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    厄病神のラブ・コール【花承・WEB再録】44章 銃口を自分の眉間に突きつけ、お前と踊るのも悪くない エジプト・カイロ


    「……ちくしょう! まだ見つからねえのかよ!」

     帰宅ラッシュの人混みの中を疾駆する、銀髪の青年。

    「そうか。……わかった。すまない、何かわかったらすぐ教えてくれ」

     顔なじみの者達に、仲間の特徴を伝える褐色肌の男。

    「…………、チッ」

     狭い路地裏を駆けるボストンテリアは、嗅ぎ慣れた少年のにおいに、血のにおいが混ざっていることに気づいて舌打ちした。

    「頼む。カイロにいる全職員に伝えてくれ。まずは救出を、……ワシらの仲間である、少年の」

     無線を片手に呼びかける老人は、もう片方の手に纏ったスタンドで彼の居場所を探していた。
     ――そして、

    「……花京院」

     ビルの屋上で、空条承太郎は呟いた。
     倒れていたのは、顔も知らない異国の男。
     ただひたすらに、胸元で手を握りしめた。

    「どこにいやがる……」
    4章 銃口を自分の眉間に突きつけ、お前と踊るのも悪くない

     DIOは、手こずっていた。
     自室を破壊され、花京院を負って飛び出したはいいが、ヤツが見当たらない。
    「……。」
     特にジョースターの親子の繋がりが、花京院の体に存在している訳ではない。そのため、花京院の居場所がDIOには伝わってこない。
    「……猪口才な。ムッ?」
     そして、足止めをいくつか食らっていた。
     DIOが進もうと建物の屋上から飛ぶと、ビルが1棟崩落して来る。
    「チィッ。」
     足で難なくかわすが、かわした先に東西南北から4棟のビルがッ!
    「……無駄無駄。」
     ――ザ・ワールドッ!!
     時を止め、DIOの爪が!ビルのコンクリートを切り裂いたッ!
     ――時が動き出すと同時に、まるで豆腐のようにいともたやすく、賽の目になるコンクリート。落下し、地面に叩きつけられると同時にボロボロと崩れて行った。
     意にも介さず、DIOは花京院を追い続ける……。

    「……。」
     花京院は、逃走しつつ、双眼鏡でその様子を視認していた。
     ハイエロファントは絶好調――、花京院は彼の触手をつかみ、ビルの間を縦横無尽に西、北、西、……と飛行し、承太郎達が泊っているホテルのある東南方向とは逆に逃げていた。
     風は一瞬にして頬を冷やし、周りのビルの建築素材は瞬きの間に変わる。その下からは、民衆の驚く声がした。
    「!?」
    「何アレ!」
    「人が飛んでる?」
     ……人前で、ここまでスタンド能力を大っぴらに使うのは初めてだ。少し、気持ちがいい。まるで轡を外されたドラゴンが、初めて思うがままに炎をはいている気分だ。
     地上15メートルを、超高速で花京院は飛行する。ハイエロファントの触手を先へ先へと伸ばし、支点にする建物を変えていく。
     とにかく追いつかれてはいけない。次のビルに触れた瞬間に次の家屋に触手を伸ばし、次の次に目指すビル、次へ、次へ、次へ次へ次へ!

     花京院の狙いは、まず①ハイエロファントでは十分なダメージを与えられるとは限らない。どの程度の破壊ならDIOを傷つけられるか調査する、ということだった。
     ハイエロファントの攻撃手段は、エメラルドスプラッシュ、体内にもぐりこんでの爆発、半径20Mの結界、の3パターンだ。
     これらでDIOを倒さなければならない。だが、このどれもが吸血鬼の身体に通用しない、というのは避けなくてはいけない。
    「(……まずは、実験だ。DIOの館に向かうまで、カイロ中を飛び回って地理を叩き込んだ。どのビルが使用されておらず、崩壊しても人が犠牲にならないかは、検証済みだ。)」
     計5棟のビルを破壊したが、
    「(……。)」
    DIOには傷一つついていない。
     ――次に、エメラルドスプラッシュで標識を破壊、折れ曲がった『行き止まり』がDIOの頭を狙う!
    「……。」
     それも、かわされた。狙ったのは『行き止まり』だけではなく、電柱や道路標識も共にDIOの半径1メートルを潰していたというのに。
    「……。」
     花京院は、もう一つの狙い②DIOのスタンド『ザ・ワールド』の能力の推理を始める。
     その瞬間!!
    「!?」
     例えばッ!
     瞬きをした瞬間に自分の首の周りをナイフが、刃を向けて囲んでいたら、君はどうするだろうか?まるで花弁と雄蕊、菊の花びらの枚数のナイフが、花京院の首を取り囲んでいる!
     二度見、などしている暇はない!
    「……クッ」
     花京院は即座に状況を理解!学ランを無理矢理脱ぎ捨て、
    「うぉおおおおおおお!」
     喉の周りで一周させる!
     ナイフは、学ランに刺さり、刺さらなかったものは落下していった。

