次男と長男と長男の彼氏の話注意
いつにも増して捏造ネタがてんこ盛りです。
特に竹雄君のキャラは原作であまり描かれていないのと「キメツ学園ネタだから」という都合のいい言い訳をしながら好き勝手に書いています。
そういった作風の二次創作が苦手な方は読むのをお止めください。
また、竹雄君だけではなく他のサブキャラ達(無一郎君はサブではなありませんが)のキャラも捏造しまくってます。
ご注意とご熟考の上お読みください。
読んでから不快に感じられたとしても一方的なクレームには返信しません。
前半は竹雄メインでカップリング要素ありません。
後半は炭善です。
なけなしのキャラ設定
・竹雄
今回のメイン。中学二年生。
偉大すぎる兄と姉を持って生まれてしまったが為に若干卑屈だが基本的に素直でいい子。
最近少し反抗的気味で中二らしくイキってみたいお年頃だが、根がいい子に育ったので長続きしない。
反抗期も多分一年もしない内に終わる。なんだかなんだ言って兄ちゃん姉ちゃん大好き。
街中で桑島兄弟がやり取りしてる(心底口が悪い)場面を見てショックを受けた。
・無一郎
竹雄と同じクラス。前世と違い兄とはそれほど喧嘩はしない。仲良し。
でも炭治郎大好きすぎてそれが原因で拗れる。
口の悪さは兄の方が上だが無一郎は心根を折る口撃をしてくる。
・有一郎
前世と同じく素直になれない性格が治ってない。
頭は良いが恐ろしく要領が悪い。
竹雄と同じように反抗したいお年頃だがやっぱり性根がいい子なのでワルぶれない。
・正一
竹雄と同じクラス。
基本的に正論しか言わない。無一郎程ではないが言葉の刃が鋭い。
その為初対面の人からはツンケンしてるように思われがちだが、実際は仲間思いで兄弟思い。
風紀委員所属で例の金髪先輩の補佐役にされ苦労している。
・千寿郎
こちらも偉大すぎる兄を持って生まれてしまったが為に凡庸で埋もれている。
と、思っているのは本人だけで努力家で生真面目な性格と、何より常に穏やかで菩薩のような笑顔が癒やされると仲間内外で一目置かれた存在。
本人は兄の威光のおかげだと思いこんでるらしいが、どちらかというと母譲りのオーラと彼の生来の徳の高さからきている。
怒らせるとめちゃくちゃ怖い。兄でも手がつけられない。
※千寿郎君は原作では中1ですがどうしても登場させたかったので改変しました。すみません・・・。
・炭治郎
我らが長男。強いぞ頼もしいぞ元気だぞ。(色んな意味で)
・善逸
長男の先輩かつ友達。実は恋人。彼氏が色んな意味で元気すぎて困ってる。
・伊之助
今回はほぼ出番がない。すまん。
・禰豆子
我らが長女。いくつものデコがそのデコピンの犠牲になった。
・獪岳
善逸の血のつながらない兄。今世では人畜無害な生き方をしてるがいかんせん口と性格が悪い。
この辺の設定を見て無理と思った方はそっと閉じて大丈夫な方のみお進みください。
思春期の少年少女にとって家族内の内輪ノリを外に出してしまう事というのは、非常に気恥ずかしいものだ。
特に男子はティーンエイジャーになると自立心の芽生えから、周囲に対して無闇に反発するようになる。生まれ育った家族を大切にしたいという気持ちと、己の巣を作って自立したいという本能が反発しあうせいで心の内側は複雑に絡み合ったような状態に陥る。それらは成長過程に必要なもので健全に育っている証拠だ。いつまでも生まれた家にべったりではいけない。
そうは言っても、育てた親からすると子が親離れしようとするのは寂しいもの。また、子供の複雑な心境を察する事が出来ない鈍い親もいたりする。
ここにもまたそういう親、いや兄が一人。
竈門竹雄は次男である。
そして兄の炭治郎は常日頃から長男である事を誇りとし自称している。もしも「長男」である事を評価する世界大会なんてものが存在したら奴は必ず立候補するだろう、と他の兄弟をして思わしめる程に。
