イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    幕間-クローン編 海上の孤島、元はイーサンのクローン開発ラボがあった島で、リクはトラクターを運転しながら汗を拭いた。
    「……よし! 午前はここまでだ、みんな、昼飯にしようぜ!」
     リクの号令で、周囲からわっと歓声が上がる。ここは、イーサンが開発したクローンたちが暮らす島、自給自足で生きる島だ。


     屋外で畑仕事をしていたクローンたちを引き連れてリクがラボへ戻ると、ラボ棟に増築した厨房からバリィが顔を出した。
    「開墾は進んだか?」
    「うす! 日当たりが良くなるように伐採したんで、これで花畑も夢じゃないぜ」
     リクはにかにか笑って答え、クローンたちの後に続いて泥だらけの手を洗った。イーサン所有だったこの孤島は、元はクローン開発ラボを目隠しするように木々が生い茂っていた。今、リクとクローンたちは、その森をいくらか伐採して畑を作っている。イーサンに生み出されたクローンたちが自力で生きていくためだ。
     イーサンが逮捕された後、クローン開発ラボと孤島の権利とをもぎ取ったリクとバリィは、まず開発ラボで眠っていたクローンたちを可能な限り目覚めさせた。クローンの専門家ではないリクとバリィの操作で全クローンがうまく目覚めたわけではないが、そうしてある程度の人手を確保した彼らは、孤島の開墾に乗り出したのだ。
     アンドロイドの自由はようやく認められたが、クローンの自由が認められるかは分からない。開発自体がグレーのクローンに、その先の自由を担保するのは至難の業だ。しかし、既に生み出されたクローンたちを見捨てたくないから、と知恵を絞った結果が、孤島での自給自足生活だった。作った野菜や育てた家畜はクローンたちの食用にするほか、いくらかをタオズ・ダイナーへ卸して金銭と換え、諸費用の足しにしている。孤島での農産や畜産が軌道に乗り卸先も開拓して余裕ができたら、クローンたちに小遣いをやって都市で遊ぶ日も作ってやれるな、とリクは考えていた。
     しっかり手を洗って泥やその他の汚れを落としたリクは、バリィと一緒に屋内作業――炊事洗濯清掃ほか――をしていたグループのクローンがみんなの昼食を用意してくれた食堂でランチプレートとスープマグを貰って席に着く。
     リクは機械パーツが多いために外見の変化が止まっているが、それでも生体パーツのエネルギーは食品から得ているため食事が必要だ。一方で、一度死んでからイーサンの手でアンドロイド化されたバリィは電力エネルギーで稼働しているため、食事は必要ない。今は飲食機能を持たないバリィだが、生前の記憶を頼りにクローンたちへ料理を教えている。
     そのバリィとクローンたちが作った今日の昼食は、ポテトサラダを包んだプチパンとごろごろ野菜のスープ、それから釣り班が釣ってきた魚のムニエルだ。孤島では、痩せた土地でも育ちやすいジャガイモから栽培を始めたので、食事にはしょっちゅうジャガイモが出てくる。そのランチプレートの端っこに、最近栽培を始めたイチゴが、小さいながらも華やかに色づいてちょこんと一粒乗っていた。
     今日は食べ終わった者から自分の皿の後片付けをして自由時間なので、リクが食べ終わる頃には屋外に整備した運動場から賑やかな声が聞こえ始める。ぱらぱら人数が減っていく食堂で、リクが酸味強めのイチゴを味わっていると、その向かいにバリィが座った。
    「来年は、もう少し大きく育つといいな、イチゴ」
    「ですね。畑の広さが大事みたいなんで、開墾頑張ります」
     畑が広がったら次シーズンの作付けが楽しみだ、と大人二人で盛り上がる。やがてリクが食器を片付けてコーヒーを淹れてくると、運動場の賑わいに加え、どこからかピアノの音が聞こえ始めていた。
     再び席に着いたリクは、しばらくそのピアノに耳を澄ませてから感嘆の声を上げた。
    「シャルのピアノか? また上達したなぁ!」
    「ああ。最初は、ピアノにしか興味を持たなくて心配したが、今はドーンのサポートもあって料理や釣りにも参加している。曲調にも幅が出てきたように思う」
     クローンたちの屋内での活動を主に監督しているバリィは、我が事のように自慢げだ。リクもまた、シャルやドーンを培養槽から目覚めさせてすぐの頃を思い出し、彼らの成長を感じて頬を緩めた。
     それは、今から半年ほど前、ソルとブラッドの快気祝いを終えた後の秋のことだ。


     イーサンの陰謀に関わる捜査や検証のための調査も兼ねて、改めてこの無人島へ移住してきたリクとバリィは、ラボでイーサンの車椅子を押していたほうのエルに案内されながら培養槽のクローンたちを起こして回った。しかし、起動できたクローンは培養されていたうちの半分程度で、残りのクローンは、リクたちの培養槽操作が悪かったのか本人にその気がなかったのか、一体、また一体と、目覚めないまま培養槽の中で生命活動を停止していった。停止したクローンはほとんどイーサン型で、エル型のクローンのほとんどが起動したのとは対照的であった。
     リクとバリィは、覚醒しなかったクローンたちを森のはずれに埋葬しながら、覚醒したばかりのクローンたちが自分の体や動きに慣れるのを待った。この頃には、イーサンの車椅子を押していたほうのエル改め、エルツ、とリクが名付けたクローンが他のクローンたちをまとめるようになっていた。
     ある日、また一体のクローンを埋葬してきたバリィは、ラボの前で泥汚れを落として休憩しながらふとラボを見上げた。
    『……ケヴィン?』
     ラボの三階から、聞き覚えのある旋律が聞こえてくる。昔、幼いケヴィンがピアノで気まぐれに弾いていた、今やバリィだけが懐かしむことのできる旋律だ。ケヴィンとバリィくらいしか知らないだろう旋律を誰が弾いているのかと、バリィは急いでラボに駆け込んだ。
     エレベーターを待っていられずに階段を駆け上がり、聴覚センサの感度を最大にして音の出所へ向かう。バリィがそのドアを開けると、遮るもののないピアノの音が鮮やかにバリィの機体を包んだ。
     その部屋は、学校の音楽室によく似ていた。部屋の奥にピアノがあり、二つ並んだピアノの反対側の壁の前が一段高くなっている。こちらへ背を向けてピアノを弾く青年に近づこうとしてバリィが足を踏み出すと、リノリウムの床がキュッキュッと鳴った。バリィがそうした足音を隠さずに近づいても、金髪の青年はちっともピアノから顔を上げない。
     バリィが青年に何か声をかけようとしたとき、青年の隣にもう一つあったピアノの陰から、やけに小さな人影がするりと出てきてバリィの前に立ち塞がる。
     小さな人影――エル型よりいくらか幼い少年の姿をした黒髪の少年は言った。
    『すみませんが、弾き終わるまで待ってあげてください。そういう人なんです』
    『……そうか』
     バリィは素直に頷いて、近くの壁に寄って背中を預けるとそのままピアノの音に耳を傾けた。――ケヴィンがいるはずもないことは、最初から分かっていた。けれども、彼が弾いているとも思わなかった。
     ピアノの前に座る青年の背中を見つめ、それからバリィは青年の短い金髪を眺める。エル型ともイーサン型とも型の違う彼は、先ほどの黒髪の少年型とともに、それぞれたった一体ずつラボの地下に秘されていたクローンだ。彼らが誰のクローンなのか、リクもバリィも、確かめるのを後回しにしている。――外見から察しはつくのだが、イーサンが何故その人物のクローンを造ったのかが分からなかった。
     バリィが二体のクローンを眺めているうちに、金髪のクローンがピアノを弾き終わる。彼が、ふう、と一息つくと、黒髪の少年が彼の裾を引いてバリィのほうを示した。金髪の青年は、そこで初めてバリィに気がついたようだ。振り向いてバリィを見つけると、目を瞬いて、首を傾げる。
    『……俺に何か用、でしょうか?』
    『む、用……というわけではないが。ピアノの音が気になってな。そのピアノは……旋律は、どこで教わったんだ?』
     問われた青年は、きょとんとして自分の手とそれが弾いていたピアノとを見比べた。しかし、それでは答えが出なかったのか、青年は眉尻を下げてバリィへ視線を戻す。
    『……さあ……習ったわけでは。気がついたら、弾いていました』
    『そうか……』
     なんとなくは予想していたはずの回答に、しかしバリィは少しの落胆を覚えて肩を落とす。それでも、バリィはすぐに気を取り直した。
    『……何でもない、邪魔したな。私の友人もピアノを弾いていたから、懐かしくなってしまってね。また聞かせてくれると嬉しい。それでは』
     ひらりと手を振って踵を返したバリィだったが、ピアノの部屋を出る前にふっと室内を振り向く。
    『それと、きみ……黒髪の。君は、しっかりしているようだから、彼のことを頼むよ。』
     私の代わりに、とは、胸の中でだけ呟いて、バリィはその部屋を後にした。――幼い日の、まだケヴィンと一緒にいた頃のバリィの面影が残る小さな少年が、金髪の青年に寄り添ってピアノのそばへ立っていた。

     その日の作業を終えた夕暮れ、エルツとリクと一緒に居住棟の談話室で報告会をしていたバリィは、それぞれの報告が一段落してから口を開いた。
    『エルツに質問なのだが、クローンが、誰にも習わずにピアノを弾くことはあるのか?』
     バリィ以外の二対の目が、きょとんと瞬く。エルツは、少し考えながら答えた。
    『うーん……製造者がそういう設計にしていたか、クローンのオリジナルがピアノを弾いていたなら、習わずに弾くこともあるかもしれませんね。基本的には、ボクたちエル型やイーサン型は、ピアノは教習で習得します。手指の使い方に慣れるのと、教養とを兼ねての学習プログラムですね。習う前から弾けた個体は、今のところいなかったと記録されています』
    『そうか……。ではやはり、彼のオリジナルは……』
     小さく呟いたバリィは、そのまま一人掛けのソファに深く沈み込んだ。様子を見ていたリクが、努めて明るい声で切り出す。
    『そろそろ、みんなの名前が要るよな。どんな名前がいいかな?』
    『ボクは、エルツという名前を気に入っていますよ。親しみを込めて呼んでくださいますし……。他のみんなも、素敵な名前があればきっと嬉しいと思います』
     エルツが微笑んで、リクは顎に手を当てて考え始める。手持ちの端末から空中ウィンドウをいくつか立ち上げて人名辞典や百科事典を呼び出したリクは、隣のソファで黙り込んでいたバリィにも声をかけた。
    『なあ、バリィさんも手伝ってくれよな! どんな名前がいいか、一緒に考えようぜ』
     それは、目を覚ましたばかりのクローンたちに贈る、最初の祝福だ。『誰々のクローン』ではなく、個々の存在として扱うという意思表明であり、解呪であり、名前の意味は祈り(まじない)になる。バリィは、ソファの上で少し背すじを伸ばした。
    『……そうだな。彼らの、支えになるような名前がいい』
     バリィもまたリクと並んで空中ウィンドウを眺め、スワイプやスクロールをしながら気になった名前や単語を抜き出す。あれやこれやと案を出しながら一晩経った翌朝、リクたちによって培養槽から外の世界へ連れ出された十五体のクローンは、それぞれ名前を貰うと自分の持ち物に一つずつ記名していった。ペン書きの文字列はまだ拙いが、やがて書き慣れてゆくだろう。
     ただ、あのピアノが上手なクローンと、黒髪の少年のクローンとは、エル型たちと比べて特に筆記が苦手なようだった。それを見たエルツはリクに耳打ちする。
    『ボクたちクローンは、造られるごとに動作の学習が最適化され、より早くクローン――身代わりとしての活動ができるようになります。なので、ピアノの教習も読み書きの練習も、後から造られたクローンのほうが早く上達するのです。……けれど、彼らにはおそらく、同型のクローンがいない。先代たちによる学習の最適化がされていないなら、筆記の習得に時間がかかるのは仕方のないことです』
    『そうか……』
     リクは、ほとんどがエル型のクローンたちの中でどうしても目を引く二人組を見て、そっと目を細めた。
     黒髪の少年の名前はバリィがつけたいとのことだったので、それなら、とリクがピアノの青年に名前をつけた。Charles's Wain――北斗七星、夜闇の中でも方角を失わず輝き続ける星々にあやかって、シャルと呼んでいる。
     そのシャルにぴったり寄り添っている黒髪の少年には、バリィがDawn(夜明け)と名前をつけた。どんな夜でも東の空には日が昇ることを忘れないように、とバリィは言っていたが、当のバリィは、もしかしたら忘れたことがあるのかもしれない。
     持ち物への記名を終えたクローンたちは、それぞれ屋外や屋内の作業班に分かれて、今日の仕事を始める。シャルとドーンは、今日は二人とも屋外作業班に当たっていて、先日木々を伐採した一区画を耕して畑にする係の一員だ。
     今日は屋内の監督がリクなので、屋外作業の監督はバリィが務める。バリィが農具を扱うのを見て真似しながら、シャルとドーン、それから幾人かのエル型クローンが、まだ固い土へ耕運機の歯を差し込んだ。
     エル型たちがみるみる上達していく一方で、先代同型たちによる回路の洗練がされていないという話のシャルとドーンは、隅っこのほうでまごついている。幼い容姿のドーンは、その年格好らしいと言えばらしいかもしれない。シャルは、容姿が青年なのでドーンより違和感が目立ってしまうが、起動からあまり日が経っていないのは二人とも同じなので、同じように自分の体の扱いに慣れきらずにいる。
     その二人に根気強く体の動かし方や土の耕し方を教えて、バリィは日が暮れる前にクローンたちを連れラボへ戻った。孤島での自給自足生活では、農作業のほか、釣りや料理にも慣れる必要がある。クローンたちが学ぶべきことはたくさんあるが、幸いにも頭数と時間には余裕があるから、ゆっくり教えてやれるだろう。
     今はまだ非力なドーンや、あらゆる道具を初めて見るシャルが、この先どんなことに興味を持ち、何を得意として成長していくのか。バリィは楽しみな気持ちでその日の活動を終えた。


