1章 12話セレジェイラを襲おうとしていた魔物達を一匹残らず倒してから数日。あの日から俺はシオンに剣の扱いを教えてもらっていた。
「そう言えばホムラ、今日ってあの日から10日目じゃない?」
「あの日から?.....そう言えばそうか」
セレジェイラに滞在してから10日目。
だからシオンは今日起きて早々「昼頃になったらセレジェイラの丘の桜の木の所まで来て欲しい」って言ってたのか.....
「.....一通り荷物纏めたらシオンくんの言ってた所に行こう?」
「荷物纏めたら、なぁ.....」
荷物って言ってもあの時からずっとある通学用の鞄しかねぇし.....そもそも鞄から何かを取り出したりとかしてねぇし.....そう思いながら剣をいつものように腰に巻き、鞄を肩に掛ける。するとイナバは「ちょっと待って」と言って鞄の中身を整理し出す。
「なんで中身全部出してんだよ.....」
「無くなってるものとかないかを確認したいから」
そう言いながらついさっき出した物を一つ一つ丁寧に鞄の中に仕舞っていく。.....あれって1回中身出した意味あったのか......?
「うん、無くなってるものは無かったかな」
「行こう」と言ってイナバは先に鍵を持って部屋を出る。
「一応待ってたんだけどな.....?」
そう思いつつも、一応部屋に忘れ物がないかを確認して部屋を出る。
「.....ホムラ何してたの?」
「置き忘れがないか見てた」
そう話しながらイナバは予め鍵穴に挿していた鍵を回し、扉に鍵を掛ける。
そしてその鍵を受付に返すために階段を下る。
「.....でも、なんでシオンくんセレジェイラの丘のところに来て欲しいなんて言ったんだろう.....」
「実際にそこに行けばわかるだろ」
そう言いながら鍵を受付に返し、宿屋を出る。丘.....って多分あの屋敷の裏側だよな.....?と考えながら街を出てその指定された場所へとイナバと2人で向かう。
暫く歩けばその場所には簡単に着いた。
「.....まだお昼じゃないぞ」
桜の木にもたれかかるようにしゃがみ込んだシオンはそう声を掛けてくる。
「どうせ暇なんだからいつ来てもいいだろ」
そう言いながら俺は街を囲っている塀にもたれ掛かる。
「まぁそうだけど.....とりあえずボクの事も話はするけど、その前にまずは交換条件を提示したいぞ」
「交換条件.....?」
俺がそう疑問に思い呟くとシオンは「そう」と言って言葉を続ける。
「ボクがホムラ達の旅に同行する代わりにボクはホムラに今まで通り剣の扱いを教えて、戦闘時の回復も担当する。代わりにホムラとイナバはボクの探している人たちを探すのを手伝って欲しい」
「悪くはないと思うぞ」と言ってシオンは桜の木にもたれ掛かるのをやめ、立ち上がった。
「確かに悪くないけど.....」
「探してる人達、ってどういうことだ?」
俺がそう聞くとシオンは少し俯き、「.....ちゃんと、その事は話すぞ......」と近くにいてやっと聞こえる程度の大きさで呟く。
「本当は、あんまり思い出したくないけど.....」
.....そう言いながらも、シオンは昔を思い出し語るかのように目を閉じ、静かに話し始めた。
「.....あれは、ボクがまだ6歳だった頃.....」
____6年前、クレアール国城内____
「お姉ちゃん!今日は14歳のお誕生日ですね!」
おめでとうございます、とそう嬉嬉として当時14歳になったばかりの姉に伝える。
すると姉は嬉しそうに「ありがとう」と言葉を返してくれた。
「今日はお祝いのパーティをするみたいだから、きっとシオンの好きなお菓子も沢山出るよ」
「本当ですか!?.....あ、でも今日の主役はお姉ちゃんで......」
「.....私は、シオンの喜んでる顔が見たい」
「それが、1番の誕生日プレゼントだから」と、優しく言ってくれた。それに当時のボクは「はい、お姉ちゃん」と言って、その顔に笑みを浮かべた。
.....楽しい時間はどんどんどんどん、無情なまでに進んでいく。
___そして、
運命の時はやってきた。
「報告です!この城より南の方面から魔物の群れが!!」
「何!?」
「このままでは危険です、早々に避難を開始しなければ......!」
兵士の慌ただしい声と、父上の冷静さを失った声。
それを聞けば、当時幼かったボクでも何が起きているのかくらい見当がついた。
「ち、父上.....」
「大丈夫だ。お前達はあいつと一緒にこの城から逃げなさい」
「私もすぐ追いかけるから」と、そう言ってボク達を逃がすために王族とはわからない格好をさせてボクとお姉ちゃん、母上を真っ先に隠し階段から逃がしてくれた。
.....それからボクは、父上とは敢え無くなった。それが、父上との最期の会話となったのだ。
「王妃様、王女、王子!私達も後ろからついて行きますので背後はご安心を.....!」
「.....分かりました」
母上がそう返事を返す。
