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    毎月三日は大包三日の日【11月3日】大包三日の日



    思えば肩透かしの多い刃生である。
    刀剣随一と讃えられながら、遅くに見出されたせいで最高称号を得るに間に合わず、ライバルと目した刀と刃を合わせることを期待して励起に応じれば、相手は来る気配もなく何年も待たされ。
    こいつは既に完成されている、修行などに出るわけもないと思っていた刀は、本丸の危機を経てあっさりと修行に赴き。しかも燦然と輝く切れ味と、心晴れやかな笑みをたずさえ戻って来た。
    報われない、とまでは言うまい。
    それは自分を愛してくれた数々の命への冒涜となる。いまここに己が在ること、健全そのものの姿で残されていることが、自分の歩んできた千余年への何よりの報いだ。
    とはいえ、勇み足のままけつまずくことが多いこともまた事実。
    今回も正にそうだった。
    修行を終えてより磨きがかかった己を見せつけてやろうと、特別な相手の部屋へ夜になって赴けば。
    「……え?」
    ぽかんとした顔で出迎えられた。

    *

    三日月宗近という刀は、よくわからない刀だ。
    室町時代にはその評価を不動のものにしていたと言われている割に、どこでなにをしていたのか、いまいち分かっていない。足利将軍家に伝来したと言われてはいるが、所詮、伝説の域だ。
    ただひどく研ぎ減った姿と、棟に残る刀傷が、平坦ならざる歩みをもつことを今に伝えている。
    そのことを刀剣男士として励起した三日月宗近本人がどのように思っているのか、確かめたことは大包平にはない。
    「俺の主が見ているのでな。ちょっと本気だ」
    修行に出て戻った後、今までと変わったその様子が、全てだと思っている。
    自分自身にすらどこか一歩引いていた三日月が、手合わせに際して愉快そうに目を細めた。抜かせ、と口角を上げながら、大包平は清々しい気持ちで木刀を構えた。
    結果は惜敗だった。
    「どうして修行に出ようと思ったんだ」
    喉から何度も出掛かり、結局聞かないまま終わった。
    修行に出る理由など刀それぞれだ。三日月のそれを聞いたとして、自分に意義があるかどうかはわからない。
    そもそも、三日月の答えを自分がどこまで理解できるかもわからなかった。三日月はいつも唐突で、突拍子もなく、理解するにはあまりに遠い。
    そんな刀と、どうして自分は肌を重ねているのだろうと、大包平はいつも不思議に思う。
    きっかけは鮮明に覚えている。
    あの時は二振で長期遠征に出かけていた。三日月がまだ修行に出ておらず、大包平が励起してすでに一年余りが過ぎていた頃のこと。
    任務内容としては該当地域の見回りだったためそう難しいものではなかったが、期間が長きにわたることが一番の難儀だった。
    地域の人間に怪しまれてはならないし、気を緩め過ぎてもいけない。
    さりとてずっと緊張していると、疲労が先に立ってしまう。
    その点、大包平と三日月は適任だった。
    どちらの刀も焦ることはない。いささかのんびりしている三日月と、いささか四角四面な大包平の組み合わせは、反りが合わない一方で、緩急のバランスがよく取れた。
    当初は三日月のマイペースぶりに振り回されていた大包平だったが、「こういうもの」と認識を改めてしまえばどうということもない。
    そうして、半月ほどが過ぎた頃だった。
    「……マズいな」
    大包平は朝起きた時から渋い顔をしていた。
    三日月とは寝る時間をずらし、どちらかは必ず起きているようにしていた。
    早く寝て早く起きるのは三日月で、遅くに寝て遅く起きるのは大包平だった。
    その日も昼近くなって身を起こすと、三日月は布団を畳んですでに出かけていた。
    日課の見回りに出ているのだろう。いつもなら、昼を回って大包平が昼食の用意を終えたあたりで帰ってくる。
    大包平は陽の傾きを眺めながら、三日月が戻るまで、まだ二刻程度は余裕があると目算した。
    これならどうにかなるだろう。大包平は、「マズい」ものをさっさと処理してしまおうと覚悟を決めた。
    二人が潜伏しているのは宿場や街道から外れた森の中の掘建小屋で、屋根と壁はあるがひどく狭い。
    当然だが個人的な空間や時間などは確保されていない。しかし、肉体はしっかりと若さを主張してくる。
    簡単に言えば、溜まった。
    朝勃ちは男の身体の常ではあるが、血流による反射云々ではおさまらない範囲で硬くなっている。
    実際、出陣して半月も過ぎているのだ。そろそろ出しておかないと身体に悪い。
    さっさと済ませようと思った大包平は服をはだけ、下着の中から名に恥じぬ大きさの逸物を引っ張り出した。
    手の中で脈打つそれはすでに先端をわずかに濡らしており、一回出した程度で落ち着いてくれるか怪しいほどに性欲にまみれていた。
    「……ふぅ」
    自慰に対する嫌悪感は、実はあまりない。気持ちいいものは気持ちいいし、実のところ、自分の立派なそれを見ていると自信を覚える。
