プロローグ※嘔吐、欠損、幻肢痛、破壊、暴力、流血などの描写を含みます。
※始点と終点は公式とだいたい一緒ですが途中経路や後日談がちょっと過酷です。
※ブラッドと相棒は恋愛関係ですが、アンドロイドの相棒に対応機能やパーツが無いため、厳密な左右は発生しません。
※相棒との関係は本作ブラッドの過去の一部であり、メイン要素ではありません。
本作のメインテーマは「サイバネ世界観の拡張(捏造)」と「アクション」です。
※読む側がカップリングを見出す・カップリングの左右を決めるのは自由にしてくださって構いません。(ブラッドと相棒も、それ以外の人物も)
真っ白な雪に覆われた町へ、更にちらちらと雪が舞う中、ブラッドたちは早足で自警団本部へと向かっていた。昨晩は大雪で、だから自警団のメンバーは朝から総出で町内の雪かきに取り組んでいたのだ。除雪車を乗り回す組と、町内の高齢者宅などを回って玄関前や屋根の雪をどかす組とに分かれて、町のあちこちへ散らばっていた。その作業がやっと一段落ついたので、本部へ戻る途中なのだ。疲れてはいるが、寒さに押されて自然と早足になる。
薄夕闇の中、事務所へ一番乗りしたユアンが、暗い事務所で真っ先にストーブの火を入れた。
「たっだいま~!! ああ~早くあったかくなれぇ~」
「もー、ユアン! 先に入ったなら明かりくらいつけてよ、後の人がつっかえるでしょ!」
苦笑したギャレンが事務所の明かりをつけ、ぱっと室内が明るくなる。ユアンに続いてまずはストーブに当たる者、先にロッカーで雪や汗に濡れた服を着替える者などでわいわいしている自警団本部に、台車を押す音と明るい女性の声が響いた。
「毎度お馴染みコーヒーショップでーす! 雪かきありがとうございました。差し入れどうぞ!」
事務所でストーブに当たっていた自警団の仲間たちが、わあ、と途端に笑顔になる。台車に載った保温ケースには缶コーヒーがたくさん並んでおり、店主の女性と一緒にやってきた二人の少年がせっせとケースから団員へ缶コーヒーを渡した。
「にーちゃんたち、いつも町を守ってくれてありがとな!」
「ウェルズくんも、差し入れありがとうね。元気が出るよ」
缶コーヒーを受け取ったロールが、そう言ってウェルズ少年の頭を撫でた。へへ、と照れ笑いで胸を張るウェルズはコーヒーショップの看板息子で、陽気な性格が店の人気者となっている。明るい色の癖っ毛とよく動く瞳は、店主である母親そっくりだ。そのウェルズはこの冬が終わればエレメンタリーを卒業する歳で、もう一人の少年は、それよりも少し年下だった。
こちらは雪の色にも似た淡い色の髪をしていて、名前をヨナという。ウェルズと違っておとなしい性格だが、自警団の活動を見学しているときの目の輝きはウェルズと一緒だ。ヨナとウェルズはご近所さん同士の幼馴染みで、コーヒーショップから差し入れがあるときはいつも、二人で自警団に缶コーヒーを配っている。
毛糸の帽子と厚手のコートでモコモコになったヨナは、保温ケースから缶コーヒーをいくつか取って抱えてから、その場を離れて詰所のストーブのほうまでとてとて歩いてきた。いくらか人がはけてから、あるいは体が温まってから台車のほうまで受け取りに行こう、とストーブの近くへ留まっていた団員は、届けに来てくれたヨナを見て目じりを下げる。
「ヨナくん、ありがと~! じゃあ、一本ずつ回してくね」
一番近くにいたユアンがまずヨナから缶を受け取り、そしてリレーのようにストーブまわりの団員へ回していく。ブラッドはそのリレーに加わると、先にロッカーへ向かったダークの分も缶コーヒーを貰っておいた。
アンドロイドのダークは寒さを感じないらしいが、機体を雪に晒すのは良くないのと、自警団の一員だと周囲から分かりやすくするため、雪の中で作業をするときは人間の団員と同じように自警団支給のコートを羽織る。そして事務所へ戻ると、暖かなストーブの近くは人間たちに譲って、先にロッカーへ向かうのだ。ブラッドは、そうやっていつものようにコートを片付けてきたダークが事務所へ戻ってくると、当然のように缶を手渡した。
「ほい、お疲れ! これダークの分な」
手持ちの缶を全部リレーに出したヨナが、保温ケースのほうまでもう一度缶を取りに行く。ダークは、差し出された缶をきょとんとして見下ろした。
「?」
「?」
ブラッドとダークは互いの顔と缶とを見比べ、両方とも瞬きをする。そんな二人に、横合いからギャレンが助け舟を出した。
自分の缶コーヒーを開けて飲んでいる途中だったギャレンは、ヨナが保温ケースから缶を取り出している背中を横目に見ながら、ブラッドにひそひそ耳打ちする。
「あー、ブラッド……ダークはアンドロイドだし、コーヒーは飲めないんじゃない?」
「えっ? ……あっ! ダーク、すまねえ!」
ほとんどのアンドロイドに、飲食機能はついていない。ブラッドはやっとそこに思い至って、ダークにすぐ謝った。道理できょとんとするわけだ、飲めないものを差し出されては、さぞ困惑したことだろう。
ブラッドは缶コーヒーを差し出した手を引っ込め、しかしその缶を矯めつ眇めつしながら呟いた。
「でも、ダークだけ渡さないってのもな……」
自警団に、と頂いた差し入れだ。ダークも自警団の仲間に違いないし、飲食機能がないからと言って、町の人の気遣いが渡らないのは惜しい。何か方法がないか、と詰所の中を見回したブラッドの手元から、す、とダークが缶を取る。
「……ひょっとして、差し入れってやつかい? それなら、ありがたく頂くぜ」
ブラッドが見上げると、ダークは穏やかに目を細めて微笑んだ。それから、ヨナが追加の缶コーヒーを持って戻ってくるのを横目に見てブラッドに囁く。
「アンドロイドだからな、飲めるわけじゃねえが、手のセンサーで温度は分かるから」
人間と変わらぬ見目をした自警団のアンドロイドは、ブラッドの隣でそう言って微笑み、大きな手でゆっくり包み込むように缶を握った。