厄病神のラブ・コール【花承・WEB再録】5【完】5章 ラブ・コール
真っ暗な世界の中、背中に振動を感じ、その痛みで目が覚める……。
「……こ…こ、……は。」
「気がついたか、花京院。」
ジョセフが、花京院の顔をみて、ホッとした表情を見せた。
声がかすれ、上手く花京院は返事が出来なかった。
「え……、ジョー……スタ…さ」
「今ここは、救急車の中じゃ。ワシがお前の身体に波紋を流し、自己治癒力を上げておる。」
「……あ……りがと………ござい……ます。」
そして、イギーが台に飛び上がってきた。動けない花京院の左ほほをペロペロ舐める。
「イギーに感謝じゃな。動けず、担架でも運ぶことが難しいお前さんの身体を、慎重に運んできてくれおったわ。あとで、コーヒーガムを何枚か渡してやってくれ。」
「そ……なの……か……、ありが…とう……。」
「……花京院、ワシに言うことはないか?」
……?
…………!
「ああ、DIOを倒した後、現れた2人の男はどうなりましたか!?まさか一般市民に危害が!」
「……アイツらなら、アヴドゥルとポルナレフが倒した。」
「なんてことだ!まさか大怪我を負っているんじゃあ!」
「お前より大分マシ!五体満足で、すり傷程度じゃあ!自分で歩いて、病院に行った!」
「……よか……った。」
花京院はホッとした。だが、ジョセフはむくれた。
「花京院!お前、……『心配かけてごめんなさい』ぐらい言えんのか!」
「でも……。」
「全て知っている!お前がハイエロファントで昨晩カイロの空に吹っ飛ばした男なら、ワシらが捕獲して事情を吐かせた!」
「え……。」
「このジョセフ・ジョースターを見くびられては困る。お前がワシらに隠し事があったことぐらい、シンガポールから知っとったわ!」
「……ええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!」
そりゃないよ、おじいちゃん。
――ジョセフの話はこうだった。
【『――我々の―――』『中に』『裏』『切り』『者』『――がいる』『カ』『キョー』『イン!』『に!』『気を』『つけろ』『DI』『O』『の』『手下』『だ!』】
念聴をアヴドゥルと聞き、即座に内容がおかしいことに気づいたジョセフは、花京院を疑った。……大体承太郎とはぐれた言い訳が「日光浴」って、アホか!
だが、正確には「裏切り者とまでは行かなくとも、花京院がDIOの手下と接触した可能性がある」と判断した。早合点せずに、慎重に探ることを決意。
直ちに、シンガポール~インド・カルカッタ間の電車内で、アヴドゥルに指示し、花京院をけん制した。だが、何も花京院は漏らそうとしない。……怪しい。
もっとも、花京院の働きはジョセフの想像以上であった。
ポルナレフの敵討ちで見事彼に花を持たせ、瀕死の重傷を追ったアヴドゥルにホルホース達がトドメを指すことが無いよう、注意をひきつけ逃走する判断は見事だった。
また、(ジョセフが気づいている中で)最大の手柄は『恋人』戦だった。花京院の機転が無ければ、今頃ジョセフ・承太郎共にどのようなことになっていたか、わかったものじゃない。
だが、一方で疑う理由もあった。
「……お前さん、どうにも刺客のスタンド能力に気づくのが早すぎた。シンガポール出国後と前では、察しの良さが違い過ぎたんじゃ。」
結果、ジョセフは最終判断を、DIOのいるエジプト入国前に行うことを決めた。
「……それが、『審判』戦だったんですね。」
「そうじゃ。あの島は確かにSPW財団所有のものじゃが、……流石に100%『スタンド能力者が入島しているなど、あり得ない!』とは言い切れなかった。」
「……。」
「まあ、ポルナレフは強いし、いざとなったらアヴドゥルが走って助けに行くじゃろうし、……ワシはお前の出方を見た。」
「……。」
「見事、アヴドゥルに自分の立ち位置が危うくなることを恐れながらも、『審判』の能力を伝え、ポルナレフを助けることに貢献してくれた。」
「……。」
「あれで、ワシもアヴドゥルもお前さんを信頼しようと決めたんじゃよ。ポルナレフも、その日の晩にアヴドゥルから話を聞いたそうじゃ。」
「……。」
「まあ、ポルナレフは直接はアヴドゥルに2度命を助けられたが、結局『審判』戦ではお前さんにも助けてもらっておったからな。借りを返したかったらしい。」
「……。」
「あと、アヴドゥルはお前が承太郎だけでなくポルナレフやワシを助けていたことを、かなり評価しておった。自分の恋情にとらわれず、殊勝に友情を大事にするなら、信頼できると。」
「……。」
「こちらを頼らない男に、命を預けるなんてできる訳が無い。まあ、カイロで1人DIOに突撃する前に再度頼ってくれれば、もっと問題なかったんじゃがな!心配かけおって、このスカタン!」
