SFっぽいお話 第1話 任務の後のティータイム先に記しとく設定。
コムド・テリルガ
性別:男性
概要:地球の監視観察所の司令官
麻遣真巫子(まつかい まみこ)
性別:女性
概要:魔導巫女
大神命真(おおがみ めいま)
性別:男性
概要:元冥魔界の王、本性は狼
司馬龍之進(しば りゅうのしん)
性別:なし
概要:古代世界で作られた生体兵器、本性は龍
レムア・ディル・ラウク・フォレスティア
性別:女性
概要:フォレスグランド星皇国の星皇
クア・フォウト・リア・フォレスティア
性別:女性
概要:星皇付執事長
と言うことで。
『月例報告を提出されたし』。
監視保護惑星である地球のこの1ヶ月の動向・状況の詳細を監視管理国であるフォレスグランド星皇国に提出する。
毎月よりも少々早く催促が来た。
監視観察所の司令官である私、テリルガ、がこの1ヶ月の動向・状況を記録し報告する。
毎月のことだが細かいことはいくらでもあるが重大なことはほとんどない。
白紙の報告書を提出するわけにはいかないので、「細かいこと」のうちでそれなりに大きなことを報告書に書き記す。
後はフォレスグランドの管轄部署に転送すれば良い。
毎月はそうだが、今月は違った。
『司馬龍之進、大神命真、麻遣真巫子、以上三名で星皇陛下に直接提出いただきたい』。
催促の連絡にそうあった。
指名された以上、行ってもらうしかない。
とりあえず報告書を作る。
デスクに向かって座る。
右手の親指と人差し指で何かをつまむような動作。
指の間に白い立方体、サイコロくらいの大きさ、が現れた。
『パーソナル・インフォメーション・キューブ』、通称『キューブ』。
キューブを軽くつまむ。
デスクの上に青い半透明のスクリーンが浮かび上がる。
その手前に、こちらも青い半透明のキーボードが現れた。
用が済んだキューブはすっと消えた。
報告書の書式データを呼び出して報告すべきことを入力。
記載ミスがないか確認した後、報告書を出力。
『出力』を命じるとスクリーンが二重になった。
手前のスクリーンができあがった報告書だ。
できあがった報告書を正式な手法の『封印データ』、指輪のようなリング、にした。
封印データの保管は……。
小さいものだけに失くすと困る。
キューブを呼び出してつまんだ。
今度は私の前に小さな箱が現れる。
『虚空間コンテナ』、ちょっとしたものから、それなりの大きさのものまで、を持ち歩くための『箱』だ。
その中に封印データを入れた。
後は、今保管したデータを持っていけば良い。
しかし……、『星皇陛下に直接』とあった。
持って行くにしても向こうの都合に合わせる必要がある。
再度キューブを呼び出して、キューブを通信モードにする。
並行虚空間通信で連絡した。
『最速なら明日』が都合が良いとのこと。
明日、行ってもらおう。
次は指名された3人に話を通す。
3人、司馬龍之進、大神命真、麻遣真巫子を司令官室に呼んだ。
まず、麻遣が来て、司馬殿が来て、最後に「遅くなって申し訳ない」と大神殿が来た。
3人がそろったところで、この件のいきさつを話した。
私の話の後、これと言ったことはなかった。
最後に、出発は明日の朝、最速の便でフォレスグランドの首都、ティア・フォレスタに行くと決まった。
翌朝。
私はいつもよりかなり早く起きました。
今日は龍さんと命真さんと、3人でフォレスグランドに行きます。
正式に、と言うことなので制服をきちんと着ました。
部屋を出て司令官室へ向かいます。
司令官室に入ると、テリルガ司令と大神さんがいました。
私の後、すぐに龍さんが来ました。
テリルガ司令から「今回の件は正式な訪問なので、代表者を立てなければならない」と言われました。
ですが、このメンバーなので代表者は何の異論もなく龍さんに決まりました。
代表者になった龍さんは司令から封印データを受け取りました。
その後、4人で監視観察所の地下ハンガーに移動しました。
監視観察所にあるいちばん速い航宙船に乗り込みます。
航宙船で地球を離れ、地球からいちばん近いステーションに送ってもらいました。