     それから秋が過ぎ冬を越え、イチゴが実る春になると、今はもうどのクローンも綺麗に自分の名前や文章を書くようになった。クローンたちは学習が速いと聞いていただけあって、シャルとドーンも、既に他のエル型たちと遜色なく筆記ができている。
     リクとバリィは、運動場の賑わいとシャルのピアノを聴きながら食堂でクローンたちのメモをめくった。来シーズンの作付けについて、希望がある者にメモを提出してもらったのだが、自分の名前も作物の名前も、読みやすいしっかりした文字で書いてある。
     傾向としては野菜よりも果物を育てたい者が多いらしく、イチゴを増やすだとかメロンに挑戦したいなどの記載がしばしば出てくる。ただ、これは現在の畑が野菜ばかりだから変化が欲しいだけで、野菜を嫌っているわけではないだろう。それから、作物ではないけれど、と断りを入れた上で、畜産希望の声もちらほら上がっていた。
    「今も鶏はいますけど、ミルクやチーズ、バターが欲しいって声が多いっすね。でも牛、でっけえからな……エル型に世話させるとなるとちょっと不安っつーか……」
    「大きいとコストもかかるしな。乳製品が目当てならヤギはどうだ? 風味の違いはあるだろうが、体格的には取り組みやすいのではないか」
    「なるほど……じゃあ、将来的にヤギ舎を建てるとして、島の開拓計画は……」
     島のあちらを切り拓き、島のこちらに森を残し、畑のそちらに何を植える。食堂で今後の計画が盛り上がっている一方、教習ルームでピアノを弾くシャルは、不意に手を止めて顔を上げた。
    「きみは……、おっと」
     ピアノの少し上の宙を見て瞬きしたシャルは、ピアノを再開してから再び同じ場所を見た。すると、さっきまでただの宙だった場所に、ふわふわと半透明の子どもの姿が浮かび上がる。
     柔らかな巻き毛をしたその子どもは、シャルのピアノに合わせてご機嫌に首を左右に揺らし、にこにこと聴き入っている。シャルは、ピアノを弾きながらその子どもにそっと声をかけた。
    「……こんにちは。きみは、どこから来た天使さんかな?」
    《ん? お兄さん、パティのことが分かるの?》
     声をかけられた子どもはきょろきょろと左右を見回して、そこに他の誰もいないことを確認すると、ふわりと浮き上がって宙を泳ぎ、シャルの目の前までやってくる。それに合わせてシャルの視線が動くことを確かめた子どもは、ぱっと顔を輝かせて言った。
    《パティが見えてるんだね! ふしぎふしぎ、初めてだよ!》
     きゃっきゃと笑ってシャルのまわりをくるくる回った子ども――パティは、シャルがピアノをやめると見えなくなる。どういう仕組みだろうか、とシャルはピアノへ目をやるが、初めて弾いたときを思い出して比べても、特段変わったところはない。シャルがパティへ視線を戻すと、パティもシャルを見返していて、そして何でもないように言った。
    《お兄ちゃんにはね、パティの声が聞こえないみたいだったの。せっかくガラス窓も通り抜けられるようになったのにね》
    「そう……」
     どういうことだろうか、とシャルが頭に疑問符を浮かべていると、パティはきょろきょろと周囲を見回して誰かを呼んだ。
    《ねえねえ、シトラスくんもおいでよ!》
    《えっ、でも……》
    《パティ、シトラスくんのお歌も聴きたいな~》
    《う~ん……》
     やがて、パティの視線の先、ピアノの陰から、もう一つ半透明の人影が出てくる。シャルはピアノを弾きながらそちらを見た。
     外見は、一般的なアンドロイドのようだった。目元に変わった形のほくろがあって、明るい色の髪がふわふわしている。シャルは訊ねた。
    「貴方たちは……人間? それとも、電子データ……?」
    《……分かんない! でも、パティはパティだよ》
     本人でも分からないことがあるのか、と目を瞬くシャルをよそに、パティはピアノの上空で笑って胸を張った。
    《たくさん機械に繋がれて、からだを機械と交換して、それでも、やっぱりパティはパティだよ。お兄さんは?》
    「俺は……」
     屈託なく胸を張るパティを眩しく思いながら、シャルは少し言い淀んだ。そうして少し迷ってから、シャルはぽつりと答える。
    「……俺は、ケヴィン、という人のクローンだよ」
    《くろーん?》
     目を丸くするパティに、シャルはクローンのことを簡単に説明する。ケヴィンの遺伝子をコピーして造り出された人工生命――リクもバリィも、はっきりとは口にしないし尋ねても来ないけれど、シャルは自分のことをちゃんと知っていた。
     話を聞いたパティは、こてんと首を傾げて言う。
    《ってことは、お兄さんの名前もケヴィン?》
    「……いや……俺は、シャル、というらしい」
    《じゃあ、シャルお兄さんだね! お兄さんがケヴィンさんと違うところ、まずひとつはお名前》
     ぽむっと胸の前で両手を合わせたパティがにこにこ笑う。シャルがぽかんとパティを見上げると、ピアノの音が途切れてその姿が薄れた。


     半透明の不思議な子どもたちは、シャルがピアノを弾いている間にだけ、シャルに見えるようだった。ただ、姿が見えていなくても、彼らは気ままにシャルについて回っているらしい。
    《さっき植えてた苗、しっかり大きくなるといいねぇ!》
    《リクという人、見た目に似合わず古い歌を口ずさんでいましたね。懐メロ好きなのかな……》
    「リクは、見た目より年上だよ。彼は人間だけれど、機械パーツも多いから。見た目は、随分前から変わっていないらしい」
     ピアノを弾きながらシトラスに答えたシャルは、シトラスを見上げて微笑んだ。
    「リクの歌が、古いものだと分かるんだね。以前、聞いたことがあるのかな?」
    《…………》
     軽く目を見開いたシトラスがしばらく停止する。シトラスは歌唱型アンドロイドだそうだが、機体を失い、こうして意識データだけがパティと一緒に浮遊している状態だ。そして、機体・記憶媒体を失ったためなのか、元の持ち主や機体が壊れる前のことなどが判然としない。行き先も帰り道も分からない記憶喪失の迷子、それがシトラスだった。
     ただ、ところどころシトラスの記憶が蘇ることもある。それを期待したシャルの問いかけを処理しようとフリーズしていたシトラスは、やがて処理が終わったのか改めてシャルを見返した。
    《……はい。聞いたことがあります。マスターが勉強熱心で……色々な年代のヒットソングを、僕も一緒に聴きました》
     シトラスは泣き笑いのようなくしゃくしゃの顔で笑って、リクと同じ歌を口ずさむ。シャルもリクの歌を聞いていたので、思い出しながら伴奏をした。シトラスのハスキーボイスがシャルの鼓膜を震わせ、けれども同じ部屋で本を読んでいるドーンにはシトラスの歌声が聴こえないことを、シャルは口惜しく思う。
     リクが歌っていなかったところも含め、一曲フルで歌い切ったのは、さすが歌唱型アンドロイドというところか。歌い終わったシトラスは照れた様子ではにかむと、もっと思い出したいのでリクさんのところへ行ってみますねと宙を漂っていった。
     パティの姿を見て声を聞くのがシャルだけになると、パティはいつもより硬い表情でシャルに尋ねる。
    《……リクくん……リクさん、は、そんなに年上なの? 機械パーツが多いから、お兄さんの姿のままなの?》
     幼い子どもの姿をしたパティは、シャルの返事を待たずに顔を覆った。
    《パティも、ずっと今のままなのかな……。お兄ちゃんより、大きくなるって言ったのに……》
     シャルは、かつてパティが、からだを機械と交換してもパティはパティだと言っていたことを思い出した。あのときあんなに眩しく見えた存在は、見た目通りの子どもでもある。
     ただ、気がついたときからこの体躯だったシャルに、これから大きくなる・なりたいという子どもの気持ちへ寄り添うことは難しい。シャルは、言葉を探り探り口にした。
    「……リクが体を機械にしたのは、もう随分前のことだそうだよ。今ならきっと、技術が発達して、パティくんもお兄ちゃんくらい大きくなれるんじゃないかな」
     それから、シャルには少し気になっていることがある。シトラスは機体を失ったアンドロイドの意識データだが、パティはどうやら元々人間のようだ。それなら、肉体はどこへ忘れてきてしまったのだろうか。からだを機械と交換するのは生き延びるためで、生き延びる可能性があるから医師や技師、パティの家族がその方法を選んだのだと思うから、どこかでパティの身体も生きている、とシャルは信じたいのだが、それなら今ここにいるパティは、とじわじわ不安になってくる。
     シャルはその不安を隠し、さりげなく提案した。
    「だから……お兄ちゃんのところへ、帰るのはどう?」
    《…………》
     パティは顔を上げて、しかしシャルのほうではなく、教習ルームの窓から空を見て呟いた。
    《帰っても、お兄ちゃんにはパティの声が聞こえないもん……》
     寂しそうなパティの声は、彼がシャルのまわりに留まっている理由を如実に表していた。


     シャルがピアノを弾き終わると、ドーンもまた本を閉じて一緒に教習ルームの片付けをする。ささっと床に箒をかけて掃除をこなすシャルの姿を見て、ドーンは言った。
    「シャルは、最近なんだかしっかりしたよね」
     ぱちりと瞬きをしたシャルは、一度自分の体を見下ろしてからドーンを見返す。
    「そうかな?」
     ドーンは頷いて続けた。
    「ピアノを弾きながら、独り言を言う癖は増えたけど……そうやって、自分でピアノを切り上げて掃除ができるし、料理や、釣り、畑仕事も、もう自分でできるよね」
    「ああ……確かに、それはそうだね」
     シャルもまた、ドーンの言葉に頷いた。シャルから見えていないだけで、パティとシトラスは思ったよりしょっちゅうシャルのそばにいる。なので、何かシャルが危なっかしいことをやると、後でピアノを弾いているときに二人が叱ったり注意したりしてくれるのだ。それが復習になって、シャルにもちゃんと生活能力が身についてきた。
     褒めてくれるのだろうか、と内心で浮足立っていたシャルは、ドーンの次の言葉にまた瞬きをした。
    「だから、その……僕はこれから、バリィさんの補佐をしようと思うんだ。シャルは、一人でも大丈夫……?」
     シャル以上に不安げなドーンの双眸が、小さな体躯の低い目線からシャルを見上げている。シャルはゆっくり、穏やかに笑って、ドーンの黒い髪を撫でた。
    「……一人じゃないから、大丈夫だよ、ドーン」