助けますよ、と言ってくる詐欺師と、この借りはいつか返す、と言うライバル。どちらが信頼できるだろう。
花京院は理解した。……ああ、そうか。僕が、馬鹿だったのか……。
「花京院、お前さんはよく頑張った。……頑張りすぎじゃ。」
――そしてやっと気づいた。1人じゃなかったのだと。
「もしやしたら、お前が承太郎と対立することを嫌がり、ブライアンの本性に気づかなければ、……DIOの館にそのままワシらは突入し、アヴドゥル達も死んでいたかもしれん。」
「……。」
「……だが、これはお前の覚悟が掴んだ未来じゃ。何と文句を言おうと!手術・入院代は全額こっちで持つからな!」
「……え。」
「まったく、……一応スージーにはDIOのことは何も言わずに来ているというのに、エジプトに来ているとバレたら浮気と誤解されるじゃあないか。」
「……。」
「こっちは出番なしで、怪我も負っとらん。社用旅行という嘘はとっくにバレているし、……義手ぐらい壊さんと本当に疑われそうで……、……ん、どうした?」
「……いえ。」
「な~にも、……泣くことはないじゃろう。」
――涙が、ぽろぽろとこぼれそうになり、必死で花京院は耐えていた。
「泣いて、……ません。」
気づけば、イギーがペロペロと舐め取っていた。こういう所だけ、察しがよい犬である。
救急車は、SPW財団系列のアフリカで一番大きな病院に到着し、担架が運ばれていく。もう、花京院の身体は振動にも痛みを感じなくなっていた。
「……ジョースターさん。」
「ん?」
「……ご心配おかけして、色々と、申し訳ございませんでした。」
「まあ、これからも友人として付き合うっていうなら、水に流してやる!フン!」
☆
そして、また入院することになり、花京院の個室に友人が現れた。
「花京院―――――ンンンンンン!お前が生きていて、よかった!」
……まず、ポルナレフが。仕方なしにリード代わりの紐が胴体についており、アヴドゥルが必死で引っ張っている。
「こら!あまりベッドを揺らすんじゃあない!これでも花京院は重体なんだぞ!骨もバキバキに折れていた!お前も確認しただろう!」
「アヴドゥル、んなこと言うけど、お前も花京院を見つけた時に真っ青だったじゃねえか!あの時の花京院、返り血浴びて、変な方向に足が折れてて、しかも安らかな表情してて!」
第一発見者の彼等にとって、花京院は『召された』状態だった。
「ムゥ……。」
「『とてもじゃあないが、生きていると思えない……』って言って、駆け寄る時にちょっと心折れてただろ!イギーだけが冷静だったじゃあねえか!」
「……お前に言われたくない!花京院をイギーが運ぶのをチラチラ余所見して、ヴァニラにチャリオッツの剣先食われた癖に!」
「ぐっ……。テレンスに『貴方、ポルナレフが必死で戦っているのに、死にかけている花京院の方が役に立ちそうだと考えていますね?』って、頭の中当てられていたじゃあねえか!」
「……だからなんだ!」
「俺の頑張りを無視すんなよ!アンタに弱いと思われんのは、腹が立つ!」
「……、ならなんで肝心な所で卑屈なんだ!テレンスの言葉に動揺したりして!ちゃんと、お前は役に立っていただろうが!」
「……2人とも、よく御無事で。」
どうやら、壮絶な死闘が繰り広げられたようです。途中から、2人の口論内容が明後日の方向に進んで、何もわからないけど。
「ただちょっと、……甘えていいなら、静かにしてくれ。」
「あ。」
「……すまない。」
「イギーが、一番静かだ……。」
リードのついていない野良犬は、大人しくコーヒーガムを堪能していた。これで、5枚目だ。
――見舞客に、承太郎はいなかった。
ポルナレフ達の話では、ジョセフと共に花京院を救急車に乗せ、彼の骨を接ぎ、その足でDIOの館を始末に向かったそうだ。
面会時間が終了し、花京院はその日眠れなかった。
夜を徹しての死闘、手術、……。体力を使い果たしているはずなのに、目が冴えていた。
「……。」
花京院は気づいた。
「(……ジョースターさんは、ブライアンを捕獲し、全て事情を吐かせたと言っていた。)」
「(……とすると、僕の承太郎に対する想いも、バレているということだろうか。)」
「(いや待て、おかしい。……大きな矛盾点が一つある。)」
「(なぜ、僕の恋心をブライアンとDIOは知っていたんだ。)」
「(ブライアンの、1988年に何があったかを探る情報源は、『承太郎のDISC』だったハズ……!)」
Q.これら事実から考えられる、1巡前の世界で自分が行った行動を予測しなさい。
A.承太郎に告白した。
「………………………………………いや、そんなハズは!」
おかしいじゃあないか。
1巡前の世界がこの旅と同じ道筋だったなら、婚約予定だったことを知っていたんだろ!?