そこから先は、超光速航宙船を乗り継ぎます。
5時間くらいの後、フォレスグランド星皇国の首星、惑星フォレスグランドの静止衛星宇宙港に着きました。
船から降りて到着ゲートを通過。
静止衛星宇宙港はたくさんの人が行き交ってます。
「いつ来ても賑やかですねー」
人通りの多さに驚きます。
「好景気も真っ只中、
来るたびに賑やかになっているように感じます」
「まったくだな」
命真さんと龍さんが続いて言いました。
「さて、下に降りましょう」
そう言って命真さんが歩き出しました。
龍さんと私は命真さんに続きます。
静止衛星宇宙港から地上に降りる連絡艇ののりばに向かいます。
のりばにはちょうど良いタイミングで着きました。
降りの便がもうすぐ出るところでした。
3人で連絡艇に乗ります。
2分か3分かの後、船が動き始めました。
静止衛星宇宙港から離れます。
降下軌道に乗るための姿勢制御で船が小さく揺れました。
その後は特に何もなく、定められた軌道の通りに地上に降下。
15分くらいで地上、ポーティア航空・宇宙港に着陸しました。
船から降りて、また驚きました。
「ポーティアって、こんなに賑やかでしたっけ?」
「宇宙エレベーター建造の特需、と言うところですね」
命真さんが教えてくれました。
静止衛星宇宙港はポーティア上空にある。
ポーティアと静止衛星宇宙港をつなぐ宇宙エレベーターが建造中。
人・物・金が動きまわる。
なので必然的に賑やかになる。
だそうです。
「まったく、たいしたものだ」
今度は龍さんが教えてくれました。
戦争が終わって以降、どこの国も復興特需。
加えて、どこの国でも軍事費に消えていた国家予算の大半が行き場を失った。
経済が狂わないように、どこの国も財政に苦慮してる。
とのことです。
「では行こう」
龍さんが歩き始めました。
行く先はポーティア・ステーション、空港にある鉄道の駅です。
ポーティア・ステーション。
ゲートを通ってホームに出ます。
ホームで首都、ティア・フォレスタ行きの列車を待ちます。
ホームドアの向こう側、一本のレールを見るたびに思います。
「いつも不思議に思うんですけど、
この電車って、レール要らないですよね?」
私の疑問。
フォレスグランドの鉄道はほとんど全部が浮遊式。
見た感じは地球の乗り物だとモノレールに近いです。
ですが、モノレールみたいなレールは本来は必要ないはずです。
でも、ホームドアの向こうにはレールがあります。
龍さんが説明してくれようとしたところで列車が来ました。
列車の少し前から列車の下を通って少し後ろまで、が金色に光ってます。
光ってるところが「必要なレール」と前に聞いたことがあります。
ドアが開いたので列車に乗りました。
『列車が動きます』
アナウンスが流れた後、ドアが閉まりました。
静かに列車が動き始めます。
「このレールは緊急時用だ。
万が一、列車あるいはエネルギー供給に不具合が出たときの保険、と言うところだ」
龍さんが説明してくれました。
「ハイテクではありますが、保険はローテクですね」
「なるほど」
龍さんと命真さんの言葉で私は理解できました。
そんな何気ない話をしてるうちに、列車はティア・フォレスタ・ターミナルに着きました。
列車から降りると首都の中央駅、とにかく巨大でとにかくたくさんの人です。
「どうしましょう?」
命真さんの声。
たぶん皇宮への行きかた。
「歩いて行くと時間ぎりぎりだな。
バスを使おう」
龍さんの言葉で決まりました。
バスターミナルに移動。
ここも大賑わい。
たくさんのバス、もちろん浮遊式、が次々に到着して、次々に発車します。
私はバスターミナルのいちばん目立つところにある案内図に行きました。
のりばを確認します。
「皇宮行きは……、17番のりば」
龍さんと命真さんのところへ戻って、3人で17番のりばへ。
17番のりばに着くと、ちょうどバスが出たところでした。
ですがバスはどんどん来ます。
5分も待たずに次のバスが来ました。
バスに乗ると思ってたとおり混んでました。
