ほのぼのな日常 第10話 ふわふわ抱っこ先に記しとく設定、
衣笠律(きぬがさ りつ):男性
衣笠命(きぬがさ みこと):女性
衣笠晶(きぬがさ あきら):男性
家は二階建ての一戸建て
と言うことで。
僕は律。
妻の命さんと、息子の晶と、家族3人で毎日が充実してる。
晶が生まれる前、命さんと結婚する前、こんな楽しい生活があるなんて僕には想像できなかった。
でも、命さんのおかげで今の日々が手に入った。
命さんに感謝だ。
今夜も家族3人で晩ごはん。
命さんの料理はいつだって美味しくて、満足しかできない。
「命さんのごはんはすっごく美味しい」、何回も言った言葉。
言うたびに命さんは、嬉しそうに、恥ずかしそうに、照れてくれた。
命さんの魅力のひとつ。
ごはんを食べ終えて、3人で『ごちそうさま』をした。
食器をキッチンに運んで、そこから先は命さんの役目。
僕は口出しをしてはいけない。
晶を椅子から抱き上げてリビングへ。
床に降ろすと、晶はにこにこご機嫌で僕を見た。
はいはいができるようになった晶。
一緒に遊ぼう。
リビングの端のおもちゃ箱からおもちゃをいくつか取り出した。
おもちゃを持って晶の方へ。
「あきらー」
呼びながらおもちゃを振ってみる。
晶はこっちを見て、ちょっと興味を持ったみたいだったけど、今日は僕が持ってるおもちゃの日じゃなかったらしい。
自分でおもちゃ箱に行って、取り出したのはボール。
ボールで遊び始める。
ひとり遊びの気分なのかな?
今夜は一緒に遊べなさそう。
ちょっと残念。
テーブルに戻る。
椅子に座って命さんを見た。
食器を洗ってる命さん。
特別なことをしてるわけじゃない。
それなのに魅力的。
抱きしめたいな、
ふと、思った。
命さんの体はふかふか。
それに命さんの匂い。
例えようのない不思議な匂い。
僕をどきどきさせる。
ダキシメタイ、
心の奥にどくん、と黒い欲望。
命さんを思いっきり抱きしめたい。
でも、命さんの気持ちがある。
だから、いけない。
理性で欲望を抑える。
ダキシメロ、
黒い欲望が僕を駆り立てる。
けど、そんなのは許されない。
突然抱きしめたりしたら、命さんを驚かせて、……傷つけることになる。
もう一度、理性で抑える。
僕は欲望を抑えつけたけど、そもそも抑えつける必要なんかない。
命さんに「抱きしめたい」って言って、「はいっ」って言ってもらえば良い。
だから片付けが終わるのを待つ。
少しして、片付けが終わった。
命さんがこっちを向いて、僕を見てくれた。
テーブルに向いて椅子に座り直して、命さんに言う。
「命さん、ちょっと良いかな?」
「んっと、何ですか?」
命さんはすぐに察してくれた。
テーブルの向かい側、僕の正面に座る。
「その……、
……抱きしめても、良いかな?」
言ってみる。
命さんの顔がみるみるうちに赤くなった。
「あのっ、命さんっ、
無理しなくて良いからっ」
あわてて静めにかかる。
命さんが落ち着いた後。
「やっぱりやめた方が良いね」
これにも命さんはすぐに反応した。
「やめない方が良いですっ」
嬉しい言葉。
『抱きしめる』決定。
「えっと、抱きしめるとして……、
とりあえず立とっか?」
二人、椅子から立ち上がる。
僕は命さんに近づいて。
「どんな感じが良いかな?
その……、前から? 後ろから?」
命さん、ちょっと考える。
「……前から、って大胆ですね。
それは……、ちょっと難しいです。
だから、後ろから、で」
僕への答え。
「前から」は大胆で、「後ろから」は大胆じゃない。
どんな基準なのか不思議だけど、僕と命さんの基準では正しい。
「それから、
ぎゅって抱きしめるのは、……ちょっとだめです。
その……、どきどきしすぎちゃいます……」
「うん」
すっごく分かる。
僕もだ。
「じゃあ、後ろからふわって感じで……」
「はいっ」
決まった。
命さんの後ろにまわる。
できるだけ近づいて、でもなるべく離れて。
お互いの体がちょっと触れるくらい。
次に、両腕を命さんのお腹にまわす。
お腹の前で両手を重ねて。
僕の手に命さんが手を重ねて。
完成。
ふわふわでゆるゆるの抱っこ。
『抱きしめる』とはちょっと違うかもしれない。
でも僕の腕の中に命さんがいる。
どきどきする。
ぴったりくっついてるわけじゃないけど、命さんの体温を感じる。
それに、どきどきしてるのも。
と言うことは……、命さんも僕を感じてくれてるはず。
なんて考えたら余計どきどきする。
ずっとこうしていたい、って思う。
だけど、それはちょっと難しい。
「あの、律くん、
……その、そろそろ限界です」
命さんの小さな声。
夢から覚めた。
「あ、えっと、うん……」
ゆっくりと腕を解いて命さんを離す。
これで終わり。
残念。
命さんが僕を向いた。
ほっぺが赤くなってる。
「あの……、
どきどきしすぎちゃいました」
照れた声で言われた。
命さんの言葉に、治まりかけてた僕のどきどきが戻ってきた。
「うん……、僕も。
ちょっとやりすぎたかな?」
「そんなこと、ないですっ、
もっとしたいですっ!」
命さんの本音。
「あ……」
言ってから気づいたみたい。
落ち着き始めてたほっぺの赤み、改めて赤らんだ。
「でも、今日はここまで、
で良いよね?」
これ以上の話は命さんがどんどん墓穴を掘りそう。
だからおしまいにした方が良い。
「はいっ」
命さんの凛とした声が僕を嬉しくさせる。
だからちょっとお願いした。
「次は命さんから、
ってどうかな?」
「私から……、ですか?」
命さん、ちょっと戸惑う。
「良いと思います!」
笑顔で言ってくれた。
僕も笑顔になる。
「あ、でも、
私が抱きしめるのだったら、
大胆になりたいです」
「大胆?」
それはもしかして……。
「はいっ、
律くんを、前からぎゅっ、てしちゃいます!」
「そっか、
それってすっごく楽しそう」
命さんの提案、僕はもちろん嬉しい。
二人で視線を合わせて、ちょっと恥ずかしさが入った微笑みになった。
ぺしぺし
ぺしぺし
足にちょっとした感覚。
目を向けると晶がいた。
僕の足を一生懸命叩いてる。
命さんの視線も晶に。
「あらあら、
晶くん、どうしたのかな?」
命さんが晶を抱き上げた。
晶は命さんにぎゅって抱きついて、ほっぺをすりすりと擦りつけた。
……うらやましい。
毎度のことだけど、晶に嫉妬した。
了