恋の音はまだ聞こえない
弦心の、色素の少々薄いアメジストが、ぶわりと水の膜に覆われていく様子をじっと見下ろした十夜は、眉間に皺を寄せた。
案外細い両手首を、壁へ縫い付けるように捉えて。
まるで覆い被さるようにして、壁際へ追い込みながら。
だがこれは、例え傍から見れば相手をカツアゲしているように見えようとも、断じて脅している訳ではない。
相手が同じグループに所属している千紘のような負けん気の強い男ではなく、寧ろ正反対の性格を持ち合わせている彼ならば、尚更そう見えなくもないが。
「まだ瞬きするな」
「う…ぅ、っ」
「これに懲りたら、明日すぐに目薬を買いに行け」
「はい…。あ、取れた…?」
「…そうみたいだな」
親切心とはいえ、何故こうも献身的に面倒を見てしまったのか。
ぽろぽろと白い頬に流れ落ちていく涙の痕に残された男の長い睫毛を見て、十夜は溜め息を吐きながらそれを親指の腹でそっと拭い取った。
無論、拘束していた両手は解放して。
およそ、五分間近く続いた攻防。
浴場近くの廊下で、手に持っていたであろう荷物を床に投げ出し、両目を擦っている彼を見つけてしまったならば、素通りなど出来やしないが。
目に異物が入っただけだと舐めてかかれば、角膜を傷付ける恐れもある。
「睫毛が長いとこんな苦労もあるのか」
「雅楽は大丈夫みたいなんですけど…。助かりました、ありがとうございます」
「大したことはしていない。ほら、風呂に入るならさっさと行くぞ」
「え、ご一緒しても良いんですか?」
「お前なら構わない」
そう、何故か彼であれば。
口数も少なく、大らかで穏やかな少年だからだろうか。
安吾も似たような存在なのだが、いかんせん同グループともなると、会話はアイドル活動中心となり、流石の十夜も四六時中のそれは好んでいない。
目的の為にやれることはやり尽くすが、寮の、それも露天風呂もある浴場でわざわざすることもないだろう、と。
話に乗ってしまう自分も自分なのだが。
だからこそ、違うグループであり、落ち着きを払っている弦心が傍に居ることは、憩いの空間といっても過言ではないのだ。(いかんせん、プライベートを守るにも寮内はほぼ毎日盛り上がりを見せている)
「騒がしくするなら、俺は部屋に戻るが」
「え!?あ、えっと…、さっきのお礼で、背中を流しても…良いですか?」
「ふ、なら俺も礼として髪でも乾かしてやろうか?」
「それは、ちょっと…」
「冗談だ」
整った、男にしては美しい顔にでかでかと『緊張する』と書かれては、無理強いも出来まい。
十夜は頬を緩ませると、脱衣所へと歩き出した。
背後から聞こえる、自分を追う足音へ耳を傾けながら。
無自覚のまま恋に落ちていくシリーズとか書きたいね。
というより500文字程度で書こうとしたのにどうしてこうなったのか、本当分からない。
そして誰おま感しゅごい。
ちゃんとれいぐら×弦心ちゃん書きたい…何か、ネタ無いかな…。