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    野良猫への想い


    次の日の朝。
    結局部屋に戻ることのなかったシオンがいるであろうセヴェンの眠る部屋を、朝食を済ませたアルドとシエルが訪れた時のことだ。
    2人は見てしまった。
    一つの狭いベッドに寄り添い合いながら眠る、シオンとセヴェンの姿を。
    この場にポムが居なくて良かったと、アルドが心底思ったのは無理もないだろう。

    「アルドお兄ちゃん」
    「な、何?」
    「これって、シオンさんが夜這いしたのかな?」
    「ゲホッ!?」

    アルドは思わず噎せた。
    弟のような可愛い少年は、突然何を言い出してくれるのか。
    それは断じてない…筈だ。
    シオンは誰もが憧れる程の漢気と強靭な精神を持っている。(理性も鋼のように硬そうだ)
    寝込みを襲う様な真似など、決してしないのではないだろうか。
    あくまで、アルドの想像なのだが。
    否、それは一種の願いでもある。

    「失礼しまーす」
    「お、おい、シエル!それはいくら何でも…!」
    「ポムさんが来るのも時間の問題だよ、アルドお兄ちゃん!」
    「うっ、それは…っ」

    分かっている。
    一番見られてはならない厄介な相手よりも先に、事実確認をするなら今しかないことを。
    やけに興奮気味なシエルが、それでもそろそろと2人をすっぽりと覆う毛布を捲っていくのを、アルドは息を飲みながら見守った。
    どうか、セヴェンが服を着ていることを願いながら。



    野良猫への想い



    宿が貸し出してくれたシャツの色を見た瞬間、アルドは心の底から安堵した。
    セヴェンの頭の下や背中に回されたシオンの腕は、この際気付かないフリをして。
    気持ち良さげに眠る美男子2人は添い寝をしていただけという結果で、この件は終了だろう。
    つまらないとシエルは頬をぷくりと膨らませたが。
    一体何を期待していたのか。
    アルドは苦笑を浮かべながら、人がいるというのに珍しく目を覚まさないシオンの、心なしか疲弊した様子の寝顔を静かに見守った。
    本当はセヴェンの様子も確かめたかったのだが。
    寝苦しくはないのか、青少年の顔は見事に青年の首元に埋まっている。
    微かに耳を赤くして。

    「え?セヴェン、もしかして起きて…」
    「…だ」
    「へっ?」
    「…や、だ」
    「え!?どうした?大丈夫か!?」

    何故、肩を震わせているのだろう。
    まだ具合が悪いのかと、アルドはセヴェンの肩をグッと掴み、軽く揺すった。
    こちらを向かせることは残念ながら、シオンの腕の力が緩まないので叶わないが。
    それどころか、セヴェンの顔はどんどんと逃げる様に男の首元へ埋まっていく一方だ。
    流石に様子がおかしすぎる。
    添い寝を見られて恥ずかしいのならば、シオンを突き放そうともがくだろうに。

    「あ、アルドお兄ちゃん!」
    「シエル!?どうしたんだ、そんな大きな声を出して…」
    「これ!」
    「…な!?」

    『風邪薬と一緒に、惚れ薬も投与しました。 愛の伝道師 ポムより
    P.S.シオンさんには強めの睡眠薬を処方しましたので、休ませてあげて下さい』

    なんということだ。
    既に、彼女の毒牙(?)が回っていたとは、誰が予想出来ただろう。
    現在、時刻は朝の9時。
    一足遅かった。
    最後の『休ませてあげて下さい』という文言が、少々気になりはしたが。

    「これって、シオンに惚れてる…のか?」
    「残念だったね、アルドお兄ちゃん」
    「何でだよ!」

    「べ、別に悔しくなんてないんだからな!」などと言っている場合ではない。
    セヴェンは今、シオンと引き離されることを拒絶しているのだ。
    普段の彼ならば、天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。
    薬のせいとはいえこんな状態になってしまったのだから、無理強いなど出来ないが。
    ここは、シオンが起きるのを待つのが得策か。

