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    こんなはずでは 一週間後180年一緒に生きてきて初めて、ジョンに秘密ができた。


    「なあ、このことジョンには黙ってた方がいいよな?少なくともお試しとか言ってる間は…」

    ロナルド君が私に「好きだ」と言い、私が「いいよ」と言った夜。
    長話にくたびれてそろそろ寝ようとリビングに戻る直前に、彼は遠慮がちにそう聞いた。

    「そうだねえ…ま、今は君も私もちょっと混乱してるし、落ち着くまではそうしようか。変に心配させても悪いしね」





    「…って言ってただろうがァ──!!一体何の真似だこれは!!」

    風呂上がりの若造を事務所に連行した私は、玄関ドアを閉めると同時に彼の襟首に掴みかかった。
    リビングから場所を移したのは、寝ているジョンを起こさないための配慮だ。

    「冷蔵庫に詰め込まれた特選牛乳の山!誰の誕生日でもないのに唐突に持ち帰ってくる花束!それから極め付けはこれだ!『恋人 プレゼント 指輪』『銀以外 指輪』『ペアリング 新横浜』…」

    「ヴォア──────!!!何読んでんだ!!!」

    「君のPCの検索履歴だがグァ────!」

    ポケットから出したメモを読み上げる私の胸を暴虐の拳が貫いた。

    「忘れろ!」

    「羞恥心から軽率に他人を殺すな!」

    「記憶を無くすまで何度でもお前を殺す」

    「ループものの悪役か!ていうかそんなことしたら勢い余って君の事もこうなった経緯も全部忘れるかもしれないぞ!いいのか!」

    「そ、それはやだぁ…」

    ドラ公俺のこと忘れないで、などとめそめそし出すサイコパス筋肉ダルマを見て私は呆然とした。こいつの情緒どうなっとるんだ。





    あれから1週間と少し。
    多少関係性が変わっても、所詮彼と私のことだ。表向きは大した変化もなく、今まで通りに殺したり殺されたりしながらの愉快な生活が続くものと思っていた。
    私は完全にロナルド君の童貞力を侮っていたのだ。
    碌な恋愛経験を持たないこの不憫な青年は、簡単に言えば舞い上がっている。

    「3日と開けず特選牛乳や高糖度トマトジュースを買い込んでくるわ、こそこそとペアリングのリサーチをしているわ、ジョンやキンデメのいる部屋でベタベタ触ろうとしてくるわ…」

    「えっ!?俺ベタベタなんかしてねぇよ!」

    眉間を押さえながらこれまでの行いを列挙すると、心外だとばかりに彼が口を挟んだ。

    「明らかにじっと見つめてきたり手を握ろうとしたりしてるだろうが…。あと殺す回数が激増してる。目が合った照れ隠しで殺すなよほんと君こそ倫理観どうなってるんだ。それにまだ日も浅い今の段階で指輪は重い、いくらなんでも重い、高校生でも1ヶ月記念まで待つ」