兵士を先頭にし母上、お姉ちゃん、ボク.....そして兵士という順で隠し階段を下り城からの脱出を試みた。
.....けれど。
「グギギギッ.....」
「なっ.....お、お下がりください!」
その頃、1度も城から出たことの無いボクからすれば、それはまさに異形そのもの。
恐怖の対象にしかなり得ない。
「ぁ.....」
「シオン、大丈夫」
「大丈夫だから」と何度も言い聞かせて落ち着かせてくれた。.....今思えば、あの時お姉ちゃんも怖くて仕方なかったはずなのに。
ボクを落ち着かせる為に「怖くないよ」と、繰り返してくれた。.....まるで、自分にも言い聞かせるかのように、ずっと。
「ここは私たちにお任せ下さい。王妃様は王女と王子を連れて安全な場所へ.....!」
「え、えぇ.....!」
兵士に向かって、母上は言葉を返す。そしてすぐ、母上はボクとお姉ちゃんの手を引き、走ってその場を後にする。
「あ、あの母上、父上は.....!?」
「あの人なら.....きっとすぐに来てくれます」
お姉ちゃんの問いに母上は力強くそう答えた。
それを聞いてもその時「あぁ、安心しても大丈夫なんだ」と、心の底からそう思えた。.....なのに
「グルルッ......」
「......!」
前方から魔物。絶望でしか無かった。
「.....あなた達だけでも逃げて.....」
「でもっ.....」
「いいから!」
普段の優しい母上からは想像も出来ないような剣幕でそう怒鳴られ、ボクもお姉ちゃんもビクリと肩を震わせた。.....けれどすぐに「.....お願い」といつもの優しい母上の声でそう言われボクとお姉ちゃんはそれにただ頷いて一緒に逃げるしか出来なかった。
「っはぁ.....」
「ぅ.....父上.....母上ぇ......グスッ.....」
「シオン.....」
手を繋ぎながらもうすぐ城の外に出るという所で。
「.....私が父上と母上を連れてくる」
「その間にシオンはできる限り安全な場所まで逃げて」.....繋いでいた手を離しながらそう言われた。
「嫌、です.....!ボク1人なんて、そんなのっ......」
「.....シオン」
「こっちを見て」と言う声につられ、顔を上げる。するとそこには優しい笑みを浮かべたお姉ちゃんが目に映った。
「私のリボンをあげるから」
「1人じゃないよ」と言ってお姉ちゃんはボクの左手首にリボンを数回巻き付けちょうちょ結びにしてくれた。
「ほら.....大丈夫、ちゃんと何があってもシオンの所に戻ってくるから」
「.....わかり、ました.....」
「絶対戻ってきてください」ボクがそう言うとお姉ちゃんは「うん、必ず」と言って元来た道を引き返して行き、暫くしてボクは1人で城から出ていった。
.....それから2日。ボクはクレアールと関わりのあったヴィズィオンに行きお姉ちゃんが来るのを待った。
ずっとずっと待った末、ボクの元に届いたのは数名の行方不明者と死亡者の数、そしてボクのお姉ちゃんである王女の行方が知れない事を記してある手紙が一通。
これを出したのは少なからずあの時逃げ延びた人で.....それは、嬉しかった。
でも死亡者の中にはボクの父上と母上の事も書かれていた。その時ボクは大声で泣いた。王子らしくないとか、そんな事は気にせず涙が枯れるまでずっと、ずっと。
それから
幾日が経ちヴィズィオンの王子.....カイルに言われた。「そのまま泣いてばかりでいいのか」と。「もしかしたら王女は生きているんじゃないのか」と.....
その時はどれもこれも、信じられなかった。
信じられない.....けど、確かにこのまま泣きながら外に出ず、探す事を諦めてしまうより.....僅かな望みにかけて、行方不明者とお姉ちゃんを探してみようか。
そう考えれば後は簡単でボクはそれから半年、剣の稽古も回復魔法も全部勉強して1人でも外に出られる程には完璧にした。
「.....半年間でしたが、お世話になりました」
「うむ.....」
「では」と言ってボクはヴィズィオンを後にしようとする。けれどすぐ後ろから「シオン王子」と呼び止められた。
「なんですか?」
「そんな訓練用の剣ではこの先心許無いであろう?」
「これをあげよう」そう言って王様はボクに上質な銀で出来た剣を手渡してくれた。
「.....あの、これ......」
受け取れません。そう言おうとした時「誕生日プレゼントだと思って受け取ってくれ」と言われた。.....誕生日?そう言われた時直ぐには理解できなかった。けれど王様の「誕生日おめでとう、シオン王子」と続けて言われた言葉で、理解出来た。
そうだ、ボクは7歳になったんだ、と。
「.....ありがとう、ございます」
ボクがお礼を言って剣を受け取ると王様は「うむ」と嬉しそうに言葉を返してくれた。
「それでは.....半年間、ありがとうございました」
王様に心の底からお礼を言い、ボクは今度こそヴィズィオンを後にした___。