イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    毎月3日は大包三日の日【4/3】本当は3話くらいの詰め合わせにしたかったけど、1つ間に合わなかったのでとりあえず2つを。






    <いとし、にくし>



    「お前のことが憎たらしい」
    大包平はそう言いながら、隣に横たわる三日月宗近の肢体に手を這わせた。
    布団の上に二振り。敷布はしわを寄せて乱れ、部屋には未だ熱気がこもる。
    常夜灯が闇を淡く照らし、むき出しの肌を浮かび上がらせた。
    刻限はいかばかりだろうか。日付が変わるまでには、まだ幾ばくかの猶予がある。
    天には星がまたたき、ひんやりとした空気が夜露を冷やす。
    春の夜の、茫洋として密やかな気配。
    三日月の肌は滑らかで、水気を含んで掌に吸い付いてきた。その従順な様に、大包平はますます眉間のしわを深くする。
    「憎たらしいとは、ひどい言い様だな、大包平」
    横臥して寝そべりながら、三日月が喉の奥を震わせて笑った。
    「近頃はたいそう愛されているとばかり思っていたが、なんと嫌われていたとは驚きだ」
    「阿呆か、嫌ってなどいない」
    大包平はますます顔をしかめると、薄い肌を爪先でわずかにつねった。
    肌についた微かな赤みは、やがてふわりと溶けるように消える。いっそ銘でも刻んでしまえれば、自分のこの遣る瀬なさも報われるだろうか。
    「嫌った相手と睦み合う趣味などない」
    「でも憎たらしいのだろう?」
    「それとこれとは別の感情だ」
    「なるほど、別か。ならばよかった。安心だ」
    「安心とはどういうことだ」
    「もう二度と、抱いてはもらえないのだろうかと案じてしまった」
    全くそんな不安など感じてなさそうな顔で、三日月が笑う。
    つい先ほどまであられもない声を上げていたとは思えない顔だ。
    脚を開いて、受け入れて。どこもかしこも濡らしていた。
    そんな気配など微塵も見せず、三日月はただ悠々と手足を伸ばして脱力している。
    「この頃、お前のことがあんまりにも憎たらしくて」
    大包平はため息交じりにそう呟きながら、くたりとした三日月の身体を大きな掌で撫で回した。
    胸元をまさぐり、脇腹をさすって下腹部に至る。
    三日月の身体は、磨かれた大理石のように美しい。
    張り詰めたきめ細やかな肌も、その下にうっすらとある脂肪の柔らかさも、さらにその下に隠された密度高い筋肉の硬さも。
    描く曲線も。触れるものに与える感触も。
    「あんまり憎たらしいから、これはもう折るか抱くかしかないと思っていて」
    三日月の身体に浮かぶ筋肉のおうとつをなぞりながら、大包平は手を下に伸ばしていく。
    下生えに指先が届くかどうかのところで手を止めると、この胎の奥に、まだ自分の放った子種が溜まっているのだな、などと考えた。
    「折る訳にはいかないから、こうして抱いている。だが、抱けば抱くほどに憎くなる」
    「どうしてまたそんな……」
    苦笑を浮かべる三日月は、腹に当てられた大包平の手に、そっと自分の手を重ねる。
    体温が重なり合って、まるで包み込まれているようだった。
    「だってお前は、弱いだろう」
    「うん?」
    「抱かれている時のお前はあんまりにも哀れで、か弱げで、とてもではないが折る気になどなれなくなる」
    狩衣を脱げば、存外にほっそりとした体格が露わになる。許して、助けて、お願いと、聞き慣れた声で懇願する。
    それなのに抵抗らしい抵抗などひとつもせず、ただ従順に快楽を受け入れて、与えられるものを懸命に飲み込もうと健気を尽くす。
    「かと思えば、再び戦場に出たらクソジジィだ。腹が立ってかなわない」
    「だから仕方なく抱いてやろう、というわけか」
    それで脱がしたらこの頼りなさだ。あんまりいじめるのは可哀想だからと、いつも結局手加減してしまう。
    手加減して、いざことが終わるとこの憎々しさだ。
    いっそ哀れぶったまま悄然とでもしていれば、下る溜飲の一つや二つもあるのだろうが。
    「俺はなぁ、大包平」
    三日月が歌うように囁いた。
    「いつもお前に殺されている」
    だから安心しろと、艶めいた笑みを三日月は浮かべた。
    「俺がいつお前を殺した」
    「それはもう、毎夜のように」
    ふふふと、声だけの笑いが耳をくすぐる。
    「お前に刺されるたびに、ああ、俺はこれで死ぬのだなと思っている。刺されて、死んで。しかしどういうわけか、しばらくすると息を吹き返す」
    「いっそ戻ってこられないようにしてやろうか」
    そう言って大包平は、三日月のうっすらと骨が浮いた肩に噛み付いた。
    「俺に刺されて死ぬなら本望だろう」
    「そう思っていつも殺されている」
    三日月は手を伸ばして、大包平の頭を搔き抱いた。
    とくとくと、少々早い鼓動の音が伝わってくる。この刀は、言葉よりも身体の方が正直だ。
    大包平の頭を愛おしげに撫でながら、三日月が「……何を考えている?」と聞いてきた。
    「このまま誤魔化されてやるか、誤魔化されずにまたお前を殺すかを考えている」
    「なんと、なんと」
    三日月は「恐ろしい男だ」と言って笑う。
    刻限はいかばかりだろうか。あと少しで日付が変わることだろう。さて、どうしたものか。
    大包平は、鋭利な目を今この時だけ、なごやかに和らげた。
