     その様子を見て、DIOはほくそ笑む。
    「……面白い、そうこなくては。」
     少しは楽しませろよ、……花京院。

     花京院は、律儀に学ランのボタンを止め、なおも逃走を続ける。
    「……危なかった。」
     これは……、突如ナイフが現れた。DIOは先ほどから、ビルや標識、ロードローラーまで難なくかわし、こちらを追ってくる……。
     まるで、時の止まっている世界を移動しているかのように。
     ……時。
     花京院は、頭の中で自分のセリフを復唱する。
     あながち、間違っているとは思えない。推理を続ける。
     ――当初、DIOの能力は『遠距離型』と考えていたが、今こうして本体が追ってきている以上、そんなことはないだろう。
     今現在、僕とDIOの距離は約10M。……これが、能力の射程距離内という所か。
    「……。」
     逃走速度を速めると、
    「……ムッ」
     DIOもその速度でこちらを追う。
     10Mに入るか入らないか、というギリギリで花京院は逃走を続ける。
     もっとも、ヤツは連続して時を止められない。ナイフをこちらまで投げる時間、……約5秒間だけ停止可能。
     その後はスタンドパワーが貯まるまで時を止められないのだろう。
     連続して止められるなら、僕はもう死んでいる。
     ――冷静に思考しながら、花京院はカイロ市街を飛行し続けていた。
     ジョースターさん達のいるホテル、あちらには近づかない。
     彼等に危害が及ぶ前に、僕がDIOを倒す。……この身に代えても。
     ビルの窓には、僕の飛ぶ姿だけが映る。ハイエロファントは映らない。
     思えば、それまで『遠くまで伸びる』しかできなかったハイエロファントの戦い方を考え、僕に指導したのはDIOだった。

    『……花京院、君の心の中に何かを壊したい、という思いはないかね?』

     これが、エメラルドスプラッシュを考案することになるきっかけになった、ヤツの言葉だった。
     DIOは、僕の手の内を全て知っている。……だが、負けるわけにはいかない!
     それに、多分DIOには切り札があるハズ……。
     ――しかし突如ッ!銃撃音もなく、数百もの弾丸が周囲を取り囲む!
    「!?」
     それらは花京院の頭、心臓を狙い、全弾見事に命中!
     ビルのガラスが割れ、階下にいる市民の悲鳴がッ!カイロに響く!

     命中する1分前

    「おい、貴様等。」
     DIOは、花京院を追うのをやめ、ホームレス達に声をかけた。
    「ああ?」
    「なんだぁ?兄ちゃん。」
     多分、政権に不満のある者達だろう。火薬の匂いがする、……武器を隠し持っているな。
    「いいものを持っているな。……借りるぞ。」
     DIOは彼等の車に手をかけ、無理矢理ベキバキと荷台をこじあけた。
    「なァ、なにしやがるッ!」
    「借りるだけだ、……悪いか?」
     目当てのものは、――かなり大きい。
    「ちょ、ちょい、お前さん。それは、」
    DIOが見つけたのは、――ガトリング銃。本来、ヘリコプターの対地上制圧射撃用に使われる。
    「おい!アンタそれ18キロあんだぞ!」
    「片手でもつなんざ、骨が砕けちま……。」
    「ピストルじゃねえんだぞ!」
     ……ハエがやかましいな。
    「ギャッ」「グエ」「ボエ!」
     DIOはガトリング銃で、そのまま彼等を殴り、殺した。
     コイツは1秒に100発撃てる代物だ。通称『無痛ガン』、生身の人間が被弾すれば痛みを感じる前に、死んでいるッ!
     しかも最悪なことに、花京院の推理は1点だけ外れていた。現在、承太郎の乾いた血を取り込んだDIOが、止められる時の長さは……10秒ッ!
    「……ザ・ワールド」
    100発/秒×10秒は!
    「1000発の銃弾で、……髪の毛一つ残さず死ねェ!花京院!」
     
     ――そしてッ!ガラスが飛散しッ!