何やってんの!どっかの世界の僕!人妻(?)相手にやらかしやがったのか!
「……なんてことだ。もう、どういうことなんだ!」
「どういうことか、知りてえか?」
「ああ!」
「なら、今度は俺を追いだすなよ。」
「え。」
いつのまにか、個室の窓が開いて、乾いた帽子を被った承太郎が、個室に入ってきていた。
「……どう、も。」
「言っておくが、ハイエロファントで拘束もなしだ。最初の戦闘といい、どうやらお前の趣味のようだがな。……この変態。」
「……。」
ぐうの音もでません。ただ、何故か
「君にそう言われると……、嬉しい気がする。」
「阿保か。」
花京院は全国の承太郎ファンの心を代弁しただけである。
「さておき、ブライアンという野郎が未来の俺の記憶を見て、『運命』と呼んでいた筋書きをたどると『俺とジジイとポルナレフは生き残り、お前達3人は死ぬ』ということだったようだな。」
「……ああ。」
「だが、その道筋にはいくつか矛盾があった。
①シンガポールの念聴が、お前をハッキリと『裏切り者』と言ったが、実際のお前はそうじゃなかったこと。
②DIOが念聴の最後にテレビに現れ、テレビを爆発させたが、あれはDIOの能力ではなかったこと。
③ポルナレフに堂々と、『鏡の世界はない』と言い張るお前。大した根拠もねえのに、お前がそんな不確実なことをいうのがおかしい。
④『運命の車輪』戦では、何故か本体が車内部にいることを知っていた。
『正義』戦では、あれだけ大きな物音がしているのに、ジジイとお前は降りて来ねえ。
『恋人』戦で、パワーCのハイエロファントがスタープラチナを羽交い絞めにして止めた。
……あの時点では『恋人』の能力は不確定だったが、お前は本当にスタンド能力が本体のダメージを、とりついた相手に跳ね返すと知っていた。俺が本気を出せばジジイは死ぬどころじゃねえ。だから、お前は必死になった。そして、ハイエロファントはあそこまでの力が出た。
『太陽』戦でも、お前1人が狂ったような笑い方だったが、俺達のように普通の笑い方でいいのに、あそこまでする意味がようわからん……。
いや、……ここら辺はナンクセに近いな。
⑤だが最もデカイ矛盾点は、『審判』戦でポルナレフ救出前からスタンドのルールを知っていたアヴドゥルだ。……まさか、ポルナレフがやられるのを影であの野郎が観察していたとは、思えねえからな。
もっとも、アヴドゥルが事前に『審判』の能力を知っていたら、俺たちに伝えているだろう。アイツが敵と繋がっていたと仮定すると、インドで撃たれたのが泥臭すぎる。もっと、上手いやりかたもあっただろう。……お前の方が、挙動不審な点が多かったからな。」
「……。」
「細かいことが気になると、夜も眠れねえからな。……結構考えた。
これら全てを説明するには、『お前が敵のスタンド能力を全て事前に知っていたが、裏切るまでの思いをもっておらず、何か理由があってそうしていた』というのが手っとり早い。
……そうだろう?アヴドゥルが生きていたことを言いづらい状態だった、と。」
その結果、暗躍する男の存在に、承太郎はたどり着いていた。『花京院は、きっと誰かに脅され、敵スタンドの情報と引き換えに辛い目にあわされている。』のだと。
仮に、DIO戦後に花京院が死んでいたら、承太郎自身がブライアンに落とし前をつけに行ったのかもしれない。
「その通りだ、……色々とすまなかった。」
「いや、いい。辛かっただろう。」
「……。」
「話を先に進める。ブライアンの野郎が見て来た世界の話だ。アイツは、プッチという野郎に言われて『覚悟こそ幸福』という世界に来ている、と思っていたそうだ。」
「……?」
「『たとえば5年後の未来、何が起こるか?