ぎゅうぎゅう詰めではないですが混雑してます。
少ししてバスが発車しました。
街の中を走り始めますが、お客さんが多いからでしょう、バスは停留所の全部にとまります。
『次は皇宮駐屯地前』
アナウンスが流れたのを聞いて龍さんが「降車ボタン」を押しました。
バスはちょっと走るとすぐにスピードを落として、停留所『皇宮駐屯地前』にとまりました。
バスから降りると詰所と大きなゲート、そこから両側に高いフェンスが伸びてます。
皇宮に行くのですから『皇宮前』で降りるのが普通です。
でも『皇宮前』は皇宮の正面玄関にあります。
だから、そちらは国賓の人かそうじゃなかったら観光に来た人の出入り口です。
『皇宮駐屯地前』は軍と皇宮関係者の出入り口の前にあります。
だからここで降りました。
3人で詰所に行きます。
龍さんが詰所にいた兵隊さんのひとりに声をかけました。
兵隊さんから、名前、所属、来訪目的を、とのこと。
まず名前と所属。
龍さん、命真さん、私の順でキューブから詰所の端末にパーソナルデータを送りました。
次に目的、星皇陛下に謁見、と龍さんが告げます。
それを確認した兵隊さんたちはあわてて敬礼をしました。
「いや、そんなにかしこまらんで良い」
龍さんは苦笑しました。
ゲートを開けてもらって中に入ります。
少し歩くと道が左右に分かれてます。
左に行くと駐屯地、右に行くと皇宮の関係者出入り口です。
私たちはもちろん右に行きます。
さらに進んだ先に、関係者出入り口があります。
出入り口の前に兵隊さんが二人。
ここでも、名前と所属と来訪目的を伝えました。
兵隊さんはやっぱり驚いて、あわてて敬礼をしてくれました。
「まったく……」
龍さんはもう一度苦笑いです。
兵隊さんの一人が私たちを案内してくれました。
関係者出入り口から入ったにもかかわらず、建物の中は立派です。
真っ白な石で造られた廊下が続きます。
案内された先は『謁見の間』の控え室です。
もちろん、控え室、と言っても十分すぎるくらいに立派です。
10分くらいして、皇宮付の制服を着た兵隊さんが来ました。
「星皇陛下の準備が整いました」
「では案内を頼む」
龍さんが返事をしました。
兵隊さんの案内で控え室から出て、謁見の間に入ります。
謁見の間、とても広いホールです。
私たちがいるところからずっと前に段がふたつ。
その上の正面に皇座があります。
皇座の左右には皇宮付の兵隊さん。
私たち3人は、皇座の正面に龍さん、一歩下がった左右に命真さんと私が立ちます。
「星皇陛下、入られます!」
皇座の左側の兵隊さんの声が謁見の間に響きました。
その声のすぐ後、星皇陛下が二人の兵隊さんを従えて謁見の間に入ってきました。
星皇陛下は十代の女性です。
ですが、とても威厳があります。
「最敬礼!」
今度は皇座の右側の兵隊さんが言います。
私たちは片ひざをついて最敬礼の姿勢をとります。
星皇陛下が皇座の前に立ってこちらを向きます。
一緒に来た兵隊さんは皇座の両側に立ちました。
「直れ!」
私たちは立ち上がります。
「お役目ご苦労」
星皇陛下の凛とした声。
龍さんが答えます。
「監視保護惑星・地球の前月の報告、
お改めお願い致します」
龍さんは胸元から指輪のようなリング、封印データを取り出しました。
輪を軽く潰すような仕草をすると、輪の両側に赤く光る筒が伸びました。
龍さんは段のすぐ下に進んで筒を差し出します。
星皇陛下が龍さんのすぐ前に来て、筒を手にしました。
筒を持って星皇陛下は一歩、二歩、と戻ります。
ひと呼吸おいて龍さんも元の場所に下がってきました。
星皇陛下が筒の真ん中の輪に触れました。
その瞬間、輪が消えて筒が開きます。
星皇陛下の前に赤く光る半透明のパネルが現れました。
半透明のパネルにはテリルガ司令からの報告が記録されてます。
ですが、報告の内容はたぶん『大したことは起こっていない』と言った感じのはずです。
星皇陛下が報告に目を通します。
「了承した。
関係部署にてしかるべき処理を行う」
「その旨、司令に報告致します」
