ほのぼのな日常 第4話 お名前、なーに?先に記しとく設定。
今出川一司(いまでがわ かずし):男性
田辺京志(たなべ けいし):女性
一司の部屋はワンルームマンション
と言うことで。
俺は今出川一司。大学4年生。
大学に入った時、俺は人と関わりたくない、できる限りひとりが良い、そう思ってた。
けど、その考えはあっさりと、簡単に変わった。
原因は京志、俺の彼女。
京志との仲が深まるにつれて、京志は遠慮なく俺に関わってくるようになった。
だから俺も、遠慮なく京志に関わっていくようになった。
今ではもう、お互いにとてつもなく大事な存在。
俺にはもう京志がいない日常は考えられない。
今日も今日とて、京志が俺の部屋に転がり込んでる。
部屋に京志がいる。いつの間にかそれも当たり前になってる。
『一司と一緒に居たい』、いつだったか京志が言った。
俺は『俺も京志と一緒に居たい』、そう答えた。
京志がそばに居る。それだけで心が幸せに満たされる。
夜。
晩ごはん。
俺が作る。
京志は俺が作ったメシがお気に入り。
京志は好き嫌いが多い。けど、俺のメシには文句を言わない。
嫌いなものも、ちょっと苦手そうな顔になるけど食べてくれる。
風呂。
だいたいの場合、風呂は京志が先。
特に決めたわけじゃないけど、何となくそうなってる。
風呂上りのほこほこになった体で京志はベッドにちょこん、と座って俺を待っててくれる。
けど、今夜は違った。
俺が先に入った。
風呂から上がって、入れ替わりで京志が入った。
冷蔵庫から缶ビールを取る。
プシッ、と開けて、くっ、とひとくち飲む。
テレビをつけて、その前に座った。
少しの後。
「おまたせーっ」
京志が風呂から上がってきた。
「待ったぞーっ」
軽く言う。
京志のパジャマ姿。
俺とおそろいのパジャマ。
俺のは淡いブルー。京志のは淡いライムグリーンでちょっとだぶだぶ。
袖の先、指先がちょこっと見えてる。
京志が言うには、『このだぶだぶ感が良い』そうだ。
もっふ、
俺の背中に京志が体を重ねた。
京志は何も言わずに、両手を俺の首にからませる。
ほこほこの京志を背中に感じた。
俺はこうするのが好きだ。
ふわり、と淡い匂いがする。
せっけんの匂い、シャンプーの匂い、それに京志の匂い。
京志もこれが好きだと言ってた。
『せっけんとシャンプーと一司の匂い、一司をいっぱい感じられるから』、と言ってくれた。
「んふふー」
京志が体をさらに背中に押し付ける。
京志のほっぺたが俺のにならぶ。
すりすりすり、と頬ずりされる。
京志のほっぺた、すべすべで、さらさらで、ふわふわ。
俺の手から缶ビールを取る。
こくん、とひとくち飲んで、返ってきた。
「ね、一司」
京志がごく自然に話しかけてくる。
「ん?」
ビールを飲みつつ京志の言葉を待つ。
「赤ちゃん、どんな名前が良いかな?」
!
ぷぱっ!
俺は思いっきりビールを噴いた。
飛び散ったビールの後片付けをして。
今度は俺が京志を後ろからだっこして座る。
俺が京志を包み込む感じ。
「赤ちゃんの名前って、
できたのか?」
「何が?」
京志が俺を振り返って質問に質問で答える。
「赤ちゃん」
「できたと思う?」
俺の言葉に京志からまた質問。
「思わない」
「よね。
一司の避妊、完璧だから」
安心できた。
体をちょっと動かして京志を抱き直す。
両腕で京志のお腹を抱く。
呼吸に合わせて小さく揺れる。
「京志はどんな名前が良い?」
今度は俺が尋ねる。
京志はちょっと考えて。
「んーっとね、
男の子だったら『司くん』、女の子だったら『司ちゃん』。
えっと、『一司』の『司』で『つかさ』」
お腹にまわした俺の手に京志が手を重ねる。
「一司は?」
「どんなのが良いかな……、
『京志』の『志』で『こころ』はどうかな?」
「うん、良い感じ」
言いながら京志は体をすり寄せてくる。
もう一回、京志を抱き直す。
テレビでは夜のニュースが始まった。
けど、テレビの音はもうBGMになってる。
俺と京志、完全にお互いに意識が向いてる。
「赤ちゃん、二人が良いな。
それで、『司くん』と『志ちゃん』」
「うん、良いな」
俺はこくり、とうなずいた。
京志がまた俺を振り返って言う。
「赤ちゃん、作る?」
「結婚したら、な」
問いかけに優しく答える。
「うん」
京志が小さくうなずく。
それが答え。
もう一度問いが来た。
「結婚、する?」
「卒業したら、な」
もう一度答える。
「うん」
また小さくうなずいてくれた。
ちょっとの間、俺も京志も何も言わなかった。
静かな時間。
京志が口を開いた。
「一司……」
「ん? なに?」
言葉をうながす。
京志はちょっとばかり顔を伏せた。
「……赤ちゃん作る練習、しよっか?」
二人で最高に幸せな時間を作ろう、と言う提案。
「うん、いいね」
否定なんかできない。
京志を抱いていた手を解いて立ち上がる。
次に京志の手をとる。
京志も立ち上がった。
俺がテレビを消してる間に、京志はベッドに飛び乗ってちょこん、と座った。
明かりのスイッチに手を伸ばす。
「消すよ……」
「……うん」
指先に軽く力を入れる。
ぱちん、
暗闇が部屋を支配した。
カーテンの隙間から差し込むかすかな明かりが、ベッドの上の京志をほんのりと照らした。
京志の隣に腰を下ろした。
肩を抱く。
「えっと、もう、うれし……」
言葉は不要、そう思ったから京志の言葉をキスでさえぎった。
そのまま京志をベッドに横たえる。
最高の幸せな時間が始まる。
そう感じる。
それがまた最高に幸せ。
俺は京志と一緒に幸せに飲み込まれていった。
了