父の呪縛(神田と王子)──きみはなんでボーダーに入ったんだい?
──親父の仇を取りたくてさ。親父の作った家が多く建ってる、この街を守りたいだろ。
自分から尋ねたくせに、俺の答えを聞いてもさして興味なさげにふうん、と答えたのは王子らしかった。今思えばそれも全部見透かされていたのかもしれないし、何も考えていなかったかもしれない。俺はアイツに時々ゾッとする。考えていることが手に取るように分かる時があるのに、分からないときは本当に分からない。蔵内に、それって怖くないか?と聞いたら「そうか?まあ、王子だしな。たとえ読まれても、それだけ王子が自分のことを良く見てくれているってことじゃないか」と言うのでダメだこりゃと思った。俺は王子が時々恐ろしい。その恐ろしさは、俺が王子と鏡合わせな側面から来るものだと薄々自覚している。
高三になり、進路を決める時期になった。親父が愛したこの街をずっと守るべきか、それとも。
そんな折に背中を押したのは、王子の言葉だった。
「きみはボーダーで街を守るフリをしながら、ずっときみの中にいるお父さんの幻影を追っている。カンダタをぼくの隊に誘うかは迷ったんだ。でもいずれきみは夢から醒めて、ここを出ていく」
見透かすように言う王子の目は遠くを眺めていた。
「弓場さんは隊員に相次いで出て行かれて、傷つくだろうね」
「…弓場さんは、そんなことで傷つく人でもないし、俺の進路を応援しない人でもない」
「それがきみの答えだよ、カンダタ」
虚を突かれた俺に王子が微笑んだ。
「応援して欲しいんだ、きみは。いい加減呪縛を解いて、自らのこころに従い結論を出すべきだ、とぼくは思うよ」
ね、カンダタ。
優しい声に黙り込む俺を置いて、王子は来た時と同じくフラリと作戦室を出て行った。