって特別扱いしなくていいぞ」とこれまた桜の木の周りをクルクルと回りながら言った。
「.....そのうち目回っても知らねぇからな.....」
「目なんて回んないぞ!!」
「何言ってるんだ」と言わんばかりにそう返してくる。.....もしかして今まで1回も目回ったことないのか.....?
なんて思ったのも束の間すぐにシオンはその場にうつ伏せで寝転がる。
「ど、どうしたのシオンくん.....」
「なんか.....視界がぐるぐるするぞ.....」
「目回ってんじゃねぇか」
俺がそう言うとシオンは「これが目が回ってる状態.....!」とまるで感動してるかのように言う。別に感動する程のものでも無いような気はするけどな.....
「.....まぁとりあえず目が回ってる回ってないは置いといて次どこ行くんだ?」
「フルムは1回行ったけど.....ボクとしてはもう1回行きたいぞ」
そう言いながらシオンは寝転がるのをやめて起き上がる。
「目回ってたんじゃないのか?」
「もう大丈夫だぞ!」
「だからすぐにでもフルムに.....」とシオンは言葉を続けようとする.....けど、イナバの「えっと...」と言う声に遮られる。
「すぐに行こうとするのは良いんだけど.....」
「けど?」
「もうすぐ中間テストが.....」
「......は?」
ちょっと待て中間テスト?なんの勉強もしてねぇぞ?
「中間テスト.....?それって大事なもの?」
「大事なものだよ」
「だから1回表世界に帰らなきゃ.....」とイナバはシオンに説明しながらそう言う。
テスト.....テストなぁ.....
「テスト受けたくないって言ったら」
「引き摺ってでも連れていくよ?」
「そんな力なさそうだけどな.....?」
俺がそう言うと「.....実際には無理だろうけど絶対連れていくからね」とイナバは言う。っていうか.....
「テスト受けなくても提出物でどうにかなるとか先生言ってなかったか.....?」
「提出物すら出来てないのに無理だよ.....」
「.....どうしても1回帰るしかないのか......」
「帰るしかないよ.....」
「どれだけ帰りたくないの.....」とイナバは呟く。
そりゃあ.....また勉強ばっかになるって考えたら、嫌だよな.....
「なんかよくわかんないけど、大事なことだったら帰った方がいいと思うぞ!」
「.....すぐに姉とか探せねぇぞ.....?」
「別にそこまで急ぐ訳でも無いぞ」
シオン.....さっきは「すぐにでも」って言ってたくせに.....!!なんで急にすぐじゃなくていいって言うんだよ.....学校行かなきゃいけなくなるだろ.....
「一旦表世界に戻るならストーリアまで行って欲しいぞ」
「別にいいけど.....どうして?」
「ストーリア国だったら女王様と面識あるから.....」
「戻ってくるまではそこで待ってようと思うぞ」とシオンは言う。待ってるなら別にセレジェイラでもいいんじゃないかと思う.....けどすぐに〝あそこが居場所だと思われたくない”と言っていたのを思い出す。
「.....じゃあストーリアまで戻るか.....」
「テスト受ける気になったの?」
「テストは受けたくねぇ」
俺がそう答えるとイナバは「えぇ.....」と言いつつもストーリアまで戻るために歩き始める。それに釣られるかのように俺とシオンも歩き始める。
「戻るまでに魔物と遭遇、とかねぇよな?」
「街を出る時にちょっと見たけど、特に魔物はいなさそうだったぞ」
俺の疑問にシオンは少し得意げになりながらそう答える。
「魔物がいるいないってわかるんだな」
「大体の感覚だぞ」
「感覚でわかるものなの?」
「護衛とかそういうのやる時に注意しとかないといけないから感覚でわかるようになるぞ」
「だから魔物がいるかいないかはボクに聞いてくれて良いぞ!」と言いながらシオンは先を歩く。
幾ら魔物の気配とかがわかるとは言っても先に1人で行くのはどうかと思うけどな.....?
そう思いながら後ろを着いていくとシオンは急に「橋まで遠いぞ!」と大声を上げる。
「うわっ、びっくりした.....急に大声出すなよ.....」
「確かに急に大声出されると驚くから.....」
「.....だって思ったから.....」
思ったからって.....急に大声出していい理由にはならないだろ.....
「.....ごめんだぞ」
「別に謝んなくてもいいけどな.....」
話しながら歩いていけばいつの間にかシオンが遠いと叫んでいた橋まで辿り着く。
着いたとわかった時シオンは「橋に着いたぞ!」とこれまた大声を上げる。
「だからなシオン.....」
「ご、ごめんだぞ.....」
「まぁまぁホムラ、シオンくんもわざとじゃないし.....」
そう言ってイナバは俺を宥めてくる。.....別に怒ってねぇんだけどな.....
そう思いながらセレジェイラに行くために渡った橋を今度はストーリアまで戻るために渡り始める。
「.....」
「........」
「...........」
ただひたすらに長い橋を3人とも特に何も話すこと無く進んでいく。
静寂の中聞こえるのは海の波打つ音と橋を渡っている3人分の足音のみ。
「.....あ、ストーリア国が見えてきたぞ!」
「でもまだ橋渡り切ってないだろ」
「そうだけど.....見えてはいるぞ!」
そう言いながらさっきからただでさえ少し早歩きだったのにさらに早歩きで歩き始める。
「え、待ってシオンくん.....」
「そんな無理してボクに合わせなくて大丈夫だぞ」
さっきより歩みを速めたシオンはそう言って自分のペースで歩き続け、それを後からイナバが追っていく。
「.....なんかこれよくあるような」
そう1人呟きつつ、オレもシオン達の後を追うために早足で歩き始めた。