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    厄病神のラブ・コール2【花承・WEB再録】2章 我が名は花京院典明、日本に帰りたいです。 その1【前回までの、厄病神のラブ・コール!!】

     これは……恋人のために戦う少年の物語である。

    『──我々の───』『中に』『裏』『切り』『者』『──がいる』『カ』『キョー』『イン!』『に!』『気を』『つけろ』『DI』『O』『の』『手下』『だ!』

    「君、あと数日でモハメド・アヴドゥルが凶弾に倒れるって言ったら、信じるかい?」
    「!?」

     ――シンガポールにて、謎の男、ブライアン・マーキュリーと出会った花京院。

    「今回の旅では、本来ならDIOを倒す運命を持つ承太郎。彼に『悪いこと』が訪れる。」
    「それがスタンド使いとの遭遇、だね。」
    「そうだ。……そして、純然たる運命エネルギーを集めるためには、『撃破』の瞬間を、懐中時計の針を向けて記録してほしい。……万が一の場合は、『承太郎が襲われさえすればよい』というエネルギーの貯め方も、……できるがね。」

    「そして、その回数を貯めると、君達全員が生き残る新しい運命が作れるんだ。」

    「ブライアン。貴方の、スタンド名は……。」
     席を立った花京院が聞くと、ブライアンはこう答えた。
    「『ラブ・コール』だ。」

     しかし、アヴドゥルに感づかれる。
    「……ジョースターさんの、念聴。先ほども話題に上がったが、君はどう思った?」

    「『我々の中に、裏切り者がいる。』単に、DIOの手下が君に化けただけで、『裏切り者』と、……そこまで酷く言うだろうか。」

     花京院は、……ブライアンを信じるのか。
     そして、承太郎達を守り抜くことが出来るのか。
    【前回までの、厄病神のラブ・コール!!】

     これは……恋人のために戦う少年の物語である。

    『──我々の───』『中に』『裏』『切り』『者』『──がいる』『カ』『キョー』『イン!』『に!』『気を』『つけろ』『DI』『O』『の』『手下』『だ!』

    「君、あと数日でモハメド・アヴドゥルが凶弾に倒れるって言ったら、信じるかい?」
    「!?」

     ――シンガポールにて、謎の男、ブライアン・マーキュリーと出会った花京院。

    「今回の旅では、本来ならDIOを倒す運命を持つ承太郎。彼に『悪いこと』が訪れる。」
    「それがスタンド使いとの遭遇、だね。」
    「そうだ。……そして、純然たる運命エネルギーを集めるためには、『撃破』の瞬間を、懐中時計の針を向けて記録してほしい。……万が一の場合は、『承太郎が襲われさえすればよい』というエネルギーの貯め方も、……できるがね。」

    「そして、その回数を貯めると、君達全員が生き残る新しい運命が作れるんだ。」

    「ブライアン。貴方の、スタンド名は……。」
     席を立った花京院が聞くと、ブライアンはこう答えた。
    「『ラブ・コール』だ。」

     しかし、アヴドゥルに感づかれる。
    「……ジョースターさんの、念聴。先ほども話題に上がったが、君はどう思った?」

    「『我々の中に、裏切り者がいる。』単に、DIOの手下が君に化けただけで、『裏切り者』と、……そこまで酷く言うだろうか。」

     花京院は、……ブライアンを信じるのか。
     そして、承太郎達を守り抜くことが出来るのか。
    2章 我が名は花京院典明、日本に帰りたいです。 その1
    【『――我々の―――』『中に』『裏』『切り』『者』『――がいる』『カ』『キョー』『イン!』『に!』『気を』『つけろ』『DI』『O』『の』『手下』『だ!』】

     数日後、カルカッタでアヴドゥルは凶弾に倒れ、花京院とポルナレフはJガイルから逃走中だった。
    「おれはたしかに……、たしかにヤツを剣でついた。だが命中はしなかった。手ごたえはなかったんだ。」
    「……。」
    「やつのスタンド『吊られた男』は鏡が割れても、小さくなった破片の中からまた攻撃してきた。やつは鏡の中で、鏡の中のおれをおそう!」
    「……。」
    「おれのスタンドは鏡の中には入れない。鏡の世界なんて、どうやって攻撃すればいいのだ。くっそおーーーッ」
     すでにJガイルのスタンドを理解している花京院は、ポルナレフの主張に辟易していた。
    「……ポルナレフ。鏡の中とか鏡の世界とかさかんに言ってますが、……鏡に「中の世界」なんてありませんよ…。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。」
     そうだ。花京院はこの目で、ブライアンの言葉が真実だと理解した。Jガイルは、水たまりの中でアヴドゥルを刺し、そのままガラス面に移って行った。本当に、光の反射を利用するスタンドだったのだ。
     だがポルナレフは信じない。
    「はあ?何言ってんだ、おめーも見ただろ。鏡の中だけにいて、ふり向くといねーんだぜ。」
     花京院は、必死で説得を試みる。
    「ええ、しかし鏡って言うのは……。」
    「いやいやいや、鏡の世界のスタンドだな!俺は、はーっきり見た!」
     ……この男、人が1人死にかけているというのに、説得する仲間の言葉に耳を貸す気はない。
    「鏡の世界は、ない。」
    「だーかーらー、この場合は、」
    「ない。」
    「頑固になるなよ、鏡の世界がある。思い出せよ、昔読んだ童話を。鏡の中からファンタジーの世界にご案内~って、」
    「ない。」
    「頭固いな。落ちつけよ。鏡の世界は……。」
    「ないって言っているだろ!もっとよく考えろ!倒す気あるのか!」
    「いっ!?」
     花京院は、プッツンした。
    「こっちがどんだけ苦労していると!やる気だせ!スタンドの正体を、もっとよく考えろ!」
    「やっ、やる気ねえみたいに言うなよ!3年越しの敵討ちだぞ、こっちは!」
    「じゃあわかるだろ。鏡の世界は、」
    「ある。」
    「一回頭冷やせ!」
     花京院は考える。……くそっ、こんなハズじゃなかった。アヴドゥルさんが重傷を負うが、ポルナレフに上手くJガイルのスタンド能力を伝えて、トドメを刺させる。そういう予定だった!
     だが予定は未定ッ!想像以上にポルナレフの察しが悪い!ざっくり言うとアホ!
     ……アヴドゥルさんに申し訳ない。最初から僕が、ブライアンの言葉を信じていれば、あんな痛々しいことにならずに済んだんだ。
     インドのマーケットで撃たれると教えられていたのはいいが、インドの地理に不慣れな上、……僕の心は迷ってしまった。
     ブライアンの言葉を信じていいか。彼は実はDIOの刺客の一人で、僕達を罠にはめようとしているんじゃあないか、と。
     その結果がこれだ。アヴドゥルさんは誠実な人だった。ポルナレフを本当に庇って、重傷を負った。僕は、彼を尊敬する。
     だからこそ、ポルナレフに無事Jガイルを討たせようと思うのに!
    「鏡の世界っていうのはな、心の綺麗なやつにしか見えねえんだよ、花京院。」
     本人がこのザマだ!ジ○リ世界みたいなことほざいてんじゃあない!
    「ポルナレフ。」
     花京院は冷静に、ポルナレフに語りかけた。
    「……きっと君は混乱しているんだ。だが、あえて言おう。鏡の世界、なんてものにとらわれてはいけない。」
    「……。」
    「自分の考えに固執しては、Jガイルは倒せない。いいか、よく見ていてくれ。こういうことだ。」
     言葉が通じないなら、ジェスチャーだ。
     花京院は運転しながら、①人差し指でハンドルのメッキを、②そのまま人差し指と中指でサイドミラーの二つを、③人差し指で制服のボタンを、④そして自分の目を指さした。
    「(……どうだ。これで、Jガイルのスタンドは映るものならなんでも移動する、光の反射のスタンドだとわかるだろう)。」
     花京院のこの目論見を、ポルナレフは大いに裏切る。彼の頭の中を見てみよう。
    「(……①番目に指さしたのはハンドル。②番目のあれは、ピースサインだった。③番目にまるいボタン、④番目には目を指さした。……まる……みえる……。)」
     ポルナレフは、突如自分のズボンのベルト位置を確認した。
     花京院はそれを見て、コイツは何をしているんだ?と首をかしげる。
    「……ポルナレフ、何をしているんだ。」
     それに対して、照れながら24歳の成人男性が言う。
    「いや、『パンツー丸見え』ってやるから、おれベルト壊れてたかなッ 」
     突如ポルナレフの顔面を襲う肘鉄『どすこい一発』。
     ……ポルナレフは、「壊れてたかなって」とは、言えなかった。花京院が吠える。
    「貴様ァ!この車から降りろ!単独行動だなんだと、どうでもいい!もう、勝手にしろ!」
    「なッ、そこまで言うかァ!?」
    「アヴドゥルさんに土下座して来い!畜生!ここまで手がかかるとは、思わなかった!」
    「お……、どういう意味かはわからねえが、これ以上、頭を狙うんじゃねえ……。」
    「文句を言える立場か!」
    「……出血で、頭が回らね」
     その瞬間!運転席後部のガラスが割れ!
    「うおッ!」
    「ハンドルのメッキにッ!」
     車は横転を繰り返す!……2回、3回転がり、花京院は強かに胸を打った。泣きたい。ていうか、帰りたい。アヴドゥルの無事を確認して、誰かに立場を交代してもらいたい。
     そして、奇跡が起きる。車の横転で頭を打ったポルナレフは、ようやく気づいてくれた。
    「わ…わかった…………。い…いま…見えたんだ……。」
    「!」
    「やつは鏡から鏡へ!映るものから映るものへ!飛び移って移動しているッ。」
     まるでテレビのようだ。衝撃を与えると直る。
    「……ポルナレフ。」
    「反射を繰り返して、ここまで追ってきたんだ……!」
     花京院の苦労は、ようやく報われた。だが、気づいていたことにバレてはいけない。
    「反射?つまりやつは(知ってたけど)『光』かッ!」
     しらじらしいなんて、言わないで欲しい。さっきのジェスチャーの下りは、忘れて欲しい。