人類全員がそれを知っている。
『加速した時』の旅で、自分がいつ事故にあい、いつ病気になり、いつ寿命が尽きるのか?すでに体験してここに来た。』
……という世界だそうだ。知っているから、覚悟が出来て、恐怖が無い世界、だと。」
承太郎の説明は、わかりやすい。花京院は益々彼を好きになった。
「だが、この俺達にはンな能力ついていねえ。俺は、たとえば1秒先だってポルナレフがコケるか、アヴドゥルがそれを支えようとするか、ジジイがそれをネタにからかうか、イギーがその隙に靴にションベンかけるか、……まったくわからん。」
「なら……。」
「ああ、多分何かの手違いで、アイツの目論見は外れた。この世界は、何の法則もないパラレルワールドというヤツなんだろうぜ。」
「……。」
――彼等の知らないことだが、『覚悟こそ幸福』の世界で、プッチ神父はエンポリオに倒されていた。
エンポリオの望んだ世界は、『正義の道をたどることこそ運命』の世界だ。その世界では、承太郎に似た人間が、アイリンという娘を持って暮らしている。
では、プッチ神父が居なくなった後の『覚悟こそ幸福』の世界はどうなるのだろうか?
答えは『プッチ神父の意志が反映されず、何の法則もない世界が出来ている』だろう。
「いや、俺だってSFなんざ『すこしふしぎ』ぐらいの知識しか持ってねえ。ここら辺は、あてずっぽうだ。」
「……。」
「だが、これで何のしがらみもねえ。……さて、最後に『なんでお前の想いを、一巡前の俺がしっていたか』だ。……が、」
承太郎は、ここで一拍置いた。
「……?」
「花京院、その前に何か言うべきことはあるか。」
「え。」
「……聞きたいことでも、構わねえ。」
「……。」
「……なければ先に、」
「待ってくれ」
同じ立場の自分が、同じように承太郎と出会って恋をして、彼と仲間の為に命をささげた。
なら、……同じようなことをしたのだろう。
「一巡前の君は、……僕から手紙を受け取ったのか。」
「……。」
――それは、DIOとの死闘を終えた一巡目の承太郎が、ホテルで自分の荷物を開けた時に入っていた。
中には、几帳面だがクセのある字で「君のことが、ずっと好きだった。……ごめん。」と書いてあった。
その手紙は、承太郎が握りしめて読めなくなった。だが、彼の記憶の奥底にずっと残っていた。
「これを見て、前の世界の俺はお前の気持ちに気づいたらしい。決して、お前が結婚した俺に告白したとかそういうこと、ではない。」
「……そっかぁ、よかった。」
「……何を安心していやがる。」
「いや、……君の幸せを進んで破壊するような、クズになっていなくて、よかった……。」
本気で、花京院は安堵していた。
これだから放っておけない。承太郎はため息をついた。
「……まあいい。アスワンの病院で、俺の心にグサグサ来るようなことを言って、今の俺の心を不幸にしたのは許さねえがな。」
「!」
「忘れてなんざ、やらねえからな。」
「……本当に、ごめん。」
「……ほう。」
許してほしいか、と承太郎に言われる。
「……どうしたら、許してもらえるだろうか。」
花京院は、なんでもする覚悟だった。
「そうだな、……あらためて俺に言いたいことはねえか?」
「!」
「それを、正直に言ったら許してやる。」
「……。」
花京院の脳みそはDIOと戦った時よりフル回転。
何をいうべきだろうか。すでに一巡前の自分が、彼を好きだったことは知られていることがわかった。だが、今の自分の想いはバレていないのだろうか。
「……えっと、」
「ちなみに、お前が俺のことを好きかどうかは、ポルナレフから聞いた。」
「はあああああああ!?」
「……周囲から、お前結構バレバレだったらしい。アヴドゥルからも、『フるなら、優しく言ってやってくれ』と言われた。」
よ、余計な気づかいをォ!