    ただ毎回困るのは、誰を思い浮かべればいいのか分からないことだった。特定の刀も女も心当たりがない大包平は、ただ漠然とした官能を想起するしかなかった。
    それが、ここ数日ですっかり見慣れた誰かの姿をかたどりはじめ、いやいや、何を考えているんだ俺はと焦りを覚えた時だった。
    「おや」
    聞こえた声に、冷や水を浴びせられた気分になった。
    そう、考えてみればそうだった。肩透かしの多いこの刃生、相手に隠れて事を成そうとして、上手くいくわけがない。
    「お前……察してくれてもいいだろうが……」
    だからつい恨み言を漏らしてしまった。同じ男の肉体を持つのであれば、のっぴきならない事態くらいわかるだろうに。
    「いやすまん。珍しくまだ寝ているのかと思ってな」
    しかし三日月は悪びれた様子もなく小屋に入ってきた。
    手には大きな籠を持っている。タケノコだった。どういう経緯があったかは知らないが、三日月は新鮮なタケノコを手に入れたらしい。
    大包平は昼にまとめて夜分の米も炊くことにしているため、その研ぎ汁を目当てに早々に戻ってきたのだろう。
    三日月はタケノコを土間に置くと、水瓶から水を一杯とって口をゆすぎ、残った水で手を洗った。
    「よっこらせ」
    そして何を思ってか、大包平の座り込んでいる布団の近くまで堂々とやってきた。
    「……立派だな」
    「抜かせ」
    情けないことに、この事態になっても大包平の逸物は隆々としていた。つまり多少の驚愕では動じないくらい、溜まっているのである。
    「大包平には、こういう時の妄想のネタはあるのか?」
    「ジジィ、貴様まわりから無神経だと言われているだろう」
    「大包平だから聞いているんだ。いや、この事態だから聞いているとも言える」
    その気持ちはまぁ、わからなくもなかった。
    先ほど大包平がぼんやりとした想像に身を委ねていたように、三日月もまた同じくなのだろう。
    例えばもともと「こういう女が好き」「こういうことをされたい」という願望を持っていれば楽なのだろうが、大包平には特にない。目の前のこの刀もなさそうだ。
    同類あい憐れむ。大包平は正直に答えてやることにした。
    「妄想のタネは特にない。何かあればもう少し処理も楽になる気がするんだが……幸か不幸か、特定の興味がない」
    「やはりか。俺もそうなんだが……そのせいでこすってもこすってもなかなか出ない……」
    「そのツラで堂々とシモの話をされると複雑な心境になる」
    「生まれ持ってのツラだ、許せ。割と真剣に悩んでいるんだ」
    「悩んでいるのはわかるが、俺のナニを見つめながら話されても困る」
    三日月はしげしげと大包平の天に向かってそそり立つ逸物を眺めている。
    そのまま数秒の沈黙が流れた。そして。
    「待て待て待て、貴様、お前、なんで」
    「いや、人にされたら気持ちいいのではないかと」
    「それは……うッ……く、うぅ……一理、あると認めざるを得ないことに腹が立つッ…!」
    やおら手を伸ばし大包平の雄を掴んだ三日月が、その適当極まりない手つきに反して、絶妙な力加減でしごいてきた。
    初めは動揺の方が勝っていた大包平だが、溜まりに溜まった欲は実に現金で、込み上げてくる快美をこらえることができない。
    自分の手でしていることと大差ないのに、どういうわけか感じ方がまるで違う。
    こちらの呼吸や感覚をまるで斟酌してくれないせいだろう。しかしただそれだけで、こんなにも感覚が違うものか。
    大包平は腹から込み上げてくる我慢ならない感覚に、思わず首を振りながら息を吐き出した。
    「はぁ……はッ、ぁあ……貴様、本当に……」
    何を考えているんだと睨みつけると、思いもよらず三日月も頬を紅潮させていた。
    うっすらと目が潤み、大包平の様子に当てられていることが手に取るようにわかる。
    「お、前……はは、お前も、そうか……」
    「……仕方ないだろう。艶本だって、ろくに見たことがないのに」
    大包平がこんなにいやらしい顔でいやらしい声を出すとは思わなかったと、三日月はすねたような口調で述べる。
    あからさまな照れ隠しと、気まずそうに逸らされる目線がどうにも愉快に思われた大包平は、咄嗟に三日月の顎をすくっていた。
    「お前だって、ずいぶんといやらしい顔をしているぞ?」
    かすれた声でささやき、本能のまま口付けた。
    三日月は抵抗しなかった。それどころか、誘うように開いた唇に舌をねじ込んでも、嫌がるそぶりも見せなかった。
    初めて口に感じる自分以外の熱、湿り、柔らかさに、大包平は頭をくらくらさせた。
    三日月の口の中を舐めまわし、思うがまま噛んだり吸ったり好き放題する。
    それに対抗するように三日月の手もせわしなく動き、大包平の先端を指の腹で擦って射精を促した。
    ものの数分も持たずあっけなく射精した大包平だったが、それで満足できるわけがなかった。
    三日月の悪戯に乗っかる形で始めた行いは、いままで知らないうちに抑圧していた性欲をあっけなく解放させる。