     ……その後、ポルナレフのチャリオッツが『吊られた男』を縦に裂き、花京院の機転でJガイルを倒した。仇討ちは、達成されたのであった。

      ☆

     アヴドゥルを抜かして、メンバーはネーナと共にインド・ベナレスへと到着した。
     ジョセフ・ポルナレフは外出、……花京院の心は急いていた。チェックインしたホテル・クラークスの個室から、ブライアンに教えられたホテルの電話番号に電話をかける。
    『……Hello.』
    「ブライアン、僕だ。貴方のいうことを信頼する。時計を、渡してほしい。」

    『……急激な、心変わりだな。』
    「僕がきちんと貴方を信頼していれば、アヴドゥルさんはあそこまで酷い結果にならなかった。」
    『……。』
    「額から血が流れる様子を見て、本当にショックだった。頼む、これ以上誰かが必要以上に傷つくのを見たくない!」
    『……いいだろう、わかった。』
     そして、1時間後にベナレスのホテル前のマーケットで、花京院の制服ポケットに時計と、刺客スタンド使いのスタンド能力一覧のメモを入れる、とブライアンは告げた。
    『……メモは、覚えたらすぐ燃やしてくれ。あと、花京院。』
    「なんだい?」
    『……君に、告げるべきか迷うが、言っておいた方がいいことがある。実は――――――――――』
    「……!」
     ――コンコン
    「花京院。」
     電話の最中に、ドアをノックする音がした。
     ブライアンから告げられた衝撃の事実が頭を支配する中、花京院は冷静に声を作って返事をした。
    「承太郎!ちょっと待っていてくれ、今、電話中なんだ。」
    「……そうか。」
     承太郎は、花京院のプライバシーに配慮し、個室外に出た。まだ通話は続く。
    『花京院、承太郎か?』
    「ああ、また後日電話する。1時間後にホテル前のマーケットで、よろしく。」
     電話を切り、花京院はドアを開けた。
    「承太郎(既に下の名前を呼び捨て)、どうしたんだい?」
    「ジジイが病院から帰ってくる前に、買い物に行かねえか。煙草が切れた。」
    「ああ、わかった。携帯食品なども見ようか。」
     外出準備をする。本来なら煙草ぐらい1人で買いに行きそうな彼が花京院を誘うのは、やはりアヴドゥルの件が響いているのだろう。

    【『――我々の―――』『中に』『裏』『切り』『者』『――がいる』『カ』『キョー』『イン!』『に!』『気を』『つけろ』『DI』『O』『の』『手下』『だ!』】

     2人でフロントを出て、ホテル前のマーケットに向かう。向かう途中でアヴドゥルが生きていたことを聞かされ、花京院は少しホッとした。
    「煙草の他に、何か買う物はあるのかい?」
    「いや特に。てめーは?」
    「……僕も、特に無い。」
     ベナレス特有の火葬場の匂いが鼻をつく。花京院は、活気あるインド人達の姿を見ながら、つい数日前の光景を思い出した。
    『ア、アヴドゥル、これがインドか?』
    『ね、いい国でしょう。これだからいいんですよ、これが!』
     このベナレスにも、物乞いはいる。花京院は時折子どもに「バクシーシ」と声をかけられた。
     だが、アヴドゥルはいない。……いいのだろうか、これで。
     承太郎の為に戦いたい、そう思って日本を飛び出し、面識の無いメンバーについてきた。最初から全て上手くいくとは思っていない。
     だが、ここまで思い通りにならないものだと知ると、悔しいし、悲しい。幼い頃から願っていたスタンドの見える友人が、……何であんな風に傷つかなきゃあならないんだろう。
     もっと器用に、上手く立ち回れたら。強くなれたら、……いや、強くならなきゃあならない。必ずだ。
     ……そんなことを花京院が考えていると、すでに煙草と予備のタンクトップを買い、雑貨屋前で承太郎が言った。
    「何か欲しい物があったら、俺が買う。遠慮なくいえ、花京院。」
    「え?いや、僕もジョースターさんにお小遣いをもらっているし、大丈夫だよ。」
    「いい、遠慮するな。」
    「でも、」
    「カルカッタで苦労した分、ちったあ、ねぎらわせろ。」
     ……あ、なるほど。花京院は気づいた。
     つまりは「お疲れ様、よくポルナレフを守ってくれた。」ということだろう。言葉選びが上手くない、承太郎はそういう男だ。
    「そうか、……でも本当に今は欲しい物はないよ。フフッ。」
    「何がおかしい。」
    「いや、気分を害したならすまない。」
     素直じゃないだけなんだ。可愛いな。
     ――そう思っていると、承太郎から仕返しされた。
    「高い所にあるヤツがとれねえって言うなら、取ってやるよ。俺の方が身長高いからな。」
    「……ご心配なく。」
    「ほう?」
    「これでも、日本人では高い方だからね。君が規格外、ってだけさ。」
    「……どーだか。負け惜しみなら、聞く気はねえぜ。」
     ……なら、身長が低い方が有利だと、示してやろう。
     花京院は承太郎の背後にまわり、
    「!」
     彼の両脇から両腕を通し、くすぐり始めた!
    「おい、お前……っ、クッ、くっそ……。」
    「ほほう?身長が高い君なら、高い所に手を伸ばすことはできても、」
    「やめ……、ろっ、……ククッ。」
    「下からの襲撃には弱いんじゃあないかな?」
     ほらほらほら、とくすぐり続け、承太郎の抵抗の手をかわす花京院。
    「道の、真ん中で、お前っ」
    「フフ、そろそろ降参かな?」
     途中膝カックンも混ぜ、……次第に目標は承太郎を笑わせることにシフトしていった。
     楽しい。
    「止めろ!もういい、い、……。」
    「ん?なんだい、言ってごらん?」
    「俺の……、降参だ、フッ、ハハハハハハッ、」
    「やったね、……しかし、容赦はしないッ!」
    「お、……!へその……あた……りなんぞ……くすぐんじゃ、ねえ……っ!」
     花京院は思った。このインド・ベナレスに来るまでにも、色々な敵に遭遇し、承太郎が皆を助け、皆が承太郎に力を貸すという構図が出来つつある。
     さっきの「ねぎらわせろ」も「取ってやるよ」も、花京院をフォローしようとしたのがわかって、嬉しい。慣れていないうちは戸惑ったが、次第にちゃあんとわかってきた。
     承太郎の言葉が足りなければ、僕がちゃんと受け止めればいい。そういうことなんだ。花京院は、承太郎との付き合い方を少しずつ模索していた。そして花京院は察した。

     他の人間にも承太郎の言葉はキツク響く時があるが、それも実は彼の知らない所でフォローされている。つまり、承太郎は喋る度に一々みんなに
    「ああ、コイツはこういうことがいいたいのか」
     とフォローされる目にあっているのだろう。
     ……可愛いな、わがままなお姫様、って感じで。
     ジョースターさんに『やれやれだ、ジジイ。何もねえところでこけんじゃねえぞ』って言えば、『承太郎はワシに、足元気をつけてって言いたいんじゃな。』って思われている。
     そういえばホリィさんも、承太郎が『このアマ!』って言う度にニコニコしていた。
     あれは『承太郎が言葉の上ではどんな風に私を呼んでも、本心では私のことを大好きなの、ちゃあんと見抜いているんですからね』ってことなんだろう。
     ……会話できたのはあの日だけだったけど、ホリィさんはとてもいいお母さんだ。彼女のもとに、承太郎を無事に帰してあげたい。
     
     いつのまにか、花京院の心が少し軽くなる。これは承太郎の……おかげだな。
     決意を改めて固めた。そうだ、承太郎は僕の守るべき相手だ。「お姫様」も、言いすぎではない。くすぐる手をとめた。
     花京院は承太郎の背中に向かい、……彼の顔を見ずにこう言った。
    「……承太郎。」
    「なんだ。」
    「必ず、日本に帰ろう。ホリィさんの元に。」
     ……しばらく、見上げると承太郎が頭をかいていた。そして、ぽつりとつぶやかれる。
    「いや、それはねえな。」
     承太郎の予想外の言葉に、花京院は目を丸くした。
    「え、なんで……。」
    「テメーと一緒に帰国すると、ババアに色目を使いそうでな。」
     ……ああ、そういうことか。
     花京院は確かに出国前に、ホリィを『恋をするなら、ああいう女性がいい』と評した。だが、あくまでたとえ話だ。まさか本気にされるとは……。
    「フフッ。」
    「何がおかしい。」
    「いや。お望みなら、その通りにしようか?」
    「勘弁しろ。学年が下の親父なんざ、うっとおしいだけだぜ。」
    「じゃあ、父親にはならない。約束する。お母さんが大事な、承太郎のためだ。」
    「……チッ。」
     できれば、恋人になりたい。
     でも、それはいえない。
    「君と末永く、友達として付き合っていければいいと思っているよ。」
    「……抜け抜けと。」

     先ほどの電話で、ブライアンに言われたのは

    『承太郎は、将来は女性と結婚して、娘が生まれる運命にある。』

    ということだった。

     それを聞いて、花京院はショックだった。
     ブライアンの未来予知は本物だ。アヴドゥルの件で、花京院は確信し、得心した。
     そして絶望した。ああ、やはり彼と僕は結ばれないのだと。
     だが、それでいい。彼が幸せになれば、その隣で友人として、幸せを見守ろう。
     ブライアンとシンガポールで出会ったあの日、すでに運命は決まっていたのだろう。
     