    「……ええと、では、パティさん、シトラスさん。シャルをよろしくお願いします」
     シャルからパティとシトラスのことを聞いたドーンは、シャルの斜め後ろあたりに向かって一礼した。そこにいるかどうかは分からないが、シャルの近くにいるなら、言葉は聞こえているだろう。
     シャルがピアノを弾いているところはしょっちゅう見ているが、その間にドーンがパティやシトラスらしき人影を見たことはない。シャルにしか見えないものなのだろう、とドーンは早々に納得して、当てずっぽうなりに挨拶をした。
     それから、二人で教習ルームの掃除を終えると、ドーンは談話室へ行くシャルと別れてバリィの私室へ向かった。ノックに返事があってからドーンが部屋に入ると、バリィがテーブルの書面から顔を上げてドーンに椅子をすすめた。
    「ヤギ舎の図面を見ていたんだ。きみも見ておくといい」
     それから、バリィはドーンの隣に立って、図面の見方をあれこれと説明した。いつか、バリィが電源を切った後に新たな畜舎や設備を建てる時が来たら、ドーンが図面のやり取りに関わることもあるだろう。早く覚えたい、と、ドーンは紙とペンを借りて懸命にメモを取った。
     ヤギ舎建設については、エンドーの伝手で工務店を探し、島まで来て作業をしてもらうことになった。来年の春までには完成して、親子のヤギを入れる計画になっている。畜産を希望していたエル型たちは今から浮足立っていた。
     図面の解説が一通り終わって、ドーンがふうっと一息つくと、バリィが笑って椅子に戻った。
    「ゆっくりで大丈夫だ。私が急かしたようですまない。……そろそろ、とは言っても、すぐに私がいなくなるわけではないよ」
     ドーンがバリィの補佐につくこととなったのは、実はバリィからの打診だ。そろそろ電源を切りたいから諸々の引継ぎをしたい、と、密かに相談された。
     ドーンもまた、自分が誰のクローンなのか、自分自身で分かっている。だからバリィの打診にも驚きはなかった。それに、ドーンからも、バリィに訊きたいことがあったのだった。
    「シャルと、その……ケヴィンさんは、似ていますか?」
    「? ……まあ、似ているところは、いくつかあるな。どうした? 急に」
     ドーンが尋ねると、バリィは答えながらも首を傾げた。ドーンは、借りたペンを持つ手にきゅっと力を入れながら言葉を選ぶ。
    「僕と話しているときと、そうじゃないときとで、なんだか雰囲気が違って……だから、ケヴィンさんの真似をしているときと、そうじゃないときがあるのかなって……」
    「……」
    「僕がそばにいないほうが、シャルがシャルでいられるのかもしれなくて……」
     ふむ、とバリィは少し考え込んだ。バリィ自身は、取り立ててシャルに詳しいわけではない。ケヴィン――親友のクローンだから、と贔屓をしてしまわないよう、極端な深入りを避けていたのだが、今はそれが裏目に出てしまっていた。ドーンの言う、雰囲気が違う、という状況を、バリィはよく知らない。
     けれども、バリィもまた、慎重に言葉を選ぶ。
    「……難しいが、それは、シャル自身にしか分からないことだ。雰囲気が違うとして、どちらが『本当の』シャルか、ということを、我々が勝手に決めることはできない。どちらも本当なのかもしれないし、あるいは、シャル自身、『本当』を探している最中なのかもしれない。
    ……そして、少し距離を置いてみる、というのは、環境に変化をもたらすという点で、けして悪い選択ではないはずだ。お互いに、自分自身のことを見つめ直す良い機会となるだろう」
     シャルの雰囲気が違う、というのは、誰より一緒にいるドーンが言うなら事実なのだろう、とバリィは受け止めた。だが、その表面的な事実から、勝手にシャルの内面を想像して決めつけることにはやんわり釘を刺しておく。そして、バリィのところへ来ることでシャルから逃げた、とも思わせないように、距離を置くことの利点も挙げた。
     はっとした様子のドーンに、バリィは真新しい一冊のノートを渡す。
    「使うといい。そのペンも譲ろう。これから、よろしく頼むぞ」


     エル型たちの班分けや日ごとの作業分担指示、ダイナーに卸す品物の選別や管理、島の収支管理など、ドーンがこれから覚えることはたくさんだ。そのぶん、シャルと別行動になることがいくらか多くなった。そして、それはちょうど、孤島の開墾が始まって一年になる頃のことだった。
     その日、本土から孤島へ大きな箱が届いた。開けてみると中身はクローンたち人数分のタブレット機器で、電子書籍やムービー・ミュージックなどのメディアプレーヤーだった。リクの言うことには、リクとバリィ、それにエンドーとダイナーから、農業一周年とクローンたち一歳の祝いだということだった。
     食堂へ集められたクローンたちが口々に礼を言うと、スクリーンの向こうでハッピーが笑った。
    『本や音楽、映画が好きな方もいるのではないかと思いまして! それがあれば、島の中でも様々なメディアが楽しめますよ。ゲームもできる?みたいです。リクさんやバリィさんの言うことをよく聞いて、お行儀良く使ってくださいね。
     それから、皆さんが育てた作物で作った料理は、ダイナーのお客様にも好評です。これからもよろしくお願いします!』
     それを聞いた食堂がわっと沸き、翌日からの農作業にも張り合いが出た。そして、自由時間や雨の日には、電子データで本を読む者、映画や音楽を楽しむ者が増える。シャルはというと、様々な動画サイトや投稿サイトに繋いだメディアプレーヤーでランダムに音楽をかけては、それをピアノで弾いてみるという遊びをしていた。パティとシトラスも、一緒に聴いたり歌ったりと上機嫌だ。
     そんなある日、シトラスがはっとして言った。
    《……これ、マスターくんの曲だ》
    《マスターくんって?》
    《……あれ?》
     パティが聞き返した途端、シトラスがぽかんと瞬きをする。パティも一緒になって大きな目をぱちぱちさせて、シャルは半透明の彼らの傍らでその曲をもう一度再生した。アマチュアミュージックのランダム再生で出会ったそのインスト曲には、作成者欄に『Thew.』とクレジットがある。
     その表示を見てシャルは尋ねた。
    「シトラスくんは歌唱型アンドロイドだし、そのマスターなら、自分で作曲するってこともありそうだね。この、『Thew.』という人が、そうなのかな?」
    《……ええと、名前まで、は……?》
     シャルが尋ねると、シトラスは困惑した様子でタブレットとシャルを見比べた。突然、それも断片的に甦ったデータに、シトラス自身も戸惑っているらしい。シャルはぽちっと作成者欄の名前をタップして、『Thew.』の作品を再生するようにした。アップロードが古いものから順番に再生していると、ある時期から楽曲に音声が乗るようになる。
    《シトラスくんの声だ!》
     きゃっきゃっとパティが笑って空中でくるくる転がり、シトラスはタブレットから自分の歌声がするのを茫然と眺めた。シャルは、運命的だなあと微笑みながら、タブレットが再生する旋律を簡単にピアノで追う。
     ただ、ここからどうやってシトラスが帰ればいいのかは、今は誰にも分からなかった。マスターの存在が分かったところで、シトラスの機体が湧いて出るわけではないし、そのマスターの居住地までは分からない。楽曲作成者のプロフィールに載っているのは、本名とは限らないアーティスト名と、作風や作業環境などの情報くらいだ。
     Thew.の楽曲アップロードは数年前で止まっており、やがて、最後の曲が流れてメディアプレーヤーの再生が終わる。次に再生する曲やアーティストの候補がわらわらと画面にあふれるのを見ながら、シトラスは首を傾げた。
    《もう一曲、あると思うんですけど……》
     シトラスは、Thew.の作品リストの末尾をじっと見つめた。それから、最後の作品のアップロード日を見て目を細める。
    《……そうか、僕が暴走しちゃったから……》
     そっと呟いたシトラスは、プロフィール画面のThew.のアイコンへ半透明の指を伸ばした。本物のマスターには触れられない代わりに、と思ったその指は、液晶画面へにゅるりと吸い込まれて不透明の平面画像になる。
     パティが目をまんまるにして声を上げた。
    《ええーーっ⁉》
     当のシトラスが声を失ってフリーズする傍ら、パティが興味津々でタブレットの画面をつつく。しかし、シトラスと違ってパティの指は、画像にもならず液晶画面ごとタブレットを突き抜けるだけだった。
    《なんでぇ⁉》
    「……シトラスくんが、アンドロイドだから? アンドロイドだからというより、データだから、のほうかな……シトラスくん、大丈夫?」
    《ええと……びっくりしたけど、はい、大丈夫です……》
     シャルに声をかけられ、ようやく画面から指を引っ込めたシトラスは、その指と画面とをおっかなびっくり見比べてシャルに返事をした。それから、きゅっとまなじりを決して、今度は腕ごとタブレットの画面に突っ込む。
     するとシトラスの半透明の体がずるずる画面へ吸い込まれ、パティとシャルとが息を呑んだ。やがてシトラスの体全部がタブレットに吸い込まれると、腰の上から頭の先まで十センチ程度になった不透明のシトラスが、画面の中から手を振っていた。


     クローンたちの生活スペースは孤島のラボに元からあったものだが、今ほど多くのクローンが一度に活動することは想定されていなかったため、寝室は基本的に二人部屋となっている。ドーンはシャルと同室だった。
     バリィと話していて遅くなったドーンが寝室のドアを開けると、二段ベッドの下側で楽譜をめくっていたシャルが顔を上げる。
    「おかえり、ドーン」
    「シャル……まだ起きてたの?」
    「ドーンとゆっくり話す時間が、今日はまだなかったからね」
     エルツにウィンクを教えてもらったシャルがぱちぱち連発すると、ドーンが吹き出して笑う。ドーンがいつものようにシャルの隣へ座ってから、シャルはタブレットを取り出して画面をつけた。
     すると、画面にシトラスが映って、ドーンに向けて手を振る。
    『初めまして、ドーンくん。といっても、僕のことはシャルさんから聞いているだろうし、僕も、シャルさんと一緒にドーンくんのことを見ていたから……あんまり初めてって感じじゃない、かな?』
     画面の中で、はにかんだようにシトラスが笑う。ドーンはその画面とシャルとを見比べて目を丸くした。
    「どうしたの? これ」
    「俺にも、詳しくは分からないんだけど……。元々アンドロイドだったシトラスくんは、こんなふうに機械の中に入れるみたいなんだよね」
    「シャルが、こういうプログラミングや設定をしたんじゃなく?」
    「そうだよ。俺は何もしていないけど、シトラスくんは画面に吸い込まれてこうなったんだ」
     ドーンはタブレットの画面に目を戻し、それからタブレットを持つシャルの手ごと機体の裏面や側面を確認して、はあー、と興味深そうに息をついた。それから、はっとした様子で背すじを伸ばし、画面に向けて一礼する。
    「ドーンです。いつもシャルがお世話になってます!」
    『あは、こちらこそ、いつもシャルさんにお世話になってますー』
     画面の中でシトラスも一礼して、それから、ふっと神妙な顔になるともう一度頭を下げた。
    『……今まで、お世話になりました。僕はもう、元いた場所へ帰ろうと思います。もし、うまく帰れたら、マスターくんと一緒に新しい歌を歌うから……聴いてくれたら嬉しいです。頑張るね』
     にこ、とシトラスが笑う。ドーンはきょとんと目を瞬いた。元いた場所・帰るべき場所がある存在だったのか、という驚きと、その『帰る』という行動に少々の難易度があるらしいことを察してのことだ。
    「それは……ええと」
     ドーンは思わずシャルの顔を見上げた。シトラスはシャルの友達だ。シャルが心配そうにしているなら引き留めようか、とドーンは心の片隅で考えていた。
     しかし、ドーンが見上げた先のシャルは、むしろうっすら自信ありげに微笑んでいる。視線に気づいたシャルが首を傾ける前に、ドーンは急いでシトラスのいる画面へ向き直った。
    「あの、じゃあ、頑張ってください! こうして僕にも会いに来てくれて、嬉しかったです。新しい歌が聴けるのを、シャルと二人で楽しみにしています」
    『……へへ。うん、ありがとう。それじゃあ……さよなら』
     さようなら、とドーンはシトラスの言葉を繰り返す。その隣のシャルは、またね、と画面へ軽く手を振った。画面の中では、シトラスが笑顔で身を翻し、そしてメディアプレーヤーのアプリアイコンへ飛び込んでいく。
     シトラスの姿はアイコンへ近づくほど小さくなり、やがてシトラスの全長がアイコンの半分くらいの大きさになる。アイコンのふちへ立ったシトラスは、最後に振り向いてドーンたちへ手を振ってから、えいやっとアイコンに飛び込んで見えなくなった。
     ドーンは固唾を呑んで、何の変哲もない画面になったタブレットを見つめる。そのドーンに、隣からシャルが声をかけた。
    「……シトラスくんとマスターくんの作り上げた楽曲が、アプリに投稿されていてね。その投稿IDを辿って、マスターくんの作曲機材(マシン)を探して潜り込むんだって。……ケヴィンさんは、こんなこと想定していたのかな? シトラスくんは、どんなソフトウェア設計になってるんだろう……」
     タブレットをドーンに預け、ぼふっとベッドに倒れ込んだシャルは、仰向けで大きく息を吸って目を閉じた。
    「いつか、シトラスくんの機体を作ってあげられたらいいなあ……」
    「…………」
     タブレットを持ってベッドに腰かけたまま、ドーンは黙ってシャルのほうを振り向いた。すると、シャルは慌てた様子で起き上がる。
    「ドーンは、闇金とか裏金とかしなくていいんだからね?」
    「あはは、やらないよ、バリィさんがとっくに懲りてる」
     シャルの懸念を笑い飛ばしたドーンは、タブレットをシャルに返しながら続けた。
    「それに、今はもうアンドロイドが随分普及してるから、開発や製造にかかるコストも黎明期ほどじゃないと思うよ。最新設備ってなるとまた話が別だけど……。アンドロイド開発の勉強がしたいなら、リクさんやバリィさんに相談してみる? リクさんの機械パーツ部分の整備とか、そういうスキルが必要になるシーンもこれから出てくるだろうし、真剣に考えてくれるんじゃないかな」
    「……」
     今度はシャルが口を噤んだ。それから、ふっと目元を緩ませて笑う。
    「……そうだね。ドーンが応援してくれるなら、俺も頑張っちゃおうかな?」
     作りたいのはきっとシトラスくんだけじゃないね、と、シャルは誰かを探すように部屋の中を見回した。