    それは三日月も同様だったようで、どちらともなく衣服を乱し、相手の男根を握りしめながらぐちゅぐちゅと舌を絡め合って高め合った。
    二度、三度。どちらともなく手を止めた時には、正直なところ疲労困憊していた。
    大包平は寝起きで水も飲まないまま、三日月も朝早くから動き回ってのこの有様で、互いに息も絶え絶えになっていた。
    「不毛だ……俺は猿か……」
    「得たものと失ったものが等価な気がする……」
    出し切ってすっきりした下半身と、どんよりとした倦怠感。そして襲いかかってくる罪悪感に大包平がうなだれていると、三日月もがっくりと肩を落としてた。
    互いに目を見合わせ、疲れ果てているのにどこか艶を帯びた相手の肌を見て。
    二振はたまらず笑ってしまった。
    馬鹿馬鹿しいにもほどがある。ただけらけらと少年のように笑い転げ、乾いた喉で咳き込んで。
    水を飲んだり服や肌をきれいにして、一息ついたあとしみじみと三日月が
    「敵の襲撃がなくてよかった……」
    とつぶやくものだから、また二振で大笑いしたあと、笑い事で済むことかよと青ざめた。
    それから、二振はいわば共犯関係にある。
    自分が天下五剣と、ましてや三日月宗近と、と思うといまだに不思議な感覚があるのだが、一方で妙にしっくりくるものがあるのも確かだった。
    このままの関係が続いていくのだろうか。そう思っていた矢先に、件の大侵冦が起こり、三日月は修行へと旅立っていった。
    極となった三日月にどういう想いを抱けばいいのか、大包平はいまだに決めあぐねている。
    それは三日月の問題というより、自分自身の問題であることを、大包平は誰に言われるまでもなく承知していた。
    共に出陣しながら、隣を歩む三日月の横顔を盗み見る。
    浮かんでいるのは本丸で出会った時と変わらない笑みだった。しかし、受ける印象はまるで違う。
    かつての三日月は、雲の隙間からこぼれる儚い月の光のようだった。
    決して弱い刀ではないし、その柔軟であるが故の強さは、共に出陣する中で重々承知している。
    だが魂はどこか遠くにあるようで、その手を引いて地上へと引きずり下ろせない自分に大包平は苛立ちすら覚えていた。
    それがいま、燦然と輝く満月のような光を放っている。
    振るう刀も、以前より軽やかになった気がすると、出陣してからここまでの戦いを振り返って大包平は思った。
    「ふむ、先に行かせてもらう」
    「は?」
    三日月の晴れやかな笑みを見ていたら、突然何かを言われた。
    何か言われた、と思った時にはもう、三日月は馬で遥か先へと駆け出していた。
    「なッ!おい、貴様!」
    部隊長は三日月でも大包平でもない。最近本丸にやってきた笹貫が、新人教育の一環で部隊を任されている。笹貫と言えば「やる気だねぇ」とのんびり構えており、大包平だけが放たれた矢のように飛んでいく三日月に面食らっていた。
    「とってきた」
    敵部隊に突っ込んだと思ったらそのまま取って返してきた三日月の手には、敵主将の大太刀と思しき首級があった。
    それは、すぐにざらりとした灰となって宙に消える。
    「わかってはいても、虚しいものだな」
    俺たちも同じか。三日月の目に哀れみはない。
    己もいつかこうなる。敵も同じだ。どちらかが幾分か早いだけに過ぎない。
    恨んでくれるなよ。
    そう三日月が言った気がしたが、笹貫の発した出陣の声にかき消された。
    「さてと……テイクオフ!」
    「……いやどこに」
    大包平は一瞬ぼやいたが、敵と味方、双方の立てる蹄の音にまぎれる。まぎれてくれてよかった。別に揶揄したいわけではない。
    「貴様、大将首を狙うなど小癪な奴だ」
    むしろ一言申したいのはこちらの刀に対してだ。大包平は刀を振るいながら、隣で戦う三日月を睨みつけた。
    三日月が大将をとったおかげて、敵方はやや形勢を崩している。労することなく、この戦いは決着するだろう。
    「狙うなら大将だ。違うか?」
    「違わないが……クソ…!」
    「羨ましいなら、お前も修行に出ればいいさ」
    三日月がにんまりと笑った。嫌な笑い方だ。
    「俺はそんな……」
    「軟弱な刀ではない、か?……はっはっは、難儀なことだ」
    敵と刃を交わしながら、幾分か余裕のある二振りは言葉で応酬した。
    まだ経験の浅い笹貫は見ていて危なっかしいが、まぁ自分達がいればこの程度の戦場は問題なかろう。
    そして間も無く、戦いはこちら側の勝利で終わった。
    「はぁ……二人はさすがだね」
    息が上がっている笹貫に対して、大包平も三日月も平静のままだった。
    「大丈夫か。無理はするなよ」
    声をかけながら、大包平は心の半分で考え込んでいた。
    三日月の先制攻撃のおかげで、敵が体勢を崩したことは間違いない。何より、振るうその刃に迷いがなくなった。
    周囲と一線を画した位置からものを見ている癖に、他と自身の存在の間に境界線がない。そんなちぐはぐだった三日月の内面が、武人として一本の筋を持った。