それ故に竹雄は生まれてしばらくは、とんでもなく甘やかされていた。主に炭治郎に。姉の長女禰豆子もまた長女らしくしっかりしていて炭治郎とは年子な為、双子のような関係性だった。祖父母と母は家業のパン屋を経営するのが忙しく、物書きの父はいつも家にいるが体が弱いので無理はさせられない。両親からあまり構ってもらえない代わりに、炭治郎と禰豆子は竹雄をとことん可愛がってくれた。
しかし、それも妹の花子が生まれるまでだった。
赤ん坊が生まれれば家族の意識がそちらに流れるのは自然な事。だけど3歳まで家族の中心は自分だと思い込んでいた竹雄に、それを理解する聞き分けの良さはまだなかった。
何かと花子を押しのけようとする竹雄に、炭治郎や禰豆子は言葉の刃である「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」は決して言わなかったが、言外に匂わせていた事は感じた。
そして花子が思いのほか気が強かった為、彼女が1歳くらいになる頃には力負けしていた。そのうち弟茂が生まれ、更に六太が生まれた頃には竹雄にも兄の自覚が芽生えていて次男としての役割を果たさなければならないことも理解していった。
が、それはそれこれはこれ。
今度は思春期と言う名の第二次反抗期が訪れ、次第に家族より友達付き合いを優先させるようになっていた。
竹雄は久しぶりに家に同級生達を連れてきていた。同じクラスの正一と無一郎、クラスは別だが小学生の頃から仲の良い有一郎と千寿郎だ。
こんなに大勢の友達を自宅に連れてきたのはかなり久しぶりだった。何せ竈門家は兄弟が多い。ただでさえ部屋数が足りず竹雄は炭治郎と、花子は禰豆子と自室を共有している。今の両親のもっぱらの悩みは、茂と六太がもう少し成長した時に部屋が足りないという事だ。父が自分の書斎を子供部屋にすると言っているが、仕事部屋でもあるので家族から反対されている。
そんな手狭な竈門家なので、兄弟達は友人を連れてくる事がなかなか出来なかった。それでも今日竹雄がこんなに大勢の友達を呼べたのは、祖父母と両親が下の三人を連れて親戚の家に法事で出かけているからだった。上の三人はテスト期間中の為留守番する事になった。竹雄はこれ幸いにとばかりに「友達呼んで勉強会したい」と兄と姉にせがんだ。炭治郎も禰豆子も基本的に弟と妹には甘いので快諾してくれた。しかしながら兄と共有している自室は狭いのでリビングを使わせろとまで言った。それにさえ二人は微笑んで「いいよ」と言ってくれる。調子に乗って「兄ちゃん達はあんま部屋から出ないでくれよな」と言ったら流石に禰豆子にしっぺされた。ちなみに本気で怒らせるとデコピンになる。これを食らうと三時間は気を失う。
炭治郎は「俺は友達と外で勉強してくるから、竹雄の自由にすればいいよ」と言った。どこまでも弟に甘い兄に、本来は感謝すべきところを妙な反発をしてしまい「あっそ」と素っ気ない返事をしてしまった。また禰豆子のしっぺを食らう。
勉強会、と称しつつも男子中学生の集中力がそう長く続くはずがない。竈門家に集まった中2男子達が1時間勉強を続けられたのはむしろ持った方である。まず無一郎の集中力が切れ、竹雄もそれにつられる。それを注意する有一郎が喚くものだから正一が「有一郎くんが一番うるさいんですけど」と文句を言って少し空気が悪くなり、一人だけ最後まで真面目にノートに向かっていた千寿郎が仕方なしに「少し休憩しましょうか」と告げた事で完全に緊張感が溶けた。
「あー何か一気に腹減った」
「だなー。コンビニで何か買ってくるか」
「なら僕、ここのパンが良いんだけど……お金出すし」
無一郎はかまどベーカリーのパンをとても気に入っている。ありていに言えば、炭治郎の焼くパンが大好きだった。時透兄弟は昔から近くに住んでいる双子で竹雄と同級生だが、無一郎は幼い頃から異様に炭治郎を慕っている。それ故に炭治郎の焼くパンも大好きだった。
が、今日はそれを出してやることができない。
「ごめん、今日は店閉めてるから余ってるパンもないんだよ」
「そっか……なら仕方ないね」