龍さんが星皇陛下の声に答えました。
「星皇陛下、戻られます!」
私たちはもう一度、最敬礼の姿勢に。
星皇陛下は兵隊さんのひとりに何かを言ってから謁見の間を後にしました。
「直れ!」
私たちは立ち上がりました。
これで任務完了です。
「ふぅ」
大きなため息が出ました。
「何度来ても緊張します」
「なに、形式上のことだ、
かたち通りにすれば良い」
龍さんが言ってくれました。
「では、我々も」
命真さんが控え室を向きました。
それを見て、星皇陛下から何か言われた兵隊さんがこちらに来ました。
兵隊さんが言うには、星皇陛下が私室で私たちと話をしたい、だそうです。
私たちのところに、兵隊さんがもうひとり来ました。
「承知した。
では、案内を頼む」
龍さんの言葉を合図にして兵隊さん二人が案内を始めてくれました。
いちばん前に兵隊さんのひとり、その後に、龍さん、命真さん、私、最後にもうひとりの兵隊さん。
謁見の間を出て廊下を進みます。
「龍さんは星皇陛下の私室に入ったことあるのですか?」
「一度だけな」
私の疑問に答えてくれました。
「命真さんは?」
次は命真さんに。
「私は初めてです」
命真さんは初めてなのに堂々としてます。
私は緊張が高まります。
廊下の奥に大きな扉が見えてきました。
大きな扉の両側に兵隊さんが立ってます。
扉の前に着くと、いちばん前を歩いていた兵隊さんが扉の右側にいた兵隊さんに話しかけました。
言葉を聞いた兵隊さんが扉の横にあるパネルを操作します。
誰かと話してるようです。
話が終わると何の音もなく大きな扉が真ん中から左右にゆっくりと開きました。
扉が開いた向こう側に星皇陛下と年配の女の人がいました。
「みなさま、どうぞ中へ」
女の人の言葉に促されて、私たちは扉の中に入ります。
私たちが中に入ると、
「では、引き継ぎお願い致します」
案内してくれた兵隊さんが敬礼をして言いました。
「引き継ぎ致します」
女の人の締まった声が響きました。
「こちらへどうぞ」
女の人について奥に進みます。
星皇陛下は先に奥の部屋に行ってます。
私たちも部屋に入りました。
部屋に入ったところで、私は言葉を失いました。
部屋の奥の壁は全部透明で、その向こう側はうっそうとした森です。
「何と……」
命真さんもまず驚いて、
「これはいったい……?」
疑問を声にしました。
「ああ、これか、
フォレスティア大森林だ」
星皇陛下がくだけた言葉で答えてくれました。
「皇宮は大森林のふちにあると聞いていましたが、
こう言うこととは……」
命真さんはちょっと感動してるようです。
「謁見の間の皇座の後ろも同じようにできる。
大掛かりな謁見のときは見えるようにするのだが、
……今日もした方が良かったか」
星皇陛下は謁見の間のときとはぜんぜん違って、年相応、そんな感じの話し方です。
「そうだ、あいさつがまだだったな。
龍之進殿とは会ったことがあるが……」
星皇陛下が女に人に目で示しました。
「はい、私、クア・フォウト・リア・フォレスティア、
フォレスグランド星皇付執事長です。
以後お見知りおきを」
女の人はすらすらと言いました。
「では、こちらも」
命真さんが敬礼の姿勢をして声を出します。
「大神命真、
所属は監視保護惑星、地球」
次は私です。
あわてて敬礼します。
「麻遣真巫子、
監視保護惑星、地球に所属しています」
私の言葉が終わると、フォウトさんが部屋の奥を示してくれました。
「ではみなさま、こちらへ」
フォウトさんと星皇陛下に続きます。
森を背にして大きくて立派なデスクがありました。
色は深いブラウン。重厚で威厳があります。
その前にはソファとテーブル、こちらも立派です。
ソファはデスクを後ろにしてお誕生日席。
向かって左側にひとりがけのがふたつ。
右側にはふたりがけのがあります。
星皇陛下がお誕生日席に座りました。
「みなも座ってくれ」
星皇陛下の言葉を受けて、龍さんがひとりがけの星皇陛下側に、命真さんがふたりがけの星皇陛下側、龍さんの前に、最後に私が龍さんの隣に座りました。