    覚悟とも言うべきか。
    それが大侵冦の結果なのか、あるいは修行の成果なのか。おそらくは両方だ。
    つまり、どちらか片方でも欠けていたら、三日月宗近はこのようになっていない。
    「大包平、どうかしたか?」
    進軍を笹貫が告げていたが、反応が遅れた。三日月に促されて、大包平は慌てて馬首を巡らせる。
    「……すまん。少し考え事だ」
    「構わんが、笹貫のお守りを忘れるなよ」
    「三日月さん、お守りはないでしょ、お守りは」
    「はっはっは。早く独り立ちするんだな」
    独り立ち。その言葉が妙に重たかった。
    今の自分は、独りで立てているのだろうか。
    この刀の隣に立つ刀として、ふさわしい己であろうか。
    今の自分は、自分が思うほどに完璧なのだろうか。

    そうして大包平は、修行に出た。

    *

    「というのに、なぜお前はそんな素っ頓狂な顔をしている」
    自分が修行に出るきっかけになった刀。日常的に肌を合わせている相手。間違いなくこの本丸で、一番近しい関係にある男。
    より磨きをかけた姿を、主に次いで見せに行く相手として当たり前だろうと、大包平は顔をしかめた。
    「いや、別にお前を軽んじたわけではない。だがてっきり、他の刀に元に行くだろうと思っていたから……」
    「他の刀だと?誰だ?」
    まぁいい、入れと、三日月に促されて部屋に入る。
    すっきりと片付いた和室だが、修行前と比べて物が増えた。
    大包平が以前に贈った茶器が飾られ、主が初の誉の褒美に与えてくれたという花瓶には野の花が生けてある。おそらく誰かがつんできた花なのだろう。
    二、三個のビー玉、千代紙で折られた小さな金魚、つやつやのどんぐりが、艶やかな漆の平皿に転がっている。
    ほかからもらった物を、こうして目につく場所に飾るようになったのも、修行の末に心構えが変わった結果なのだろう。その中に、自分が贈った品が含まれていることを、大包平は密かに誇っていたのだが。
    「いや、こういう時はてっきりもっと近しい……兄弟や同じ刀派の仲間や……思い入れの深い相手の元に行くものだとばかり思っていてな」
    「お前は早々に俺の部屋に来たじゃないか」
    ばっさり切って捨てると、三日月は気まずそうな顔をした。
    「……浮かれていたんだ」
    「浮かれていたら俺の部屋に来るわけか。ほほう」
    気分がいいな。大包平はどっかりと腰を下ろしながら口角を上げる。
    「俺の旅は長かったし……」
    「それを言うなら、それこそ久々の再会で兄弟の元に行くもんじゃないのか」
    何より、三条派は仲が良い。部外者である大包平が見ていてもそう思う。
    粟田口のように統率の取れた派閥というよりも、互いに気遣いながらも踏み込みすぎない、古き良き友人同士の関係を築いていると感じている。
    大包平と鶯丸も、決して不仲ではないし気安い関係ではあるが、三条派にはまた少し違う距離感があった。
    「まぁいい。それで?修行を終えた俺はどうだ」
    両腕を広げて誇らしげに告げると、三日月は気まずそうだった顔をわずかにほころばせた。
    「……なかなかだが、切れ味が分からんからなぁ」
    意地の悪い答えだ。しかしそんな軽口に動じたりなどしない。
    「切れ味は明日にはわかる。主に頼んで組ませてもらった」
    「なんと。それは楽しみだ」
    世辞ではないとわかる。にこにこと嬉しそうにする三日月を見て、大包平も頬をゆるめた。
    「楽しみはそれだけか?どこがどう変わったか……確かめたいことは他にもあるだろう」
    大包平はそう言って三日月の手を引くと、自分の方に引き寄せた。
    「武具はいままでとさして変わらないが……襟の開け方はどうだ?手甲の外し方も、お前のものとは違うぞ?」
    顎を上げて襟元を見せると、三日月がふわりと頬を染めた。
    「どうして俺が……」
    「わからないと困るんじゃないか?俺はお前を脱がすことなどたやすいがな」
    そう言って、大包平は三日月の帯飾りをあっさりとほどいた。
    「お、大包平……」
    「お前はむしろ脱がしやすくなったな。気を遣ったのか?」
    「そんなわけなかろう!別に……そういうつもりで紐を増やしたわけではない」
    「どういうつもりだ?脱ぎ着を容易くするためじゃないなら……そういう趣味でもあったか?」
    「どういう趣味だ…!大包平は無駄口の修行でもしてきたか?」
    「お前こそ、そんな可愛げのないことを言ってくれるなら、黙って俺のやりたいようにするぞ」
    肩から垂れる紐を引いて当世袖を落とす。もちろん、床に激突させるような真似はしない。片手で受け取りながら、もう一方の手はすでに大袖を留めている紐をほどいていた。
    「……見事な手際だ」
    俺がやるより早いと、艶っぽい雰囲気から一転、心底から感心した声を三日月がこぼした。
    「脱がすのも着せるのもさんざんやったからな」
    「黙るんじゃなかったのか?」
