夜半 こうして何をするでもない日でも招き入れられ、夜空の支配主の名を冠した男が無防備に眠りにつく時に隣にいる事を許されている事実ひとつが単純に嬉しい。許諾と安らぎにはおもわず顔が緩んでいく。
男は眠気からか普段よりも蕩けているが優しい目線のままで、それを眺めていると形の綺麗な薄い唇が動き出した。
「和泉守、明日も出陣か」
少し困り顔気味に出された声はすねる子供のようだった。オレだけが知る三日月の甘え姿はこれほどまでに色っぽい表情をしているのに際限無く愛らしいのだ。
「仕事だ」
その愛らしさを甘やかしなどせずに端的に述べると角度によっては切なそうに祈る神職者のようにも見える表情をそうかとだけ言いぷいっと背けた。
「なんだよ、オレがいないと寂しいのか」
いつもどおり、にっと笑ってみせてもそっぽを向いた愛しい人には笑みが届かない。もぞもぞとオレ好みの美形を布団に可愛らしく埋めている。だからオレの方から三日月に触れた。自身よりもいくらか華奢な体を後ろから抱きしめれば少しだけ背を丸めてから右手を擦られて指が絡んでいき、その冷たい指に応じるようにオレも絡めていく。
「俺はお前がそのまま戻らないようで怖いだけだ」
「何、心にもねぇこと言ってんだよ。オレは絶対あんたのとこに戻ってくるに決まってるじゃねぇかよ。今まで戻らなかったことがあったか?」
「ああ、そうであったな」
すまない、と身をよじりながら甲に一度口付けが落とされていく。離れてから再び向かい合うと切なそうな相貌が眼前に現れてその思いを深められた。それをゆっくりと混ざりあった意識を互いに消していく。
「おやすみなさい」
悲しげに、そしてまた名残惜しそうにオレたちは明日を月に誓って眠りについていく。また二人でこの空を見られる保証なんてどこにもないというのに。否、だからこそ満ち欠けて姿を変えるそれに誓うのだ。