イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    あなたの愛には敵わない


    おかしい。
    誕生日だからと、安吾の指導のもと何故か迎えた側である弦心がケーキ作りに和気藹々と参加していたのを、十夜が横目で確認したのは正午過ぎ。
    そのまま自分はトレーニングに入り、軽くシャワーを浴びたのは丁度おやつの時間と呼ばれる頃だった。
    夕方以降は、誕生日会の為の準備がある。
    一人一人用意されているイベントに、十夜は若干顔を顰めたものの、いかんせん今日の主役は恋人だ。
    長身だからと部屋のセッティングを任されたからには、参加しない理由はない。
    あくまで、己の意思として。

    「あの、宗像さん」
    「? どうし…、それは…?」
    「さっき、完成したケーキです。出来立てなんですよ」
    「…もう切り分けたのか」

    まだパーティーは先だと言うのに。
    もしや、目の前で彼が両手に持つ二枚小皿に乗せられた手作りのケーキは、氷山の一角に過ぎないのだろうか。
    甘党である弦心が望めば、今日は一日中甘い香りが充満してもおかしくはない。
    これには、流石の十夜も困り顔を浮かべた。
    苦手ではないものの、胸焼けを誘発するのではと危惧しながら。
    だが、今日は彼の誕生日。

    「それは俺の分か」
    「宗像さんと一緒に食べたくて、甘さ控え目にしました」
    「…それでは、意味が無いだろう。今日はお前の、」
    「甘いのは夜に用意して貰えると聞いているので。これは、自分へのプレゼント兼ご褒美です」

    ますます、意味が分からない。
    ワンホールを二人で平らげたいと言われれば、多少躊躇っていただろうが、目の前にあるのは一切れのケーキが二つ。
    弦心が好む甘さ増し増しであろうと、一切れくらいであれば問題はなかったのだが。
    なんなら、トレーニング量を増やしても構わない。
    今日くらい、恋人と一緒に大好きなケーキを食べたいという、甘ったるい願いを十夜は無条件で叶えるつもりだった。
    否、常日頃遠慮しがちな彼を、誕生日である今日こそは、徹底的に甘やかそうとも思っていたというのに。
    人に頼ることが不得意な弦心と、己が道を突き進む為に厳格な姿を表立たせる十夜が唯一、しがらみも、決して感じる必要はないが後腐れもない一日を、まさか棒に振られるとは。

    「お前の言うご褒美はその程度だったのか」
    「え、」
    「俺は今日、丸一日お前のやりたいことをやる為に空けていた。そして、それは伝えた筈だが?」
    「そ、それは…」

    誕生日当日は観劇だろうと、スイーツビュッフェだろうと、何でも付き合ってやる。
    但し、夜は自分に付き合え、と。
    十夜が弦心に伝えたのは一ヶ月も前のこと。
    その時、輝いたように見えた美しいアメジストは、一体何だったのか。
    だが、結局あれがしたい、これがしたいと無いまま迎えた、当日。
    弦心のやりたいことを優先させた結果、十夜はトレーニングルームへ追いやられたも同然だった。

    「俺にケーキを作れ、ではなく、作ったから食べたいだと?それも、俺の好みに合わせて」
    「あ、あの、その…」
    「どこまでお前は消極的なんだ。お前の中に、願望という文字は無いのか?」

    恋人と二人きりで過ごし、夜は用意されたパーティーを堪能し、そして夜にはまた二人きり。
    そんな日を過ごすのだと、そう思い描いていたのは自分だけだった、と。
    弦心を想い、向ける十夜の感情は、紛れも無い恋慕の情だというのに。
    もしも、その気持ちが押し付けであるというのであれば、自分達は互いの関係を少し改めなければならないだろう。
    十夜は、相手に寄り添う時間を、なんとか作り上げているのだ。
    片思いを成就させる時間など、許される筈がない。

    「お前が俺へ何も望まない、希望も無い時間など、無駄なだけだ」
    「…!お、俺は…」
    「何だ?俺は無駄な時間を過ごしたのか?」
    「俺は、貴方らしい貴方と、少しでも良いから、隣にいられたら、幸せなんです」

    何だ、それは。
    『少し』じゃなくて良いと、十夜が許しているというのに。

    「…一分一秒でも、長く居なくて良いと?」
    「貴方の一分一秒は、俺の一分一秒よりもずっと大切で…、無駄には出来ない、から…」

    奪うことに対しての『心苦しさ』が、普段共に過ごすことが叶わないことで募る『寂しさ』を優ったのだと言うのか。
    多忙の合間を縫って唇を重ねては、その愛おしさを胸に自身を触れ合うだけの夜を、何度も繰り返す中。
    陶器のように白い肌を染め上げながら、切なく己の名を掠れ声で呼んでおいて。

    「この後、だけ…、時間を、貰えれば…俺は、」
    「…幸せか?」
    「はい」
    「…。はぁ、分かった」

    今にも、どこか泣き出しそうに、整った顔を歪めながら。
    長い睫毛を僅かに濡らしていることにも気付かぬまま、震える声で紡がれたあまりにもいじらしい答えが、十夜の体をいとも簡単に突き動かすにも拘わらず。
    弦心の意思がそこまで、抱き込む腕の力よりも強く、温かいのであれば。
    共有スペースに居ることも忘れて、十夜は少々呆れ顔のまま、噛み締められてしまった弦心の唇にそっと口付けたのは言うまでもなかった。



    ただの痴話喧嘩でした。
    生まれ変わったるり Link Message Mute
    2019/05/13 12:54:18

    あなたの愛には敵わない

    #腐向け #yyy腐
    衝動的に書き上げた、30分クオリティの十弦。
    おめでとう弦ちゃん…ハピバ弦ちゃんは我が家に居ないので、好き勝手書かせて貰いました。
    十夜さんの弦ちゃんおめでとうボイスは永遠に聞けるしんどい愛しい。

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品