    三日月は言い返しながら、観念したのか対抗心を燃やしたのか、大包平の具足を外し始めた。
    今までと同じだったところはやすやすと、しかし変わったところは案の定、もたついている。
    だがそれを手伝うことはなく、大包平はにやにやしながら三日月の様を堪能した。
    堪能しながらも手を止めることはなく、あれよあれよという間に三日月は襦袢一枚に剥かれてしまう。
    三日月もそれなりに善戦はしており、装具は外れたしベルトも外れた。新しくあつらえた陣羽織を模した上着も、どうにか脱がすことができた。
    だが襟元につけた蝶の金具を外したところで、合間合間にあちこち触られていた三日月は、大包平を脱がせることを諦めたようだった。
    「んん……ちょっと、お前、ずるいぞ……」
    「なにがだ」
    三日月を背後から抱き止めて、腕の中に引き込む。そのまま襟元に手を突っ込んで薄い胸板を揉みしだいた。
    大包平よりもよほど薄いそこは、修行に行っても特に変わることはなかった。
    自分の触り慣れたそれが変わらなかったことに安堵する一方、何度触っても心配になる。
    この刀の腕力を知らないわけではないが、やはり見た目の薄さは心をざわつかせる。
    しかし、長い修行の旅の間、この揉み甲斐のない胸板を懐かしく思っていたことも事実だった。
    「この体勢では……俺が何もできない」
    「本気で動けばいいだろう。力が入ってないから何もできないんだ」
    「それは……だって……お前が触るから、あッ、ん…!」
    指先に当たった小さな乳首を、欲に任せて強くつねると、三日月は小さな声をあげて身をよじった。
    「そもそもこんな……帰った矢先になんで俺となんか……」
    「当たり前だろう、お前にとっては三日だが、俺にとってはよほど長い年月だ。それはお前だって経験してるだろうが……」
    大包平は三日月の顎に手をやり、自分の方に顔を向けさせた。
    逃れるように俯いていた三日月の、濡れた目が大包平の方を向く。
    相も変わらず、おぞましいほどに美しい。
    涙が張った朝ぼらけの瞳は、どこまでも沈んでいける静謐な湖のようにも見えた。
    その清らかな色彩に浮かぶ情欲の甘さと、隠しきれない困惑の気配に、大包平はふと何かひらめいた。
    「三日月……お前、ひょっとして俺との仲を特別なものだと思ってないのか?」
    「え……いや、そんな……そこまででは……」
    「そこまででは、ということは、やはり少しはそう思っていたということだな?」
    「揚げ足を取るな」
    「はぐらかすな」
    大包平が言い切れば、三日月は居心地悪そうに身じろぎする。
    それは確かに三世を誓った仲というわけではない。約束事もしていない。
    それでも数年にわたって日常的に肌を重ねてきたのだ。互いに、他に相手がいるわけでもない。
    そんな関係をこうも軽んじられるのは、さすがに少々、いやかなり気に障った。
    「なるほど、操を立てていたのは俺だけだったというわけか。この大包平を弄ぶなど、三日月宗近は酷い刀だ」
    「俺だって、別に他の刀とこういうことをしていたわけではない……」
    「だが、俺との仲をさしたるものとも思っていなかったんだろう?」
    そう言いながら、大包平は三日月の胸から腹へと手を滑らせた。
    襦袢を留めている腰紐は緩んでいる。隙間から指を差し込み、際どい部分を焦らすように撫でると、三日月は切なげな息を吐いて「大包平が意地悪くなって帰ってきた……」とぼやく。
    「俺がそんなつもりではないことくらい、わかっているくせに」
    「どんなつもりでいたかはわかっていないぞ」
    「どんなつもりもなにも……ただ、割り切った関係だと思っていただけだ。実際、お前だってそうだろう?」
    「ああ、そうだ。そう言い聞かせていた」
    「……え?」
    大包平の返答が意外だったのだろう。三日月が不意に振り向いた。
    その子供のような表情を、大包平は真摯な目で見返す。
    「お前との関係は割り切ったもので、情はない。まして愛も恋もないと、俺は懸命に自分に言い聞かせていた」
    三日月の目が、それこそ満月のように丸々と見開いた。
    いつも重たそうな瞼とまつ毛に隠れた目が、こうもくっきり見えるものかと、大包平はまじまじと見入る。
    三日月は大包平を見返しながら、猫のようにゆっくりとまばたきをした。
    そしてふわふわと、花が咲き染まるように頬を赤らめる。
    赤みが耳の先まで広がったあたりで、三日月はぎこちなく目線を外してそっぽを向いた。
    何か言いたげに唇が開いては閉じるが、結局は何を言うこともなくうつむいてしまう。
    なんと初々しいことか。
    大包平は三日月から見えないのをいいことに、好き放題に顔をにやつかせた。
    浮ついた心のまま、大包平は三日月を抱きすくめると耳元に鼻先を埋める。
    ほのかに香る甘い肌の匂いを愉しみながら、耳の裏や耳たぶに音を立てて口づけを落とす。
    手は再び三日月を求め、形をなぞるようにねっとりとした動きで這い回る。