無一郎ががっくりと肩を落としたのとほぼ同時に、玄関の方で音がした。ややあって「ただいまー」という声が遠くから聞こえる。やたらとよく通る声なので、離れていても兄だということはすぐにわかった。
「あ、やべ。兄貴帰ってきた」
「炭治郎!?」
兄は友達と外で勉強すると言っていたが帰宅時間は聞いていない。このまま鉢合わせるのは必須だった。
「竹雄居るのか? あ、皆いらっしゃい!」
炭治郎はリビングを覗き込んできた。出来たらリビングには顔を出さず自室に直行して欲しかったが、「ちゃんと弟のお友達に挨拶くらいしないと」という心意気からだろう。兄はそういう人間だ。
同級生達は炭治郎に「お邪魔してます」と口々に挨拶する。基本的に竹雄の友達は礼儀正しい者ばかりなので炭治郎も満足げだった。無一郎だけがキラキラとした目で炭治郎を見つめている。
「じゃあ俺は部屋にいるから。もし何かあったら言ってくれよ」
「あ、うん……」
炭治郎は意外とすんなり自室に引っ込んでいってくれた。「なるべくリビングに入ってくるな」という竹雄の言葉を尊重しているのだろう。そう思うと少し申し訳なさが募った。そして、恐らく炭治郎と話したかったらしい無一郎がまたがっくりと落ち込んだ。
「あーじゃあとりあえずコンビニ行くか?」
そう言って竹雄が出かける支度をしようとした。その瞬間、居間の扉の外から兄の声が聞こえてきた。
それも、
「たっちゃん!!」
「たっちゃん! ちょっといいか? ここ開けて!」
竹雄が一番嫌う呼び名を叫んで。
「たっちゃん、手塞がってるからちょっと開けて。たっちゃん! ……たっちゃん? 竹雄ー」
炭治郎はしつこくその名を連呼するが、当の竹雄は顔から火を噴きかけている。
竹雄が一番扉の近くに居たので、同級生達がどんな顔をしているかは分からない。が、大体想像できる。そして、恐らく無一郎が「たっちゃん……」とぽつりと呟いた。瞬間竹雄は弾かれたように立ち上がり、勢いよく扉を開けた。
「たっちゃんとか呼ぶな!ばか兄貴!!」
「むっ!? バカとはなんだバカとは」
竹雄の思春期のアクセル大全開の叫びにも、炭治郎はあくまで真面目に取り合おうとする。それがかえって、からかう為にたっちゃんたっちゃんと連呼していたわけではない証明になってしまった。
「てか何なんだよ! 部屋に戻るって言ってたじゃん!」
「ああ、今朝パンを少しだけ焼いてな。食パンとクロワッサンだけど。良かったら皆で食べてくれ。あとこれ昨日の売れ残りでよければ」
見れば炭治郎はパンがたくさん入った籠を抱えている。店で使っている籠だ。そこにトーストとクロワッサン、コロッケパンやサンドイッチなどの惣菜パンやチョココロネなどの菓子パンが入っていた。これを抱えていたせいで扉が開けられなかったらしい。
「美味しそう……!」
すぐさま無一郎が期待のこもった声をあげた。
「あ、ありがと……皆で食べる」
竹雄はまだ文句を言いたかったが、ひとまず兄の厚意には感謝する。家族同士でも礼儀を忘れずに、というのが竈門家の方針だった。
「後でお茶も入れてくるよ」
「い、いいって! 俺が用意するから! 兄ちゃんは部屋戻って!」
「そうか? じゃあ勉強頑張ってな」
「わかったから!」
竹雄は照れ隠しに必死で少し乱暴に兄を押し出す。炭治郎はさして気にしない様子で再び部屋を出て行った。
僅かに沈黙する部屋。
「………たっちゃん」
それを見事に破ったのは、空気を読まない事に定評のある無一郎の呟きだった。
「〜〜〜〜っっっ!!」
竹雄の顔が真っ赤に染まる。
「竹雄、お兄さんにたっちゃんって呼ばれてるんだ? 可愛いね」
無一郎はふわふわとした口調で言うが、本気でそう思っているのかからかっているのか分かりにくい。
「中学生にもなってたっちゃんかよ……」
「なっ!!」
有一郎が弟に被せてくる。これは毒舌で有名な時透兄弟の悪ふざけが始まったらしい。ちなみに有一郎はただ口が悪いだけだが、無一郎は相手の心根を折ってくるのでタチが悪い。