     それから、パティは一人になった。元々、どこかの空でシトラスと出会う前だって同じように一人でいたはずなのに、『元に戻った』ではなく『失った』と思ってしまう。シャルは変わらずピアノを弾いてくれるが、ピアノの音が途切れれば、やっぱりパティは一人きりだ。
     シトラスが旅立って一ヶ月、パティは一人の時間を持て余していた。
    《シャルくんが、ずっとピアノを弾いてくれたらいいのに》
    「うーん……嬉しい言葉だけど、俺には、農園の世話や料理に掃除の当番もあるからね。引く手数多で困っちゃうな」
     エルツに教わったウィンクというものを気に入ったシャルは、事あるごとにしょっちゅう片目を瞑ってみせるようになった。今も、ごめんね、と眉を下げながらウィンクをしていて、パティはついつい頬を膨らませてしまう。
    《シャルくん、最近そればっかり! 前は、もっとぼんやりしてて、本当に一日中ピアノを弾いてくれそうだったのに》
    「そう? ってことは、俺も成長したんだね」
    《むー!》
     パティはピアノの上で膝を抱え、空中でぐるんぐるん回転した。シトラスは旅立ち、シャルはこの通り自我がはっきり成長している。時の潮流に、パティだけが取り残されているようだった。
    《…………》
     パティの拗ねた様子を見かねてか、シャルがピアノを弾きながら声をかける。
    「いつか、パティくんだって帰れるよ」
    《……そんなの、分かんないよ……》
     パティは小さく呟くと、ピアノの十数センチ上で横になり、シャルに背を向けて丸くなった。
    《……だって、パティは、シトラスくんみたいには帰れないもん……自分の体がずっと目の前にあっても、元に戻れなかったんだもん。だから、見るのが嫌になって、いろんなところをふわふわして、ここまで来たの》
     シャルは黙っているけれど、代わりにピアノがパティの背を撫でるように奏でられる。パティはもっと丸くなって体を小さくして言った。
    《お兄ちゃんにもお父さんにもお母さんにも会いたいけど、もう帰り道も分かんないよ……》
    「…………」
     ピアノの旋律が単調な繰り返しになって、シャルが何事か考え込んでいるのが分かる。パティがそのままじっと目を閉じていると、やがてシャルが口を開いた。
    「……もし、どこの病院にいたのか分かるんだったら、俺と一緒にその病院まで行ってみる? 病院だったら、多少道が分からなくても、バスか何かに乗ってれば着きそうだし……」
     閉じていた瞼をぱちっと開いて、パティは思わず起き上がってシャルを振り向いた。シャルは、天井を見ながら頭をひねる。
    「……とはいえ、今すぐに、とは行かないな。お小遣いを貯めなきゃいけないかも……病院まで行くのって、どのくらいかかるんだろう?」
     そもそも公共交通機関ではこの島に辿り着けない。ヘリなり船なりの自家用機が必要になる。孤島暮らしを決めたときにリクとバリィがクルーザーを一隻買って、本土との物資のやり取りに使っているが、頼めばシャルも乗せてくれるだろうか? それから、本土の港からパティの病院までの距離と料金はいかほどだろう?
     また、孤島の中では使う機会のない金銭も、シャルは手元に持っていない。リクとバリィと、それからドーンにも相談して、何か小遣いになる仕事を貰おうか?
     シャルはそうした課題や提案を口に出しながら整理して、それからパティへ笑いかけた。
    「パティくんがそれで安心できるなら、安いものだよ。俺の冒険にもなるし、ね」
     シャルがまたウィンクをして、ピアノの音が陽気に跳ねる。ころころ跳ねる音は、パティを元気づけようと尻尾を振る子犬のようだ。パティは、目元が熱くなるのを我慢しながらどうにか笑顔を作った。
    《……でも、ピアノは持ち歩けないでしょ? シャルくんにさよならを言うなら、パティがここで言わないとだよ……》
     パティはそう言って教習ルームを見回した。先々月に農園が一周年で、ということはパティも一年近くこの島で過ごしたことになる。一学年を過ごすのと同じくらいだ。本来ならパティもそろそろ、エレメンタリーを卒業する頃だったろうか。意識体で浮遊するようになってから、始業式も終業式も、誕生日の祝いもなかったから曖昧だ。
     窓の外へと視線を移せば、色の薄い冬の空が広がっている。今のパティは暑さも寒さも感じないけれど、シャルたちが外で農作業をするときの格好は厚着になった。
     そして、これから冬が深まり、いつか春が来る少し前には、パティの誕生日がやってくる。家族はどうしているだろう、と、パティは遠くの空を見た。
    《シャルくん》
     穏やかな旋律と一緒に、うん、とシャルの声がする。パティは続けた。
    《パティ、本当に帰れるのかなあ……》
    「大丈夫さ。どこにだって自由自在だよ」
     微笑んだシャルの指先が鍵盤の上で踊って、軽やかな行進曲(マーチ)を奏で始める。パティは背中を押されるように窓ガラスをすり抜けて、そうして窓の外で浮かんでいるパティの後ろ姿を、シャルはじっと見つめていた。


     収穫を終えて休んでいる畑、春に向けて種を撒いた畑、冬を越すため作物に合わせて対策をした畑。それから、春に迎える予定のヤギのために、牧草の準備をしている区画。棟の上のほうにある教習ルームの窓からはそれらを一望できる。そして今、その窓から見えるのは、雪で一面真っ白になった大地だった。
     シャルとドーンも窓にくっついて下を見下ろし、足跡もない一面の白に感嘆する。
    「たくさん降ったねぇ」
    「うん! シャルも遊びに行く?」
    「寒いからなあ……でも、そうだね、せっかくだし、みんなと遊ぼうかな」
     畑では当然遊べないが、運動場のほうにも同じくらい積もっている。しっかり厚着をしたクローンたち――培養槽を出て一年と数ヶ月――が賑やかにはしゃいで外へ出て行くのを、見た目よりも長く生きているリクとバリィが、湯気の立つマグカップ片手に笑って見送った。
     ラボの外に出ると、運動場も鶏舎も、完成したばかりのヤギ舎も雪をかぶっている。さっそく雪合戦に興じる者、雪だるまを作って並べる者、同じ顔のクローンたちでも行動は様々だ。
     シャルとドーンは、まだ誰も踏んでいない運動場の端っこの雪に足跡をつけて感触を楽しみながら、雪についた鳥やリスの足跡を探して歩く。孤島の森林はいくらか伐採してしまったが、森の生き物たちは今も元気にしているらしい。
    「リスの足跡、あっちの木に続いてる。あそこに登ったのかな?」
    「ああ、本当だ。今も俺たちのことを見ているか」
     も、というシャルの語尾が、濁音つきで潰れて止まる。シャルは静かに首を振って肩の雪を払った。
    「……おっと、流れ弾……」
     背後で白熱する雪合戦を見て、ふふ、とシャルが低く笑った横から、雪玉が鋭く投球される。シャルが視線を落とすと、雪玉を握り固めたドーンが、珍しくニヤリと笑ってもう一つ投げるところだった。
     投げた雪玉はエル型の一人に当たって、そのエル型もドーンを見ると口の端を吊り上げる。あれは、ドーンによく勝負を吹っかけるオリバーだ。火花が散る音まで聞こえた気がして、シャルはさりげなく雪玉を作ってドーンに渡した。ドーンはそれを投げた端からシャルの手を取って駆け出す。
    「止まってると狙われるからね! それに、走り回れば体温も上がるよ。行こう、シャル!」
    「なるほどね。……今日くらい、俺も本気を出そうかな?」
     エル型たちの雪合戦に交ざったシャルは、背が高くて的が大きい。一方で、腕が長いので飛距離が出る。ドーンは小柄でちょこまか動くので雪玉を当てにくいし、二人が加わった雪合戦はさらなる混戦を極めた。
     その様子を窓から見ていたリクが声を上げて笑う。
    「すっかり打ち解けてるなあ! どうなるかと思ってたけど、これで安心だぜ」
    「シャルも、知らない間に逞しくなっているな。どちらがどちらを守っているのか分からないくらいだ」
     リクの隣でバリィも微笑んだ。バリィに飲食の機能はないが、湯を入れたマグカップを手にして暖を取っている。バリィはしばらくそうして食堂の窓から運動場の雪合戦を見守り、それから身を翻した。
    「バリィさん?」
    「皆のホットココアを作っておこう。キッチンで鍋を見ているから、誰か帰ってきたら声をかけてくれ」
    「うす!」
     リクが笑って頷き、バリィが引っ込んだキッチンからは、やがて甘い匂いがしてくる。孤島の雪の日は、そうして平和に過ぎていった。