     ――僕の恋は叶わない。恋とは叶うことを前提にしたものだが、この想いは恋じゃない。
     愛でいい。僕の承太郎への想いは、叶うことの無い、捧げるだけの愛でいい。
     お姫様を守る騎士として、無事に彼をお城へ帰すだけだ。
     彼に尽くして、幸せになる姿を見守ろう。可愛い、お姫様が本当の王子様と結ばれる姿を。

     ……気づけばポケットにメモと時計があった。
     ホテルの個室に戻り、中を確認。
     スタンド能力の詳細、誰が何番目に来襲するか、……そして最後のサイン後に、追加のメモがあり、こう書かれていた。

    『すまない。すでにジョセフが『女帝』のスタンド使いに襲われた。だが、倒したようだ。住人に香炉灰を運んでいる者がいて、金を払って運搬ルートを変えてもらったが、……ジョセフの助けになったようだ。』

     花京院はすぐにメモを燃やす。承太郎とジョセフの血のついた衣服、どうやって調達しよう。そして各スタンド使いへの対策も考えなくては。
     その5分後、ジョセフとポルナレフが戻って来た。警察に追われているため、即座に出発することが決まったようだ。
    花京院は、懐中時計と恋心を胸ポケットにしまう。ナイフは、学ランの右手袖口にテープで張り付ける。
     ――さあ、承太郎がピンチになっても、彼にスタンド使いを倒させよう。
     僕は彼を守り、運命エネルギーを貯めてみせる。
     ……彼と僕が、結ばれないとしても。愛を、ただ愛を愛を君に込めて。
     未来永劫続くラブ・コールを君に。
     ……寂しいなんて、思わない。

       ☆

    インド~パキスタンの道のりにて

     まずは『運命の車輪』。
     車そのものがスタンド。丈夫で、崖から落としたぐらいでは壊れない。
     だが今!後ろから押され、崖から落ちそうなのはッ!
    「おっ…、押し返せねえッ!」
    「せ…戦車かッ!その車のパワーはッ!」
     花京院達の方だった!
     この事態を如何にして切り抜ける!?花京院は思考を巡らせていた。
     だが、集中できない!なぜなら
    「やーん、承太郎怖いッ!」
     家出少女が、承太郎の裾を掴んで離そうとしない!余裕か貴様!思わず歯噛み、ギリィッ!
     ……すでに、ハイエロファントにワイヤーウィンチを掴ませている。車が落下しても大丈夫だ。だが、正直ハイエロファントに彼女を掴ませ、(安全な所に)放り投げさせたい。
     我慢だ、花京院典明……、落ち着け……。
    「バカなッ!四輪駆動の車輪が、あっけなく空回りするだけだッ!」
     ほらポルナレフも必死で頑張っている。
    「承太郎ッ!『スタープラチナ』で、そのクソッたれをブッこわしてくれッ!」
    「無理だ……。殴れば反動がある。おれたちのクルーザーもフッ飛ぶぜ…。トラックに衝突した時のように……。」
    「うおおっ。そ…、それじゃあ、もうだめだ!!」
    「OH!」「え!」「……。」
    「みんなッ!車をすてて脱出しろッ!」
     訂正しよう、ポルナレフは、頑張っていた。
    「ポルナレフッ!ドライバーが、みんなより先に運転席をはなれるか普通は……!?誰がこのランクルをふんばるんだ?」
    「えっ」
     花京院のツッコミの後、
    「……ごっ……ごっご、ごめーーん。」
     ランクルは落下する。
    「ワアーッ!」
     物理法則に従って、当然に。……やれやれだ。
     だが事前に策はしこんである。承太郎は「相手の車を殴れば反動がある」といった。
     なら、――こちらに反動が来ないように殴らせればいい。
    「ハイエロファントグリーン」
     緑の分身が、静かに身体をのばすッ!
    「花京院ッ!やめろッ、お前の『ハイエロファント』は遠くまで行けるが、ランクルの重量をささえきるパワーはないッ!体がちぎれ飛ぶぞ!」
     ジョセフの不安もはねのけて、花京院は仲間の命のために自分を使う。
    「ジョースターさん。お言葉ですが、ぼくは自分を知っている………。バカではありません。」
     そう、花京院の唯一にして最大の武器は、己自身。
     これを駆使して、仲間を無事全員生存させてみせる。
     ワイヤーウィンチを掴んだハイエロファントは、無事『運命の車輪』のバンパーにかけた。こちらが引力に従い落下すれば、『運命の車輪』も落ちるだろう。
    「フン!やるな…花京院。」
     承太郎からの信頼が、最大の褒美だ。すでにハイエロファントがスタープラチナにハイタッチを終えた。
    「ところでおまえ、相撲好きか?とくに土俵際のかけひきを!……」
     スタープラチナが勢いよくワイヤーウィンチを引く!
     反動で、ランクルが宙を舞う!
    「手に汗にぎるよなあッ!」
     そしてッ!無事承太郎達は着地。入れ替わりに『運命の車輪』はスタープラチナに殴られ、落下ッ!
     花京院は、仲間全員のピンチを救えたことに安堵し、何事もなかったかのように言った。
    「ええ…相撲、大好きですよ。だけど承太郎、相撲じゃあ拳で殴るのは反則ですね。」

     そして、後は仲間にそれとなく『運命の車輪』がどういうスタンドで、
    「どこから電波を流しているんだ。まさか、今落ちていった車じゃあないだろうな。」
     どこから襲ってくるかを伝える。
    「地面だッ!」
     重要な事実も伝えねば……!
    「本体のスタンド使いは、中にいるようだッ!」
    攻撃の正体も。知っていることを悟られないよう、慎重に。
    「ぜんぜん見えない…。なにかを飛ばしてきているようだが……。」
     では、こちらはいつ反撃すべきか。
    「なるほど…、ヤツがなにを飛ばしているか正体不明だが、ハラを見せたときなら、こっちから攻撃できるかもしれん。」
     そして、胸ポケットに手を伸ばし、ジョセフを止めるフリをして針を向けた。今だ!承太郎!
    「オラオラオラオラオラオラオラオラオラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
     時計が、動く。花京院の胸ポケット内で、カチリ、という音がした。

      ☆

     パキスタンに入国し、霧の深い怪しい町で一泊することになった一行。
     ――そう、『正義』のスタンドとの戦いが近づいている。
     花京院はジョセフの部屋を訪ね、テレビの調子を確認していた。ポルナレフは下の階を見に行っている。……彼が怪我を負う前に、承太郎に救助させるのが花京院のミッションである。

     個室のテレビをいじり、ジョセフがぼやく。
    「……おっかしィのォー。まったくつかんわい。」
    「これでは、念聴もできませんね。」
    「ジジイ。」
     部屋の開いているドアをノックして、承太郎が来た。
    「おれは、すこし下の様子を見てくる。……ポルナレフのことが、気になるんでな。」
     そう言って、承太郎が階下に向かおうとする。花京院は声をかけた。
    「承太郎。」
    「なんだ?」
    「……霧が深い。この霧に注意してくれ。何か、嫌な予感がする。」
    「……了解だ。いざとなったら、掃除機の如く吸い込ませるぜ。スタープラチナにな。」
     承太郎はそう言って、ジョセフの部屋のドアを閉め、階段を降りていった。
    「(後で、こっそり様子を見に行こう。ハイエロファントも、階下にスタンバイさせた。)」
     ポルナレフの安否も気がかりだ。決して彼は悪人ではない、無暗に危険な目には合わせたくない。
     承太郎が確実に『正義』のスタンド使い、エンヤ婆に勝てるとも限らない。いざとなったら、フォローせねば……。いやその前に、ジョセフを置いて、どうやってフォローにいくか……。
    「ワシもいくかのォ。」
     ジョセフが立ちあがった。え?
    「ジョースターさん、無暗に動いては……。」
    「いや、ちょっと気になるんでな。……あのバアさんが。」
     まさか?エンヤ婆の正体に既に気づいている……?歴戦の戦士はあなどれないッ……!
    「いや、あの婆さん美人じゃっただろ?」
    「………………………………はい?」
     花京院の口から、思わず間抜けな声が出た。
    「こんな寂しい、治安のよくない町に1人暮らし。どうやら旦那も子どももいない。……そんな感じじゃったな。」
    「……。」
    「どーにも、寂しそうな女性をみると、助けねばならんという思いがひしひしと湧いてきてな。」
    「……。」
    「もしかしたら、婆さんはともかく、美人の娘さんとかいるかもしれん。」
    「……。」
    「ワシが2人分、助けてやれんもんかと思ってな。」
     ――おじいちゃん、何言ってんの。
     花京院は頭を抱えた。承太郎にエンヤ婆を倒させる必要がある以上、ジョセフが倒すようなことになってはならないし、無暗にジョセフが危険な目に会うようなことを許すわけにはいかない。
     だがまさかの守備範囲。女子大生から古紙幣の如くシワシワのババアまで!
    「……ジョースターさん。」
    「アヴドゥルがいたら止められていたじゃろうが、今はチャンス。どれ、これから行って……。」
    「お待ちなさい!」
     花京院の、腹から声が出た。
    「ジョースターさん、……貴方、まさかあのバアさんを助けようと?」
    「ああ、そうじゃ。」
    「今はホリィさんを助ける旅でしょう!好きでこんな所に住んでいるご老人なら、放って差し上げましょう!」
    「えぇ?」
    「寂しい女性かどうかなんて、どうしてわかりますか!あくまであのバアさんは、今日の宿の提供者ってだけです。それ以上、我々の旅に関わらせるべきではない!ホリィさんを優先させるべきです!」
     だが、ジョセフは納得しない。
    「……花京院。だが、これはワシにとって譲れないこだわりなのじゃ。」
    「何故……。」
     ジョセフは、遠い目をして語り始めた。
     何故だろう、……彼の背後に、しゃぼん玉の幻影が見える。
    「ワシのかつての親友。彼は1人寂しそうな女の子をみると、放っておけない男じゃった……。そのためにつく嘘を『正しいこと』と信じていたんじゃよ。」
    「……。」
    「そいつは既に死んでしまった。だから、ワシが代わりにそいつの務めを果たそうと、誓っているんじゃよ……。」
    「そんな……。」
     なんて、なんていい話だろう……。
     ――いや、この旅にノスタルジーも情けも無用!随分大胆な説得を花京院は試みる!
    「今この旅の間だけ、そいつと絶交してください!」
     天国のシーザーに9999のダメージ!
    「あなたには、アメリカに奥さんが、日本に娘さんがいる。その立場を顧みず、今ここでいらん揉め事の種を作る気ですか!」
    「ハッ!」
    「僕は仲の良い両親のもとで育った。それを今でも感謝しています。……ですが貴方は、あんなアイロンがけ前の布巾みたいなババアに、ちょっかいかけて、家庭を壊す気ですか!」
    「……花京院。」
    「親切は結構!だが、行きすぎるとおせっかいになるってこと、覚えておいてください!」
     気づけば、花京院はハァハァと息が切れていた。
     気合が、入りすぎていた。ジョセフは、彼に完全に気押されていた。
    「……花京院、スマン。ワシは……朋子ちゃんのこともあるし。」
    「(朋子ちゃん?)……次に貴方は、『それでも、親友を裏切れん』と言う。」
    「それでも、親友を裏切れん。……ハッ!」
    「……ええ、わかっています。だから、……代わりに僕が行きます。」
    「……花京院。」
    「もしあのお婆さんに助けが必要なら、僕を通して貴方が行えばいい。」
    「……!」
    「これなら、貴方が彼女の恩人にならず、家庭に危機が訪れることはないでしょう。」
     では、いってきます。
     ジョセフを自然な流れで部屋に残し、花京院は1階に下りた。……おおっと危ない。
    「これを、取りださないと。」
     懐中時計の針を、フロント裏に向ける。その瞬間、大きな吸引音がした。