    「ふぅ……ふ、う……」
    三日月の唇の端から、こらえきれない息がこぼれ出す。
    覗き込めば目元は赤く、薄い桜の唇は頼りなげにわなないていた。
    感情と情欲の高まりを感じる。大包平はそれに煽られるように気を昂らせ、手で舌で、思うままに三日月に触れた。
    「お、大包平……そんな、お前……」
    少し待てと三日月が言うが、聞いてやるつもりはない。
    「お前が俺をどう思っているのか言わない限り、やめてやるつもりはない」
    「どうして……」
    「お前には随分と振り回されたからな。意趣返しだ」
    言い放つと、大包平は三日月の顎を掴んで振り向かせ、深々と唇を重ねた。
    肉厚な舌で唇を割り、苦しいほどに舌を絡め合う。
    その間に三日月の腰紐を解き、前を開いて火照る肌を夜気にさらした。
    自身の上着もシャツも脱いで床に放ると、そのまま三日月を床に押し倒す。
    見上げてくる目に宿るのはこらえきれない期待の念で、ぞくりとわななく背筋に大包平は思わず品なく舌なめずりをした。
    修行から帰ってきてからの三日月はなかなか奔放で、ここ最近は振り回されてばかりだった。
    久々に目にしたしおらしい様子に、大包平は気持ちよく理性のタガを外す。
    「待て、そんな……あちこち一度に……」
    「好きだろう?ここも、ここも……」
    「んぅ、あ、あッ……す、好きだが、一度にされると……」
    三日月の声が涙交じりになる。それなのに両手はしっかりと大包平の背中に回っているし、足は甘えるように大包平に擦り寄ってくる。
    硬い太ももを撫で上げて、そのまま腰を伝って尻を強く揉む。浮かんだ腰に誘われるように尻のはざまをなぞり、控えめなすぼまりを指先で撫でた。
    触れるや否や、きゅうとすぼまって期待をあらわにするそこに、大包平は喉奥で笑う。
    「驚いていた割に、ちゃんと綺麗にしているじゃないか」
    「それは……習慣のようなもので」
    二振それぞれ出陣や遠征の予定があるため、三日月はいつこういうことになってもいいようにしていた。
    人間であれば身体の負担が気になるところだが、もとより頑健に創られているこの器は、それくらいではびくともしない。
    とはいえ、大包平が修行に出ている間は準備などしていなかっただろう。
    今日この日に合わせて、来るとも来ないとも確信のないまま、三日月がそれでも自分が訪れる可能性のために備えていたことは、大包平を少なからず喜ばせる。
    込み上げる愛おしさのまま深く口付け、優しく柔らかさを帯びた菊穴を指先でなぞる。
    「……精油がいる」
    昂る感情の一方、さすがにこのままねじ込むわけにはいかず、大包平は名残惜しそうに三日月から身を離す。
    いつもの置き場所は変わっていなかった。小さなひきだしから潤滑油を取り出すと、掌で温め指に馴染ませる。
    「ふ……う……」
    「お前にとっては三日、か……」
    指先に覚える柔らかさは、自分がよく見知った感触だった。
    本丸の内と外の時間の流れの違いはもはや慣れたものだったが、今回についてはいささかの感慨があった。
    「俺にとっては……長かった。お前も知っている感覚だろうがな」
    潤滑油に任せて、指を深く潜り込ませると、三日月がか細い声を口の端からもらした。
    慰めるように頬や額に口付けながら、長い禁欲からの解放に、はやる気持ちを抑えきれない。
    「……大包平」
    眉間に深い皺を刻み、どうにか自制を働かせようとしていると、三日月の柔らかな声が聞こえた。
    思わず目を向けた先には、熱に蕩けた目と、可憐にほころんだ唇があった。
    三日月は大包平の頬に数度、口付けを落とすと、
    「我慢するな……俺は、強いぞ?」
    と笑う。
    「お前がまたこうしてくれて、嬉しい……」
    己と向き合った先に、ちゃんと俺がいたんだなと、恥ずかしげに言う三日月に、答えはもらったと、大包平は思う。
    自身の気持ちを答えたら手加減すると、そう約束したが、どうも守ってやることはできなさそうだ。
    つい荒っぽくなる指遣いに三日月は身をくねらせるが、より一層強く大包平にしがみついてくる。
    「あッ、あ、そこ……強く、すると……んんッ、ぅん、で、出そうになる……」
    「たくさん出す方がいいか?それとも我慢するか?」
    「だ、出したい……が、指より、こっちがいい……」
    三日月は大包平の腰に脚を絡めると、下肢と下肢をすり合わせる。
    ぶつかり合った怒張はいずれもすでに先端を濡らしており、にちにちといやらしい音を響かせる。
    「そう、か……なら、もう少し柔らかくなるまで我慢しろ」
    「嫌だ……欲しい、挿れてくれ、平気だ」
    震える声で言い募る三日月を、跳ね除けられるほど大包平は冷静ではなかった。
    がばりと身を起こすと指を引き抜き、三日月の太腿を掴んで大きく開く。
    ひくひくと収縮を繰り返すそこをあらわにさせ、血管を浮かせた雄をそこに押し当てた。
    手で支える必要はなかった。