    「ウェ──ン!!」

    ハァ…と聞こえるようにため息をつき、私はジロリと彼を睨んだ。

    「あのねぇ、君ちょっとはしゃぎすぎだから。そのままだと絶対後で後悔するからね。うーん……これはちょっと頭を冷やした方がいいかな…」

    「え、待っ」

    急に腕を掴まれて私は咄嗟にたたらを踏んだ。
    抗議しようと見上げると、彼はひどく不安げな顔をしていた。私は眉を顰める。

    「どうしたんだ」

    「…頭冷やすって、なに」

    要領を得ない。彼の言葉の意味を考えていると、彼の顔がくしゃりと歪んだ。

    「や、やっぱこういうの無しにするとか、別れるとか、そういうこと…?」

    腕を掴む手にぐっと力がこもる。
    もし「そうだ」と言ったらそのまま握りつぶされかねない。おもちゃを取られた5歳児でもあるまいに。

    「飛躍しすぎだバカ、そんなこと言うか」

    「だっ、だって…ふ、不安なんだ」

    頬に影を落とす銀の睫毛の奥で、青い瞳が揺れる。

    「お前は俺と同じ気持ちで俺のこと好きじゃないだろ?すぐに飽きるかもとか…そもそも気の迷いなんじゃないかとか…」

    「いやあ、さすがの私もそこまで外道じゃないよ」

    というかさすがに失礼じゃないか?私をなんだと思っているんだ。まあこれまで信頼に足る行いをしてきたかと問われれば舌を出すしかないが。

    「わかんねーよ…そもそも俺らなんで付き合ってんの?お試しっていつまで?お前いつメロメロになんの?どうしたらメロメロになってくれんの?」

    メロメロ…?そういえばそんな話をしたっけな、と思い返していると、若造の顔がみるみる曇っていく。

    「俺優しくねーし、あんま頭もよくねーし。こういうの初めてだからカッコよくリードとかもできねぇしさあ…牛乳買ってくるくらいしかお前が喜びそうなこと思いつかないんだよ…」

    「…本当に気の毒なほど自信がないなあ君は」

    痛いから離してと言うと、握りしめられていた腕はあっさり解放された。
    その手で、叱られた大型犬のように項垂れた頭を撫でる。

    「不安にさせたのは悪かった。しかし君のその自信のなさは病的だな」

    俯いた彼の頬からぽとりと雫が落ちた。彼のふわふわの銀髪も光る涙もこんなに夜に映えて美しいのに。

    「あのねぇ、多分私はもう君が思ってるより君が好きだよ。何をそんなに怖がるんだ、この私が君の事務所に住んで、君の好物を作って帰りを待っているんだよ。もっと自信を持ちたまえ」

    「ズズッ…うう…ドラ公…好き…」

    安心したのか、諾々と涙をこぼして泣き出してしまった。すっかり見慣れてしまった彼の泣き顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃなのにとてもきれいだ。

    「それにね、この間より今日の方が君を好きだ。特選牛乳の詰まった冷蔵庫を見た時は君の気持ちが嬉しかったし、目が合っただけで挙動不審になる君が可愛いくてついからかいたくなるし、こうして私に撫でられて泣いてる君を抱き締めたいと思うし、君の知らない顔を見るたび君が好きになるよ。明日はどうだろうね。来週はもっとかな」

    「だっ、か、あえ…」

    鼻水を啜っていた男の顔がみるみる赤くなる。
    どうしてあちらから泣いて縋られ請われて添ったはずの恋人を今更口説かなければならないのだろうか。難儀な相手だ。
    しかし、自己評価がミジンコ並みのこの美青年の目に生気が戻り頬が喜びで染まるのを見るのは楽しい。
    育成ゲームってあんまり興味なかったけど、案外面白いのかもなあ。

    「…というわけで、抱き締めても?」

    「ど、どうぞ…」

    どうすればいいかわからないという顔でとりあえず背筋を伸ばすのが可笑しくて、私は思わず吹き出した。
    寄り添って肩に腕を回し、4センチ上にある後頭部をぽんぽんと撫でてやる。
    一呼吸置いて、私の背にも遠慮がちに太い腕が回った。

    「安心したか?」

    「……し、した」

    「よし、わかったらちょっと落ち着け。冷蔵庫が空になるまで牛乳もトマトジュースも買ってこなくていい。記念日でもない限り花もいらない。他のプレゼントもお土産もいらない。指輪はまあ…来月にでも相談しよう。あとは肩の力を抜いて、今まで通りに普通にしとけ」

    「わかった、普通にする」

    ぎゅう、と力の入る腕と鼻声に「あまり期待できないな」と思ったが黙っておいた。

    「ああそれから、」

    大事なことを忘れていた。
    すり、と鎖骨に頬擦りをすると、若造の肩がこわばった。肩の力を抜けと言っているのに。

    「時々こうしてジョンに隠れて睦み合うのもいいね」

    そう耳元で囁いて、いまだに緊張で硬くなっている愛しい子供の頬にキスを落とすと、「ヒェッ」と妙な悲鳴が上がった。
    ベタベタしたいと思っているのは、何も君だけじゃないんだよ。





    180年一緒に生きてきて初めて、ジョンに秘密ができた。
    彼が眠りに落ちたあとの、密やかな甘い時間。
    suzudz Link Message Mute
    2022/07/09 23:30:00

    こんなはずでは 一週間後

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    #ロナドラ
    後日談。蛇足かなとも思ったけど、ちゃんとロナルドくんを安心させてあげたかったので…

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