ほのぼのな日常 第18話 とっても大事なことだから先に記しとく設定。
衣笠命(きぬがさ みこと):女性
衣笠律(きぬがさ りつ):男性
衣笠晶(きぬがさ あきら):男性、命と律の息子
3人の家は二階建ての一戸建て、
と言うことで。
こんにちは。
私は命、衣笠命です。
いろんなことがあった末に律くんと結婚して、晶くんが生まれて、その晶くんは一人前のはいはいができるようになって、今は毎日がとーっても幸せです。
でも、ちょっと残念なこともありまして……。
晩ごはんの後片付けをしながら思います。
私の料理を食べた律くん、
『命さんのごはん、いつも美味しいね』
そう言って微笑んでくれました。
いつものことで、いつも通り嬉しくて、でもちょっと恥ずかしくて、なんだか落ち着かなくなっちゃいました。
後片付けはもうすぐ終わり。
リビングで遊んでる律くんと晶くんの声を背中に感じます。
律くんも晶くんもとっても楽しそうです。
少しの後、後片付けが終わりました。
リビングを見ると、律くんと晶くん、やっぱりふたりで楽しく遊んでます。
ボール遊びをしてたのだけど、晶くん的にはボール遊びはそろそろおしまい、そんな感じです。
晶くん、今度は床に座ってる律くんに近づいて、そのまま律くんに登り始め? ます。
ちょうど良い位置、律くんの胸のあたり、に決まっところで、ぎゅっ、て抱きつきます。
「そっか、だっこ?」
律くんは晶くんの体に腕をまわして、ぎゅーっ、て抱きしめます。
晶くん、大喜び。
ぎゅーっ、に満足した晶くんはまた律くんを登り始めました。
今度は肩のちょっと上まで。
次は律くんの首に腕をまわして、ぎゅっ、てしました。
それから、ほっぺを律くんのほっぺに合わせて、すりすりすり、ってします。
晶くんは自分の心に素直。
ちょっぴり羨ましいです。
でも、こんなときにどうすれば良いか、そんなのとっくに分かってます。
私も素直になれば良いです。
だから私の、ちょっと欲張りな、思いを律くんに伝えることにします。
私もリビングに。
「あの、律くん、
……ちょっと良いですか?」
晶くんを抱っこしてる律くんの前に正座します。
「ん? 何かな?」
律くんは私を見て、すぐに「大事なこと」って分かってくれました。
「晶、ちょっと休憩」
そう言って晶くんを床に下ろしました。
次に、私の正面に正座で座りなおして私を見てくれました。
真面目な表情で見てくれます。
きっと私も真面目な表情になってます。
「大事なこと……、だよね?」
「えと、はい」
もちろん大事なことです。
すーはーすーはー、と呼吸を整えて、
「律くん、
一緒に寝てください!」
思ってることをそのまま言葉にしました。
でも、上手く伝わらないときもあるわけでして……。
「えっと、『一緒に寝る』て言うのはつまり……」
律くんの言葉にどきっとしました。
私のお願いはそこまですごいことじゃないです。
あわててしまいます。
「あの、あの、『一緒に寝る』って言うのはそんなにすごいことじゃなくてですね、
もっとこう、柔らかい感じ、って言うか、特別なことじゃないって言うか」
私ははわはわしながら律くんの推察を軌道修正します。
でもさすが律くんです。すぐに分かってくれました。
「うん、分かった。
『一緒に寝る』で決まり!」
良かったです。もう少しで大変なことになるところでした。
「じゃあ、僕と晶で先にお風呂に入って、
命さんがお風呂の間に晶を寝かせる、
で良いかな?」
「はいっ!」
律くんの提案、私の希望にぴったりです。
これで後は時間になるのを待つだけです。
お風呂の時間までは、律くんと晶くんと私でいっぱい遊びました。
そんなことの間にお風呂の時間になりました。
手順通り、まず律くんと晶くんがお風呂に入ります。
晶くんはお風呂も楽しいみたいで、ときどき嬉しそうな声が聞こえます。
……やっぱり晶くんが羨ましいです。
少しして、律くんと晶くんのお風呂が終わりました。
「晶、寝かせておくから」
交代でお風呂に向かう私に律くんが言ってくれました。
「えと、あ、はいっ」
ちょっと緊張してる私。
「うん」
律くんは笑顔を見せてくれました。
お風呂に入ります。
かけ湯をして湯船に。
お湯に体を沈めて、まずは軽く温まりたい気分、です。
ちょっと強引だったかな? そんな思いが出てきます。
……でも、
素直にならないと……、
……、
……何を言っても全部「今更」です。
逃げるなんてできません!
