『来世もまた逢いましょう』 人の身には余るのだと、腕の中の彼女は言った。
もしも人間が一生のうちに受け取れる幸福の総量が決まっているのなら、私はもういつ死んだっておかしくはないから。そのときはきっと来世もまた逢いましょうと、そう言って己の背に縋る細腕にきゅっと拘束される。きっと三界のどこを探したって、これよりも甘く柔らかな束縛は見つかりっこないだろうと、バルバトスは静かに両目を閉じた。
彼女には申し訳ないが、それはできない約束だった。
今すぐにでもその胸の奥に腕を差し込んで、最奥から引きずり出してしまいたいほどに欲してやまない彼女の魂。その気にさえなればあっけないくらいに容易なことを、しかし決してそうしようとしないのは、彼女が傍らにある心地よさを今更手放すことができないから。持てる限りのすべてを燃やし、瞬きの間に駆け抜けて行くような儚い命がはらはらと散り落ちるその刹那の瞬間まで、どうか己の隣に咲き続けていてほしいと願っているからだ。
けれどそれも、すべては輝ける魂が窮屈な肉の身体から解放されるそのときまでの話。
どこへなりとも行くことのできる自由な魂を、輪廻転生などという神の定めたつまらないものにくれてやるつもりは微塵もない。欲しいのならば目の前の欲に抗わず、力尽くでも手に入れる。それが悪魔の本質だ。
この魂は自分のものだ。
天界にのさばってのうのうと生きているような神なんぞに、彼女は決して渡さない。