SS 女神と吸血鬼①コイカミ「あら、珍しいお客さん」
キュラド「ん、何だお前は」
コイカミ「レディに話を聞くときは自分の素性を晒すものよ」
キュラド「それもそうか。キュラドという。誇り高き吸血鬼だ」
コイカミ「へえ、何か人じゃないのがいると思ったら吸血鬼だなんて。珍しいのもいるもんね」
キュラド「お前は……何か普通とは違う感じがするな……」
コイカミ「分かるの?私のステキなオーラが」
キュラド「面白いな」
コイカミ「吸血鬼様と出会えるなんて、今日はツイてるのかも。ねえキュラド様、こっちに来て私とお話しない?」
キュラド「いいだろう。名は何という?」
コイカミ「私は……ただのしがない恋の神様よ……ふふっ」
キュラド「神?フッ、そういうことにしておいてやろうか……」
コイカミ「ねえねえキュラド様、あなたどうして私が見えるの?」
キュラド「ん?見えるのが不思議か?」
コイカミ「うふふ、あのね。私は恋をしている人にしか見えないのよ。恋の神様だからね」
キュラド「そんなことがあり得るのか?」
コイカミ「不思議でしょ?ミステリアスでしょ?」
キュラド「本当だとすれば興味深いな……」
コイカミ「さっき私のこと見て"普通とは違う"って言ったでしょ。多分そういうところが普通じゃないのかな?」
キュラド「なるほどな。それ以外は普通の魂か」
コイカミ「んーそうなんじゃない?」
キュラド「……ふむ」
コイカミ「ねえ、さっきの私の質問に答えて。どうして私が見えるの?キュラド様、恋をしてるの?」
キュラド「なるほど、お前の理論で言えばそうなるな」
コイカミ「やだ……吸血鬼様の恋とか興味深すぎ……。ねえ、お相手は?同じ吸血鬼なの?」
キュラド「そうだな、俺の質問に答えてくれるなら話してやらんでもない」
コイカミ「あら、なあに?」
キュラド「恋とは何だ」
コイカミ「…………はぇ?」
キュラド「俺には恋というものが分からんのだ」
コイカミ「あ、あなたそれ、本気で言ってるの……?」
キュラド「俺はいつでも本気さ」
コイカミ「お、面白…………面白吸血鬼……」
キュラド「何か言ったか?」
コイカミ「ううん何も!」
キュラド「いろいろな文献をあたってみたがいまいちピンとこないんだ」
コイカミ「そうなんだ……でもキュラド様、私に言わせればあなた絶対恋してるよ」
キュラド「らしいな……」
コイカミ「イメージして。吸血鬼でも他の人外でも人間でも誰でもいいわ。あなたが今イメージした中で一番に思いついたのは誰?」
キュラド「エスだ」
コイカミ「エス……その人ね!」
キュラド「エスがどうかしたか」
コイカミ「その人のことを教えて」
キュラド「ふむ……。エスは人間だがサイコキネシスを持っていて面白いぞ」
コイカミ「人間なのね……一応聞くけど女の子?何歳くらい?」
キュラド「人間の女で16歳と言っていたな」
コイカミ「JK!いいなあJK!」
キュラド「じぇーけー……?」
コイカミ「性格は?明るい?暗い?」
キュラド「エスは話すのが苦手でな。最近俺相手だと少し言葉が出やすくなったように思える」
コイカミ「距離縮んでんじゃん……」
キュラド「最初の頃はそれはもう大変だったさ。俺が何か聞いても答えが返ってこないことも多かった。吃音といって、話すときに言葉に詰まってしまうらしい」
コイカミ「そうなんだ……そこから徐々にコミュニケーション増えてきたんだね……」
キュラド「学校でもそれが頻繁に出ているらしい。大事な時に言葉が出なくて辛い思いをしていると」
コイカミ「エスちゃん……応援したくなっちゃう……」
キュラド「俺はエスのサイコキネシスに興味がある。だからサイコキネシスの研究をする代わりにエスの手助けをしてやることにしたんだ」
コイカミ「めっちゃいい関係じゃん…………」
キュラド「そうやって何度も会っているうちにエスの話をいろいろ聞くのが日課になっているな。今日はうまく喋ることができただとか、級友と仲良くすることができただとか」
コイカミ「愛着湧いちゃうわけだ」
キュラド「そうやって話をしているとな、エスはサイコキネシス以外にも面白いところがあると分かったんだ。興味深い人間だ……」
コイカミ「はあ……既にめちゃくちゃ萌えてしまった……」
キュラド「エスの話は面白いだろう」
コイカミ「エスちゃんの話を楽しそうにしてるキュラド様が可愛いんだよ」
キュラド「ん?どういうことだ」
コイカミ「はあ……もう……!」
キュラド「嬉しそうだなお前」
コイカミ「そりゃあ……もう!今まで聞いた話の中で一番面白い!」
キュラド「そうか。面白いか」
コイカミ「ねえ、吸血鬼って年齢不詳だけど、キュラド様はいくつなの?」
キュラド「吸血鬼として生を受けて19年経つ」
コイカミ「えっ……19歳ってこと……?」
キュラド「そうなるな」
コイカミ「若……」