     体力の果てまで雪合戦に熱狂し、バリィのホットココアで生き返ったクローンたちは、冬が来る前に貯蔵しておいた野菜や魚を煮込んだ熱々の夕飯を済ませて一息ついた。雪が音を吸い込む冬の早い夜に、教習ルームのピアノでシャルが静かな旋律を奏でる。
     しばらくそうしていたシャルは、やがて室内を見回すと首を傾げた。
    「…………あれ?」
     いつもすぐにやってくるパティが姿を見せない。雪合戦のことや後から作った雪だるまのことなど、話したいことがたくさんあるのに。
     どうしたのだろうか、と考えるシャルの胸の底を、雪より冷たいものがひやりと撫でていく。まさか、何も言わずに帰ってしまったのだろうか。もしかして、道が分からずに孤島でも病院でもないところで泣いてはいないだろうか。鍵盤の上をゆったり踊るシャルの指が少しずつ緩慢になる。
     そして旋律が途切れかけたとき、窓の端に半透明の髪が覗いた。
    《シャルくん!》
    「!」
     驚いたシャルの指へ急に力が入り、その旋律がぐらりと揺れる。しかしすぐに持ち直して、ピアノの音色は静かな夜へ寄り添う穏やかなメロディになった。
     窓をすり抜けてピアノの上までやってきたパティは、頬を赤くしてはしゃいだ様子で言った。
    《雪、いっぱい降ったねえ! でも、パティの住んでるところはね、も~っといっぱい雪が降るんだよ。それで、パティより大きな雪だるまを作るの》
     シャルの前で両手を広げて大きさを示したパティは、ふわふわ天井近くまで浮き上がって、そして何度か宙返りをした。丸くなって空中をころころ転がって、それをシャルのピアノが追いかける。
     やがてパティはシャルの前まで戻ってきて、それから、ピアノの上で膝を抱えてシャルを見た。
    《今日、実は、けっこう遠くまで行ってたんだ。島の外、海の上まで。いっぱいお船が通っててね、どれかについていけば、きっと港に着けるよね》
    「……そうだね。港に着いたら、次はバス停が近くにあるかも」
     シャルはのんびりピアノを弾きながらパティの次の言葉を待った。港から、バスや列車の路線を辿って、パティは故郷の病院へ戻るつもりだろうか。
     それが順当なのか無謀なのか、島を出たことのないシャルではうまく想像できない。だが、少しでも早く出発して、少しでも早く自分の体へ戻れるなら、きっとそのほうが良いだろう。
     シャルが考え考え鍵盤を叩いているうちに、パティは自分の抱えた膝にぺたんと片方のほっぺをつけた。
    《パティね、頑張って、向こうの体でも声を出してみる。向こうで目が覚めたら、きっとまたシャルくんのピアノを聴きに来るね》
     その言葉に、シャルは思わず瞬きをしてパティを見上げた。パティはそれを見返してにっこり笑う。
    《一回友達になれたら、離れちゃっても心配ないんだよ。シトラスくんも、シャルくんも、もう友達だもんね。また何度でも会えるよ》
     パティの学校のお友達だってそうだもの、とパティは懐かしそうに微笑んで、それから、彼は空中で立ち上がった。
    《いつか、パティが元気になる頃、島にも遊びに来られたらいいな。ヤギさん、楽しみだもん。乳搾り体験、パティもできるかな?》
    「……できるように、しておくよ。約束する」
    《ほんと⁉ ありがとう!》
     うん、とシャルは頷いた。今はまだ、観光客を呼ぶほどの余裕や予定はないが、数人の友人知人を呼ぶくらいなら、リクに相談すれば許してくれるだろう。だから、これからのシャルの目標は、たくさんヤギと仲良くなって、お客さんでも乳搾りができるくらいにヤギとヤギ舎を整えることだ。
     シャルは訊ねた。
    「いつ出発するのかな?」
    《うん……あのね、明日の朝にする。朝いちばんの船を見つけて、ついていくんだ》
     そう答えてから、パティはちょっと口ごもった。シャルが瞬きすると、パティはもごもごと口を開く。
    《……だから、今日は一緒に寝ていい? 見えなくても……おんなじお部屋にいたいな》
    「もちろん構わないよ。光栄だな」
     シャルがすぐに答えると、パティの顔がぱっとほころぶ。パティは言った。
    《朝いちばんの船を探すから、たぶん、シャルくんが起きる頃には、パティはもういないと思うの。だから、今言っておくね》
     パティが続きを言う前に、シャルはすとんとその先を察して、その上でそっと微笑んだ。明日の早朝まではきっとそばにいるけれども、パティと顔を合わせるのは、これが最後になる。
     穏やかなピアノの旋律の中で、パティは笑った。
    《さようなら、シャルくん! パティが元気になったら、また会おうね!》
    「うん。俺も、その日を楽しみにしているよ。……それじゃあ……おやすみ。見えなくても、一緒に来てくれるだろう?」
     シャルの前でパティが頷いて、その姿が旋律の余韻とともに消えていく。シャルは簡単に教習ルームの片付けをすると、きっとついてきているのだろうパティに合わせて、棟の階段をゆっくり降りて自分たちの寝室へ向かった。
    「ねえ、ドーン、今日は三人で寝ないかい?」
    「さ……三人? 僕とシャルと、それと誰?」
     青い顔で周囲を見回したドーンだったが、パティのことだとシャルが補足すると、すぐに胸を撫で下ろして了承してくれた。
    「そっか、パティくんも帰るのか……。最後の夜だもの、一緒にいたいよね」
     二段ベッドの下側に二人で潜り込んで、間にパティが入れるように隙間を空ける。とはいっても、今は二人ともパティが見えていないし、パティはものをすり抜けてしまうので当てずっぽうだ。
    「パティくん、いるかな? ここに場所を空けたからね」
    「明日の朝まで、ゆっくりおやすみ」
     そして部屋の明かりが消されて、やがて二人の寝息が聞こえ始める。ここに朝日が差し込んだら、パティの旅立ちの時だ。
     冬の日の遅い夜明けでシャルが目を覚ました頃には、パティはもう遠い海の上にいただろうか。三人で眠った翌日の昼下がり、シャルがしばらくピアノを弾いていても、パティは姿を見せなかった。
    「…………」
     黙ってピアノを弾くシャルの傍ら、教習ルームの学習机でドーンがノートを広げている。ドーンは窓のほうを見た。
    「パティくん、ちゃんと帰れるかな……」
    「大丈夫さ。きっと」
     きっと、恐れずにずっと彼方まで、家族のもとへ辿り着くまで。パティならきっと大丈夫だと、シャルは軽やかにピアノを弾き続けた。


     その後、春にヤギの親子を迎えて一年が経ち、クローンたちもヤギの世話に慣れた頃。本土のエンドーと連絡を取った後で、バリィはリクに電源の切断を申し出た。
    「本土も、孤島も……もう、心配いらないだろう。そろそろケヴィンが待ちくたびれている頃だ」
    「そうですか……」
     しゅんとするリクの肩を叩いてバリィは笑う。
    「ふふ、そんな顔をするな。この体も、十分活かしてもらったよ。後のことは……ドーンに託す」
     バリィは白湯のマグをテーブルへ戻してそう言った。クローンたちが寝静まった静かな夜に、リクとバリィは談話室で野菜や畑の記録を見返して次の計画を立てていた。春の夜はまだ肌寒く、あたたかなマグカップが指先にもありがたい。
     孤島の開拓は十分進み、成長していく仔ヤギのために牧草地も広げたし、リクのかねてからの希望だった花畑も、昨年から少しずつ花を植えて広がってきている。ドーンはバリィの補佐になって一年半ほどだが、イーサンが設計したクローンだけあって覚えが早く優秀だ。これでもう、バリィの代わりにリクを支えられるだろう。
     バリィは談話室のソファに深く座り直し、ゆったり体を預けるとしみじみ口にした。
    「私たちは、揃って幸せ者だな。ADAMもドーンも、友人に恵まれている」
    「……アンタが、そう言ってくれるなら、俺たちも頑張った甲斐があるってもんですよ」
     くすぐったげにリクは笑って、それから、自分もソファへもたれて天井を見上げた。


     バリィの葬儀は島の者だけで行うつもりだったが、葬儀の前日、バリィが電源を切る前にと、レッカとカイがはるばる島へやってきた。クルーザーの船室からいくつも花束を抱えて出てきたカイが、一旦食堂のテーブルにそれらを並べながら言う。
    「エンドーさんから、弔花と弔電……本人は、直接来られなくて済まない、と」
    「長官なんだ、忙しくて当たり前さ。気にかけてくれてるだけで嬉しいぜ」
     リクはそう言って花束の一つを手に取った。どうもエンドーが中心になって花束などを取りまとめ、カイとレッカに託して届けてくれたらしい。
     エンドーからの弔花は、カイとレッカ、それにソルとアレックス、キースまで連名になっている。キースがK.G.Dに加入したとはまだ聞かないが、極北支部で修復や改良をされているうちはK.G.D預かりだったわけだし、他にキースの身寄りがあるとも聞かない。エンドーが気を利かせて追加したのだろう。
     また、海外を飛び回っているエルからも、ロイとノリスと連名で花が届いている。ブラッドがいる北の自警団からの花もあった。
     まだ電源を切っていない、今夜電源を切ってもらう予定のバリィは、それらの花を一旦バケツに活けながら茫然と呟いた。
    「なんだか大ごとになってきたな……」
    「それだけ人の縁に恵まれたんですよ! まあ、どこにどう飾るかは悩みますけどね」
     笑い飛ばしたリクが真面目な顔で考え込むふりをすると、花を一度で運びきれなかったカイが再び花束を抱えて食堂へ戻ってくる。これが最後の分だと言って、カイは両腕の花束をバリィへ渡した。
    「こっちはタオズ・ダイナーと……P.G.Dからも、花が。生前のアンタに世話になったって」
    「P.G.D? 私の葬儀は二回目だろうに、律儀な……」
     バリィはその花束もバケツの水に差し、それから思わずじっくり眺めた。P.G.Dの誰からだろうか、と呟くと、レッカが目録を持っているはずだとカイが言う。
    「花以外は全部コイツに持たせた」
    「知らね、オッサンがどっかに入れてんじゃねえの」
    「まったく、レッカは相変わらずだな……」
     かつて孤児だったレッカを育てていたリクは、苦笑しながらレッカの持ってきた箱を開けた。花をたくさん送ったから、と花瓶がいくつか入っているほかに、確かに目録が入っている。リクはP.G.Dの欄を探して読み上げた。
    「P.G.Dの花は……シーバートって人が代表になってますね」
    「……シーバート?」
     きょとんとして復唱したバリィは、リクの持つ名簿を横から覗き込んで目を細めた。
    「……そうか、エンドーjr.が、もう大きくなっているんだものな。シーバートjr.も、立派になる頃か……」
     かつて同僚だったシーバートの顔を思い浮かべてバリィが微笑む。その様子を見て、リクはほっと内心で胸を撫で下ろした。
     バリィが、電源を切るぎりぎりまで自身の葬儀の準備を手伝う、と言い出したときはどうしようかと思ったが、悪いことばかりでもないらしい。花と一緒にメッセージカードもいくつか届いているし、これで良かったんだな、とリクは肩の力を抜いた。
     それからふと時計を見ると、そろそろ夕方の時間帯に差し掛かっている。リクは笑って言った。
    「……よし! そんじゃ、そろそろ夕飯の準備を始めっか! カイ、レッカ、畑でエルツたちと一緒に野菜を採ってきてくれ。今日は特製カレーだぜ!」


     エルツたちが採ってきたアスパラと菜の花、それと春キャベツは、軽く茹でて温サラダにする。ドレッシングは島のオリジナルレシピで、クローンたちがあれこれと案や希望を出して作り上げたものだ。それから、カイとレッカが畑で掘ってきた新じゃがは、くし切りにして皮ごとフライにする。
     それらの副菜と、リク特製バターチキンカレーがその日の夕飯だった。飲食機能のないバリィがマグカップ片手に皆の食事を見守るのも最後になる。クローンたちは思い思いにバリィとの別れを済ませ、そして食堂を離れた。カイとレッカも、客室で往路の疲れを癒す。
     静かになった食堂に、リクとバリィ、それからドーンが残っていた。穏やかなピアノの音は、教習ルームのシャルだろうか。
     食堂の椅子の一つに座り、しばらくじっと耳を澄ませていたバリィが言った。
    「……懐かしいけれど、アレンジも加わっているな。ケヴィンのではなく、シャルの音楽だ」
     柔らかく微笑んだバリィは、緊張した面持ちのドーンを手招きした。いつかドーンに電源を切ってほしいと頼んでいた、その時が来たのだ。
     椅子に座ってドーンのほうへ向き直ったバリィと、彼の前に立ったドーンの目線が並ぶ。バリィはゆっくり手を伸ばしてドーンの髪を撫でた。数回、黙ってそれを繰り返したバリィは、やがてぽつりと口を開いた。
    「リクのことを頼む」
    「逆じゃないんすか⁉」
    「ふふ……」
     もうちょっと俺も頼ってくださいよ、とリクが苦笑交じりに肩をすくめ、バリィがいたずらっぽく笑みをこぼす。つられてドーンの肩の力が抜けると、バリィは改めてドーンの小さな手を取って言った。
    「きみに、たくさんの幸福がありますように。誰にも奪われない自由が、途切れない友情が、ずっとこの手にありますように」
     一度、ドーンの手を両手で包み込むように握ったバリィは、その手をドーンに返してから少し眉を下げた。
    「……自分が叶えられなかったことを、きみに託してしまってすまない。思えば、私は、初対面のときからそうだったな……」
    「……いいんです。僕も、同じ願いを持っていますから」
     今度はドーンがバリィの手を取った。
    「これからは僕が、島のみんなとシャルを守ります」
     力強く、はっきりと口にしたドーンの後ろの椅子で、リクもまた確かに頷く。バリィはその光景をしっかり目に焼きつけながら微笑んだ。
    「そうか……頼り甲斐のある男だ、な……」
     ドーンの手の中で、バリィの手がわずかずつぬるくなる。機体がスリープモードへ移行するに従って内部機構が低速になり、駆動に伴う熱エネルギーが減少しているのだ。
     そうしてバリィが椅子の上で眠りにつくと、ドーンは、その機体へ抱きつくようにしてバリィの首の後ろを探った。首と背中の境目、少し背中寄りの皮膚の下に、バリィの電源スイッチがある。
     ドーンがその小さなスイッチを押すと、皮膚の下に埋められた機構が、かち、と小さな音を立てた。


