朝は裏切りの棺「おはよう」
君のどこか歌うような声が、耳に届いて…
………僕は無性に泣きたくなった。
朝は裏切りの棺
「今日もお寝坊さんね」
困ったように笑いながら、君はカーテンを開ける。
部屋に差し込む朝日。
けれど、いつもの如く僕の寝床には、届かない。
……そろそろ起きよう。
寝床である棺の蓋を、内から押し開ける。
今日も憂鬱な1日が始まる。
「良く眠れた?」
スリッパの可愛らしい音を鳴らしながら、僕に駆け寄る君。
君はそのまま、僕の頬に手を添える。
陽だまりみたいに、温かい手。
僕とは全く、違う温度の、手。
君との隔たりを感じて、自然と涙が溢れた。
「……怖い夢を見たの?」
「………うん」
「……抱きしめてあげる」
毎日が怖い夢だよ、なんて君には言えなくて、今日も君の優しさを享受する。
僕と違う体温に包まれて、君みたいになれたなら、君みたいに優しくなれたなら、と夢を見る。
君みたいに「人間」になれたならーーー
叶わぬ夢に、また涙を溢して。
僕は、今日も君に縋る。
「お腹が空いたよ」
「ふふふ、仕方ない人ね…」
ブラウスのボタンを外して。
首を曝け出して。
幼く、どこか妖艶に、君は言葉を滑らせる。
「食事にしましょう」
君の言葉に、思考が、
と
ろ
け
て
…
ーーーーーーブツリ。
嫌な音が、鼓膜に響く。
恐る恐る、音の出処に視線を向ける。
やってしまった…
また、僕は君を噛んでしまった。
衝動に抗えない自分が恨めしくて、再び涙を流す。
「泣かないでよ」
「……でも………、でも……」
「大丈夫。痛くないわ。
……だからね、
……貴方は、そのままでいて?」
僕の頭を優しく撫でながら、君は優しく諭す。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
君が望む「吸血鬼」では居られない。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
僕が望む「人間」にも、なりきれない。
届かぬ朝日に、また涙を溢して…
僕と君を裏切る望みは、棺に詰めて…
今日も僕は、「僕」を殺して朝を迎える
終