     花京院の姿が映っていたガラスが、穴だらけになり、割れ落ちて行ったッ!
     花京院は、冷静にその様子を見て、逃走を継続した。
    「……危なかったな。」
     カイロで女を食う時以外は身を潜ませていたDIOと違い、花京院は地理を頭に叩き込んでいる。
     ブライアンと会った時に彼の姿はボロボロだった。それは、カイロ市内をハイエロファントで縦横無尽に飛びまわったからだった。
     DIOから自分がどう見えているかを計算し、常に死角に回り込むよう考え、ビルとビルの間を飛んでいた。
     結果、花京院の姿が映った鏡となったガラスを、DIOは撃った。
    「(……自分の身体と、スタンドで攻撃してこなかった。つまり、この距離が射程距離範囲内。しかも、能力は時をとめることで……正解だッ!)」
     後は、DIOの切り札に気をつけて進み、攻撃すればばいい。
    「ハイエロファント!」
     ハイエロファントがエメラルドスプラッシュを死角から撃ち、いくつか手ごたえを確認する。
     ビルの隙間から、道路に向けて撃ち跳弾を食らわせ、よろけた所を
    「行けッ!」
     花京院本体が学ランに刺さっていたナイフを投げ、DIOの頭に命中する。
     月光にさらされたDIOが、はるか頭上にいる花京院を見上げることはない。断言できる!
    「(……月光には、わずかだがお前の嫌いな紫外線が含まれている。その目で、お前が太陽を見ることが無いように、月も直視するはずが無いッ!)」
     見えない位置からの攻撃は、時を止めても予知することが出来ない以上、かわすこともできない。
     つまり月光は、今宵最高の死角を作る立役者ッ!
     狙うは吸血鬼の弱点唯一つ!なおもビルの間を花京院は飛んで進み、風を感じながらDIOに攻撃をナイフを投げ続ける。――そして、あることに気づく。
    「(……頭に、ナイフがささるのか。)」
     DIOの身体にどこまでの破壊が通用するか。当初の狙いも確認できた。
     今後来るであろう瞬間に向けて、これは必ず確認すべき事項であった。
     もっとも、ナイフで頭に開いた穴は、憎たらしいくらいに即座に回復する。流石吸血鬼というところだろう。
     だが、エメラルドスプラッシュは効いていない……。
     ナイフに混ぜていくつかハイエロファントが放つが、指ではじかれるか、ヤツの身体に命中しても多少焼け跡を作るだけだ。
     遠くから撃ったエメラルドスプラッシュでは、DIOの身体に穴は開かない。
    「……。」
     DIOも次第に、ナイフに集中し、エメラルドスプラッシュは2、3発当たろうとも無視するようになってきた。
    「(……近づいて、集中させて撃たなければ、勝機はない、か……。)」
     だが、近づけば時を止めて殺されるおそれもある。慎重に、隙を作るしかない。

     その時!
    「……?」
     花京院は違和感に気付き、踵を返した。

     違和感の正体は、DIOが追ってきていないことだ!
    「しまった!ヤツはどこだ!?」
     花京院は今まで、承太郎達のいるホテルから遠ざかるように逃げていた。鬼ごっこの鬼は、今までDIOだった。
     しかし、多分DIOは花京院の狙いに気付いた!
    「DIOが、承太郎を狙いに行く!」
     それだけは避けなくては!鬼ごっこの鬼は、タッチ無しで花京院にチェンジした!
    「待て!DIOッッ!!」
     双眼鏡で目を凝らし、……気づいたのは、
    「キャーーーー!」
    「なんだアンタはぁ!?」
     人々が襲われている、悲鳴ッ!
    「させるかぁ!」
     花京院は悲鳴の聞こえる方角にむかい、ハイエロファントと共に飛んだ!
     そして、現場に到着する。彼は一度道路に降り立った。……誰もいない、……犠牲が、出たのか?
     その時ッ、2度目の違和感だッ!
    「!?」
     道路をはさんで、同じ形のビルが3つ左右対称に並んでいる!
    「これは……。」
     何かマズイッ!花京院は本能で察知した!DIOのッ、恐れていた切り札―残りのDISCだ!
     そしてッ!
    「何ッ!?」
     ビルが突如引かれあい、爆発したッ!
     花京院の立っている、道路を挟むようにビルが移動ッ!
     彼の立っていた位置は!神社の参拝客の柏手の勢いで挟まれッ!潰されていったッ!

