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    テラショでパロディのはずのもの(終わらなかった)

     
     

     この時期は街中で見慣れない顔が増える。サマースクールの開講とともに多くの留学生が短期間滞在することに加え、特に今週は街を上げての歴史を祝う祭りがあるため、国内外から観光客が集まって来るからだ。この国が掲げる標語、自由の始まりと謳われる革命が発起した街。それが故か、あるいは皮肉か、移民が集まりやすい場所でもある。
     その日彼は自宅に近い通りに面したカフェで朝ごはんを摂りながら仕事に打ち込んでいた。職業はラジオ局の構成作家。と言えばメディアに関連していて、人が聞けばかなり羽振りがいいものと思うかもしれないが、彼が所属しているのは学生がベンチャーで立ち上げたコミュニティラジオの一つだった。前職は確かにキー局で、アシスタントだったものの現在の給料よりは幾分上。しかしディレクターと反りが合わず、半ば途中放棄のように去ったのがもう五年前となる。そして再就職を探していたところに転がり込んできた話が小さな局での構成作家という職だった。
     スタッフのほとんどは彼よりも若い。大学でコミュニケーションや音響工学を学んだ者たちが集まっているので知識はあったけれども実績がなく、当時は本当に知る人ぞ知る局だったが、経験のある作家が入ったことで一新、今では学生を中心に店やカフェでも聴こえる番組となっていた。
     そのやり甲斐は何にも代え難いだろう、とテラーは思う。構成作家、とは名ばかりに、番組の制作はもちろん、時にはディレクションや、自身がパーソナリティとして話すこともあった。後者はあくまでもピンチヒッターとして枠を埋める程度ではあるが。
     小さな企業にありがちの一人何役もこなして忙しい毎日。それでも転職して良かったと思えるのは、大手特有のしがらみも無く、比較的やりたいように出来ているため。役立つ情報の発信とラジオを通じたコミュニケーションを信条に作る番組は、幸いにしてリスナーのニーズと合致していた。
     より良い番組を──テラーはいつもリサーチを怠らず、家や事務所に篭って仕事をするよりもこうして街へ出て、流行や傾向にアンテナを張り巡らせて内容に還元することを好む。己の趣味だけに偏らず、初めはどうだろうかと思ったものでも食わず嫌いは辞めて探求した。本でも、食べ物でも、音楽でも。
     今この朝の時間は既存の番組の原稿を仕上げることに専念し、朝食を摂り終えたら何か目新しいものはないかと街をぶらり回った。
     時期柄いつも以上に外国人を見かける。いや、見た目ではなくどちらかと言えば外国語が聞こえる、と表した方が正しい。肌の色や骨格など特徴が異なれど、彼らの国籍がどうであるかは判断できないのだ。そんなテラー自身も三世代前にここへやって来た移民の血筋。インテリが多い街でもあり、こと差別は少ない。
     ただその印象は単にまだ彼の視野が狭かったが故なのではないか。
     真昼でも人通りの少ない南部の地区。そこまで足を伸ばしていたのはあくまでも気まぐれだった。国内でも有数の治安の良さを誇る街だが、当然ながら犯罪が全くないわけではなく、それでも数える程度の案件の大半はいわゆる警戒地区内で発生している。その内の一つと考えられている場所。テラーも大学を機にこの街へ来たが、既に短くない時間を過ごしているから怖さなどは全くなかった。
     そういう場所は総じてニューカマーが多くなっている。心なしか巡回する警察を見かける頻度も高い。
     そんな中、白昼堂々と空き地の壁にペイントをしている人影が彼の目に留まった。許可のない外壁への描画は法律で禁じられている。景観の保全を乱す上に、バンダリズムの温床と成りかねないからだ。
     その少年──と言うべきか、まだ十代と思しき線の細い彼が手にしていたスプレー缶は、どう考えても許可があってとは考え難い。
     犯罪が起こり易い地区での揉め事は避けるべきだろう。テラーは誰しもが真っ先に浮かべる教訓に従うつもりだった。それなのに、彼が描いていたらしい絵の輪郭がわかった時、そうした理性は形を潜め、足は自然と少年の方へ向けられる。
     それは救世主の像。そして上からそれを否定するように交差した二つの斜め線。きっとそのスプレーを吹きかけたばかりと映る。
     近づいて来る足に相手もテラーの存在に気が付いた。初めはどうにも警察やその類と思ったのかギョッとした表情を見せたが、すぐにそうではないと分かり、威嚇と取れる目付きで睨みつけてくる。ナイフのように鋭い、とまでは感じない、擦れた少年そのものの雰囲気だ。
    「いや……何を描いていたのかと思って」
     敢えて宗教的シンボルを表現しながらそれを否定する。この街でイデオロギーを主張することは自由だし、周囲にある学術機関の影響か哲学的討論を行う若者も少なくない。むしろそうした話に混ざって、特に若い世代の感性を探るのは、番組作りに欠かせない材料だとテラーも積極的に行っていた。
     職業病とでも言うのか、だから彼は少年に歩み寄ろうと穏やかな口調で声をかける。
     ところが相手は無口なままでいた。話したくないのか、それとも──。
     テラーは描かれていた絵から少年の素性を推測する。
     ── Desculpe, só fiquei impressionado com o que você estava desenhando……
     言い換えた言葉に少年は驚き目を見開いた。それでもすんなりと態度を変えるほどではなかったようだ。