     カチリ

    「……これで、1人分。」
     急いで懐に時計をしまい、花京院はフロント裏に向かった。無事エネルギーを貯めたのはいいが、ポルナレフと承太郎は無事だろうか。
     フロント裏の扉を開ける。
    「承太郎、ポルナレフ、だいじょ……、なんでホルホースが!」

      ☆

     数日後、無事『恋人』の使い手のスティーリー・ダンを倒し、花京院はパキスタンで人との待ち合わせ場所に向かっていた。
     パキスタンの気温は高い。ここで花京院はブライアンに会い、約束した『承太郎かジョセフの血がついた衣服』を渡す予定だ。
     もっともここ暫く、ジョセフが大けがをすることがなかったため、承太郎が『恋人』戦や以前の戦いで汚してしまったタンクトップのみ渡すつもりだ。
     ――ほんの数分で済ませる気だが、声がかかる。
    「花京院、」
     声の主は承太郎。ポルナレフ達は船のチケットを取りに行き、花京院は彼と二人で行動する予定だった。……しまったな。
    「承太郎、なんだい?」
    「……お前、どこに行く予定だ。こんな来たこともねえ国で。」
    「電話をかけに行きたいんだ。」
    「……ベナレスで、かけた相手と同じか?」
    「ああ。」
    「誰だ。」
    「……えっと。」
    「教えてくれ、花京院。」
     承太郎の目は、花京院をじっと睨んでいた。緑の大きな目は、鋭い光をたたえて、本人の口と同じように何も喋らず、花京院の心を焦らせる。
    「……。」
     花京院は、考えあぐねていた。……承太郎は、何を考えているんだ?何故こんなことに興味を?
     彼の目に射抜かれると、焦りが心の隅に沸くだけで、彼が何を考えているか想像が出来ない……。
    「……花京院、相手は誰だ。」
    「両親だよ。」
    「……親か。」
    「そうだ、何も言わずに出てきてしまったからね。」
    「……なら、おれもついて行く。」
    「え。」
     予想外の答えに、花京院はしまった、という顔をした。
    「いや、……両親との会話なんて、あまり聞かれたくないんだが。」
    「おれも、日本の自分の家に電話をかける。おふくろはともかく、財団職員が出りゃあ、何かしらわかるだろう。……ジジイはあまり、容態を教えちゃくれねえからな。」
     どうしよう、どうしよう。花京院は悩んだ。なんとかして、ブライアンの待つ店に行きたい。
     運命エネルギーは1.5人分溜まったがこの先の未来に変更はないのか、アヴドゥルはいつ帰って来るのか、『審判』のスタンド使いはランプをこするようだが、どうやって承太郎に擦らせるか、……色々相談したい。
    「公衆電話、どこだ?」
    「あ、いや店で借りることになっていて。」
    「……お前は、すでに場所を知っているんだろ?」
    「……。」
    「教えろよ、花京院。」
     どうしよう、承太郎を上手く誤魔化す方法はないか。
     花京院は承太郎に顔を背け、脳をフル回転させた。なんて言えばいい……?


    「教えろよ、花京院。」
     どうしよう、承太郎を上手く誤魔化す方法はないか。
     花京院は承太郎に顔を背け、脳をフル回転させた。なんて言えばいい……?

     そこで問題だ!このライオンに睨まれたチワワ状態をどのようにかわすか?
     3択―ひとつだけ選びなさい
     答え①正直に言う。
    『実はね、今から内通者と会って、今後いつ君をピンチに合わせようか相談するんだ。』
     答え②このまま逃げる。
    『承太郎、今まで楽しかったよ。……僕は日本に帰る!』
     答え③かわせない。現実は非情である。
    『承太郎、実はね(事情説明)……』
    『花京院、……お前そんな最低のゲス野郎だったのか。』
    『すまな』
    『謝って済むなら、オラオラはいらねえ!』
     →オラオラオラオラオラオラ(以下略)

     ……さあ、どうする。
     正直、①と③は避けたい。というより、実質この二つの選択肢、結果が同じだ。
     とすると②だ。だが、これでは復帰予定のアヴドゥルさん達が危ない。死んでしまう。
     他の方法、……承太郎に嘘をつく、これが出来るだろうか。
    「承太郎、あの」
    「ああ?」
     できません。
     花京院は、涙とか色々出そうなのを必死でこらえた。
     ライオンに睨まれたチワワには、震えるしかできない。
     怖い、僕のお姫様は滅茶苦茶怖すぎる。
     素直で可愛い、しかしすごんだ時の顔が怖い、僕の……お姫様……。
     ……ん?
    「花京院、今から行くんだろ。」
     ……いや、ちょっと、このアイデアは自分でも。
    「さっさとしねえとジジイ達が」
     ……やるしかないのか。
    「聞いてんのか、花京院。」
     花京院は覚悟を決めた。

    髪をかきあげ、スマイル決めて、
    「おっと、……そんなに僕とデートに行きたいのかい?お姫様❤」
    ……花京院は、今世紀最高のイケメンフェイスで、承太郎の顎を持ち、顔を近づけた。
    「せっかちなのも可愛いけど、あまり急かされると僕の鼓動が必要以上に早まってしまうよ。君の可愛い顔を見るだけで、うん!ドキドキいっているからね。」
     ※(二重の意味で)事実である。
    「マイプリンセス。……少しの間、君と離れるだけだ。寂しいだろうけど、我慢してくれ。」
    「……。」
    「じゃあ、後でね。」
     ――そして、花京院は軽い駆け足で店へとダッシュした。背伸びしたつま先が、痛い。
     後には、承太郎が残った。
    「……。」
     何故だか、胸が熱い。承太郎は、……頭の中で花京院に言われた言葉を復唱する。
    『おっと、そんなに僕とデートに行きたいのかい?お姫様❤』
    『せっかちなのも可愛いけど、あまり急かされると僕の鼓動が必要以上に早まってしまうよ。君の可愛い顔を見るだけで、ドキドキいっているからね。』
    『マイプリンセス。……少しの間、君と離れるだけだ。寂しいだろうけど、我慢してくれ。』
     ――5秒後、ドォーン!と、アラブ首長国連邦に、象が倒れたかのような音が響き渡った。

    喫茶店にて

    「ブライアン、僕だ!」
    「やあ、花京院。まずはちゅうも……」
    「手短に話す!エネルギーは1.5人分溜まった。あと3人承太郎に倒させる。この後の未来に変更はないか、アヴドゥルさんはいつ帰って来るんだ。ランプを承太郎が擦ると思うか。」
    「ちょ、ちょっとかきょうい、」
    「僕の心は、色々限界だ!もう、助けてくれ!あと承太郎の血まみれのタンクトップはこれだ!もう、日本に帰りたいよ畜生!」
     承太郎を「お姫様」と心の中で呼んでいたことは事実だったが、面と向かって本人に言うと思っていなかった花京院だった。
    「な、投げないでくれ、そんな大事なもの!」
     泣きごと言うなら、やらなきゃいいのに!

