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    白磁の手 食間とはずいぶんと中途半端だ。空腹とも満腹ともつかず、その上心地が良い訳でもない。だから持て余す感覚を埋めるために俺は窓を見ながら湯飲みを傾けた。
     俺と一服を共にしている季節を感じる庭の眺めはいくら見ていても飽きが来ない。雪化粧をしているそこを直接歩いて吐く息の白さを味わうのも良いが、こうして火鉢の炭に頼りながら見ているのもまた風情がある。
     平生なら雪で遊ぶ者の賑やかな声や人を真似た営み音の中にある光景も大半の者が出払っている今は存在しておらず、いっそ窓枠に縁取られた白い景色の儚さを際立てて好ましい。
     その静けさを破って廊下の方からせわしない足音がこちらに近づいてきた。歩幅や音の重さが足の主が決して短刀ではないことを語り、それが俺の部屋の前で止まると間髪入れずに障子が開かれる。
    「寒すぎだろ、どこもかしこも」
     冷たい空気と共に入ってきた和泉守は頬を赤くしている。両手を袖に入れたままはしたなく足で障子を閉めると長く息を吐いていくと寒い寒いと呟きながら俺の隣を陣取った。 
     袖から取り出され炭の暖かさを受けている手は頬同様に赤らんでいる。その手を片方取ってみれば外に置きっぱなしにされていた花瓶のように冷たかった。
    「随分冷えておるな」
    「冷てぇなんてもんじゃねえよ。こんなの先から凍っちまう」
     手に取っていた和泉守の陶器にもう片方の手も重ねてやればじんわりと俺の暖かさが分け与えられていく。いったい何をすればここまで冷たくなるのだろうか、柔らかくなければ死人と間違いそうなものだった。
    「ふむ……」
     しかしいつまでもこうしていてはなにもしてやれないのでそっと手を離すと少し名残惜しそうに和泉守の指先が絡み付いた。絡んだ指のねだるような仕草は情事のいじらしさを思わせて満足感を覚えさせられる。
     冷たさに見かねて伏せていた来客用の湯飲みをひっくり返して茶を注げばゆらゆらと湯気が立っていく。淹れてから少し経つので和泉守には少しばかり物足りないかもしれないが無いよりは良いだろう。
    「これでも飲んだらどうだ?」
    「ああ、わりぃな」
     和泉守は先程まで俺が握っていた方の手を出して湯飲みを受け取った。そのまま片手で無機の縁と唇を寄せていき、そしてとうとう口がつけられた。そのままゆっくり傾けていけばこくん、と真ん中の空いた妙な布に覆われている喉が控えめに上下していく。
     湯飲みから離れて現れた唇はまじまじと見てみれば流石にあれだけ冷えていれば血色が悪いようで平生と異なっており白んだ薄桜色をしており、和泉守にしては珍しく少しばかり荒れている。
    「どうしたんだよ、そんなにじっと見て」
     和泉守はそんな俺の考えなどつゆ程も知らないが目をとろりとさせて艶っぽく笑ってみせた。控えめな口角がそこに上品さを加えている。
     そのまま呼吸を奪えば唇はうっすら開かれて俺との交わりを望んだ。
    「突然なにすんだよ」
    「なに、お前があんな顔をするからなぁ」
     未だ温まり切らない和泉守の身を腰から抱き寄せてやれ小さく俺の中に収まった。生活のうちに付くほのかなにおいと従順な愛らしさが欲を煽った。
    弥月 Link Message Mute
    2022/06/17 16:56:15

    白磁の手

    支部再録。
    冷たい手の話

    #三日和泉 #みかいず

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