「……僕は、いずれフられるのかい?……いや、そうだったか。」
「……何言ってんだ。」
「だって、君は、……未来で結婚相手が。」
「さあな。だが、今の俺は何も知らねえぜ?今が、……絶好のチャンスだろうな。」
「……。」
「俺は、テメーで覚悟決めてバシッと告白も出来ねえ野郎に、人生預けるほど安くねえぜ?」
悔しい程に、そう言った承太郎の顔は決まっていた。
……カッコいいなあ。でも、可愛いんだよなあ。
「ついでに、ハイエロファントのキスも、まあ見逃してやらんこともない。」
「あ……。」
「お前が、俺に言いたいことを言うかどうかだ。言わなければ、……わかっているな?」
「……オラオラ、ですか?」
「YES」
――言いたいことなら、実は山ほどある。
旅の間に、何度も心の中で承太郎に好きだと言った。朝、目があって、挨拶をする。それだけで、舞い上がってしまうほど幸せだった。
何度も承太郎がピンチに遭い、その度に心が締め付けられるような思いだった。傍にいて助けたいと、……できれば日本に帰ってからもずっと傍で支えていきたい。
……なら!
「――君は、ないのかい?」
「……?。」
「君は言いたいことは、僕にないのかい?承太郎。」
「……俺は、お前に聞いているんだが。」
「ああ。僕の心は決まった。だが、これを言うにはクリアすべき大事な問題がある。」
「……。」
「それは、君も僕も、ちゃんと対等に、言いたいことを伝えられる関係にならなきゃいけないんだ。」
ジョセフに言われた言葉の「心配かけてごめんなさい、ぐらい言えんのか!」が、花京院の心で理解できた瞬間だった。
「ずっと一緒にいるなら、僕は君にカッコ悪い所も見せていかなきゃいけない。愛している相手に、心配させ、悲しませるなんてことはさせてはいけないから。」
「……。」
「そして君は、言いたいことがわかりにくすぎる。」
「…………なんだと?」
「エジプト・アスワンの病院で思ったけど、あの口調じゃあ僕を尋問しているようにしか聞こえなかった。」
「な……。」
「優しく面倒見てくれるジョースターさんや、『いざとなったら頼れ』とはっきり言ってくれたアヴドゥルさん達を見習ってくれ。」
「……。」
「不服かもしれないだろうが、事実だ。別にポルナレフみたいに開け透けになれとは言わない。だが、もう少し素直になってくれ。」
「……。」
「……ずっと一緒にいるなら、そういう所からすり合わせて行こう。僕も、君の言いたいことを理解するよう、努力する。」
ここからだ、やっとここから2人が主人公の物語が始まる。
「好きだ、承太郎。もし、僕の今の提案に不服が無いなら、」
「……。」
「ずっと、ずっと一緒にいて欲しい。」
人は皆、誰もが「好きな人を守るために活躍する自分」という存在に憧れる。
だが、現実はどうだろうか。日常生活では禁断の恋などほとんど落ちることはないし、敵を倒さなければ姫を助けられない、なんてゲームみたいな展開はあり得ない。
……だが、もしもだ。
もしも好きな相手の笑顔のために戦うことになったら、…どうすべきか。
「承太郎、心配をかけて、本当にすまなかった。」
……相手を本当に愛していて、そのために戦うなら、相手を心配させ、泣かせるようなことは、絶対にしてはいけなかったのである。
承太郎は、息をふぅっとついた。
「なら、行くぞ。」
「え、何処へ。」
「俺は体力が有り余っている。DIOの野郎をブチのめせなかったんでな。……お前、完治したら俺と留年する気はあるか。」
「……!」
欠席日数が溜まり、できればすぐ帰国・復学することが必要な2人である。
だが、承太郎には考えがあった。
「プッチ、とかいうクソ野郎がいるらしいじゃねえか。……DIOの日記は読まずに燃やしたが、アイツが今後、何かしてこねえとも限らねえ。」
「……。」
「お前が、俺の隣にいたいというなら、着いてこい。」
RPGゲームでは、ラスボスを倒したらハッピーエンドだった。……なのに、
「……ラスボスを倒したのに、戦いは続くのか。」
ただそのかわり、ゲームと違って、ラスボスを倒したという事実は残る。
これからの旅は、その後の続きだ。結ばれた2人が、2人で戦い続ける物語だ。
「……承太郎。」
「なんだ。」
「君の気持ちを聞いてないんだが。」
顔を近づけて、いつでも目を合わせて会話しよう。
「承太郎?」
「……。」
そして、対等に言ってくれるようになるまで、承太郎の方が時間がかかりそうだが、
「こっちを向いてくれ、……お姫様。」
「――ッ!」
どうやら、攻略は早そうだ。
こうして厄病神の似合わなかった花京院は王子様として、お姫様の承太郎と末永く幸せに暮らしましたとさ。 【完】