     夢を見るのは、ずいぶん久しぶりだ。バリィは、学生時代に何度も往復した、カエデ並木の通学路に立ち尽くしていた。
     飴色に紅葉したカエデの葉が、風もないのに次から次へとひらひら落ちていく。バリィだけが道の真ん中に立っていて、遊歩道なのに他には誰の姿も見えない。
     ――いや。
     道の先に、誰かが立っている。飴色より淡い黄金色の髪がさらりと揺れて、カエデを見上げていたその青年がバリィを振り向いた。
     ふっと微笑うその顔に、バリィは眉の力を抜いて呼びかける。
    「ケヴィン」
     実際には、ケヴィンがバリィと一緒にこの通学路を歩いたことは一度もない。その頃には二人は離れ離れで、バリィは一人でこの道を歩いていた。ただ、一緒に歩ければよかったなあと思ったことは、何度かある。
     バリィが足早に近づいていくと、ケヴィンは棒つきの丸い飴を片手に目を細めた。
    「やあ。久しぶりだね、バリィ」
    「ああ、遅くなってすまなかった。だが、おかげで話すことがたくさんある」
     バリィがケヴィンに追いつくと、ケヴィンは改めて一歩踏み出した。二人は、カエデの葉が散って積もっていく遊歩道を並んで歩く。
     夢の中だからか、カエデの遊歩道はいくら歩いても先へ先へと続いていく。その道すがら、バリィはケヴィンにたくさんの話をした。
     イーサンのこと、リクのこと、クローンたちのこと。アンドロイドたちの未来について。
    「だから……きっとこれからは、平和な世界が広がるはずだ。そのために、何人もの人間やアンドロイドが奔走したんだからな」
     そしてクローンたちも、とバリィは締めくくって、それから改めてケヴィンの横顔を見た。生前に再会したときは、長く離れていた友人の顔をよく見る暇もなかった。
     バリィは進行方向へ顔を戻してから言った。
    「今度は……一方的に守るのではなく、ちゃんとそばにいたいものだ。きみが喜ぶものを、私が作ってやれたらもっといい」
    「そうだね。近くにいたのに知らなかったなんて、もう懲り懲りさ」
     ケヴィンはくすくす笑って、ひらりとバリィの前へ出ると手を差し出した。
    「行こう、バリィ。新しい世界で、新しい音楽がきっとたくさん生まれるから」
     バリィと向き合ったケヴィンの背中の向こうに、見上げるほど大きな扉がある。さっきまではそんなものなかったはずだけれど、夢の中だからお構いなしだ。両開きの扉がひとりでに開いて、扉の向こうは、白く光ってうまく見えない。
     それでも、怖いという気持ちは湧かなかった。バリィはケヴィンに手を引かれながら扉の向こうへ飛び込む。
     今世での二人の命の終わりに、後悔や未練がなかったとは言えないけれども。それでも、どんな終わりだったとしても、幼いあの日に出逢ったのは偶然じゃないと、バリィはとっくに信じている。だからきっと、次の世界で生まれる自分たちも、たとえ夢が運命が違ったとしても、いつかの未来で魔法のように出会うだろう。
     開かれた扉に二人が飛び込んだ先で、青い鳥が二羽、白く光る高い空へ羽ばたいていった。


     そして一夜が明けた朝、リクたちはたくさんの花とバリィを納めた棺を島の奥へ埋葬した。電源を切ったバリィの機体は、もう二度と悪用されぬよう、厳重にロックをかけてある。これでバリィも、今度こそ静かに眠れるだろう。
     クローンたちと一緒に黙々と土を掘り、棺を埋めてきたリクとカイ、レッカは、喪服を着替えて楽にしてからリクの部屋へ集まった。壁際のソファでしばらくしんみりしていたリクとカイだったが、やがて、リクのデスクチェアに陣取っていたレッカが飽き飽きした様子で口を開く。
    「こんな島で、暢気にしてていいのかよ。『イーサン』が逮捕された今、次に利用されるとしたらあの二人だろ」
     レッカの言葉が誰を指しているのか察して、リクは顔を曇らせた。
     イーサンは自分の野望をけして諦めないだろうが、当のイーサンと、そのクローンであるエルは世間に顔が知れている。秘密裏に行動するには無理があるだろう。だが、シャルとドーンは別だ。彼らの姿はエル型ともイーサン型とも違うし、世間にも広くは知られていない。
     それなら、次にイーサンが道具として利用するのはシャルとドーンなのではないか、そのために他とは違う顔のクローンを造って置いてあったのではないか、と指摘するレッカに、リクは静かに言った。
    「……そうさせないために、俺がこの島にいるんだ。今のシャルとドーンを、そんなことに利用させるもんか。あの二人だけじゃない、クローンたちみんなが平和に生きるために、この島と畑がある」
     フーン、とレッカはつまらなげに返事をして、椅子の上で胡坐を掻くと自分の脚に肘をついた。それから、ジト目でリクを眺める。
    「大層な理想で結構だけどよ、これから人手は足りるのかよ」
    「手が足りる範囲で収めたいが……」
     やり始めるとあれもこれも気になるんだよな、と苦笑したリクの隣で、あ、とカイが瞬きをした。
    「……そうだ、リクさん。エンドー長官から打診の依頼があって……」
     カイが簡単に伝えたその内容に、リクは思わず目を丸くした。


     バリィの葬儀を終えた晩春からまた季節は巡り、リクの花畑も少しずつ広がっていった。丘の斜面に作られた花畑は、ラボ棟からもよく見える。季節ごとにあちこちへ少しずつ苗を増やして、今ではどの季節でも花が途切れなくなった。夏には見上げるほどのヒマワリが、秋には涼風にそよぐコスモスが、雪の合間にはフクジュソウが花弁を広げる。ロウバイの香りがする冬を越えて、休耕中の畑にレンゲソウが咲き始めると、リクの花畑にはさらに色とりどりの花があふれた。
     花々の合間、手入れのための通路として空けてあるスペースで大の字になったリクは、視界の端々で揺れる花びらと、その花々にくすぐられる蒼い空を見ながら深く息を吸い込む。春の陽気のせいか自然と口角が上がって、その頬を、ぷす、と誰かの指がつついた。
     その指の主を見上げたリクは、笑いながら起き上がる。
    「ADAM~~~?」
    「ふふ、ごめんね。感触が面白そうだったから」
     リクの頭元にしゃがみ込んでいたADAMはくすくす笑って、それから、リクの隣で彼と同じように脚を伸ばして座った。かつてはイーサンのラボがあっただけの孤島も、今では丘に花畑が広がり、平地には野菜畑が並んでいる。のどかな風景は平和そのものだ。
     少し遠くには、クローンたちの金色の髪と、ヤギたちのための牧草畑が風になびいているのも見える。しばらくそうして春風を浴びていたリクとADAMのうち、ADAMのほうが先に立ち上がった。
    「もうすぐお昼ご飯ですよ。エルツが、みんなを呼んできてって」
    「おっしゃ! それじゃ、牧草畑や畜舎のほうも回っていくか!」
     リクも元気よく立ち上がり、花に覆われた丘を二人で下っていく。野菜畑を抜けて放牧場へ近づくと、牧草畑の向こうから聞こえてくるクローンたちの声がいつもより険しいことに気がついた。
     リクは眉を寄せて足を速める。
    「――何だ?」
     今日の当番は、ヤギ舎リーダーのフレディと、話し上手交渉上手のライアン、それから力持ちのフランだ。フレディがいてヤギ舎で事件とは考えづらいが、何かあったのだろうか。
     リクとADAMが急いで放牧場へ向かうと、その柵の中では一頭の牡ヤギが荒々しく跳ね回っていた。三頭めのヤギとして少し前に孤島へ迎え入れ、クローンたちがジャックと名付けたその牡ヤギは、ヤギ舎へ入るのが嫌なのか放牧場をとにかく走って、追いかけるフレディを翻弄している。一方、ライアンはヤギ舎の近くで一掴みの牧草をちらつかせ、ジャックを誘導しようとしていた。
     そしてフランは、ライアンの牧草へちらと目をやったジャックの死角を狙ってじりじりと背後に近づいている。リクはジャックを刺激しないよう、柵から少し離れたところで眉を寄せた。
    「……なんとかしてやりたいが、俺が迂闊に入ったら、入れ替わりでジャックが逃げるか……?」
    「その可能性はありますね。……毛布か何かで視界を奪えば、おとなしくなるかも?」
    「よし、じゃあ倉庫から毛布を……」
     ADAMと相談して、リクはヤギ舎の反対側の出入口へ回るため身を翻した。舎内の倉庫にはヤギのケア用品が置いてあるから、そこに毛布があるはずだ。
     しかし、そのリクの足はすぐに止まった。
    「あっ!」
    「フラン!」
     クローンたちの声に、リクは思わず放牧場を振り向いてしまう。その柵の中では、身を翻したジャックがフランへ突進するところだった。
     ジャックは牡ヤギだ。当番制でケアしているとはいえ角がある。リクの口からも声が漏れた。
    「フラン‼」
     放牧場へ近づくのを我慢していたリクが柵へ駆け寄り、その柵の向こうでフランの豊かな金髪が日の光を弾いて光る。ぐっと腰を落として地面を踏み締めたフランへ、牡ヤギの突進が肉薄した。
     波打つ金髪が翻り、鈍い音とともにフランがジャックを正面から受け止める。ぶつかると危ないジャックの角は、土や牧草の切れっぱしで汚れた軍手がしっかり掴んでいた。リクは柵越しにほっと息をつき、フランは、勝ち誇った顔をしてジャックに言う。
    「そぉら観念しな! さ、フレディ、今のうちにリードをつけてくれるかい」
    「うん! よ~しよしジャック、おうちに帰るよ~」
     フレディになだめられたジャックは、それでもなんだかムスッとした様子で渋々ヤギ舎へ戻っていった。クローンたちがジャックをヤギ舎へ入れて鍵を閉める様子を眺めていたリクの隣へ、ひょいっとADAMが顔を出す。
    「毛布は、いらなかったみたいですね」
    「あっ、代わりに取りに行ってくれてたのか⁉ すまねえ!」
    「大丈夫、ジャックの寝床へ敷いてきました。疲れただろうし、ゆっくり休ませてあげないと」
     そう言って微笑んだADAMは、ちょうど放牧場の柵から出てきたクローンたちにも目をやった。イーサンが逮捕された後、リクたちの手によってこの島で目覚めたクローンのほとんどはエル型だが、イーサン型も一人だけ目を覚ましていた。それがフランだ。
     リクや他のクローンたちにとっては、フランはけしてイーサンとイコールではなく、島にゼロから農園を築いた仲間の一人だ。だが、農園や花畑がいくらか形になってから再起動したADAMにとっては、フランとイーサンを完全に切り離すことがまだ少し難しいらしい。時々、遠い目をしてフランを見ていることがある。
     ADAMの視線に気づいたのか、フレディとライアンと一緒に柵の戸を閉めてきたフランは、リクたちに向かってウィンクした。
    「リクさんたちも、来てくれてありがとね。おかげで肝が据わったよ」
    「いやいや、俺たちは何も……みんな、自分たちで対応できて偉いぞ」
     リクはそう言って労い、それからクローンたちの背中を順々に叩いて食堂へと促した。食堂では、エルツたち今日の炊事班が料理を盛り付けたランチプレートが配られている。ランチプレートを受け取ったリクは、食事をしないADAMと並んで窓際の一画へ座った。
     今日のメニューは、春キャベツのポトフとキャロットラペ、それからアスパラのベーコン巻きと焼きたてロールパンだ。最初はジャガイモばかりだった島のメニューも、畑に様々な野菜が増えて彩り豊かになっている。リクは感慨深い気持ちでフォークを取った。
     隣のADAMも、誰かと同じようにマグカップを持っている。飲みはしなくとも沸かしたお湯が入っていて、機械の手を温めていた。また、カップの中身は飲まないかわりに、アロマオイルを垂らして香りを楽しむ趣味にもなっている。
     そのADAMたちの向かいに、とん、とマグカップの載ったトレーが置かれる。ADAMが見上げると、ノリスがロイを連れて微笑んでいた。
    「こちら、構いませんか?」
    「もちろん。どこでもどうぞ」
     ADAMが微笑んで答えると、ノリスはトレーから花柄のマグカップを取って窓際へ座った。単色の青いマグカップを取ったロイはその隣、ADAMの向かいへ座る。
     バリィの葬儀の後、エンドーからリクへ打診されたのは、ロイとノリスが仮釈放されるときの身元引受人になってくれないか、ということだった。確かに、あれだけの騒動を起こしてしまったのでは、街中で暮らすのは一苦労に違いない。しかし、孤島の農園ならば人手はあればあるだけ良いのだし、と、リクは二つ返事で了承した。
     そのリクは、ロールパンをちぎりながら食堂の窓越しに花畑を見て言う。
    「いやあ……ノリスはすげえな。花畑の見栄えが一気に良くなった。俺は、育てやすそうな苗を手当たり次第に植えてたから」
     咲かせるので精一杯で、見栄えとかそれどころじゃなかったんだよな、とリクが肩をすくめて笑うと、ノリスもまた花畑を見てから微笑んだ。
    「はじめのうちは、それで十分ですよ。慣れてきてから、見栄えや管理を考えて植えたり、上級者向けの花に挑戦したりすればいいんです。ちょうどいい頃合いでしたね」
     ノリスは花が好きなようで、リクの作る花畑にも強く興味を示した。そのノリスの植え替え案のおかげで全体の見栄えも良くなったし、アンドロイドの演算機能の助けで、肥料の時期や量も正確に管理できるようになった。何より、花がたくさん咲くとノリスも嬉しそうだ。世の中が平和で、なおかつ花畑のそばでなければ見られなかった一面だと思うと、リクは彼らを引き受けることにして良かったなと思う。
     ADAMも窓の外の花畑を見て、それからロイへと視線を移した。
    「ロイは、ここでの生活には慣れましたか?」
    「……俺は……」
     ロイが少し目を泳がせて言葉を探す。まだ慣れていなさそうだな、とリクが考えていると、食べ終わったランチプレートやグラスを持ったグループの一つがリクたちのテーブルの横を抜けていった。思わずその後ろ姿を凝視しているロイを見て、リクはさりげなく口を開く。
    「フランは、雰囲気が柔らかく見えるよな。眼帯がないからかな?」
    「……そうなのか。俺にはよく分からん」
     リクはとっくのとうに慣れてしまっているが、クローン――オリジナルと同じ見た目の、しかしオリジナルとは別の人物――たちが多く暮らすこの島に新入りたちが慣れるには、もう少し時間がかかるかもしれない。そう考えながらリクがポトフを食べていると、ロイは難しい顔をして呟いた。
    「……エルの顔がたくさんいるのも、混乱する」
    「ふふ、大丈夫ですよ。僕も、ちょっと前に再起動したところだけど、だんだん見分けがつくようになったし……焦らないで、ゆっくり仲良くなっていけばいいんです」
     マグカップを持ったADAMが微笑み、ロイが顔をくしゃくしゃにしたまま小さく唸る。そこへ、タブレット端末を持ったエル型クローンの一人が飛び込んできた。
     ロイに後ろから飛びついたそのクローンは、そのロイに端末の画面を見せながらまくし立てる。
    「ねえロイ、新しい洗濯ユニットのカタログ、見た? ボクたち大家族だし畑でいっぱい汚れるし、これならたくさん洗えそうでいいと思わない? それとね、ロイの好きな掃除機も新作が出てたよ!」
    「お、おい、マックス……」
     ロイが慌てた様子でそのクローンとタブレットを見比べ、それからテーブルの面々を見る。ロイが何か言うより先に、マックスと呼ばれたクローンが言った。
    「リクさん、ロイを借りていい? エルツもキッチンの家電についていろんな意見を聞きたいって」
    「おう、いいぜ。家電の買い替え候補については頼んだぞー」
     リクが鷹揚に答えると、マックスは笑顔でぐいぐいロイを引っ張っていく。その行く先のテーブルに数人のエル型が集まり、家電カタログを開いているのを見て、リクは微笑ましい気持ちで目を細めた。
     農園も長続きしているので、農園になる前のクローンラボ時代から使われていたような家電は、そろそろ寿命が来るシーズンとなる。そのため、リーダーポジションのエルツ、家電や計算に強いマックスなどが主軸となって、どの家電から買い替えるか、買い替えるなら次の機種はどれにするか、ということを相談しているのだが、マックスはそこにロイも巻き込むつもりのようだ。この様子なら、ロイがクローンたちに慣れるのもすぐだろう。
     マックスに引っ張って行かれているロイを見送って、ADAMが小さく吹き出した。
    「……心配なさそうですね。ロイって掃除機が好きだったんだ、知らなかった」
    「ここに来てから、ですよ。それまでは、家電とは縁遠い生活でしたから。掃除機には、小型の自動掃除機を見て興味を持ったようです」
     ふふ、と穏やかに笑うノリスにも、また別のエル型から声がかかった。
    「ノリス、お話、終わった? 後で、ボクの寄せ植えも見に来て! 植木鉢、満開、なった!」
    「それは楽しみですね。……では、リク、ADAM、私はこれで失礼します。ピーター、私はマグカップを片付けてから向かいますので、少し待っていてください」
     そうしてノリスも席を立ち、やがてリクもランチプレートを空にした。それから、リクはランチプレートを片付けてデザートのヨーグルトを取ってくる。クローンたちの手作りヨーグルトに添えられたイチゴは、綺麗に整った円錐型で真っ赤に色づき、つやつやと輝いていた。
     広い畑で大きく育ったそのイチゴを味わって、リクは満面の笑みを浮かべる。
    「うん、甘くてうめえ! 今年のイチゴは上出来だ!」