    「別に……」
     短い返事に留めている。
     確かにさして意味はないのかもしれない。初対面でいきなり違法であるグラフィティについて言及するのも怪しく感じるだろう。しかしテラーはその絵と少年の目が示すものに言い得ぬ関心が湧いていた。
    「もちろん信仰の自由はどうでも、ただ君の国のシンボルだろ?」
     良くも悪くも、と付け加えようとして、まだ相手の本心が分からない以上、軽率な発言は慎んだ。
    「何となく、君が自分のアイデンティティを否定しているように見えたんだ」
     そう言ってみたものの、テラーは少年が十分な教育を受けてはいなかっただろうと考える。もしそれが誤りなら、言葉の理解も然り、こんなところで違法行為をする理由が思い付かない。いずれにせよ年齢的にも自己の具現化は未完全であるはず。彼の問いには補足が必要だったかもしれない。
    「よく……わかんねえよ」
    「そうだな。すまない、変なことを聞いて」
     と続けかけたその時。少年の腹からキュルキュルと細やかに虫の鳴き声が聞こえてくる。それとともに、彼は恥ずかしいさもあったのだろう、苦い表情を浮かべた。
     腰回りが余ったジーンズ。それはサイズ違いなのかもしれないが、着古している様子のカットソーも腹の辺りがペタリとなっていて、不摂生だと見て取れた。
     通常ならその手の補助をしている団体を紹介すべき。なのに今回に限っては自らが介入することを選択した。
    「もしよかったら、何か奢るから少しだけ話を聞かせてくれないか?」
     少年はその申し出にまた目を丸くする。
    「はっ! 新手のナンパか?」
    「ナッ……⁉︎ んん……っ、そうじゃない。ただ仕事に……俺は放送作家なんだ。ラジオ番組を作ってる。大学生向けでテーマを作ってるから元々いろんな若者の話を聞くのが性分で」
     それを聞いて、少年はふーんと無関心な態度を見せた。それでも背に腹は変えられないということか、提示された案に条件を付けて承諾する。
    「あんまり外のヤツといるのを見られたくねえんだ。何か買ってきて」
     その間に逃げる、とする可能性は否定しない。それでもテラーは駄目で元々、少年の依頼に大人しく従って、近くのコンビニエンスストアでサンドイッチにドーナツ、好みが分からないからとパックジュースに瓶入りのミルクコーヒーを彼のためへ、自分用にはドーナツとホットコーヒーを調達した。
     時間にして十五分もしないくらいだろうか。テラーが戻ってみると、意外にも少年は律儀に待っていてくれた。それだけ腹が減っていたとも考えられる。
    「ほら」
    「ん?」
     少年は渡された紙袋の中を確認してまた怪訝な顔を見せた。
    「こんなに食えねえよ」
    「今食べなくてもいいだろ。持って帰って腹の足しにしてくれ」
    「あんた……お人好しだろ」
     貰えるなら黙って貰えばいいのにと、それにしても逐次一言加える性格は、きっとあまり人と接することになれていないのだと感じさせた。
    「ああ、よく言われるよ」
     真面目が過ぎる。だから大手を去って、コミュニティラジオなんかにいるわけだ。そんな皮肉が頭に過った。
     相手も納得したのか、特に礼も言わず、すぐにガサガサ袋の中からパックジュースを取り出し、添え付けの小さなストローを挿す。そでからサンドイッチを取り、包装を剥いでから一口目を齧った。
    「んで、聞きたいことって?」
     モゴモゴと口を動かしながら尋ねてくる。行儀が云々というのは今出すべき話題でない。テラーはコーヒーを片手に切り出した。
    「さっきの絵のこととか、だけどまずは自己紹介からだな。俺の名前はテラー。コミュニティラジオで番組の内容を考える仕事をしている」
    「ラジオ、ねえ」
     少年とは縁がないと窺える。
    「で、君は?」
    「……言う必要あんの?」
    「いや……、言いたくないなら別に」
     出会ってすぐだ。先程も周囲に外部の人間といるのを見られたくないと言っていただけに、秘匿したいこともあるのだろうと、テラーはその判断を少年へ任せた。
     だがどうやらそういうわけでもないらしい。
    「俺は……ショーン。気づいてると思うけど、移民で、三ヶ月前くらいに来たばっかだよ。親とは元々別に住んでて、こっちには仲間の誘いで来たってのに、ツテがあるって聞いてたのが結局不法入国みたいになってんの」
     よくある話──その通り、テラーも考えていた。表向きは自由の国、されど人々の思惑はその建前を綺麗事だけで済ませていられない。労働力、薬物を含む娯楽の輸入、人身売買など、一攫千金を夢見た発展途上の国々から人を掻き集め、その大半は帝国主義さながら、利害が一致すれば合法で滞在できるのに、搾取の対象と見るや傲慢な態度でそこへ宙ぶらりんにする。そして彼らは見えない枷に縛られて犯罪に手を染め、それらが頻発する理由はあくまでも彼らの人間性なのだとして、移民は犯罪に走るとレッテルを貼られる悪循環。表立って歩けないとする言い分はよくわかる。
     

    ぴー子[UDUL] Link Message Mute
    2022/02/11 21:45:21

    テラショでパロディのはずのもの(終わらなかった)

    ##パロディ

    時間内に書き切れませんでした。
    が、テラショの日である今日中に上げておこう。
    原作軸と全く関係のない話。

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