     しばらくして、未来に変更点はないこと、アヴドゥルは紅海の小島から復帰予定であることを、花京院はブライアンから確認した。
     ……戻った後、承太郎がよそよそしくなっていて、ちょっと泣いた。

      ☆

    次の日、パキスタン→アラブ首長国連邦行きの船上(『太陽』戦前)

    「……。」
     潮風が気持ちいい。花京院は1人で安心しきっていた。今だけは、スタンド使いに襲われる予定も予言もない。ブライアンのおかげで、気持ちに余裕がある。
     ……エジプトまでに出会うスタンド使いは、アラブ首長国連邦に出てくる『太陽』、『死神13』、紅海の小島の『審判』、エジプト上陸直前に襲ってくる『女教皇』のはずだ。
     この中から3人承太郎に倒させれば、もう後のことは心配が無い。無事全員生きて帰れる運命が開ける。
     ……そう、3人でいいのだ。4人全部に、承太郎が襲われる必要はない。
    「(……死神13は、僕が倒そう)。」
     ブライアンからの情報では、夢の中で襲い、夢の中で全ての始末をつけるスタンド。しかも、本体が赤ん坊のため油断を誘われる、とのことだった。下手をしたら、孤独な戦いになる。
     しかも、夢の中での記憶は目覚めた時に一切残らない。
     ……承太郎達が立ち向かっても、夢の中の記憶が無い以上赤ん坊を疑うという考えに至らず、そのまま殺されてしまいかねない。
    「(……僕が攻撃を受けて、そのことを覚えていなければならないが、……やるしかない)。」
     残りの3スタンドを承太郎に任せよう。残り、3人……。
     3人、……。

     しかし、花京院の心は少しずつ疲れ始めていた。
     ホルホースからポルナレフを庇ったアヴドゥル。
    『運命の車輪』戦で、一歩間違えれば全身大やけどだった承太郎。
    『正義』のスタンドに操られ、舌に穴が開いたポルナレフ。
    『恋人』戦で脳をいじくられたジョセフ……。
    「……。」

    【『――我々の―――』『中に』『裏』『切り』『者』『――がいる』『カ』『キョー』『イン!』『に!』『気を』『つけろ』『DI』『O』『の』『手下』『だ!』】

     念聴が、頭の中で花京院を追い詰める。ああ、確かに裏切り者と言われてもおかしくない。怪我をさせる前に全て庇いたかった。だが、相手も強力で、花京院はいつも後手に回っていた。
     できれば、承太郎がピンチになる前に誰かが攻撃を受けるなら、――次からは全て自分に。
     花京院はそう誓った。まだ自分は、何も役に立てていない。
     ……それどころか、きっと、皆を裏切っている。
    『死神13』の使い手の赤ん坊の口癖、これをメモですでに花京院は確認している。
     花京院にとって懐かしい言葉だった。今年1月の発売後、かなり苦労してクリアした、最初の仲間が器用貧乏で使いづらかった、あのゲーム……。
    「ラリホー……」

      ☆

    「メガンテ、ってお前知っているか?」
    「え、なに?」
    「……フランス人のテメーが、知っている方が奇跡だったか。」

    ヤプリーン村西の砂漠、深夜1時(『死神13戦最中』)。

     承太郎はポルナレフと墜落した飛行機の傍で見張りをしていた。気温はぐっと下がり、二人はコーヒー片手に会話を続けている。
     2人の目の前には既に寝たジョセフと、寝相でヘリを墜落させ、狂ったように赤ん坊を疑い、当身を食らって気絶した花京院。こう書くと酷く見えるが、全て事実である。
     ……コイツのことを信じられッか?と、ポルナレフに聞かれた承太郎が返したのは、日本のゲームで出てくる呪文だった。
    「え、……どういう、」
    「花京院が前に、……インド出国前に『仲間を守るために強くなりたい、ひいては新しい戦い方を考案しようと思う。』と言っていた。」
    「……。」
    「その中で出た話なんだがな……。」

    インド→パキスタンへの道の途中で、車を降りて休憩中(『運命の車輪』戦の後)

    『え!君、あの大人気RPGをプレイしたことがないのかい!?』
    『……(あーるぴーじー?)コンピューターゲームなんざ、話に聞いたことはあるが、見たことも触ったこともねえ。』
    『100年前から続く血縁で導かれた仲間を集めて、世界を巡って、降臨した破壊神のラスボスを倒すんだ!すごくいい話なんだよ!』
    『……どこかで聞いた話だな。』

     もしかして:今の俺たち

    『で?そのゲームが戦い方と何の関係があるんだ。』
    『そのゲームには色々な呪文が出てくるんだ。アヴドゥルさんみたいに炎で相手を焼くギラ、相手を眠らせるラリホー。』
    『……。』
    『これら呪文を参考にして、何か強力な技を考えられないかな、と。』
    『……ほう。』
     クラスメイトが何やらバカな子どものようにゲームの話をしているのは、承太郎とて見たことがある。正直、興味が湧かない承太郎としてはどうでもいい。
     だが、ゲームを語る花京院の目が活き活きとしていて、承太郎は、その姿に惹かれるものがあった。……まるで、アイツのようだ。
    『ラスボスがHPを……、怪我を完全回復するベホマを使ってくるという鬼畜仕様なんだが、多分DIOも同じだ。周囲の人々や、下手をしたら僕らの血を吸ってダメージを完全回復するおそれがある。』
    『……エジプトまでの道のりに、そういう敵が出てこねえとも限らねえな。』
     ※承太郎は知らない。この後続々現れる敵が、回復能力を持っていないことを。
    『……うん。まずは周囲の人々に被害が及ばないように、人気のない場所で戦うことが必要だが、……。』
    『……?』
    『できればどの敵にも、……一度の攻撃で、回復が追いつかないほどの大量ダメージを与えられたら、って僕は考える。』
    『……。』
    『そうすれば、きっと君達が怪我を負う前に、楽に倒せると思うんだ。……君の好きな相撲に例えるなら、張り手を地道に連発して相手を弱らせていく方法じゃなくて、拳で殴って相手を押し出し、ってところだ。』
    『……反則だな。』
    『反則でも、生き残れば僕等の勝ちだ。』
     そして、件の呪文『メガンテ』の話になる。
    『ゲームの終盤で、……メガンテを唱え、その後は復活して、この繰り返しで戦う、という方法がある。』
    『なんだ、そりゃあ。』
    『仲間の一人が自爆呪文を唱えて、爆発する。』
    『……すごいな。』
    『もちろん、使った仲間は死ぬ。でも、他の仲間が生き返らせてくれるから大丈夫。……自爆の破壊力はすさまじい。敵はこちらに攻撃する間もなく、死ぬ。』
    『……。』
     そして、花京院は恐ろしいことを言う。
    『……いざとなったら、僕はそういう手段を使いたい。』
    『!』
    『もちろん僕の身体が爆発した所で、相手のダメージなんかゼロに等しい。現実とゲームは違う。だが、自己犠牲で大ダメージを与える、という手段は考えておきたいんだ。』
    『……。』
    『まだわかっていないDIOの能力、……これを、僕の身を犠牲にして解明できるなら、』

     時間は、ヤプリーン村西の砂漠での、承太郎・ポルナレフの夜中の会話に戻る。
    「だからなんだよ、単に花京院が死んでもいいって口で言ったからって、本当にそういう気がある訳じゃあ、」
    「ポルナレフ、そうじゃねえ。」
     承太郎はポルナレフの言葉を遮って言った。
    「今の話でわかったと思うが、花京院はお前と違う。アイツは戦う人間なんだ。」
    「……は?どーゆーこと?」

     衣食住が満たされた環境に産まれて、その環境に満足し、それ以上を望まない受け継いだ人間と、それでもなお満たされず、飢えて戦い続ける人間がいる。
     その差は、大胆に分けてしまえば「欲しいものがあれば戦う人間になり、なければ受け継いだ人間でい続けられる」という区別につきる。
     一番人間が飢えるのは、承認欲求……愛情だ。
    「ポルナレフ、お前は受け継いだ人間だ。満たされた愛情は、テメーも心の奥底で気づいているだろうが、いつでも周りにある。だから、愛情に飢えるような状況にならねえと、力を欲し、戦う必要がない。」
     アヴドゥルの命がけの友情や、シェリーの愛はいつも彼のそばにある。
     世界を巡ってJガイルを追い続けたのは、シェリーが酷い目に会ったから。
     今この旅についてきているのも、死んだ(と思っている)アヴドゥルの意志を受け継いだからだ。ポルナレフ自身がDIOを倒したいと強く望んでいるからではない。
    「だが、花京院は違う。アイツは、誰かから存在を強く肯定してほしい、と願っている。特に、スタンド使いの人間に、愛されることを望んでいる。」
     そのために、DIOを倒そうとしている。……具体的には、承太郎に存在を認めてもらうためだ。言いかえるなら、承太郎を愛し、彼に愛されるためだ。
     ……承太郎がこの具体的な事実に気づいているかは、さておき。
    「……なんでそんなこと、言いきれるんだよ。」
     ポルナレフの疑問に、承太郎は少し意外な人物の存在を出した。
    「ゲームを語っているときの様子が、……俺の親父と同じだった。」
    「……承太郎の父親って、」
    「ジャズミュージシャン。オフクロがこんな状況だが、今も世界を飛び回っているはずだ。」
    「……それって、冷たくないか?」
    「いや、俺もオフクロもそれで納得している。特に、オフクロはそれを誇りにしている。だから、こんなことになっても帰ってこなくて大丈夫だと、思っている。」
    「なんでェ?」

     ――承太郎が幼い頃、なぜ父親が帰って来ないのか、寂しい、と母に泣きついたことがある。
     ホリィはそれに、
    『パパは、世界中の色んな人に、好きになってもらうために戦い続けているの。』
    『戦わなくてはいけない人だったの、生まれた時から。……だからママは、パパを大好きになったの。』
    『戦う人は、いつも一人ぼっちになってしまう。……私達は、必ずここでパパを待ってあげないと。』
    『承太郎はいつか大きくなって、このお家を出て行くわ。でも、私はここにずっといる。ずっと、ずっと貞夫さんを待つわ。』

