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    さよならは凍ったすべて白い息を吐き出し、コンビニで買ったコーヒーで、かじかんだ手を暖める。

    ーーーあれから、何年経ったのだろうか?

    かじかんだ手と共に、自身の凍った記憶を解いていく。



    さよならは凍ったすべて



    僕にはかつて、大切な人が居た。
    白い肌が、とても綺麗な人だった。

    一緒に居た当時は、彼女と生涯を添い遂げるつもりでいた。
    多分、彼女のほうも同じ気持ちで居てくれたのだと思う。

    「幸せの数だけ、不幸せがある。」

    そんな言葉を思い出させる、出来事さえなければーーー


    「あのね、私ね………病気…、なんだって…」
    「………え?」
    「ごめんね………びっくりしたよね?」
    「う、うん……それで……治る…?」

    彼女の表情から、嫌な気配は感じていて…
    …それでも、希望に縋りたかった。

    「……ごめんね。………治らないの。」

    今にも泣きだしそうな顔で、笑う彼女。
    その不器用な笑顔に、心が乱される。
    ぐしゃぐしゃになった心を集めるように、彼女を掻き抱く。

    僕の肩口で、わんわん泣き出す彼女。
    つられて、僕の視界も涙で揺れる。

    世界はなんて、残酷なのだろうか。

    「…最期まで、私と一緒に居てくれる?」
    「……約束する。ずっと一緒に居るよ。」
    「………ありがとう。」

    お互いの額をコツンと合わせて、僕達は大きく泣いて、小さく笑いあう。

    このまま、時が止まればいいのにーーー

    けれど、やっぱり世界は残酷なままで。
    季節は巡り、彼女の身体は枯れ枝みたいに痩せ細っていった。

    そして、あの日。
    暖房をつけても、ブランケットがないと厳しい位、寒かったあの日。

    冬の夜の静かな空気に溶けそうなくらい、か細い声で、彼女は呟く。

    「最期は…貴方の手で、逝きたい」

    こんな日が来るのは、必然だったのだろうと、今となっては思う。

    「………それで、いいの?」
    「……………えぇ…」
    「………本当に?」

    一応、念を押す。
    彼女の気持ちが絶対に変わらないことを、知りながら…

    「…………えぇ…」
    「………………………わかった。」

    彼女の返事を聞いて、僕は彼女の首筋に手をかける。
    かつて、あれほど暖かかった体温が、今はほんの少し温かい程度で…
    彼女はもうすぐ死んでしまうのだな、と思考が冷えて。

    ーーー手に力を込める。

    最期まで見なきゃ。
    彼女を。
    僕が。

    どんどん思考と、心が、凍てついていく。

    空気を遮断された彼女の顔が、どんどん赤らんで。彼女の開け放たれた口からは、涎が溢れ始める。

    「………ごめん………ね。
    全部………終わった………ら…………、
    ……私が、………死んだ………ら、
    ……………全部……恨んで………逃げて………」

    見開かれる目。
    見開いたのは、どっちの目だったのか。
    思考は、なおも凍てついている。



    ***


    こと切れた彼女を、車のトランクに詰め込んで、僕は雪山に車を走らせる。

    彼女が好きだといった、あの場所へ。
    ただ雪しかない、あの雪山へ。

    車を走らせる。

    彼女に相応しい場所は、きっとそこしかないから。そこに彼女を埋めてあげたかった。

    車は、何事もなく雪山に到着。

    彼女を乗せる時に一緒に詰め込んだ、スコップで地面に穴を掘る。

    僕達が過ごした年月はこのぐらいの深さだったのかな、なんてぼんやり考えながら。

    そして僕は、

    思い出も、愛情も、彼女も、さよならも。

    全て、埋めた。


    −−−



    そして、現在。

    彼女を埋めた雪山が私有地であれど、誰が管理してるか分からない手付かずの状態であったこと、お互いが天涯孤独だったこと、埋めたのが真夜中だったこと等の複数の要因が重なって、僕は捕まっていなかった。

    あの日から僕の心は、この北の大地に凍てついたまま、季節は巡る。

    今年も彼女を埋めた場所から、フキノトウが芽ぶく。
    僕は、今年もそのフキノトウを食む。
    口に広がる苦味に、罪の味を感じて。

    今年も、春の訪れを待つ。



    あいと Link Message Mute
    2023/05/22 20:11:14

    さよならは凍ったすべて

    スロットメーカーの同人タイトルスロット1にて、引いたお題で書いてみました。

    凍てついてしまった男性の話です。

    暇つぶしになったのなら、嬉しいです。

    [2022/3/30にツイッターに載せたものを、加筆修正したものになります。]
    本文を読む前に確認が必要です。

    一部猟奇表現があります。苦手な方はご注意を。

    #スロットメーカー  #同人タイトルスロット1  #男性  #女性  #切ない

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