     昼下がりのラボ棟に、ピアノの陽気なメロディが響く。シャルは教習ルームでピアノを弾きながら――いや、シャルのピアノを録音した音源に別の音楽素材も重ねられた楽曲データを聞きながら、食堂から持ってきたランチプレートを食べ進めていた。教習ルームの学習机を向かい合わせにくっつけたドーンも、それを一緒に聴いている。
     やがて二人が食事とデータ再生を終えると、ドーンはタブレット端末を操作して映像通信をONにした。その画面の向こうで、『Thew.』が顔を上げる。
    『どうでした? 俺たちの新曲。シトラスの調声はこれからなんですけど、まずはメロディを聴いてほしくてデータを送りました。シャルさんのピアノにウッド系の楽器を足してて……』
     楽曲データの説明をするThew.の隣には、新しい機体を得たアンドロイドのシトラスと、体の何ヶ所かにまだ包帯を巻いたパティがいる。シャルのピアノ音源に足されたウッドベルは、パティが演奏したものだそうだ。
     少し前にThew.が新曲を投稿し、それをきっかけにシャルたちは再びシトラスたちと連絡を取ることができた。話によると、シトラスとパティは、元々ほぼ同郷だったようだ。シャルと出会う前、不安定な意識体として漂流する中で偶然にも彼らが合流できたのは、その縁のおかげなのかもしれない。
     元の体に戻ったパティはというと、身体の機械パーツを定期的に取り換えることによって、着々と身長を伸ばしているそうだ。成長期が終わってパーツ交換手術の頻度が落ち着いたら、孤島まで旅行に来ることも可能だと言う。
     それまでは、こうして画面越しの会話になる。それなら画面越しでも楽しいことを、とThew.が合作を提案してくれて、シャルはピアノ音源を、ドーンはコーラス音源を提供することになったのだ。
     シャルは訊ねた。
    「そういえば……ピアノとウッドベル、の他に、パーカッションの音も入っていたよね。あれは誰かが演奏していたのかな? それとも、ソフトの打ち込み?」
    『あれはですね……ウィルさん、今こっち来れますか?』
    『おー、ちょっと待ってくれ!』
     Thew.が画面の外側のほうへ声をかけると、そこにいたらしい誰かが返事をして、にゅっと画面を覗き込んだ。くすんだ赤毛を首の後ろで一掴み括ったその男は、整備士らしいツナギを着てキャップを被っている。Thew.が手のひらで彼を示した。
    『パーカッション担当のウィルさんです。楽器にこだわらず、音が出るなら鍋もバケツも何でも使うストリートパーカッションってやつですね。ウィルさんは、俺たちの町で機械整備をしてるアンドロイドの方です』
     Thew.は彼をそう紹介して、紹介されたウィルが帽子を取ってぺこんと頭を下げる。シャルとドーンも画面越しに一礼した。顔を上げたウィルは笑顔で続ける。
    『パーカッション担当のウィルです、よろしくお願いします。音楽が好きなので、参加できて嬉しいです』
    「こちらこそ、よろしくお願いします。みんなの音楽、完成が楽しみです!」
     わくわくした顔のドーンが返事をして、シャルは静かに画面を見て目を細めた。音楽にはこんな楽しみ方があったのだな、というのは、Thew.たちが教えてくれたことだ。
     Thew.の隣で、パティを膝に乗せたシトラスが言った。
    『シャルさんが送ってくれた調声パッチも、良い感じです。前よりいろんな声が出るようになりました。ありがとうございます』
    「ふふ、うまく作動しているようで安心したよ。歌声を聴くのが楽しみだな」
     シャルはそう言ってウィンクして、Thew.が、それじゃあ、と通信を〆る。
    『次は、シトラスやドーンくんたちの声が足せたら、また連絡しますね。他に何かあったら、またいつでも連絡してください』
     皆で画面越しに手を振り合い、それから映像通信のウィンドウが消える。シャルとドーンは、食堂までランチプレートを片付けに行きながら、Thew.の作ったメロディを口ずさんだ。その道中、片手でプレートを持ち、もう片手で鍵盤を叩く真似をしている自分に気づき、シャルはラボの廊下で思わず微笑む。
    「ケヴィンさんが弾いていたから、クローンの俺も弾いているだけかと思っていたけど……。俺も、ちゃんとピアノが好きだったんだな」
     シャルの脳裏に、音楽が好きだと素直に言ったウィルの姿が浮かぶ。一瞬、羨ましいと思ったのは、シャルにはそのような自信がなかったからだ。ケヴィンが弾いていたから、あるいは、弾いている間はパティやシトラスに会えるから、と、何かしらの理由や必要があって弾いているだけで、クローンであるシャルには、自分自身の好き嫌いなんて無いと思っていた。
     それでも今は、理由も必要もなくても自然に体が動いて、それを楽しいと感じる。なんだか不思議な気持ちだけれども悪くない。シャルは改めて顔を上げると、ドーンの隣を歩きながら食堂を目指した。
     きっとそこにはリクがいて、シャルの話も喜んで聞いてくれるはずだから。


     それから数年。シャルたちが招待したパティとパティの家族、それからシトラスとマスターであるThew.が孤島の農園へやってきた。パティの兄とシトラスのマスターが同じ職場の仕事仲間であるというから、同郷というのは本当にご近所さんなんだな、と、シャルは密かに感心してしまう。それから、パーカッション担当のウィルも、リクの招待で農園へ見学に来ていた。
     成長期がひとまず落ち着いて次の手術がしばらく先になったパティは、シャルが覚えているよりも確かに大きくなっていた。包帯も全部外れていて、それでも傍目には体の半分以上が機械パーツだなどとは分からない。揺れる船から島の桟橋へ降りるのも、広い牧場を駆け回るのも、危なげなくやってみせる。
     いつかシャルが約束した通り、乳搾り体験のためにヤギ舎へ向かうパティとパティの友人たちの後ろを歩きながら、パティの兄であるウィンが微笑んでリクへ訊ねた。
    「……もしかして貴方も、ケインさんのお知り合いですか? ウィルさんの訪問は、貴方の強いお誘いで、と聞いたので」
     最初にウィルを孤島へ招待したのはシャルとドーンだ。合作曲の打ち上げやパティの成長祝いも兼ねて、参加メンバー全員と、パティについては保護者も含めて農園へ招待したいのだ、と、まずはリクへ打診した。リクの承諾を得てから仲間たちにお誘いの連絡を入れたシャルとドーンだったが、その時点では、ウィルは仕事を理由に農園への訪問を遠慮したのだ。そこを是非にと食い下がったのはリクだった。
     リクは、少し苦笑ぎみに眉尻を下げてウィンの質問に答えた。
    「実は、俺も元K.G.Dで……ブラッドほどケインと近しい部署じゃなかったんですが、助かっていてほしい、と思っていたのは、俺も一緒です。なので、できれば……今のウィルさんにも、直接会ってみたくて」
     でも無理言っちゃいましたかね、と、ばつが悪そうにリクが肩をすくめると、ウィンは朗らかに笑って首を振った。
    「いいえ。俺も、ウィルさんを気にかけてくれる人が多いのは嬉しいです。ウィルさんに遠出の機会が増えるのもいいことですし、ウィルさんの職場の人たちも笑って送り出してくれましたよ」
     だからウィルさんにも楽しんでほしい、と、ウィンは眩しげに目を細めた。ヤギ舎へ向かう道中、広大な畑を見はるかして感嘆の声を上げるウィルの隣にはADAMがついている。ADAMもまた、リクと同じくウィルを気にかけていて、今はどの畑で何が育っているのか説明していた。
    「あっちがニンジン、そっちはジャガイモ……向こうの方にあるのがキャベツで、黄色いのは菜の花。収穫体験の後は、みんなでカレー作りですよ」
    「カレーかあ! アレンジの幅が広くて、奥が深いよな。俺は飲食機能がついてるから、料理も味見もできるぜ。カレーでも何でもお任せアレー、ってな!」
    「? はい、頼りにしてますね!」
     ADAMは素直に頷いたが、ウィルは少し困った顔だ。その様子を後ろから眺めて、Thew.ことマットが呆れた顔で呟いた。
    「『カレー』と『アレンジ』と『お任せあれ』のミックスは難易度高すぎでしょ。安易に『華麗』って言わなかったところは努力を認めるけど」
    「マスターくん、そこまで分かったんだ……」
     目を瞬かせるシトラスに、そろそろ付き合い長いからねとマットは肩をすくめて返す。やがてヤギ舎が見えてきて、島の客人たちはエルツやリクにサポートされながら思い思いにヤギと触れ合った。