「お飲み物を用意いたしますゆえ、
しばしお待ちください」
星皇陛下の横に立っていたフォウトさんがソファから離れました。
「さて、今日はなぜ私たちを?」
龍さんが星皇陛下に尋ねます。
「なに、気楽に話をしたかったからだ、
こんなときに信頼できるのはなかなか居ないのでな」
「それで我々か、
確かに間違いない」
星皇陛下の答えに龍さんは少し笑みを浮かべて言いました。
私は星皇陛下の後ろにあるデスクを見て、素朴な疑問を感じてました。
それを尋ねてみることにしました。
「あの、星皇陛下はここでお仕事をされているのですか?」
「ああ、基本はここだな、
それと……、私のことは『レムア』と呼んでもらえるとありがたい」
星皇陛下が私の言葉に答えた後、加えて言ってくれました。
「レムアさん、ではそのように致します」
命真さんが言葉を返します。
「えっと、でも良いんでしょうか?」
相手は星皇陛下です。名前で呼ぶのはちょっと……、と思います。
「構わん、
まわりの連中はみな『星皇陛下』としか言わん。
名前を使うのは書類を作るときだけだ。
時々、自分の名前を忘れそうになる」
レムアさんの言葉、最後に軽い冗談で話してくれました。
「みなとの距離を縮めたいのだが……、
なかなか難しい」
続いた言葉。レムアさんの星皇としての役目は大変なようです。
フォウトさんが戻ってきました。
落ち着いたデザインの銀色のカートを押してきます。
カートの上には、ティーカップ、ティーポット、保温ポット、それに赤銅色の筒が乗ってます。
「本日は大神様がいらっしゃった故、
大神様のお名前にて用意致しました」
命真さんが少し驚きます。
「私の名で用意していただけるとは……」
「最近、方々で大神様のお名前を耳にしますので、
ひとつ余興を、と思いまして」
フォウトさんは何か楽しそうな表情です。
命真さんも興味津々で楽しそうに見えます。
「では、始めさせていただきます」
赤銅色の筒を開けて、取り出した何かをティーポットに入れます。
筒は茶筒、ティーポットに入れたのは何かのお茶のようです。
続いて、フォウトさんは保温ポットからお湯を入れてティーポットにふたをしました。
少しすると、ちょっとだけ渋いような甘い香りがしてきました。
「クォルル茶、
やはりですか」
「はい、なかなか面白い葉でございます」
命真さんとフォウトさんは楽しいみたいですが、私にはさっぱり分かりません。
龍さんもレムアさんも同じようです。
ティーポットからピッと小さな電子音が聞こえました。
クォルル茶? ができあがったみたいです。
フォウトさんがティーカップに分け入れます。
分け終わると、レムアさんから順にカップを置きました。
「お召し上がりください」
フォウトさんの言葉を受けて、カップを手にしてひとくち飲みました。
ほのかに甘くてちょっとだけ渋い、そんな味ですがそれ以上は分かりません。
龍さんとレムアさんも同じようです。
ですが、命真さんは違いました。
飲み方からまず違います。
初めに香りを確かめます。
次にひとくち口に入れてそのままくっ、と飲みました。
もうひとくち。今度は口に含んでからゆっくりと飲みます。
「これは……、
相当な葉ですね……」
命真さんは感動? してるみたいです。
「大神様、いかがでしょうか?」
フォウトさんはやっぱり楽しそうです。
対する命真さんももちろん楽しそう。
「では、お答えを」
フォウトさんの言葉に促されて命真さんが話し始めました。
「クォルル中央山脈の最高地栽培、おそらく遮光。
熟成は時間凍結熟成。
年は……、
50が似ていますが……、違う。
20……、でもない。
これは……、私の負けです」
最後のひとこと、命真さんの声は悔しそうですが、それ以上に楽しそうです。
「さすがは大神様、
年以外はすべて大神様のお言葉の通りです」
フォウトさんも楽しんでるみたいです。
「では、答えは?」
「『30』です」
その言葉に命真さんはひどく驚いて、加えてテンションが上がったみたいです。
「『30』!
あの『幻の30』ですか?!