律くんと一緒に寝るんです!
覚悟を決めました。
湯船から出て、体をぴかぴかに洗って、湯船に戻って。
今度はしっかりと体を温めました。
お風呂から上がって、「覚悟」を確認します。
……大丈夫です。
寝室に向かいます。
部屋の前に立って、寝室のドアは閉まってました。
すーはーすーはー、
息を整えてドアを開けました。
中は真っ暗です。
「お風呂、終わった?」
暗い中から律くんの声。
「はいっ、全部OKですっ」
律くんは自分のベッドで晶くんを寝かしつけて。
晶くんはもう眠ったみたいです。
私は私のベッド、律くんのベッドの隣、に入りました。
ちょっとの後。
「命さん、
そっちに行くね」
「えと、はいっ」
私の声を確認して、律くんが動き始めました。
お布団から出て私の方に。
私のお布団にゆっくり入って私のすぐ横に。
天井を見てる私の隣で、律くんも天井に視線を向けたみたいです。
上手く言葉を出せません。
……律くんはどうなのかな?
「もうちょっと、良いかな?」
律くんの声。
いつも優しいけど、今はいつもよりもっと優しい感じです。
だから、
「はいっ、良いです」
言っちゃいました。
そしたら律くんの手が私の方に。
ごそごそと手を動かして、私の手を見つけました。
優しく私の手を握ります。
でも律くんの握り方……、恋人つなぎ、です。
どうしようどうしよう、って思います。
だけど今いちばん大事なのは律くんに応えることです。
だから、ちょっと力が入ってる律くんの手、私もちょっと力を入れて握りました。
手を握り合ってると、余裕が出てきました。
私が思ってること、正直に言葉にしたい……。
「律くん、がっかりしました?」
私なりの勇気を出して尋ねます。
「んっと、何が?」
律くんの答えは質問でした。
だから改めて。
「その、セックスじゃなかったこと……、です」
「あ、そう言うことか。
そうだなぁ……、
僕は命さんの気持ちに応えたい、そう思ってるから、がっかりなんかしてないかな」
律くんの言葉はやっぱり優しくて、でも、ちょっと引っかかりました。
だから尋ねます。
「じゃあ、私がセックスしたい、って言ったら……」
「やっぱり命さんの気持ちに応えるかな」
律くんの言葉を少し考えます。
「でも……、
それじゃ律くんの気持ちがありません」
少し間をおいて。
「……うん、そうだね。
僕の気持ち、か……」
わずかな時間、音がなくなりました。
「うん、僕は命さんの気持ちを大事にしたい。
だから命さんがセックスしたい、って言ったら『しよう』って言う。
したくない、って言ったら『やめとこう』って言う、かな」
律くんの言葉を私が続けます。
「私は律くんの気持ちを大事にしたいです。
だから律くんがセックスしたい、って言ったら『しよう』って言います。
したくない、って言ったら『やめとこう』って言います」
私が言い終わって、ふたりでくすり、と小さく笑いました。
「おたがいに大事に思ってるのに上手くいかない。
これって変だね」
「はい、でも良いと思います」
私の言葉の後、音が途切れました。
少しして律くん。
「こう言うのはどうかな?
ちっちゃい投票箱作って、
セックスしたいかしたくないか書いて入れる。
箱を開けるのは……、お風呂に入る前が良いかな?
それで、命さんも僕も「したい」だったら「する」。
これだったらおたがいを大事にできるし、自分の気持ちにも正直になれる、って思うんだけど……」
さすが律くんです。
「はい、とっても良いです」
「じゃあ、箱、作ろう」
新しいことがひとつ決まりました。
とっても嬉しくて楽しいことです。
その後も少し話が続きました。
でも、少しずつ眠気が近づいてきて。
明日も楽しくって嬉しい明日になりますように。
そんなことを思いながら眠りに沈みました。
了