「俺は止めろって言ってんのに兄貴が直さねーんだよ!!」
思春期の繊細な心を突かれた竹雄は必死になって弁明する。その様子が余計相手を調子付かせるのだが、竹雄にその事に気づく余裕はなかった。
「別に悪いとは言ってないじゃん。可愛くて僕はいいと思うよ」
「そうそう俺も別に悪いとは言ってないよ。悪いとは」
言いながら有一郎はにやにやと笑う。
「ぜってーからかってんだろお前ら! 俺は嫌なんだっつーのこんな呼ばれ方!」
「た、竹雄さん。そんなに気にしないで良いと思いますよ。僕の兄も未だに僕を“セン”と呼んだりしますし」
「でもちゃん付けはしてねーじゃん!」
竹雄はさらにムキになって怒る。フォローを入れた千寿郎にまで噛み付いた。すると黙っていた正一がすかさず口を出す。
「ちょっと。千寿郎君にまで八つ当たりしないでくださいよ」
「……うっ。ご、ごめん千寿郎」
「いえいえ」
竹雄が素直に謝ると千寿郎は十四歳男子とは思えないような菩薩の微笑みを返す。眩しい。正一はあくまで勉強を中断されたことに不満があるらしく、今度は無一郎を諌めた。
「大体無一郎君こそ普段から有一郎君をゆう兄ゆう兄って呼んでるじゃないですか」
「俺は双子だし。それに悪いとは言ってないじゃんって」
「なんだよそりゃ」
双子だから恥ずかしくない、という無一郎の屁理屈で一旦話は途切れる。有一郎は自分らに矛先が巡った事を察して黙った。先程は竹雄をからかったが、この兄弟のべったりした仲の良さこそ校内では有名だった。主に無一郎が有一郎にくっついて回っているだけだが。
が、無一郎がまた蒸し返す。今度は別のアプローチで。
「でも良いなあ。俺も炭治郎にあだ名で呼んでもらいたい」
「えっ!?」
「はぁ!?」
「俺もむー君とか呼んで欲しいなあ。竹雄君羨ましい」
「え……そうなの?」
「はぁ!?」
「さっきから何なの、兄さん」
無一郎は何とはなしに言ったようだが、過剰反応したのは有一郎だった。不機嫌極まりないといった声を挙げるので、無一郎がいらだった様子で尋ねる。
「お前の兄ちゃんは俺だろ! 何で竹雄の兄貴にそう呼ばれたいんだよ!」
「え……兄さん俺の事そう呼びたいの? だったらそう呼んでもいいけど」
「ばっ……ちげーよ!」
「違うならいいでしょ」
「そういう事じゃねえ!!」
「だったらどういう事なの?」
こうして押し問答が始まる。この二人は普段から頻繁に喧嘩をする方ではないが、一度始まると長引く。素直でない性格の有一郎に、逆に裏表のなさすぎる無一郎の性格が普段はうまい具合に調和しているのが、一度諍いになると水と油のような関係になってしまうのだった。しかも、有一郎は将棋部のエースで頭が良く他の者には弁も立つが、喧嘩になると無一郎の人の潜在意識をえぐるような物言いに太刀打ち出来ないのが常だった。(そして無一郎の方が手が早い)それなのに事あるごとに突っかかってしまうのは彼の性分なのだろう。
「まーた始まったよ……」
「ほっといて僕らだけで勉強再開しましょう」
呆れる竹雄と、もっと呆れている正一は二人の事を放置しようとする。が、それを許さない人物が一人。
「有一郎さん、無一郎さん」
「ヒッ……」
「うっ……」
「そろそろお行儀よくして、お勉強しましょうね」
「はい……」
「ごめんなさい……」
千寿郎の一言に、あんなにも喧しかった時透兄弟が一瞬で黙り込む。千寿郎はただ微笑んでそう告げただけで、他は何もしていない。なのに、微笑むだけでこんなに威圧感を与えてくるのは、キメツ学園教師でもある彼と瓜二つすぎる兄を彷彿とさせるからなのか、彼の持っている天性の能力なのか。
結局竹雄の兄炭治郎からの呼ばれ方については、双子が言い争いだした事で脱線しそのままうやむやになった。上手く話が逸れた事について竹雄は密かに安堵の息をつき、そもそもの元凶は兄だった事から「兄ちゃんのせいで……」と逆恨みしつつも、話が逸れて助かったきっかけもまた兄だった事に気づき複雑な心境を抱くのだった。
「それは炭治郎が悪いよ」