    「自分でいうのもなんだが、……俺の住んでいる家はデカいし、それなりに親父がこさえた蓄えはある。だが、それに親父は満足しない。」
    「……。」
    「自分が会ったこともない人間に、自分の分身である曲を認めさせるために、親父は生まれて来た。だから、そのために戦い続けなくてはならない人間だった、っつーことだ。」
    「……なんかスゲエな。よくお前、それに納得したな。」
    「まあな、……面と向かって親父に言う気はねえ。納得したのも、ようやっと最近だ。」
    「……。」
    「自分がどんな人間で、何を考えていて、ただそのままの自分自身の存在を認めさせるための戦いというのは、確かに孤独になる。」
     認めさせるためだけに努力し、力をつけ、嫌な思いをし、自分の望む姿が遠くなることに焦り、泣く。気づけば、今まで仲間だった相手は途端に敵になる。その繰り返しが永遠に続く。
     こんなことを繰り返し続ければ、戦う人間はどこまでいっても孤独になる。この世界に生まれた以上、どんな人間でも戦いは避けられない。
    「……花京院は、きっといま現在戦っている最中だ。」
    「……。」
    「俺に、『スタンド使いの少年』ではなく、『花京院典明という、何も持っていない自分自身を認めて欲しい』と、あの野郎は訴えてやがる。」
    「……。」
    「ゲームを語るアイツの目は、そういうもんだった。」
    「……ほう。」
    「必死で『僕を見てくれ』『理解してくれ』と目が語る。……んなモン見せられちゃあ、信頼しないって訳にはいかねえな。」
     承太郎は、自分の感情を表に出す必要はない、と常々考えている。
     それと引き換えに、冷静な判断力が彼に備わり、彼の目は花京院の本質を見抜いた。生まれ育った環境も手伝って、
    『花京院を助けたい花京院に、俺を頼って欲しい。』
    と考えていた。
    「受け継いだ野郎達は、戦うことになった自分自身を、寂しいと感じる健康な精神を持っている。……花京院は、受け継いだ人間じゃあねえ、戦う人間だ。しかも、戦うことへの孤独を気にもしていない。俺は、アイツをそう理解した。」
    「……。」
    「……だから、周りにいる俺たちが気づいて、支えてやらなきゃあならねえ。」
    「……。」
    「俺は、あの瞬間『何があってもコイツを信頼しよう』と決めた。」
    「……。」
    「オフクロなら、……きっとそうする。戦う人間は、ひとりぼっちにさせちゃダメだ、ってな。」
    「……。」
    「俺は、今イチ上手くないがな。あんな風ににこやかには、」
    「いや、……十分だと思うぜ、俺は。」
     相槌に徹していたポルナレフが、承太郎にそう返した。
    「お前がそう思っているって伝えてやるだけでも、アイツには十分じゃあねえの、きっと。頼ってほしいとか、言ってやれよ。」
    「……。」
    「あーあ、俺反省しよっと。明日起きて花京院がなんでもなかったら、謝って、赤ん坊も村に帰すか。」
    「……そうか。」

     ちなみに、先ほど承太郎が回想した花京院との会話には、続きがある。
    『まだわかっていないDIOの能力、……これを、僕の身を犠牲にして解明できるなら、』
     花京院がこう言った後、……承太郎は両手の平をひろげ

     パァーン!

    『!?』
     花京院の頭の両サイドに、張り手をかました。……鼓膜は外してある。
    『……な、なんだい、いきなり。』
    『張り手を舐めるな。』
    『え?』
    『張り手で有名な力士に、前田山(1914~1971)ってのがいる。……知ってるか?』
    『……僕達が生まれてすぐ亡くなった、力士かな?』
    『さすがにテメーでも、……力道山は知ってるだろ。』
     力道山(1924~1963):力士からプロレスラーになった、もの凄い強さと日本プロレス協会を立ちあげたことで有名な男である。あのジャイアント馬場、アントニオ猪木の師匠だ。
     まあざっくり言えば、とにかくめちゃくちゃ強い男で、数多くの伝説を残している。
    『その力道山を、前田山は巡業中のある日、張り手一発で失神させた。』
    『ほう……、それはすごいね。強いな……。』
    『花京院、……張り手を、単なる突き技と舐めるな。威力が小さいとあなどっていると、怪我するぜ。』
    『……。』
    『どーせなら、……自己犠牲だなんだと言ってねえで、頭使って大ダメージを与える方法を考えておけ。』
    『!……ああ。』
    『……頼りに、している。』
    『……うん!』

     この数日後パキスタンで、承太郎は花京院に、突然「お姫様」と呼ばれて戸惑うのだが、……実は承太郎の心の底では、悪くないと考えていた。
     ただ、……何故か花京院と目を会わせづらくなって、今も承太郎の身体はこの「不調」が継続中だ。

      ☆

     この会話の2日後、『太陽』『死神13戦』を終え、無事に運命エネルギーは2人分溜まった。
     現在、クルーザーで紅海の小島に向かっている途中だ。
    「(……あと、1人分だ……!)」

     この2つの戦いでは、花京院以外に傷つく者はいなかった。
    『太陽』戦では、いの一番に飛び出したことで、彼の他は誰も怪我を負わなかった。
     ……ちょっと気が狂ったかのような笑い方をしたが、ああしないと承太郎の注意を引けなかった。
     彼も頭が朦朧としており、「あそこの岩をみてくれ!」と呼びかけても「……ん?」としか反応が来ず、結果花京院自身も経験の無い笑い方を披露する羽目になった。
     花京院の名誉にかけて言いたい、あれは彼の素の笑い方ではない。

    『死神13』戦では、物理的な怪我を負った者はいない。
     だが、花京院が本体のマニッシュ・ボーイを倒したことで、誰も精神的に追い込まれずに済んだ。
     ……ポルナレフに「花京院はおかしくなった」だの、「もう旅についてこられない」だの言われて、ちょっと涙が出たのは内緒だ。

    【『――我々の―――』『中に』『裏』『切り』『者』『――がいる』『カ』『キョー』『イン!』『に!』『気を』『つけろ』『DI』『O』『の』『手下』『だ!』】

    「(あと少し、……誰も傷つけずに。)」
    「そーいえば花京院!お前さん、この一カ月ようがんばっとるな!」

     突然、ジョセフがハンドルを操作しつつ、花京院にそう言った。
    「え?」
    「昨日も朝食に赤ちゃんのお世話。随分助かったのぉー。承太郎もちっとは見習わんと、な!」
    「……チッ。」
     承太郎がそっぽを向いて舌打ちするが、そこにポルナレフがフォローを加える。
    「まあ、承太郎は黙っていても女にモテるだろーけど、花京院は尽くしに尽くして女の子をひっかけるタイプだろーな。まっ、気が利くに越したことはねえよ!」
     そして、本当に心からそう思っているのだろう、
    「お疲れさん。」
     と、肩を叩いてきた。……手が、温かい。
    「……。」
     一瞬、ポルナレフに肩を叩かれた瞬間、花京院の心は軽くなった。
     インド・カルカッタ、『正義』戦であれだけ怪我を負っていた彼にそう言われると、悪い気はしない。
    「……おとといまで、人の事を気が狂っただの、旅についてこれないだの、結構酷い事言ってくれたじゃないか。」
    「え、聞こえてたの?」
    「ああ。理由によっては、容赦しない。」
    「ご、……ごめーん。」
    「ハッハッハ!まあ、最初はちっとワシも不安じゃったな。花京院が着いてくると言い出した時は!」
     ジョセフが突然、そんなことを言い出して花京院は驚いた。
    「スタンド使いとはいえ前日までDIOの手下、しかも能力は未知数。旅慣れている感じがするとも言えんかった。」
    「……ハハ、まあ。」
    「だが、いらん心配じゃったな。下手をしたら、ポルナレフよりしっかりしとるかもしれんのぉ!」
    「ジョースターさん!それはちっとおれに悪いって思わねーの?」
    「すまんすまん!だが、事実じゃ。」
    「なんだとぉ!?」
     ジョセフにポルナレフが盛大に噛みつき、船上に明るい雰囲気が流れる。
     そして、承太郎が花京院の頭をワシワシと撫でた。
    「……。」
    「ちょ、ちょっと承太郎。」
    「……。」
    「な、なんだいいきなり。」
     花京院が見上げると、承太郎のめったに見られないきらきら光る緑眼が見えた。
     そして、……どんな絵画も恋愛マンガも、これに叶わない。
    「……礼を言う。お前がいてくれて、良かった。」
     とても美しい、いい笑顔を見た。
     今まで花京院は、こんな風に笑顔だけで、人の心に花を咲かせる男を見たことが無い。
     ――ああ、人が恋に落ちるのって、承太郎がモテる瞬間って、こういう時なんだ。
     ――僕は、この笑顔のためならいくらでも、この身を差し出しても構わない。
    「ん?どうしたんじゃ、花京院。」
    「なーに顔を赤くしてんだ?ゲロ吐くのか?」
    「やかましいポルナレフ!色々台無しだろ!」

     一方、花京院とポルナレフの言い合いが始まって、承太郎には誰も注目していなかったが、
    「……。」
     彼は、花京院の頭を撫でた手をじっと見ると、
    「……。」
     首を横に振って、帽子のつばを引いた。
     なぜだろう、手の平が熱い。花京院の髪に触れた、手の平が。