    「セヴェン、起こしてごめんな?オレ、少し人に会ってくるから、まだ寝てて良いぞ」
    「うん。…ありがと」
    「ど、どういたしまして」

    嗚呼、調子が狂う。
    惚れ薬と間違えて、素直になれる薬でも投与されてしまったのではないかと。
    そうなると、シオンに恋をしていることとなるのだが。
    そんな訳ない筈だ。
    アルドは思わず、目眩に襲われる。
    厄介なことになった、と。
    何故、惚れ薬をセヴェンに投与してしまったのか。
    昨日彼が赤面し倒れた原因は、シオンの紳士的な行動ではなく、あくまで風邪の症状なのだ。
    セヴェンの性格上、照れも少しはあったのだろうが。
    女の…愛の伝道師の考えはなんとも理解しがたいものか。
    今、無理に好き合ったところで薬の効果はいずれ切れるというのに。
    その時、色々な意味でショックを受けるのは間違いなくセヴェンだろう。
    ならばせめて、シオンが目覚める前に治療薬を手に入れなければ。
    一人決意したアルドは、部屋を飛び出した。




    正にアウトオブ眼中。
    周囲へ常に気を配る兄の様な存在が自分を置いて駆け出す様子を、シエルは唖然と見つめることしか出来なかった。
    まさか、取り残されるとは。
    アルドの気配がなくなることを待っていたのだろう、ようやくシオンから離れようともがき出したセヴェンとシエルは今、二人きり。
    それも、残念なことに気付いて貰えていないパターンである。
    どうやらアルドだけではなく、セヴェンにとっても彼はまさかのアウトオブ眼中らしい。
    これには流石のシエルも若干肩を落とした。
    自分は今、室内のインテリアの一部にしか過ぎないのか、と。
    余程強い睡眠薬を投与されたのだろう、腕の中の男が身じろいだところで夢の中にいるシオンのことが、あまりにも気掛かりというのもあるのだろうが。
    相変わらず疲弊した様子は解消出来ていなくとも、随分と彼の寝息は穏やかだ。

    「むしろどこか幸せそう?」
    「っ!?」
    「ごめんね、アルドお兄ちゃんに置いてかれちゃって暇なんだ」

    猫があまりの驚きで弾ける様にジャンプするのと同じくらい、ビクリと大きく跳ね上がるセヴェンの肩。
    その様子を見ると、声を掛けたのは失敗だったのだろう。
    お邪魔虫はさっさと退散した方がきっと、もっと彼も甘えやすいに違いない。
    そう分かってはいるのだが。
    こんなレアな光景を脳内に焼き付けないことなど、シエルがする筈もなかった。
    ポム程ではないが、誰かが恋をしているというのは、素晴らしいことだと彼は思っていた。
    人類の神秘であり、奇跡とも呼ばれるモノ。
    それが年も近いにも拘わらず、恋愛にはどこか興味の薄れていそうなセヴェンがというのなら、尚更応援もしたくなるだろう。
    だからこそ、シオンの腕の中で固まってしまった彼に罪悪感を抱きつつも、シエルの視線が2人から外れることはなかった。
    そもそも、おかしいのだ。

    「本当は添い寝してたから、ポムさんに薬盛られちゃったんでしょ?」
    「…っ」
    「薬がなくても、ドキドキしてたんだよね?」

    ポムは何だかんだで節度を弁える女性。
    全ての愛を真摯に受け止め、見守る彼女は少なくとも、面白半分で惚れ薬を提供するような人間ではなかった。
    つまり真実は、セヴェンの気持ちを察したポムが手助けをしたのではないのか。
    慌てていた、それも薬の被害をその身で経験したことのあるアルドは、そんな見解など持ち合わせなかったのだろうが。
    刀を振ることしか能がないと自称するような男であるシオンの、自重のない大胆な行動にいたいけな青少年は、心を揺さぶられてしまったのだろう。
    一体いつ何をされたのかは、非常に気にはなってしまうところだけれども。
    詮索のしすぎは褒められたものではない。(ポムには死ぬ程頭を撫でくり回されるだろうが)
    ぎこちなくこちらへと向きを変えようとするセヴェンを、シエルは静かに見守った。
    無論、にこにこと裏の無さそうな可愛らしい笑みを浮かべながら。
    実際、からかうつもりなど始めから微塵もない。
    ただ、目の前で彼が幸せになってくれるのであれば。

