1章 7話「やっと着いた!」
「えっと宿屋は.....」と、俺の制服の袖をつまんだまま、イナバは辺りをきょろきょろと見回す。
「.....なぁ、俺はいつまで引っ張られるんだ.....?」
「あ、引っ張ったままだっけ」
「ごめんね」と言って袖から手を離す。そしてまた宿屋を探すために辺りを見回し始める。......普通に誰かに聞いた方が早いよなこれ。
そう1人で考えていると。
「あっ、あったよ宿屋!」
「ほらあそこ」と言う声と共にイナバが指をさす。それにつられて指差しで示された場所を見る。そこにはそこそこ大きめの家.....に近い造りをしている建物が見える。それをよく見てみると“宿屋”と書かれた看板がぶら下げられていた.....けど、遠くからだと少し見ずらいなあれ。
「ほら早く行くよ」
そう言って歩き出したイナバの後に続くかのように俺もその宿屋に向かって歩き始める。
「.....近場ではあるんだから別に急がなくても良くないか?」
「確かにそうだけど、空いてる部屋が無くなるのは嫌でしょ?」
「だから早く」と言いながら宿屋のドアの方へ進み、ガチャッと音を立てながらドアを開ける。
「お疲れ様でした。お二人でしたら.....1晩100ゴールドになりますがお泊まりになられますか?」
どこかで聞いたことある文章だな?っていうかゴールドってなんだ?
「100ゴールドですか.....泊まります」
そう言ってイナバは鞄から財布を取り出して100ゴールドを支払った。.....ゴールドってお金のことなんだな。
「お部屋はそちらの階段を上がってすぐの201号室になります」
「わかりました」
イナバはそう返して受付の人から部屋の鍵を受け取ってから階段の方へ歩く。それに俺はイナバに名前を呼ばれるより前に階段の方へ向かう。
「.....今回は呼ぶ前に来てくれたんだ?」
「流石に場所わかってんだから勝手にそっち行くよな.....?」
そう返しながら階段を上り、目的の場所である201号室に到着。受付から受け取った鍵を挿してドアを開ける。
「結構広いねー」
「そうだな.....」
広い...広い、けど。部屋には風呂と洗面所、手洗いと机と.....後はソファとクローゼットと.....ベッドが、1つ。
寝るために必要なベッドは1つしかない、のに枕は2つある.....なんでだ。
「.....ベッド、1つだけ.....?」
「どうしよう.....」とイナバは小さく呟く。その様子を見て俺は「あー.....」と声を発する。
「.....俺、そこのソファで寝るわ」
そう言いながらベッドから1つ枕を取りソファに置く。
「え?でも.....」
「代わりにイナバがそっちのベッドで寝れば良いだろ」
言いながら剣を固定しているベルトを外し、近くの壁に剣を立てかける。
「.....風邪引くよ?」
「引かねぇよ」
クローゼットを開けてタオルケットを探しつつそう答える。
「あ、あった」
少し小さいけど.....まぁ大丈夫だろ。そう思ってソファにタオルケットを広げる。
「.....ならいいけど.....私、お風呂先に入ってるからね」
「おー」
と返事を返す。でちょっと待て?着替えってどこにあるんだ?.....持ってなんかないよな.....?
「なぁイナバ」
「なにー?」
「着替え.....ってどこにあるんだ?」
そう聞くとイナバは一旦動きを止める。
「.....洗面所の籠の中」
「そこに大体置いてあるから」とだけイナバは言って洗面所の方へ向かう。
大体.....って言うけど、なんで置いてあるんだ.....普通は自分達で持ってくるもの.....だよな.....?.....って言っても学校帰りだったから着替えなんて持ってねぇんだけど。
「.......」
何をしようか、そう考える。
.....そうだ今日は色々あったよな。帰りに魔物.....ウルフに襲われたり、イナバが魔法を使ってたり裏世界に連れてこられたり.....俺が、裏世界に伝わる勇者の生まれ変わりだったり。
別に魔物に襲われたりとか裏世界に連れてこられたり.....とかはまだ良いとして、イナバが魔法を使えるとか知らなかったし、俺が勇者の生まれ変わりだとかは.....初めて知ったよな.....
でもそれっぽいことは今まで何回かあった.....ような、無かったような.....?いや無かったな。ないない、何も.....無かった.....
「.......はぁ」
気になる。
壁が薄いのか風呂から余裕で.....その、シャワーを出す音が聞こえてくる。サァァァ.....と、まぁ.....普通に聞こえてしまうわけで。.....気にしないのが無理な気さえする。
「どうしてこんなに聞こえるんだ.....」
もう少し音を遮るものとかがあってもいいと思うんだ。こう.....もう少し、壁を分厚くする、とか.....。そんなことを考えていた時、ガチャッと、扉が開く音がする。え、もう出たのか.....ってそうじゃない!!
.....寝よう.....寝れば気にしなくていい.....そう思ったのに。
「ホムラ?.....お風呂入らないの?」
「.....」
なんでこのタイミングで出てきた!?っていうかまだ髪濡れてる.....
「.....ホムラ?」
「俺もう寝る.....」
「えっ」
「髪乾かせよー」と言ってソファに寝そべる。
「ちょっとお風呂はいつ入るの!?」
「明日起きたら入る」
「.....ちゃんと入ってよ?」
「へいへい」
起きたら風呂に入る。そんな約束をして俺は眠りについた。