     ヤギ舎の近くには鶏舎もあって、ちょうど何羽かひよこが生まれている。乳搾り体験の順番を待っている間、マットとシトラスは鶏舎の見学をしていた。リクが案内をしてくれて、成鳥にあげるための菜っ葉も手渡してくれる。そうして親鳥の警戒を解きつつふわふわのひよこを手に乗せて、シトラスはご満悦のようだ。
     その様子にマットがほっとしていると、リクが何気なく言った。
    「今のウィルさんのファッションは、マットくんのプロデュースなんだって?」
    「……」
     マットはじっとリクの顔を見た。ADAM事件にも関わった元K.G.D長官の顔は、ネットで調べればすぐに出てくる。リクの顔と、それからウィルの顔も思い浮かべて、マットは自分が差し出した菜っ葉をつつく雄鶏の顔へ視線を移した。
    「……そうじゃないと、生きづらいでしょ。あの顔じゃ、どうしてもトラウマ刺激されるって人もいるし……仕事柄、どっち側の人も見ますから」
     いくらか髪が伸びて、視界や仕事の邪魔になってきたウィルに、そのまま伸ばすよう助言したのはマットだった。切って短く保つよりも、いっそ伸ばして括ってしまったほうが管理しやすいのではないか、と口を挟んだ。
     それからマットは、帽子を勧めたり眼鏡を勧めたり、ウィルに記憶がなくファッションへのこだわりが薄いのをいいことにどうにかケインの面影を払拭しようと躍起になった。それは、先ほどリクへ答えた通りウィルやその周囲の人間が生きづらいから、というのもあるが、誰でもないマット自身のためでもある。マット自身が、まだケインの姿かたちをしたものにわだかまりを持っているのだ。
     ――それでも、マットだけでなくウィル自身も少しは生きやすくなればいい、と思うようにはなっている。
     マットは、シトラスがデータだけで帰ってきてからのことを思い出しながら言った。
    「……それに、シトラスの仮筐体を作ってくれたのはウィルさんなんで……このくらいの案は、出さないと」
     そうなのか、とリクが目を丸くする。二人の会話に気づいたシトラスが笑って言った。
    「そうなんですー。僕がずっとマスターくんのパソコンにいたら、それはそれで動作が重くなっちゃうし……ってことで、メーカーから新しい機体が届くまでの間、僕はウィルさんが作ってくれた仮筐体にいたんです」
     ゲームセンターにありそうな感じの、画面がついてボタン何個かで演奏?するやつ、と説明しながら、シトラスが指先で宙に形を描いてみせる。リクはそれを見ながら破顔した。
    「そうか……! 整備士見習いになったって聞いてたが、今はそんなものも作れるのか。うまくやってるようで安心したよ。きみたちも、ウィルを見守ってくれてありがとう」
    「……」
     屈託のないリクの笑顔と感謝に、マットは思わず渋い顔をしてしまう。リクの言葉を素直に受け取れるほどはわだかまりが解けておらず、かといって跳ね除けるほど強固に憎悪が残っているわけでもない。
     マットが言葉に悩んでいると、リクは気にしていないか気づいていないかのようなそぶりで勢い良く立ち上がった。
    「さ! それじゃ、ヤギ舎のほうへ戻るか。そろそろ良いタイミングのはずだぜ。お客さんにはめいっぱい楽しんでもらわないとな!」


     乳搾り体験や作物の収穫体験、それから屋外にキャンプセットを出してのカレー作りを経て、客人たちは大いに農園を楽しんだようだった。飲食機能のないシトラスも春野菜をたくさん摘んで、その分は食べ盛りのパティや元より大食いらしいウィンが綺麗に平らげた。いつもの農園のカレーはリクのレシピだが、今日はウィルの持参したスパイスも入った一味違うカレーだ。
     客人たちのテント、クローンたちが数人ずつグループになったテント、いくつものテントが島の平地にたくさん並んで、賑やかな夜がやってくる。孤島には、K.G.Dや人機同盟の身内以外の客人なんて初めてだから、クローンたちもどこかそわそわした様子だ。ロイとノリスは、遠巻きながら静かに客人たちとクローンの交流を見つめている。
     テントからいくらか離して燃した焚き火の周りでは、マットが自分のタブレット端末からこれまでの作品を再生したり、クローンたちのリクエストに応えてドーンやパティが一緒に歌ったり。フランもその輪に入って、伸びやかな声を披露している。こんな光景があるんだな、と、リクは焚き火を見ながらしみじみした気持ちで島を見渡した。バリィの願ったような平和な光景を作り出せているだろうか、と星空に問う。
     その傍らで、シャルものんびりと賑わいを見ている。シャルは、パティとシトラスがウィルの手を引いて歌声の輪に入るのを見て、そっと目を閉じ耳を澄ました。
     焚き火の燃える音、島を撫でていく風や海の音の中に、島へ集まった人間やアンドロイドの歌声、人と機械の狭間にある声やクローンたちの声までもが交じっている。シャルは、自分自身に言い聞かせるように小さく呟いた。
    「……聞いているかい? ケヴィンさん。あなたたちの開発したアンドロイド技術が、これだけの奇跡を起こしたんだよ」
     ADAMがリクを誘いに来て、そのADAMと同じくバリィをモデルとしたドーンも、同じようにシャルへ手を伸ばす。シャルはその手を取って、シャルもまた、星空の下の歌声の輪に入っていった。
    浅瀬屋 Link Message Mute
    2024/01/14 16:16:55

    幕間-クローン編

    『人機黎明闘争 Cybernetics Wars ブラッド異聞 DA-190』
    web版 幕間(クローン編)です。

    紙版は2024/1/28 ミラフェス 東4ホール・コ44b 『浅瀬屋』で頒布予定です。
    (A5判2段組 244ページ(背幅14ミリ)しおり紐2本つき 会場頒布価格:3000円)

    #DA-190 #サイバネ2

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
    • DA-190 SS集24/1/12 SS「Fluorescent Oil」追加しました。

      ミラフェス32内 一魂祭 (神速プチ)新刊
      『人機黎明闘争 Cybernetics Wars ブラッド異聞 DA-190』
      web版 SS集です。

      紙版は2024/1/28 ミラフェス 東4ホール・コ44b 『浅瀬屋』で頒布予定です。
      (A5判2段組 244ページ(背幅14ミリ)しおり紐2本つき 会場頒布価格:3000円)



      ※支部に投稿していたSSのまとめです。
      CP要素はほんのり。読んだ人が好きなふうに解釈してもらって大丈夫です。
      ただし全然幸せじゃない。しんどみが強い。

       サイバネ・ブラッドくんとアンドロイドの話。
       ブラッドくんの欠損・痛覚描写、アンドロイドの破壊描写有り。
       細かい設定の齟齬は気にしない方向で1つ。

      #サイバネ2  #DA-190
      浅瀬屋
    • DA-190 自警団編24/1/12
      『人機黎明闘争 Cybernetics Wars ブラッド異聞 DA-190』
      web版 自警団編です。

      紙版は2024/1/28 ミラフェス 東4ホール・コ44b 『浅瀬屋』で頒布予定です。
      (A5判2段組 244ページ(背幅14ミリ)しおり紐2本つき 会場頒布価格:3000円)

      DA-190短編集再録その2。過去編(自警団編)2本です。

      ・もしもその声に触れられたなら
       支部からの再録。ブラッドが相棒と両腕を失った日
       ※捏造自警団メンバー(彩パレW)あり。お察しの通りしんどい。

      ・ひとしずく甘く
       べったーからの再録。平和だったころのある日、ブラッドと相棒のバレンタイン。
       ※ほっこり系。恋愛色強めだけど左右までは言及なし。曖昧なままで大丈夫なら曖昧なまま、左右決めたいなら各自で自カプ変換して読んでください

      #DA-190 #サイバネ2
      浅瀬屋
    • あとがき/ノートあとがき、プラス裏話集。あそこのあれはどういう意図で選んだとか、このときこんなことがあって大変だったとか。
      2P以降の裏話はネタバレとか小ネタ解説とか浅瀬屋の解釈とかなので、読むならご自身の解釈の邪魔にならないタイミングが良いかも。

      #DA-190 #サイバネ2
      浅瀬屋
    • 人物一覧『人機黎明闘争 Cybernetics Wars ブラッド異聞 DA-190』
      web版 人物一覧です。

      紙版は2024/1/28 ミラフェス 東4ホール・コ44b 『浅瀬屋』で頒布予定です。
      (A5判2段組 244ページ(背幅14ミリ)しおり紐2本つき 会場頒布価格:3000円)

      #DA-190 #サイバネ2
      浅瀬屋
    • エピローグ『人機黎明闘争 Cybernetics Wars ブラッド異聞 DA-190』
      web版 エピローグです。

      紙版は2024/1/28 ミラフェス 東4ホール・コ44b 『浅瀬屋』で頒布予定です。
      (A5判2段組 244ページ(背幅14ミリ)しおり紐2本つき 会場頒布価格:3000円)

      #DA-190 #サイバネ2
      浅瀬屋
    • 幕間-ダーク編『人機黎明闘争 Cybernetics Wars ブラッド異聞 DA-190』
      web版 幕間(ダーク編)です。

      紙版は2024/1/28 ミラフェス 東4ホール・コ44b 『浅瀬屋』で頒布予定です。
      (A5判2段組 244ページ(背幅14ミリ)しおり紐2本つき 会場頒布価格:3000円)

      #DA-190 #サイバネ2
      浅瀬屋
    • 第Ⅲ章-揺れ動く人々『人機黎明闘争 Cybernetics Wars ブラッド異聞 DA-190』
      web版 第Ⅲ章です。

      紙版は2024/1/28 ミラフェス 東4ホール・コ44b 『浅瀬屋』で頒布予定です。
      (A5判2段組 244ページ(背幅14ミリ)しおり紐2本つき 会場頒布価格:3000円)

      #DA-190 #サイバネ2
      浅瀬屋
    • 第Ⅱ章-平和を掴むために『人機黎明闘争 Cybernetics Wars ブラッド異聞 DA-190』
      web版 第Ⅱ章です。

      紙版は2024/1/28 ミラフェス 東4ホール・コ44b 『浅瀬屋』で頒布予定です。
      (A5判2段組 244ページ(背幅14ミリ)しおり紐2本つき 会場頒布価格:3000円)

      #DA-190 #サイバネ2
      浅瀬屋
    • 第Ⅰ章-集いし者たち『人機黎明闘争 Cybernetics Wars ブラッド異聞 DA-190』
      web版 第Ⅰ章です。

      紙版は2024/1/28 ミラフェス 東4ホール・コ44b 『浅瀬屋』で頒布予定です。
      (A5判2段組 244ページ(背幅14ミリ)しおり紐2本つき 会場頒布価格:3000円)

      #DA-190 #サイバネ2
      浅瀬屋
    • プロローグミラフェス32内 一魂祭 (神速プチ)新刊
      『人機黎明闘争 Cybernetics Wars ブラッド異聞 DA-190』
      web版 前書き・プロローグです。

      製本版:A5判2段組 244ページ(背幅14ミリ)しおり紐2本つき
      通販→https://www.b2-online.jp/folio/19012500006/002/
      全文webにアップ済ですので、お手元に紙が欲しい方は上記FOLIOへどうぞ!


      #DA-190 #サイバネ2 #一魂祭 #MIRACLEFESTIV@L!!32
      浅瀬屋
    CONNECT この作品とコネクトしている作品