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    叶わぬ願い 彼女はいつも、共に暮らす兄弟たちとの日常を楽しそうに話す。

    「それでね、取り立てに耐え兼ねたマモンがレヴィの花ルリちゃんフィギュアを人質……いや物質ものじち? に取って『返して欲しければ返済を待て』って言うから、レヴィがすっかり怒っちゃって。リタンを召喚して辺り一帯が水浸しになるわ、ガラスというガラスは割れるわ、扉はひしゃげて開けられなくなるわで、今度はルシファーがカンカンに怒って」

     たとえそれが今まで何百回と繰り返されてきた、バルバトスにとっては取るに足りないよう話であってもだった。バルバトスは握った右手を口元に当ててくすりと笑う。

    「光景が容易に想像できますね」
    「もう! 簡単に言うけど、こっちは後片付けとかご機嫌取りとか本当に大変だったんだから!」

     バルバトスの隣をぴょこぴょこと歩く彼女の表情は言葉とは裏腹に穏やかで、口ではそう言いながらも心の底に兄弟たちへの信頼があることが伺えた。だからこそ、バルバトスは次に続けようとしていた言葉──「でしたら、しばらく魔王城で過ごしてみるのはいかがですか?」──をいつも飲み込んでしまう。

     もしも彼女がしばらく魔王城に滞在するのなら、バルバトスは徹底的に彼女の世話を焼き、嘆きの館に戻りたくないと思うほど快適に過ごさせる自信があった。実際、そうしようとさえ思えばバルバトスにはそれができる。
     人間が聞けば呆然としてしまうような時間をディアボロの執事として過ごしてきたバルバトスにとって、誰かの世話を焼くことは呼吸をするように自然で、夜になれば眠り朝になれば目覚めるのと同じように当然のことである。にも関わらず、しかし決してそうしようとしないのは、ひとえに「彼女が嘆きの館を離れることを望まないから」という、ただそれだけの理由に尽きた。
     欲しいのならばどんな手を使ってでも手に入れる。それが悠久の昔から連綿と続いている悪魔のやり方だ。けれどもなぜか、彼女に関してだけは悪魔の正義も鳴りを潜めてしまう。彼女自らこの手を選ばなければ意味がないだなんて、そんな夢見がちなことを思う程度には、いつの間にかバルバトスもすっかり彼女に魅せられていた。


     進行方向の先に兄弟の背中を見つけた留学生が、相手の名前を呼んで大きく手を振った。振り返った彼の視線が彼女を捉え手を振り返している。隣にいるのは自分なのに、まっすぐに正面だけを見ている留学生の視界にバルバトスの姿はもはや映らず──注がれる視線の意味に気づくこともないのだろう。
     手を伸ばしさえすれば触れられるはずの距離が、あまりに遠い。ああどうか、自分が両腕を伸ばして待つ恋の底まで、彼女がその身ひとつで堕ちてきてくれたらいいのに。そうしたら大切に抱き留めて二度と離しはしないのに、恋しいひとを求める白手袋は何かに触れることもなく、ただ空を掻いてばかりいる。


     彼女が望まないから。
     たったそれだけの理由で、バルバトスは兄弟の元へ駆け寄る留学生の後ろ姿を今日も黙って見送った。
    S_sakura0402 Link Message Mute
    2023/04/01 20:03:29

    叶わぬ願い

    執事→留♀
    片想いをしているバルバトスの話
    友人からお題をもらって練習したSS。タイトルはフォーリンエンジェルのカクテル言葉

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