    <海の錆>



    ざざん、ざざんと、潮騒が響く。
    遠くまで続く波打ち際は、寄せては返しながら白く泡立つ。
    砂浜は清く、空は霞みがかった春の淡い色合いで、何もかもが茫洋としていた。
    その景色の中を、三日月宗近が踊るようにふわふわと歩いていた。
    草履と足袋は懐に。袴を少し持ち上げて。
    春のうららかな日差しに照らされながら、三日月は泡立つ波を追いかけていた。
    追いかけては逃げ、また逃げては追いかける。
    思わぬ動きをする波に裏をかかれ、うっかりと足首まで海水に浸かっては、無邪気に歓声など上げている。
    足先が跳ね上げる水飛沫が、淡い春の日差しに照らされ、きらきらと輝いた。
    「入らないのか?」
    三日月が、ふとこちらを見て言った。
    「……やめておく」
    子供じみた真似はよせとか、立場に見合った行動をしろとか、そういう言い訳は、喉元までせり上がってから、かき消えた。
    「気持ちがいいぞ」
    三日月の誘いに、大包平はただ頷く。
    ああ、そうとも。確かに気持ちがいいだろう。
    さらう波の動きも、足の裏に感じる砂つぶの繊細な動きも、得たばかりのこの肉体にはきっと、たまらなく新鮮に感じられるに違いない。
    だが、行かない。大包平は三日月から数歩離れた、濡れることがない砂地を歩く。
    しっかりとした足取りが、砂浜に点々と靴跡を刻んでいた。
    「錆びたりなどしないのに」
    どこか夢見るような口調で、三日月が小さく呟く。
    そんなことを気にしているわけではない。今は人の身であって、塩水につかったところで錆びないことなど、重々に承知している。
    だがそちらにいく決意は、まだ大包平の中で育っていないのだ。
    「錆びなくても、なまくらになるかもしれん」
    大包平がそう答えると、三日月がふわりと目元を和らげた。今日のこの日の天気のような眼差しだった。
    「なまくらでも、名刀は名刀だ」
    「名刀なものか。斬るに斬れなければ鉄くずだ」
    「であれば、何よりも美しい鉄になればいい」
    簡単に言ってくれると、大包平は苦々しげに顔をしかめた。
    「さあ」
    三日月が言う。
    「おいで」
    差し出された手を、大包平は見つめた。
    潮騒が聞こえる。ざざん、ざざんと、繰り返している。
    三日月の足元を、泡立つ波が洗っている。
    水飛沫がきらきらと、輝いている。



    aoba Link Message Mute
    2019/04/03 22:11:29

    毎月3日は大包三日の日【4/3】

    人気作品アーカイブ入り (2019/04/04)

    #刀剣乱腐 #大包平 #三日月宗近 #大包三日 #大包三日の日 #毎月03日は大包三日の日

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品