ほのぼのな日常 第8話 冬のひとこま先に記しとく設定。
田辺京志(たなべ けいし):女性
今出川一司(いまでがわ かずし):男性
と言うことで。
私は京志。田辺京志。
今、私は大学生。充実した毎日を送ってる。
私にはとっても大事で、とっても特別な人がいる。
今出川一司。私の恋人。
今は恋人だけど、一司と話をしてると時々、『結婚』って言葉が出る。
私と一司の夢。かなって欲しいし、かなえたい夢。
真冬のある日。
日が傾き始めた時刻。
この辺りでは雪はめったに降らない。けど、冷たい北風は全力で吹いてる。
私は一司とならんで歩いてる。もちろん腕を組んで。
向かう先は一司の家、ワンルームマンション。
つまり、一司の部屋にお泊り。
「一司~、寒い~」
首をすくめて体を震えさせる。
私はコートを着て、毛糸の手袋をして、マフラーを首に、耳はイヤーマフで防寒。
一司はジャンパーと手袋。
手袋をしてても指先は冷たい。
「ん~、寒いなぁ……」
一司も寒さを耐えてる。
だから、言葉が少ない。
私はもう一回「寒い」って言って、一司にからませてる腕に力を入れた。一司の腕にも力が入った。
一司の横顔を見る。
寒さを耐えてるのと、きっと私のお泊りが嬉しくて、そんな感じ。
私はくすっ、て微笑んだ。
一司に寄せられるだけ全部、身を寄せた。
ワンルームマンション。
一司の部屋の前。
「一司、早く早く」
「うい」
ドアの鍵を早く開けるよう一司をせかす。
一司は手袋をとる。ズボンのポケットから鍵を取り出して、ドアの鍵を開けた。
ドアを開けて、私と一司、急いで滑り込む、みたいに部屋に入った。
ドアを閉めると冷たい風がなくなった。
「ふぃー、寒かった」
ほっとする。
部屋の中も十分に寒い部類だろうけど、もちろん風はない。
だから、冬の寒さでしっかりと冷やされた体にはほんのりと温かく感じられる。
一司もほわっと気が緩んだみたい。
私は手袋とマフラーとイヤーマフをとった。
「すぐにエアコンつける」
そう言いつつ一司はかがみこんだ。しっかりと靴紐を結んでたスニーカーを脱ぐため。
私の前に一司の無防備な首が現れた。
私の指先は冷えてる。
つまり。
「ていっ」
迷いなく両手の指を一司の首に押し付けた。
「うわぁっ!」
一司の体がびくんっ、とはねた。
「あははははっ」
突然の攻撃で体が固まった一司。
私はぽいっ、ぽいっ、と靴を脱いで部屋に上がる。
楽しさいっぱいの笑顔で一司の横を通った。
「けーいーしー」
「ふぇっ?」
振り返ると、一司は立ち上がって、体がゆらりと揺れてる。
それと、口元がにやり、と歪んでる。
「やり返すっ!」
「ひぁんっ」
一司が私に飛びかかってきた。
私はぎりぎりで一司の手から逃げる。
もちろんこれで終わり、な訳がない。
すぐに体勢を立て直して、一司は私を追いかけてくる。
今度は両腕をしっかりつかまれた。
「やあぁぁっ、一司、冗談、冗談っ」
「んじゃ、俺も冗談っ!」
笑ってごまかしてみるけど、もちろん通じない。
むしろ火に油。
思いっきり体をよじらせて一司から逃げようとしてみる。
そんな私を一司が押さえつけようとする。
どさっ、
二人でベッドに倒れこんだ。
「やんやんやんっ!
かずしーっ! はなせーっ!」
じたばたと足を動かせるだけ動かす。
何回か一司に当たった。
「うぉっ! 痛っ!
けいしーっ! やめろーっ!」
形勢は私が不利。
私のお腹をまたいで、一司が馬乗りになった。
「一司のいじわるーっ!」
ぽかぽかぽかぽか、
もう足は使えないから握りこぶしを使う。
一司の胸元に私のこぶしが次々当たる。
「痛い痛いっ、京志、本気はなしっ!」
一生懸命抵抗するけど、私と一司の力の差、当たり前だけど一司がずっと上。
二人でもみ合った挙句に、私は両方の手首を握られた。
一司に腕をばんざいするみたいに押さえつけられた。
私はもう何もできない。
けど、この体勢って……。
「……っ」
気づいた。
「……あ」
一司も気づいた。
部屋の中の音、一瞬でなくなった。
私はこんなのもありかな、って思った。
でも、一司はちょっと戸惑ってる。
状況を確認してる。
私に馬乗りになって、押さえつけてる。
部屋に入る前の寒さのせいだけじゃないけど、私のほっぺたはたぶん赤らんでる。
二人で暴れたから服は乱れてる。
加えて、はぁはぁ、と息が上がってる。
一司からだったら、色っぽく、とか、艶っぽく、とか見えても不思議はないと思う。
私の両方の手首を握ってる手、一司の手から力が抜けた。
「えっと……、
……冗談はこれで終わり」
ちょっと困った感じの声。
一司が私から離れ始めた。
今度は私が一司の手を握る。
「ここで止めたら、一司は根性なし」
「っ……」
一司を挑発。
私の声に一司が止まった。
一司の体を引き寄せにかかる。
「あのっ、京志……」
声の調子、一司はやっぱりちょっと困ってる。
「……止めるとか、なし」
私は一司を求めてる。
「……うん」
一司の声が落ち着いた。
私と一司、近づいて重なる。
一司を握ってた手、離した。
替わりに一司を抱きしめる。
一司も私を抱きしめてくれた。
外は冷たい風の冷たい世界。
部屋の中も温かいとは言いがたい。
でも、一司の体は温かい。
私の体も、たぶん温かい。
これからもっと温かくなる。
こんなのだから、私はいつだって一司が大好き。
それに、一司の部屋にお泊りするのが大好き。
了