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    地獄行きマッハで飛ぶ棺桶に乗るふ、と重力が抜ける瞬間。太陽の光を翼が鮮やかに跳ね返し風防いっぱいに青が広がる。一面の青空。雲一つなく視界良好。変態的と呼ばれる飛行技術、才能のひらめき。見ようにより切り揉みに堕ちていくように見えて統制の取れた機体制御で地上スレスレを跳ぶジェットエンジンは、草を巻き上げて轟音の長い尾を残していった。馬鹿野郎ォ、機体を駄目にする気かてめェ!無線機の向こうで激昂する弓場の声にからからと笑い声が重なるのは、無線と肉声の両方だ。
    複座の戦闘機。操縦桿を握るパイロットに、爆弾やミサイルなどの兵装システムを扱う士官。王子と蔵内は、二人一組で戦闘機に乗る、複座戦闘機乗りだった。
    二人は海軍に所属している。普段は太平洋方面の防衛を主とする空母に配備され、燦く洋上を一直線に飛ぶ戦闘機からなる編隊に組み込まれている。地上とは異なり、目標物など何もない。海と、空と、雲。レーダーが現在地と行き先を示してくれる、道標だ。
    それが、数奇なる指名により、ボーダーと呼ばれる戦闘機乗りのエリート養成機関の訓練生に選ばれた。

    君ってば複座機の後ろじゃなくて、棺桶に乗るのが趣味なの?来て早々投げられたチームメイトのブラックジョークにはなんて返したか。王子の操縦は破天荒以外のなにものでもない。規定スレスレ、どころか撃破できたんだから良いでしょ?と言わんばかりアクロバティックな飛行で、教官に怒られた数は数知れず。だが、たとえ地獄へマッハで突っ込む棺桶でも、そこに王子が居るならば乗り込むと蔵内は決めている。命が流れ出すその代わりに機体スレスレを弾が流れていくのを何度も見た。まるで、王子と蔵内の乗る機体を敵弾自ら避けていくような全能感。そこに高揚を覚える時点で、蔵内ももうとうに、常識には引き返せないところまで来ている。

    今でも忘れない、とある日の海上。
    未確認の機体に散々追い回されている味方機を見て、王子が舌打ちをする。
    「ちっ」
    「………おい、王子?駄目だからな?攻撃命令は出てないだろう?」
    「分かってるさ。でも」
    複座機の後ろから、王子の顔は当然見えない。だが、悪い笑みを浮かべていることだけは何故か、蔵内には分かった。
    「貰った分の『お礼』をするぐらいは許されてると思わないかい?」
    「……全く」
    左旋回して、機体が海へと傾きながら折れていく。エンジンの轟音で区切られた洋上の密室は、蔵内に行き先を決める権利など一つも無い。操縦桿を握るのは、王子ただ一人だからだ。そのことに疑問を抱いたことは、ない。
    急激なGが掛かると共に、空中にエンジンから出る雲が、子供のイタズラみたいに自由に鮮やかに絵を描く。それが、命の行く末を決めるドッグファイトで出来ているものなのに、まるで楽しいラクガキみたいに王子がはしゃぐ。
    「見た?」
    「まだだ、来るぞ」
    「変だな…撃ってこない」
    王子は忙しなく操縦桿を動かしている。性能差のある機体が今度は王子と蔵内を追おうと標的を変えるのを見、鳥のように、自在に逃げ回っていたかと思えば不意に王子がぽつりと呟いた。どうやら、不明機に攻撃の意思はないらしい。いつでも、お前らなど撃ち墜としてやれるのだと言わんばかり。
    「ふうん、おもしろくないな。……オーケー、クラウチ。遊んでやろう」
    くるり、くるり、と王子が誘うように速度を上げて羽ばたく。ぴたりと後ろをつく相手機の、絶妙に射線には入らない位置で逃げ回る。エンジンが唸り、浮きかける身体はびたりとシートに張り付いている。そうして、昼日中の太陽光を反射して鮮やかに背面を、──その相手機の頭上に合わせた。

    「やあ」
    手を振る王子をよそに、クラウチは愛用のポラロイドカメラをいそいそと取り出して、シャッターを切った。
    じー、と音がして一枚が吐き出される。
    「うまく撮れたかい?」
    「ああ、多分バッチリだ」
    「なら帰ろう」
    あの王子にしてこの蔵内ありである。それを、ボーダーのチームメイト達が知るのにそう時間は掛からなかった。
    リリ Link Message Mute
    2022/12/09 18:46:58

    地獄行きマッハで飛ぶ棺桶に乗る

    トッ○ガンパロディ王と蔵

    #王子一彰 #蔵内和紀

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