      ☆

    紅海の小島にて、アヴドゥル(父親変装中)に再会後

     とぼとぼ歩くポルナレフを見送った後、まずジョセフがアヴドゥルと小屋の中で話しあうことになった。
    「お前たちは、いいのか?一緒にアヴドゥルに会わんで?」

     ジョセフがそう聞いたが、花京院は辞退した。
     どうにも上手く顔を合わせづらい。……インドでの件を、思い出すと。
     数歩歩いた所で腰かけるのにちょうどいいサイズの岩を見つけ、彼は腰を下ろした。
     そして、その右隣に承太郎がやってきて、腰を下ろした。
    「邪魔するぜ。」
    「……。」
     ――波の音は静かに流れ、夕日は静かに沈んでいく。承太郎の座った位置が近くて、花京院は少しドキドキしていた。
     承太郎がどのような表情をしているか覗き込もうとするが、花京院がどんなに首をのばしても、目が合わない。
     おかしい、花京院は気づいた。……それどころか、承太郎がこちらを見ない。
    「承太郎?……僕、顔に何かついてる?」
    「……いや。」
     もしかしたら、……承太郎も座った位置が近すぎた、と考えているのだろうか。
    「じゃあ、君の顔に何かついているのかい?髭でも剃り忘れたか?」
    「……そうじゃねえ。」
     花京院が首をひねりつつ
    「……?」
     承太郎に体を近づけるため、右に尻を移動すると
    「……。」
     承太郎は、さらに右へ逃げた。
    「……??」
     もう一度移動すると、やはり逃げる。
     ……なんだ、一体。
    「じょうた、」
    「あまり近寄んじゃねえ。」
     ぴしゃりと言われ、花京院は身をすくませる。
     だが、すぐに持ち直す。……承太郎のキツい言動には、必ず裏がある。
     ――もう少し、近寄ってみようか。
     花京院が右に移動しようとすると、
    「!」
     承太郎がさらに逃げようとして、……岩から尻を滑らせた。
     砂浜で尻もちをついた承太郎をみて、少し花京院にイタズラ心が湧く。
    「ふーん、承太郎。理由はよくわからないけど、僕に見つめられるのが嫌なのかい?」
    「……いや。」
    「傷つくなあ、ちょっとショックだ。せっかく友達になれたのに。」
    「いや、そういうんじゃ、」
    「じゃあ、こちらを」
     承太郎の両ほほに手をあて、
    「じっと見てくれないか?」
     花京院は、目を合わせた。帽子を取り、砂浜に置く。
     ――やっと、こっちを見てくれた。
     すると、承太郎の顔がみるみる紅くなる。……ん?だんだん面白くなって来たぞ。

    「承太郎、顔が紅いよ。」
    「……やかましい。」
    「どうしたんだい?熱でもあるんじゃないか?」
    「んな訳、」
    「もし君が病気だというなら、エジプト入国と同時に病院に行かなくては。……頭は痛くないかい?」
    「やめろ。違っ、」
    「じゃあ、なんで顔が紅いんだ?……承太郎。」
     波の音が静かに流れ、夕日は承太郎の長いまつげに影をつくる。可愛い、本当に可愛らしい。
    「……そういう、顔で、おれを見るな。」
    「そういう顔、って?」
    「そういう、顔だ……。」
    「いや、残念ながら親に貰った顔だ。整形以外に手段はない。」
    「そうじゃねえ。……その、だな。」
     もしかしたら……。承太郎が顔を紅くする理由は、『太陽』戦前の苦し紛れの、顔を近づけて囁いた口説く文句ではないだろうか。怪我の功名というやつか。
     花京院はそっと、唇を承太郎の耳に近付けた。
    「……もう少し素直になってくれませんか。僕の、お姫様。」
    「……ッ!」
    「照れているのは可愛いけど、」
    「やめろ」
    「やめろって言うなら、もっと抵抗してもらって、構わないよ。」
     だが、承太郎の手は花京院を押し返すことはない。
     花京院の学ランに、承太郎の手が触れた。それほどまでに2人の距離は近い。
     だが、承太郎は行き場の無い手で、そのまま花京院の学ランを、きゅっ、と握るだけだった。……おやおや。
    「……花京院。」
    「なんだい?」
    「お前に見つめられると、……頭ン中が混乱する。」
    「……。」
    「これ以上、近……づくな。こんなの、……俺じゃ、ねえ……。」
     ――ねえ承太郎。そうは言うけど、大柄で普段は強くてたくましい君が、こんなに可愛く悪態をついてくれている。
     悪戯心が燃え上がる。
     今だけ、君をいじめたい。
     君のキツい言葉には、裏がある。
    『近づくな』は、『近づけ』ってことだろう?
     そして、これは僕にしか言っていないんだろう?
    「……それは、できないお願いだな。」
     とん、と花京院は承太郎の胸を押した。砂浜に承太郎が寝転がり、花京院は覆いかぶさった。
    「旅の間で、何度も僕達顔を近づけあっていたじゃないか。」
    「な……っ。」
    「君を庇ってガソリンに撃たれたり、『恋人』のスタンド使いに殴りかかろうとする君を止めるために羽交い絞めにしたり、……それと今と、何が違うんだい?」
    「て、てめー……。」
    「お姫様、威勢を張っても『食べてください』って言っているようなものだよ。……このまま、君の可愛くない口をふさいじゃおうかな。」

     ――だが、とんだ邪魔が入る。
    「ポルナレフーーーッ!」
     ジョセフの声だ。
     2人はハッとして、体を離し、承太郎は立ちあがった。
    「お前ら!」
    「ジョースターさん。」
    「……ジジイ。」
    「ポルナレフを見なかったか!?もう、日も沈むというのに、ヤツが見つからん!」
     ――それを聞いて、花京院は思い出した。
     紅海の小島、ここに『審判』のスタンド使いが来る予定だったじゃないか!
    「(……しまった。確か『相手の願いを土に投影して、土人形に襲わせるスタンド』。)」
     花京院の予定では、承太郎に『審判』を倒させる予定だった。だが、この時間からどうやって承太郎に単独行動をさせる?
     しかも、ポルナレフがいない。小島での寸劇から、もう3時間近く経っている。
     ……まさか。頭の中に、警告が響く。

    【『――我々の―――』『中に』『裏』『切り』『者』『――がいる』『カ』『キョー』『イン!』『に!』『気を』『つけろ』『DI』『O』『の』『手下』『だ!』】

    「手分けして探しましょう。」
    「そうじゃな、迷子になって泣いている可能性もある。」
    「……やれやれだぜ。」
     承太郎を数メートル先に行かせ、花京院はジョセフに耳打ちをする。
    「ジョースターさん。……申し上げにくいのですが、スタンド使いに襲われている可能性は。」
    「いや、それはない。」
     ジョセフはハッキリと言いきった。
    「この島は、実はSPW財団所有の島じゃ。交通機関も通っておらんし、不審な船があれば職員からワシに連絡が来ておる。」
    「……。」
    「安心せえ。ポルナレフは今頃、膝をかかえて落ちこんどるだけじゃ。」
    「……そうです、か。」
     そんなはずはない、花京院は思った。
     ブライアンから渡されたメモには、必ずここに『審判』のスタンド使いが来ると書いてあった。
     彼の予言は……、絶対だ。
     財団の目をかいくぐり、この島にすでに潜入していたのだろう。
     ……しかも能力が能力だ。
     ポルナレフは妹のシェリーさんと同じくらい、アヴドゥルさんの死を悼んでいた。

    『おれは、もう一度インドへ戻ってくるゼ。……アヴドゥルの墓をきちっと作りにな。』

     敵討が終わった後も、ポルナレフは旅についてきた。
     アヴドゥルさんの役目を、……代わりに果たすために。
     誰よりも、僕なんかよりも、あの大怪我を嘆いていた!

    『いいや、おれの責任。おれはそれを、背負ってるんだ……。』

     ここまで考え、花京院は最悪の想像をした。

    「(きっとポルナレフは、『審判』に妹とアヴドゥルさんを生き返らせるよう願い、その結果できた土人形に、殺されかけている!)」

     このままでは、また自分のミスで仲間が傷ついてしまう……!
     ポルナレフが、アヴドゥルさんのように倒れてしまったら!
     花京院は、ハイエロファントをこっそり移動させ、ポルナレフを捜索した。草と草の間をすりぬけ、地面を張って周囲100メートルを捜索する。
     ジョセフと承太郎に気づかれないように、こっそり、慎重にスタンドを動かした。
     ……意識を集中し、結果謎の宝箱を見つけたが、そこで気がつく。

    「(『審判』はパワー型スタンド、非力なハイエロファントじゃあ、ポルナレフを助けられない。……せめて、ハイエロファントの本体の僕が、近くに行かないとパワーが出ない!)」
     花京院の思考を余所に、ジョセフが次第に不安がり、クルーザーを捜索していた承太郎まで、戸惑い始める。花京院の不安、焦りはますます……。
    「おい、ポルナレフのやつはどこにいるんだ……?」
    「まさか敵と、出会ってるんじゃあるまいな。」
    「ジョースターさん!僕!」
    「ん?どうした、花京院?」
     ジョセフと承太郎が振り返り、その瞬間花京院は冷静になった。

    「(今この場で僕自身が、走って助けに行くなんてできないじゃあないか!)」

     さっき僕は、ジョースターさんから『スタンド使いの襲撃はない』と言われたばかりだ。
     なのに、ここで1人で彼を探しに行けば、助けに行ったのが僕なら『スタンド使いが島で、しかも命に関わる様な襲撃をポルナレフに仕掛けていることを知っていた』と、バレてしまう!
     ……どうする、どうすれば!2人にも言えない、きっとポルナレフがピンチだってことを!
    「……花京院?」
    「いえ、ジョースターさん、なんでも……。」

     念聴が、頭の中で響く。
    【『――我々の―――』『中に』『裏』『切り』『者』『――がいる』『カ』『キョー』『イン!』『に!』『気を』『つけろ』『DI』『O』『の』『手下』『だ!』】

     お前は裏切り者だと、
     ポルナレフを見捨てて、自分の恋情を優先させようとしている男だと

     ……やめろ、やめてくれッ!
     どうすればッ!どうすればいいんだッ!!