キュラド「そうだな、比較的最近生まれているな」
コイカミ「こ、これ……もしかしなくても初恋なんじゃ……」
キュラド「人間と深く関わるのはエスが初めてだ」
コイカミ「初恋じゃーん!」
キュラド「なあ、結局のところ恋とは何だ」
コイカミ「エスちゃんのこと、大事だなーって思う?」
キュラド「まあ、否定はしない」
コイカミ「愛おしいなーとか、何かしてあげたいなーとか、思う?」
キュラド「……そう、だな」
コイカミ「エスちゃんが、同じ学校の男の子とちゅーしちゃったりしてるのを見たらどう思う?」
キュラド「そうなることが予想できないから何とも言えんが……エスにいくつか質問はするだろうな」
コイカミ「エスちゃんが訳の分からない子に取られちゃってもいいの?」
キュラド「…………」
コイカミ「よくないよね……好きじゃん…………」
キュラド「俺は……人間であろうが人間でなかろうが、関わる者は面白い者と決めている……」
コイカミ「うんうん」
キュラド「だが俺はこれまで1人で生きてきた……だからまだ、エスとエス以外の者との差が分からない……」
コイカミ「んー…………じゃあ、私のことは?」
キュラド「お前のことか?さっき会ったばかりだから何とも言えない。興味深いと思ったからこうして話をしているが」
コイカミ「エスちゃんと比べてどう?」
キュラド「ふむ……特に何も……」
コイカミ「私とエスちゃんどっちかしか助けられないとして、どっちを助ける?」
キュラド「…………まあ、エスだろうな」
コイカミ「エスちゃんを選んだ理由は?」
キュラド「お前とはさっき出会ったばかりだからな」
コイカミ「たくさん一緒にいたからエスちゃんの方が大事なんだ」
キュラド「そういうことになるか」
コイカミ「うーん……絶対それだけじゃないと思うんだよなあ……」
キュラド「まだピンとこないな」
コイカミ「もっとこう、一緒にいて……ここらへんがこう……きゅーってなることとか……ない?」
キュラド「よく分からん」
コイカミ「きゅーっだよ。きゅーっ。ないの?」
キュラド「うーん……」
コイカミ「ないのかあ……」
キュラド「エスに対して俺は……研究対象だとしか思ってないぞ……」
コイカミ「でも絶対……絶対……恋…………だと思うんだよ…………」
キュラド「まあ、目には見えないものの話だ。共有するのは難しいだろう」
コイカミ「そうなんだけどね……。恋を知らない人って初めてだからどう言えばいいのか……うーんもどかしい!」
キュラド「思うに、吸血鬼の感覚は人間の感覚と随分ズレているんだろう。エスと会話していても時々そう感じる」
コイカミ「そっか……そう言われちゃうと私も人間寄りだしね……」
キュラド「神も所詮は人間か」
コイカミ「結局はそういうことだね」
キュラド「残念だな」
コイカミ「ねえ、私キュラド様のこともっと気になる。キュラド様は悪魔に魂を売っちゃったの?」
キュラド「……恐らくそれは違う。真祖はもっと威厳がある存在だ」
コイカミ「じゃあ……生まれた時から吸血鬼だったの?」
キュラド「…………生まれた、というより目覚めたの方が近いのかもしれん。19年前に俺は目覚めた」
コイカミ「……ってことは、昔は人間だったのかな」
キュラド「さあな」
コイカミ「覚えてないの?」
キュラド「目覚めた俺に残っていたのは……言葉と、自分が吸血鬼であるという自覚だけだ」
コイカミ「キュラド様……この19年寂しかったでしょ……」
キュラド「…………」
コイカミ「エスちゃんと出会えてよかったね」
キュラド「……そうだな」
コイカミ「エスちゃんのこと、大事にしてあげるんだよ」
キュラド「……そう、だな」
コイカミ「うん」
キュラド「……そろそろ帰らなくては」
コイカミ「あら、帰っちゃうの?」
キュラド「夜明けが近いからな」
コイカミ「ああ……そっか」
キュラド「また来てもいいか?」
コイカミ「うん、もちろん」
キュラド「ではまた来よう」
コイカミ「私はいつでもここにいるから。キュラド様が恋をしてる限り、いつだって会えるよ」
キュラド「地縛霊というわけか……」
コイカミ「そんな物騒なやつじゃないよ。ここから離れられないのはそうだけど……」
キュラド「さぞ退屈だろうな」
コイカミ「そうでもないよ。でも、したいことをできないのはそうかなあ」
キュラド「したいこと?」
コイカミ「そうだ、お願い聞いてくれる?」
キュラド「言ってみろ」
コイカミ「私ね、タピオカミルクティーっていうのを飲んでみたいの」
キュラド「タピオカ……?」
コイカミ「お願い、どうしても欲しいの」
キュラド「なるほど。気が向いたら持ってきてやろう」
コイカミ「キュラド様、優しい!好き!」
キュラド「そろそろ本当に帰らなくては……」
コイカミ「あ、そうだね。じゃあね、楽しかったよ」
キュラド「ああ、また会おう」