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    教会の日常「お帰りなさい、クラーク牧師。お疲れでしょう。すぐに休まれますか?お腹が空いているなら軽食をお出ししますよ」
    「只今戻りました、ミットライト祭司。夜分遅くの出迎え感謝します。このまま休みますのでお気遣いなく」
     祭司様の普段と異なる仰々しい呼び方に、同様に返す。聖堂の入り口で、くすくすと笑い合った。今日はもう神様の接待はしないと祭司様が仰るので、扉に錠を掛ける。机上の燭台を手にした祭司様と廊下に出た。半歩先を歩く祭司様が問う。
    「調査はどうでしたか?望みの情報は手に入りましたか」
     私はこの教会に所属する者ではない。以前はある方のため、吸血鬼に関する伝承や魔術について調査しながら牧師として旅をしていた。しかし途中で立ち寄ったこの教会の人手不足具合に不安を覚え、また祭司様の誘いがあったこともあり、告解師として手伝いをしつつ滞在している。そんなある日、本来の目的に関する伝承の噂を信者から耳にする。情報の出所を調べたところ、丘を二つほど越えた村であることが判明した。最近半吸血鬼のヴィーさんが滞在することになり人手の心配が軽減されたこともあって、調査に出掛けたのだった。そして半月後の今晩、ようやく帰ってくることができた。
    「いいえ、駄目でした。話の元の方が亡くなっていまして……手は尽くしたのですが目新しい情報は無さそうでしたので、見切りをつけて戻ったのです。現地の教会に紹介の手紙まで書いていただいたのにすみません」
    「いえ、彼らも吸血鬼と人の共生について意欲的ですので、手紙が無くても助力してくれたことでしょう。結果については残念でしたね。気になるのであれば、もっと滞在しても良かったのですよ」
    「ミットライト!ライセンは何処の担当だ?」
     本当にもう情報は無さそうでしたので、という言葉は高くはっきりとした声にかき消された。僧服を着た少年が駆け寄ってくる。彼は教会で保護され、僧侶として生活している子供のひとりだ。その中でも良く言えば勇敢、悪く言えば無謀な性質で、ライセンという殺戮を繰り返した吸血鬼に対して物申したことがある。それ以来、彼女の監視役を買って出ているようだ。彼女も子供には大した殺意を向けないため、祭司様も許可なさっているのだろう。
    「彼女には別棟の地下第一倉庫をお願いしました」
    「分かった。じゃあ連れてって監視しとくわ」
    「お願いします」
     そう言って少年は奥へ走り去る。少年と目線を合わせるため屈んでいた祭司様は姿勢を正すと、今の状況を教えてくださった。
    「最近暖かくなってきたでしょう?だから今日は衣替えついでに棚卸しをしているんですよ」
    「そうでしたか。――しかし、彼女が教会の仕事を手伝う姿を最初に見たときは意外で驚きましたが、見慣れてきましたね。治療も順調なのでしょう?」
    「ええ。欲する私の血液量はコップ半分程度まで減りました。定刻の礼拝には出てくださいませんが、仕事を手伝ってくださる意思はあるようです。……彼女が正常に生活できる量の血液を確保できていないのが心苦しいのですが」
    「彼女の必要とする量を確保するのは難しいでしょうね……銀の首輪で吸血鬼としての力を封じている分、幾分か必要量は減っているのでは?」
    「それでも足りていないのです。最近は眠られる時間が少しずつ長くなっていらっしゃいますし……食事中、正面に座ると腹の辺りをじっと見つめられるのです。美味しそう、という目で。ああ、好きなだけこの身を捧げることができるなら、どんなに幸せでしょう……!」
    「やめてください。貴方を頼りに思っている者が沢山居ることはご存知でしょう」
    「ヴィーさん」
     廊下の闇からマントを纏ったヴィーさんが現れた。私におかえりなさい、と声をかけ祭司様に鍵を手渡す。出掛けるのだろうか?祭司様が重い声で答える。燭台の明かりでは二人の表情が分からない。しかし、どこか重い空気が圧し掛かっている気がした。
    「ええ、当面は死ねませんね。ヴィーさん、頼んだ件、よろしくお願いします。自分の身を第一に、帰還が優先ですよ」
    「それ、耳にタコができるくらい聞きました。安心してください。食費と家賃分くらいしか働きませんよ。……行ってきます」
     衣を翻し、裏口へ向かうヴィーさん。出入口まで付き添うことにした。ヴィーさんの背が夜の闇へ消えてゆく。旅の無事を祈りつつ、祭司様と静かに見送った。

    「暇ね。眠くなってきましたわ」
     ふあ、とあくびをひとつして、ライセンは優雅な動きで薄らと埃を被った箱に頭を乗せる。こうして近くで様子を監視する日々を過ごしていると、この女がただの倉庫の隅でサボっている怠惰な修道女に思えてくる、などと考えた自分を殴り飛ばしたい。こいつが殺した人数を、誰をも食料としか思っていないことを、ミットライトを吸い殺そうとした事実を、忘れてはならない。自分を叱りつけるように返す。
    「つべこべ言わず進めろよ。ガキにだってできる作業だぞ」
    「全部終わりましたもの。この箱だけ一着足りませんわ」
    「数え間違えたんだろ。もう一回数えてみろよ」
    「やっぱり一着足りませんわ。ほら」
     僕の目の前で、ライセンは羊を数えるように一つずつ数えて見せる。確かに、備品表に書かれている数より一着足りない。原因について心当たりはないか、記憶を掘り返す。ああ、そういえば。
    「ヴィーが暫く外出するって言ってたな。着て行ったのかもしれない」
    「全数確認……と」
    「おいこら」
    「あら、今のあれに要らない心労を負わせたくないのでなくて?」
     修道女の服を着た女は微笑みを浮かべ、全ての欄に記入された備品表を差し出す。突き返してミットライトに不足分の報告をするべきだ。そう考える頭と裏腹に口を噤んで表を受け取ってしまったのは、きっとこの女の慈愛に満ちた外見に騙されたからだろう。

     聖堂に入ったときから、漠然と祭司様の様子に違和感を覚えていた。蝋燭の幽かな明かりが作った陰に巧妙に隠されていて確信は持てない。しかし、確かな異常をそこに感じた。私が足を止めたことに気付いた祭司様が振り返る。
    「祭司様、少しこちらに来てください」
     魔術で明かりを灯し、祭司様を照らす。眩しそうに目を細める祭司様の顔は酷いものだった。元からあった隈は黒々と深まり、肌は荒れ僅かに頬もこけている。以前から祭服をゆったり着用なさる方だから気付かなかったが、痩せたのではないか?献身による手の切り傷が、以前より浮いて見える。
    「祭司様、あなたまた無理をなさっていますね?私よりあなたの方が休むべきです。教会の者にも休むよう言われているのでは?さあ、寝室に向かいますよ。確かにあなたが部屋に入るまで見ていますからね」
     悪戯がばれた子供のように笑う青年が、この晩以降寝たきりになることを予告するような、満月の少し欠けた夜だった。

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    三冬さん宅イヴァンさん、
    一元さん宅ヴィーさん
    お借りしました
    碧_/湯のお花 Link Message Mute
    2018/10/21 21:20:15

    教会の日常

    が崩れ去る直前
    ##吸血鬼ものがたり  ##ルナイル編
    話リスト(http://galleria.emotionflow.com/20316/537486.html

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