     その時、花京院の脳裏にある言葉が浮かんだ。

    『……君が辛くなったら、大人を頼りなさい。そのために、いつでも偉そうに威張っているんだからな。』
     シンガポール発の電車で、アヴドゥルに言われた言葉だった。
    「ちょっと、トイレに……!」
     花京院は、早足で小屋に駆けだした。早歩きを走りに、全速力で疾駆ッ!

    【『――我々の―――』『中に』『裏』『切り』『者』『――がいる』】

     ……ポルナレフ、本当にすまない!

    【『裏』『切り』『者』】

     頼む、……無事でいてくれ!

    【お前の所為だ、これはお前の所為なのだ】

     くそっ!こんな、こんなはずじゃなかったのにッ!

     次第に足は速くなり、勢いよく花京院は小屋のドアを開けた!
    「アヴドゥルさん!」
     ――そこには、髪を染め直したアヴドゥルが、ズボン姿で、目を丸くしてそこにいた。
     花京院は彼に駆け寄り、矢継ぎ早にまくしたてた!
    「助けてください!今この島に、スタンド使いがいます!」
    「か、かきょういん、どうした?」
    「ジョースターさんはこの島が安全だと仰っているでしょうが、いるんです!『審判』のスタンド使い!能力は、相手の願いを3つ聞いて、土人形を作って襲う。口癖は、Hail 2 U!」
    「ちょ、ちょっと待ってくれ。一体、何が、」
    「スタンド自体のパワーも強いッ!」
    「何を、言って」
    「このままでは、ポルナレフが死んでしまいます!」
     ポルナレフの生死を持ちだすと、アヴドゥルの目の色が変わった。
    「なッ!」
    「彼は貴方や、死んだ妹さんの土人形に襲われているんだ、きっと!」
    「……!」
     アヴドゥルは黙って花京院を押しのけ、小屋の外に出る!
    「花京院、相手の位置はわかるか!?」
    「ハイエロファントに案内を。不審な宝箱が見つかりました。」
    「その先は私が何とかする。……花京院。」
    「はい。」
    「よく教えてくれた。……ひとりで、伝えに来てくれて、感謝する。」
     花京院に優しく、突き飛ばしてすまない、とアヴドゥルは告げる。
    「安心して待っていてくれ。ポルナレフは必ず連れ戻す。」
    「……はい、お願いします!アヴドゥルさん!」
    「帰ってきたら、呼び捨てでいい。」
     そして、ハイエロファントに連れられて、炎の占星術師が夜闇を駆けていった。

     ――数分後、花京院は1人で、膝を抱えて小屋に残っていた。
     ハイエロファントは既に戻った。
     もし、アヴドゥルさんが『審判』に勝たなかったら。
     もし、ポルナレフが死ななくとも、瀕死の重傷で帰ってきたら。
     いや、もちろん2人が生きて帰って来るのが望ましい。
     だがそのために、大きなミスをした。
    「(アヴドゥルさんに、……動転していたとはいえ、『審判』の能力を知っていたことを、言ってしまった。)」
     今頃、何の説明が無くとも、アヴドゥルさんは迷いなく土人形を破壊していることだろう。
     ……違う、そうじゃなかった。アヴドゥルさんとポルナレフではなく、僕が倒しているべきだった。承太郎に心奪われ、油断していたばかりに……!
     ああ……。
    「……。」
     コンコン、と小屋のドアをノックする音がした。

    「花京院、トイレ……長すぎやしねえか。」
     承太郎だった。
     先ほどまであんなに楽しかったのに、今は花京院の方が、彼の顔を見るのが辛い。
    「どうした、なんで膝かかえて座ってんだ。」
    「……別に、気にしないでくれ。」
    『太陽』戦からは花京院以外誰も怪我しなかったのに、また自分は間違いを犯す所だった。
    「……。」
     承太郎がこちらを心配しているのがわかる。
     彼はゆっくり、花京院に近づいてきた。
    「……来ないで、くれ。」
    「何言ってやがる。」
    「すまない、……だが君に優しくされる資格は、今の僕にはない。」
     言ってしまえばよかった、シンガポールでブライアンに出会った時点で。
     だが言えなかった。
     変な男の事を話して、仲間内に厄介事を増やすことを避けようと思った。
     もう遅い。『運命』はとっくに決まっていた。
     アヴドゥルが瀕死の重傷を負った時点で、花京院は後ろめたさを抱えざるを得なくなった。みんなの為に戦いたかったのに、結果としてみんなを傷つける。
     ……これでは、まるで。
    「承太郎、僕はね……『厄病神』なんだ。」
    「……何言ってやがる。」
    「本当は、君の騎士になって、君をお城まで無事に送り届けたかった。王子様なんて出過ぎたことは言わない。君と、仲間を守れさえすればそれでよかった。」
    「……。」
    「何を言っているか、わからないと思う。でも、それでいい。僕は、騎士にもなれなかった。みんなの、厄病神でしかない……。」
    「……。」
    「すまない、……どうかこの先も強くなるから、……。」
    「……。」
    「置いて、いかないでくれ……。」
     ――承太郎は、ため息をついた。
    「……ああ、お前が何を言いたいか、……わからん。」
    「……。」
    「だが、ここで待っていても、無駄だ。」
    「……うん。」
    「行くぞ、立て。」
    「うん。」
    「今は、俺についてさえ来れりゃあ、……それでいい。」
     そして、花京院はゆっくり、立ちあがった。
     ……そうだ、あと二人承太郎が倒せば、それを僕が記録すれば、……全員助かるんだ。それなら、きっと最後は笑っていられるさ……。

     2人は、海岸沿いにいるジョセフの元に向かった。そして、
    「おい!!みんな、驚くなよッ!誰に出会ったと思うッ!」
     重症のポルナレフと再会。――アヴドゥルが登場し、ようやく5人が揃う。
     潜水艦を確認し、夜間の出発は危険であることや、ポルナレフの怪我の具合を確認する必要があるため、今晩は全員で小屋に泊ることになった。
    「……ポルナレフ。」
     小屋へ向かう途中、花京院はポルナレフを呼びとめた。
    「へ?」
    「……すまない。」
    「え?ちょ、ちょっとなんだよ!何を謝られる必要があんのか……。」
    「わからなくてもいい、ただ謝らせてほしい。……すまない。」
    「~~~ッ、調子狂うぜ。あ!あれか、赤ん坊の時にお前の寝相で砂漠に不時着した時に、お前の頭がおかしくなってんじゃねえかとか、それでそういう髪型なのかとか影で言ったことか!」
    「……それは初耳だったが、君には言われたくなかったな。」

      ☆

     夜がふけ、ポルナレフは小屋の外に出た。
     小屋の中には承太郎、ジョセフ、……花京院が寝ていたが、彼は目が冴えて眠れず、夜風に当たり気分転換をはかろうとしていた。
    「ふあ~ぁ、眠ィ……。なのに眠れねえ……。」
     傷が痛むのも理由だが、3年ぶりに動く姿をみたシェリー、まさか生きていると思わなかったアヴドゥル、……『審判』のスタンド、そしてひっかかるのは
    「……なーんか、花京院のヤローの様子がおかしいんだよな。」
     柄にもなく、しおらしく謝ってきた花京院だった。
     もっとも、彼の変な素振りは今に始まったことではない。『正義』戦で、承太郎がスタンドを倒した後、花京院が迎えに来た。
     その時から、すでに様子がおかしかった。ポルナレフを見る目が、何か……変だった。
    「――ポルナレフ。」
     夜闇の向こうから響く自分を呼ぶ声は、1人で自分を助けに来てくれた、今日の立役者のものだった。
    「アヴドゥル。」
    「……怪我の具合は、どうだ。」
    「おかげさまで。」
    「そうか……。」
     風が心地よい。
     ……明日深夜には、エジプト上陸のはずだ。
     大事なことは、確認しなくては。
    「……アヴドゥル、そういえば俺気づいたんだ。さっきの戦いでおかしいことに。」
    「……ほう。」
    「なんで他の3人は助けに来なかったのに、お前だけが、島奥にいた俺を見つけられたんだ。」
    「……。」
    「あと、お前はカメオの口癖、……もしかしたら能力も知ってたのか?」
    「……ほう?なぜ、そう思った。」
    「……お前が駆け付けて最初に見たのは、俺がお前とお前が知らない裸の女に食われている姿。おれは、……今までジョースターさん達にも、シェリーの写真は見せたことがねえ。」
    「……。」
    「お前にはあれが、土人形だってことも、わかってなかったはずだ。」
    「……。」
    「その状態の俺を見て、まずお前は派手に自分の形をした何かを破壊して、……。」
    「……。」
    「俺に言ったのは、『いまだに相変わらず、後先考えず妹、妹と言っているんだからな。』……裸の女がシェリーだと、よく、……、」
    「……。」
    「いや、その前に、……俺がシェリーを生き返らせるよう願ったと、よく」
    「ポルナレフ。」

     ――俺と、秘密を共有する気はないか。

     アヴドゥルのその問いかけに、ポルナレフは目を丸くして、耳を傾けたのであった。

    【続く】
    ほむ Link Message Mute
    2022/07/30 21:24:47

    厄病神のラブ・コール2【花承・WEB再録】

    2章 我が名は花京院典明、日本に帰りたいです #ジョジョ-腐向け #花承

    2015年2月1日 GoldenBlood15発行

    以下、ピクシブ再録時コメント
    原作沿い・シリアス
    ※原作程度の流血表現があります。

    この章は長いので、一旦分割します。
    まあ、お察しの通り、箸休め部分

    完売から一年経ったので、再録いたします。
    一度文庫本で出し、その後A5サイズで再録発行させて頂いた
    とても大切な作品です。
    今まで書いた全ての作品の中で、一番ラストが好きな作品です。
    全五章。今回は、六章目のR18部分も掲載します。

    数年前の作品なので、つたない部分も多々ございます。

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