「や……やっぱりそうか」
後日、昼時。
炭治郎は先日の出来事を善逸に話していた。すると善逸は事のあらましを聞いて苦笑いしながらそう断言した。
あの日の晩、竹雄は夕飯時に「みんなの前で馬鹿とか言ってごめん……」と謝ってきた。炭治郎はすっかり忘れていて何の事だ?とうっかり聞き返してしまい、それでまた竹雄がヘソを曲げたので宥めるのに苦労した。そんな竹雄に怒った禰豆子のデコピンが炸裂しそうになるのを抑えるのが一番苦労したが。
炭治郎は忘れてしまうくらい大した事と思っていなかったのだが、竹雄にとってはそうではないのだろう。反省の意も込めて、同じく兄の居る善逸に話して反応を伺うことにした。
「人にもよるだろうけどさ、竹雄君くらいの年齢の子は友達の前で家族と会うのだって恥ずかしがったりするじゃん。みんなの前でちっちゃい子みたいな呼ばれ方されるのは相当恥ずかしいでしょ」
「そうか……そういうものか」
「うちなんてクソ兄貴は俺の事名前でさえ呼ばないけどねえ。いつもカスとかグズとか。たまにちゃんとした場所で名前で呼ばれるとすんごいビビる」
「俺にとってはそちらの方が信じられないのだけどな……」
「あはは、だろうねぇ……」
初めて善逸の自宅に遊びに行き大学生の兄獪岳と邂逅した時それはそれは驚かされた。まず獪岳の口と態度の悪さにも仰天したが、それに受け答えする善逸も同じくらい口が悪いものだから伊之助と共にあんぐりと開いた口が閉じられなかった。善逸は普段、口調はやや荒いが言葉遣い自体は悪くはない。お淑やかさとは程遠いが、それでも他人を傷つける言葉は軽口でも滅多に使わない。それが、兄との会話になるとクズだのカスだのクソだの罵詈雑言のオンパレードだった。
善逸に何かしら文句を言いに来たらしい兄を追い払うと、いつもの明るくて優しい雰囲気に戻り「驚いたでしょ。ごめんね〜」とへらりと笑った。
炭治郎は喧嘩でもしているのかと心配したが「別に? いつもあんな感じだよ。アイツいっつも態度悪いからさあ。俺もこうなっちゃうんだよねぇ」とあっけらかんと答えた。
炭治郎は級友相手でも兄弟相手でも口調が変わったりしない。それに、兄弟間であっても礼儀を守りなさいと両親や祖父母から厳しく言われてきたので、普段から罵倒しあってるのが信じられなかった。
「善逸には悪いが、もし弟達があんな言い方をしだしたら俺は問答無用で引っ叩くつもりだ」
「あは、お兄ちゃん厳し〜い」
「お、おに……っ」
「でも俺だってさぁ、獪岳があんな感じじゃなかったら竹雄君達みたいな素直ないい子になってたと思うよぉ。だから竹雄君は大丈夫でしょ」
「むう……そうか」
「そうそう」
炭治郎は僅かに動揺していたが、善逸は全く気づいていないようで少し安堵した。
「それにしてもたっちゃんって可愛い呼び方だね。他の弟君達もそういう呼び方なの?」
「いや……花子達は普通に呼んでるな。あだ名があるのは竹雄だけだ」
「えっ何で竹雄君だけなのさ」
「竹雄が生まれた時は俺もまだかなり小さかったからな。ちっちゃい頃は舌ったらずで上手く呼べなかったんだよ。禰豆子の事も『ねじゅこ』って呼んでたらしいし、何なら自分の名前もたんじろう、って舌が回らなくて……」
「え!! な、何それ可愛い!!」
「そうか……? だから竹雄の事はたっちゃんって呼んでたんだ。その名残なんだよ」
「なるほどねぇ。……あれ? でもよく考えたら炭治郎だって“たっちゃん”じゃない?」
たしかに“た”んじろうなので炭治郎も“たっちゃん”になりうる。善逸は何とは無しに言ったが、炭治郎はパッと顔が明るくなった。
「よく分かったな! 俺も小さい頃は“たっちゃん”と呼ばれてたんだ! むしろ母さん達は俺の方を呼んでたな。でも俺が竹雄をそう呼ぶようにしたから竹雄が2代目“たっちゃん”になったわけだ」
「そ、そうなの……。歴史深いわけね……」
意気揚々と語る炭治郎に、善逸は若干引き気味に頷く。
「でも、ちっちゃい頃ってそういうあだ名取られて嫌だったりしなかった?」