素晴らしい、『30』を飲めるとは……」
命真さん、今度は感動に飲み込まれてる、そんな感じです。
「『30』とは何だ?」
レムアさんが疑問、私と同じ疑問、を口にしました。
「『30』と言うのは」
「大神様、冷めぬうちに飲まれた方がよろしいかと」
命真さんが話し始めたのをフォウトさんが止めました。
フォウトさんの言葉でクールダウンした命真さんは残りのお茶を少しずつ飲みました。
みんなが飲み終わった後、フォウトさんに促された命真さんがクォルル茶について話してくれました。
「クォルル茶は栽培された場所、栽培方法、熟成方法、それに栽培された年、で香りも味も大きくかわります。
年については、それなりの質のものは基本的に10年単位で栽培します。
ですので10年間の気候で香りと味が決まります。
もちろんその間の気候は人の手ではどうにもならない。言わば運次第です。
また年は、古ければ良いと言う訳でもありません。
『20』と『40』では『20』の方が古いですが、香りも味も『40』の方が上です」
命真さんが話し終えました。
「それで『幻の30』とは?」
レムアさんが改めて質問しました。
「ああ、そうでした」
命真さんは説明を再開しました。
「『幻の30』と言った理由ですが、『20』と『40』以降は存在します。
『10』以前がないと言うのも分かっています。
しかし『30』はあるとも言われ、ないとも言われています。
ですので『幻の30』と呼ばれています。
加えて言いますと『30』は最高の香りと味だと言われています。
クォルル茶を楽しむ者にとっては何をおいても飲んでみたい。
それほどの葉です。
まさか飲む機会に出会えるとは……。
一生分の幸福、それくらいの言い方でも足りないかもしれません」
命真さんの話が終わりました。
『幻の30』に感激してるみたいでとても熱くなってます。
「そうなのか……、
私にはさっぱりだ」
レムアさんは、私には難しい、そんな感じで私と同じです。
「陛下にはこのようなことにも興味を持っていただきたいのですが……」
フォウトさんがあきれ顔で言いました。
ピ。
小さな電子音。
フォウトさんが何もないところを指でつまむ仕草。
キューブを呼び出しました。
もう一度つまむと小さなスクリーンが現れました。
それを見てフォウトさんは話を始めました。
「はい、
お伝え致します。
30分後で。
承知しました」
話が終わって、フォウトさんがキューブをつまむとスクリーンとキューブが消えました。
私たちに視線を向けて、次にレムアさんを見ます。
「陛下、貴族院の会議が終わりました。
決済をいただきたいので30分後に、とのことです」
続いて私たちに、
「大変申し訳ありませんが、これにて、とお願い致します」
と言って、軽く頭を下げました。
「いや、長居をしてしまった。
そろそろお開きとしよう」
龍さんが言いました。
その言葉に命真さんがうなずきます。
「では、係りの者を呼びますので少しお待ちください」
フォウトさんはキューブを呼び出して、どこかに連絡をしました。
5分くらいしてでしょうか。
レムアさんに別れのあいさつをしたところで係りの方が来ました。
5人で大きな扉の前に立ちます。
来たときと同じように扉が左右に開きました。
扉の外には私たちをここに案内してくれた兵隊さん二人がいました。
改めてレムアさんとフォウトさんにあいさつをしました。
その後は兵隊さんに案内してもらって、皇宮の関係者出入り口へ。
そこで兵隊さんと別れました。
3人で駐屯地のゲートへ向かいます。
詰所では兵隊さんと龍さんがひとことふたこと言葉を交わした後、ゲートを開けてもらいました。
ゲートを通って駐屯地から出ます。
「帰りもバスにしましょうか?」
「それが良かろう」
命真さんの言葉に龍さんが答えます。
「真巫子さんは?」
私にも尋ねてくれました。
「私もバスでお願いします」
「では決まりだな」
私の言葉を龍さんが継いでバスに決まりました。
バス停に向かうところでバスが出ていくのが見えました。
ですが、すぐに次のバスが来ました。
バスに乗り込んで、やっぱり混雑してるバスでティア・フォレスタ・ターミナルに向かいます。
「ところで、昼食はどうでしょう?