    これ以上ないくらい張り詰めたそれは、先端を押し当てただけで三日月の中にゆっくりと沈んでいく。
    まだきつかった。だがそのきつさすら、大包平には三日月の心の証のように思われる。
    「あぅ、くッ、ふぅ……」
    三日月は背中を丸めながら、苦しげに顔を歪めた。
    その顔も、汗ばんだ肌も、染まった乳首も、全て大包平の眼下にある。
    ずぶずぶと、ゆっくりとだが確実に隘路を押し開いていく己の様に、大包平は思わず大きく胸板を上下させる。
    全身を包まれているような気分だった。
    繋がるそこを、三日月も唇を噛みながら見つめている。言葉はないが、きっと同じことを感じていると、大包平は確信した。
    「あぅ、あ……あぁあ、な、がい……ああッ、あ……奥まで、奥……なか、すごい……」
    三日月がうわ言を漏らす。大包平が腰を進めるたび、反り返った三日月の陰茎が先端から先走りを飛ばした。
    まき散ったそれが三日月の腹を汚す。飛沫をなぞるように下腹部を撫でると、三日月の喉が引き攣ったような声を上げた。
    手の位置を下げ、軽く押さえつける。この奥に己が埋まっている。
    鍛えられた筋肉にはばまれ、自身の感触はさすがにわからないが、狭い中がより一層狭くなるのを感じた。
    自分が押したからだけではあるまい。乱暴な扱いに、三日月は被虐的な快楽を得ているようだった。
    「お前……本当に手に負えない奴だな」
    「なんッ、なに…?お、俺が…?」
    「そんなツラで、こんな扱いを喜ぶなんぞ、並の男なら道を踏み外す」
    いや、俺もそうかと思いながら、大包平はわざとらしく三日月に乳首をきつく摘んで引っ張った。
    「あんッ、は、ぁあ…!」
    「また締まった……もっとされたいか?」
    「ひッ、あ、それ……だめ、だ、め……な、中、される前に、出る…!」
    「尻どころか乳首でイクのか?俺の知らないうちに、随分といやらしい身体になったな」
    出したくないなら、こうしてやると、大包平は三日月の陰茎の根元を握った。
    小指で根元をきつく締めながら、伸ばした親指で濡れた先端をこする。
    尖った乳首はこすり、つまみ、引っ掻き、その度に三日月は甲高い声を上げてのけぞった。
    まるで、もっとしてくれと言わんばかりの姿だった。
    そうしながらも大包平の腰はしっかりと前に進み、間もなく根元まで収まった。
    最後はいささか強く、最奥に叩きつけるように突き出すと、大包平の手の中で陰茎がびくびくと跳ね上がった。
    締め付けていなければ、出ていたのだろう。しかし叶わなかった。
    達するに達せなかった三日月は、はぁはぁと息を荒くしながら懇願する。
    「い、いやだ、もう……もう、外して、手、いいから……」
    「出したくないと言ったり、出したいと言ったり、わがままな剣だな」
    そう言いながら、首に縋り付いてくる三日月を抱き止める。
    手を離した代わりに三日月の背中に手を回し、自分から離れられないように閉じ込めた。
    そのまま、腰を揺さぶって三日月の中をかき回す。
    「いぃうッ、ひ、ぃい、あぁあ…!」
    逃げ場のない三日月は、一方的に大包平に蹂躙される。
    背面は床、大包平の腕に抱き止められ、身をよじることもままならない。
    責め立てられながら、その身体が苦痛よりも快楽を覚えていることは、大包平を包む場所が教えてくれる。
    波打つように激しく収縮しながら、引き抜こうとするとすがるようにきつく締まる。
    陰茎の先端からは止めどなく先走りがこぼれ、大包平の腹を湿らせる。
    生ぬるいそれを感じながら、大包平は夢中になって腰を振った。
    官能に溺れ、意識を朦朧とさせ、全身で三日月を求める。
    少しでも隙間ができるのを嫌うように、抱き締める力は強くなっていく。
    肌を密着させながら、それでも足りないと唇を求め、獣のように歯を立てた。
    三日月もまた、それに応える。
    過度な刺激に顔を歪めながら、自ら口を開いて舌を伸ばした。
    「もう、もう……あぁあッ、あ、ひぅう、いやだ、うそ……ま、まて、出て、いま……あぁああッ…!」
    「俺は、まだだ……まぁ、出しても、抜く気はないがな」
    「そんッ、ん、んん…!んぁ、あッ」
    大包平の腕の中で、三日月の身体が大きく跳ねた。下腹部に濡れた感触がする。
    だが大包平は止まることなく、三日月の中をずぶずぶと突き上げた。
    間もなく出そうだ。我慢するつもりはない。元より、一度や二度でおさまるものではないのだ。
    かつて最初に触れ合った時はともかく、いまは本丸。幾度交わって疲労困憊しても、他に信頼のおける仲間がいる。
    もっとも、より磨かれたいまとなっては、正に敵が襲いかかってこようとも対処できる自信があったが。
    「出す……出るぞ…!一番、奥で出してやる……お前の中を、汚すぞ…!」
    口走った内容に、大包平は歪んだ興奮を覚えた。
    美しい刀、清らかな刀。
    これの一番深い場所を染めるのは自分だ。
    ぶるりと胴震いしながら、大包平は宣告通り腰を押し付けながら射精した。