「そんな事はないぞ。俺は長な……」
「長男だから、ねぇ。3歳の時からご立派な事」
「………人の話を遮るもんじゃないぞ」
「あれま。怒った?」
決め台詞と言っても過言ではない言葉を善逸に途中で奪われて、炭治郎は若干苛立ちを覚えた。善逸が飄々としてるものだから、それがまた癪に触る。それはそれとして悪戯っぽい表情が愛らしくもあるので、また違う部分が苛々している。気がする。
「もう知らんっ。明日の善逸にはパン持ってこないからなっ」
「えぇ〜そこまでお怒りなのぉ? 悪かったってばぁ」
「知らんったら知らん」
炭治郎は実際は怒り心頭なわけではないが、善逸に主導権を握られている事がやや腹正しかったのと、単純に善逸の困り顔が可愛いから見たいと言う下心からほんの少し意地悪をした。善逸もその辺はわかっているようで、これはじゃれあいの一環である事は察してるようだ。
しかし、善逸はむぅっと唇を尖らせると(それもまた炭治郎にとっては可愛い表情でしかない)少し首を傾げて考えた後、何か閃いたような様子を見せる。
そして、わざわざ炭治郎の前にそそ……と回り込み下から覗き込むようにして上目遣いに見上げ、わざとらしい高い作り声で言う。
「ね、許して? たっちゃん♡」
それはまさに青天の霹靂で、
「勃起した」
「なんで!?」
炭治郎にとっては逆効果だった。
「お前、こんな往来で元気よく宣言するんじゃないよ! こんなお天道様が高いうちに!」
「善逸のせいじゃないか! どうしてくれるんだこれ!」
炭治郎が本当にそそり立ってしまったスラックスの盛り上がりを見せると、善逸はヒィッと声を上げる。繰り返すが今は昼時。二人は校内の中庭で昼食を摂り終えていたところだ。
「どうもこうもしないわよ! 自分の息子さんの世話くらい自分でしなさいよ!」
「確かにこれは俺の愚息ではあるが、お前のお宝でもあるだろう!? そう思うのは自惚れか!?」
「いやそれは仰る通りですよ!? ……って何言わせんじゃい!!」
「善逸、声が大きい」
「お前に言われたかないわ!!」
中庭にはたくさんいる訳ではないが、他にも昼休みを過ごしている生徒がちらほらいる。二人の会話は聞こえてはいないようだが、何やら騒いでいるという事には気づいていて何人かがチラチラとこちらを見ていた。
吠え切って息切れ気味の善逸はぜえぜえと息を切らしていたが、ふぅ、と呼吸を整えると炭治郎に更に近づいて耳元に口を寄せた。
「帰ったら、ちゃんとセキニン取るから……それまで我慢しよ?」
「無理だ。完勃ちした」
「だから何で!?」
善逸が良かれと思ってやっていることが先程から裏目に出ている。更なる絶叫に、いよいよ注目が集まってきた。
「今のはお前が悪いぞ完全に!」
「あーもう、すみませんね! 俺が全面的に悪いよ! だから我慢して!」
「本当に放課後期待していいんだな!?」
「おう期待しまくってろ! お前の海綿体がしおっしおになるまで搾り取ってやるよ」
「善逸、だから声がでかい!」
「うるっせええええ!!! てめぇらちちくりあうんなら家でやれ色ボケ共が!!!」
炭治郎と善逸のもはや収束するところを見失った押し問答を終わらせたのは、真っ先に昼食を食べ終えて二人の傍らで昼寝を決め込んでいた伊之助であった。
そして、今日一番の大絶叫を聞きつけた教師冨岡に二人は放課後呼び出され、中庭で騒ぐなと注意を受ける。そのせいで焦れに焦らされた炭治郎により、“たっちゃん”と呼びながらイかされるというマニアックなプレイを強いされる善逸なのだった。
またどうでもいい補足
五人の力関係は
千寿郎(怒ると一番怖いし優しくて皆に慕われてるのでこの子を怒らせた者は即粛清される)>>>>>>>>>>>>>>>>>>>正一(常に冷静沈着で皆一目置いてるのと正論の刃が鋭い)>>>無一郎(最強末っ子)>>>>>>>超えられない壁>>>>>>>有一郎(常識はあるが素直でなく頭の良いバカで鈍い)≧竹雄(性格は良くバカではないが振り回されやすい苦労人)