ちょうど良い時間ですが」
命真さんの質問。
「ふむ、静止衛星宇宙港を出るまでは十分だな。
食べていこう。
真巫子も良いか?」
龍さんが私に確認します。
「はい、
このまま食べないのは……、ちょっと辛いです」
私の言葉が終わるともう一度、命真さんが話し始めました。
「ティア・フォレスタ・ターミナルに面白い店がありまして」
『次はティア・フォレスタ・ターミナル』
命真さんの言葉をさえぎるようにアナウンスが流れました。
バスはスピードを落として、少ししてとまりました。
バスから降りて、改めて命真さんが話します。
「クォルルのアンテナショップで、ちょっとしたレストランもあるそうです」
「はいっ、賛成です」
私は手をあげます。
「クォルルか、面白そうだな」
龍さんも興味を持って、
決定しました。
ティア・フォレスタ・ターミナルのショッピング街に移動。
目当てのお店はすぐに見つかりました。
そこそこ大きなお店で、お店の半分が名産品店、残りの半分がレストランです。
私たちはまずレストランに入ります。
店員さんに3人と言ってテーブルに案内してもらいます。
テーブルにはメニューが置かれていて、『転送ステージ』もありません。
いわゆる『転送式』のレストランじゃないみたいです。
「転送式ではない、
良い店のようだな」
龍さんの言葉に命真さんが答えます。
「クォルルをアピールするための店ですので、
良い店ですね」
「確かにそうだ」
命真さんと龍さんの話はそれで終わりました。
3人、それぞれメニューを見て料理を選びました。
店員さんに来てもらって注文をします。
注文を伝えてキューブを呼び出してその場で支払いです。
少し待った後、料理が運ばれてきました。
それぞれが頼んだ料理、どれもクォルルの名物料理だそうです。
今日のこれまでのことを話しながら料理を食べました。
食べ終わっておなかを落ち着かせて、レストランから出ました。
レストランから出たところで命真さんが言いました。
「少し買い物をしたいのですが……」
「やはりか」
「じゃあ、待ってます」
龍さんと私の声を確認して、命真さんは名産品店に入りました。
15分ともう少しの後、命真さんが店から出てきました。
手には大きな袋、もちろんしっかり笑顔です。
「良いものがあったようだな」
「はい、
さすがですね、茶葉の品揃えに驚きました」
龍さんに答えます。
「しかし、この荷物……、
少し待ってください」
命真さんはキューブを呼び出して、虚空間コンテナを開きました。
大きな袋をコンテナに入れてコンテナを閉じます。
「では」
命真さんの声を合図にして、私たちは歩き始めました。
ティア・フォレスタ・ターミナル、巨大な駅でポーティア・ステーション行きの列車の乗り場を確認します。
確認した乗り場で列車を待って、10分くらいで列車が来ました。
列車はそれなりに混んでました。
その中で何気ない話をしてるうちにポーティア・ステーション着きました。
列車から降りて、ポーティア航空・宇宙港へ人混みの中を歩きます。
静止衛星宇宙港への連絡艇の乗り場に着くと、連絡艇がとまってました。
出発まで15分くらいとのことで、連絡艇に乗り込みました。
出発の時刻、連絡艇は何の音もなく離陸しました。
その先は特に何かがあるわけでもなく20分くらいで静止衛星宇宙港に着きました。
姿勢制御で船体が軽く揺れた後、連絡艇は静止衛星宇宙港に固定されました。
連絡艇から降りて、ここから先は予定がきちんと決まってます。
私たちが乗る船、超光速航宙船、の出航は1時間後です。
喫茶店で時間をつぶして出航の20分前、ちょっと早めに超光速航宙船の乗り場に向かいました。
搭乗ゲートがもう開いていたので、ゲートを通って船に乗ります。
3人ならんでシートに座って、何気ない会話で出航を待ちます。
出航の時間ちょうどに船が動き始めました。
この先は船を乗り継いで5時間くらいで、地球からいちばん近いステーションに着きます。
ステーションには地球から迎えに来てくれてる予定なので、それに乗って地球に帰ります。
帰りの船の中で龍さんと命真さんが話してました。
「茶とは面白いようだな」
「はい、奥が深いです」
龍さんに命真さんが言葉を返します。
「しかし……、
命真殿はなぜ茶を始めたのだ?」
少しの間の後に命真さんが答えました。
「そうですね……、
地球に来るまで私には戦いが全てでした。
ですので、優雅に楽しめる、とでも言うのでしょうか……、
私にとって新鮮で、中でもいちばん魅力を感じたのがクォルル茶だった、
そのような感じです」
「なるほど」
龍さんが言いました。
少ししてもう一度、龍さんの声。
「クォルル茶のこと、教えてくれんか?」
「はい、喜んで。
しかし……、ハマると底なし沼です」
命真さんの声は冗談っぽくて、楽しそうでもありました。
「底なし沼とは……、
なるほど、なおのこと面白そうだ」
龍さんの声は楽しそうで、期待に満ちてました。
了