    「ボクで良ければ、話を聞くよ?」

    心なしか潤んでいる美しいアメジスト色の瞳を見つめ、シエルは緩む頬を抑えないまま左手を差し伸べた。
    先ずは、悩める青少年の体を自由にする手助けをする為に。





    一方、宿の中やその近くにポムの姿はなく、トボトボとセヴェンの部屋に戻ったアルドは、呆然と立ち尽くす羽目となった。
    ベッドには病人であり、現在は正常な思考を持ち合わせてはいない青少年…ではなく。
    睡眠薬を投与された筈のシオンが、項垂れながら正座をしていたのだ。
    まるで懺悔をしている最中の様に。
    自分が部屋を出てから、もうすぐ1時間。
    ずっとそうしていたのだろうか。
    そして未だ万全ではないであろうセヴェンは、混乱のあまり置いていってしまったシエルは、一体どこへ。
    まるでこの世の終わりだとばかりの雰囲気を醸し出すシオンに、それを聞き出す勇気がアルドは振り絞れない。
    それだけ男は、こちらが緊張してしまう程の面持ちなのだ。
    幸いなことに、先に口を開いたのは彼の方だったが。

    「アルド、か」
    「えっと…、おはよう」
    「…私は、煩悩を捨てきれなかったようだ」
    「一体何の話だ!?」

    人の挨拶に珍しく反応しないどころか、突如訳のわからない告白を洩らしたシオンに、アルドは再び混乱する。
    無理もない。
    普段はいかなる状態においても冷静沈着であるこの男こそが、こういう時は落ち着けと自分を真っ先に宥めてくれるのだ。
    彼の妹曰く、化け物の様な精神を持ち合わせているからこそ成せる、と。
    しかし今、謂わば精神的支柱といっても過言ではないシオンは、何やら追い込まれてしまっている。
    その衝撃がアルドにとっては、余りにも大き過ぎた。

    「ど、どうしたんだよ。煩悩って一体…」
    「昨晩、弱っているセヴェンを襲いかけてしまった」
    「ゲホッ!?」

    アルドは噎せた。
    因みに、本日二度目である。
    だが、シオンはそんな彼を一瞥さえしない。
    そんな余裕はないのだろう。

    「ゲホゲホ!ま、待ってくれ…!えっと、惚れ薬を飲んだのはセヴェンの方で…、あれ?シオンも飲んだのか!?」
    「ホレグスリ?私がポムに睡眠薬を頂戴したのは早朝だが。セヴェンもその時に確か風邪薬を…」
    「これ」

    漸く、欠いていた冷静さを取り戻してきたらしい。
    手渡したポムの置き手紙に目を通したシオンを見たアルドは、はぁと安心したように深い息を吐き出した。
    いつもの光景も、一瞬に過ぎなかったが。

    「これは、本当か?」
    「シオン?大丈夫だぞ、セヴェンとは接触させないつもりだから」
    「そうしてくれ…。これ以上惑わされたら今度こそ私は、」
    「落ち着こう!一回落ち着こう、な!?」

    そんな、これはまさか、もしかすると。
    置き手紙を握り締めながら額へ手を押し当てているシオンが浮かべる、苦悶の表情を見たアルドは驚愕した。
    己の気持ちは二の次、或いはそれ以上かと思われた男の捨てきれなかったといわれる煩悩、接触の拒絶、そして誘惑への戸惑い。
    その全てを繋ぎ合わせた時、出された答えは申し訳ないが目の前の男には縁のないものだった。
    そう、まさかシオンがセヴェンに恋をしているとは。
    ならば、セヴェンが惚れ薬を盛られた理由も納得出来る。
    ポムは、端正な顔とはいえ恋愛には興味など全くなさそうな男を手伝おうと、惚れ薬を使用したに違いない。
    彼女なら、そうする筈だ。
    それが許されることという訳でもないのだが。
    それでもシオンに想い人が出来たというのなら、アルドとしても喜ばしいことこの上なかった。
    例え己が、サラマンダーの様に熱い神官でもなければ、愛の伝道師でもない、むしろ恋愛ごとに疎い人間だとしても。

    「えっと、オレで良ければ、話…聞こうか?」

    一人で悩む仲間を放っておける筈などないと、アルドは若干の苦笑を浮かべながら、普段は己より背の高い男と視線を合わせるべく身を屈めた。



    続く



    未完結その2
    生まれ変わったるり Link Message Mute
    2019/02/24 12:26:33

    野良猫への想い

    #腐向け シオン×セヴェン

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