    久方ぶりのそれは、頭が真っ白になるほど気持ちがいい。
    出している最中も三日月の隘路はわななき、熱い肉壁に締め付けられるたび、精液が噴き上がる。
    収まりきらなかった白濁が、結合部から溢れて床に落ちた。
    ぬめる感覚を覚えながら、大包平の雄はすでに勢いを取り戻しつつあった。
    容赦なくこすられて過敏になっている隘路を、大包平の怒張がみしみしと中から拡げていく。
    「あぁ、あぅう……なか、おおきい、ばか、ばかぁ……」
    「中から圧されるの、好きだろう?」
    「そ、そういう、問題では……」
    「気持ちがいいなら、大人しく喘いでいろ」
    汗に濡れた前髪をかき上げながら粗野に笑うと、三日月は目を潤ませた。
    「そんな寂しいことを言うな……ちゃんと可愛がれ」
    「可愛がってるだろうが。少し酷くされるくらいが好きなくせに。だがまぁ……甘やかすのも悪くないな」
    拗ねて見せるのも手管の内。だがその術中にはまってみせるのもまた、愉しみの内だ。
    大包平は小刻みに腰を打ち付けながら、三日月にしつこいくらい口付けた。
    頭から頬から撫で回し、砂糖菓子をついばむように唇を吸う。
    しかしその間も、下肢は動きを徐々に激しいものにしていった。
    繋がりあった場所から肉と肉がぶつかる音がするようになった頃には、三日月はただ泣き喚くことしかできなくなっていた。
    この無力な様が愛おしい。
    大包平は込み上げてくる感情のまま、角度を変え、体位を変え、あらゆる方法で三日月を味わった。
    肌も、声も、向けられる目線も、なにもかもが心地よい。
    長きにわたる修行の果てを、大包平は三日月の元で終えた。



    「酷い目にあった」
    「悪かったと言ってるだろう」
    「あんなに可愛かった大包平が、可愛げを修行先に落としてきて、俺は悲しい」
    「なんだそれは……」
    前の晩に散々睦み合っていた二振りだが、それでも翌日の手合わせには元気よく参加をしていた。
    互いの切れ味を知れる機会だ。疲労など感じている場合ではない。
    木刀で容赦なく打ち合い、大包平は確かに自分が変わったことを理解した。
    むしろ、今までの自分がいかに稚拙であったかを思い知る。
    いや、稚拙とは違う。傲慢だったのだ。己の力を過信していた。
    確かに自分は強い。しかしだからといって、戦車のようにただ突っ込めばいいというものではない。
    時に引き、時に出る。その緩急があってこそ、自分の打撃は意味を持つ。
    かつては引けば負けだと思っていた。しかし違う。勝敗は攻めと守りの果てにあるもので、引いた先に勝ちを拾うことは不名誉ではないのだ。
    その心を持って挑めば、いままでは見えていなかった動きがよく見える。
    まだからめ手を使えるほどではないが、やがてはそういういやらしい戦いを試してみてもいい。
    技巧に偏った戦いは横綱らしくないと思っていたが、自分はいま戦場にあるのだから、星を挙げることこそ己の役割である。
    そう肝を座らせてしまえば、いままで苦手でしょうがなかった三日月の剣技も怖くはない。
    最初の一本は大包平がとった。
    次は三日月。
    その次も三日月だったが、最後は大包平だった。
    汗みずくになった二振りは、昼を告げる鐘の音を合図に引き分けを受け入れた。
    「いい腕だった」
    「そうだろう」
    「が、あっちはまだまだだな」
    「なッ…!ど、どのあっちだ、どの!」
    真っ先に頭を駆け巡ったのは昨夜のあれこれで、しかし周りには他の刀や様子を見に来た審神者もいる。
    一瞬にして頭の沸騰した大包平は、動揺に任せてつい素直に口走ってしまった。
    「い、いや、経験だ!経験ばかりはどうにもならん……。少なくとも、俺はまだまだ成長する!」
    「はっはっは、楽しみだな」
    なるほど昨夜の意趣返しかと、大包平は顔を赤くして三日月を睨みつけた。
    「ふむ、そうしている方が愛らしいぞ」
    「俺に愛らしさは必要なかろう!」
    きゃんきゃんと言い合いながら、二振りは道場を後にした。
    「……なんだか、仲良くなってる?」
    見送りながらぼそりとつぶやいた審神者に、いやぁ、前からですねとは言えない刀たちが、気まずそうに顔を見合わせたのだった。












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    2022/11/03 23:19:57

    毎月三日は大包三日の日【11月3日】

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    #刀剣乱腐 #三日月宗近 #大包三日 #大包平 #毎月03日は大包三日の日 #大包三日の日
    極修行を終えた大包平が極三日月さんといちゃこらさっさするだけの話

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