      ☆

     1分後、DIOは花京院がいたであろう道路に降り立った。

     先ほどまで車も、人もいたのに、……誰もいない道路だ。こうも見晴らしがいいと、すがすがしい。掃除した本人の、自画自賛だ。
     DIOは自らの頭を、指でトントン、と叩く。そこから、DISCが出て来た。
    「……『キッス』か。」
    『キッス』のDISCは、頭から出た瞬間に、さらさらと崩れて行った。
     DIOは、このスタンドの持ち主がどのような存在かは知らない。だが、能力が『スタンドの出したシールを貼ると物が分裂し、剥がすと破壊がある』というものだったことは実験済みだ。
     ビル3棟に長い糸で繋いだシールを貼り、花京院がビルに挟まれた瞬間に糸をひっぱる。
     見事、ヤツは潰された。
    「……。」
     だが、わからない。しぶとく生きている可能性もある。
     例えば、道路に3つあるマンホール。DIOに近い方から、マンホールA、マンホールB、マンホールCと呼ぶ。
    「これらに花京院が潜り、……こちらの様子をうかがっている可能性もある。」
     A、B、C、どれから花京院は出てくるのだろう。まるでこたつの中に入った猫のように、どの位置から顔を出そうかオロオロ迷っているのではないか?
    「……フウム。そろそろ痺れを切らして、このDIOに至近距離での決戦を挑んでくると、思っていた。だとすれば、この3つの内どれから出る?」
     A、……これが一番花京院の立っていた位置に近い。しかし、……?
    「答えは、」

    「Dだ。DIOの後ろにいる。」
    「何ッ!?」
     ハイエロファントが!DIOに絡みつき、その両手がDIOの頭を両張り手で挟んだ!
     すかさずッ!
    「エメラルドスプラッシューーーーーーッ!!」
     頭を吹っ飛ばした!
    「んぐああああああああああああああああああ!」
     効いた!花京院は近くの川の中から確認していた!

     ――ビルが迫り来て、花京院はマンホールAから下水路に逃げた。
     そこにはッ!イギーがペットショップと戦った跡が!
    『氷のつららに、血の跡……、ハッ!』
     この跡をたどれば、イギーが見つかった川に繋がっているはず!花京院はそう推理し、見事下水路を泳いで脱出!DIOの隙をついたのであった!

     ハイエロファントの両手がパワーを貯め、放つのがエメラルドスプラッシュ。だが、そのパワーを貯める瞬間に手の間に破壊対象があれば、破壊のパワーを最大限に食らわせることができる!
     結果!DIOの頭は血の噴水になり、頭蓋骨にいくつか穴を開け、ヤツは白目をむいた!
     この好機を、逃すな!張り手を舐めるな!
    「首をッ!」
     ハイエロファントが、花京院が投げそこなって残していたナイフを受け取り、DIOの首につきたてる!
     だがッ!刺さらなかった!
    「(クソッ!……パワーが足りない……。投げて勢いを加算しているならともかく、突き立てる場合は刺さらないということか……ッ!。)」
     もっと、鋭いものでないとッ!
     花京院はこれ以上は危ないと判断、ハイエロファントを戻し、川から
    「ついて来い、空まで!」
     ビルの屋上まで飛び上がった!
    「……く、……頭が。」
     ふらつくDIOだが、花京院を追ってビル屋上まで飛び上がってきた。
     吸血鬼は迷うことなく花京院の跡を追い、時計台の上に降りた。瞬間!
    「!?」
     エメラルドスプラッシュが、彼の足に命中した!
    「グアッ……。」
     飛び上がるDIO!しかし、肩も何かに引っ掛かり、エメラルドスプラッシュが発射される!
    「こ、……これはッ。」
     ハイエロファントの結界!DIOは結界の内部に誘い込まれていた。
     だが、花京院が見当たらない!
    「ヤツは……ぐッ。」
     花京院は隠れ、DIOが結界内部で踊り、傷つく様を見学していた。
    「(……今ここは、ヤツのスタンド能力の射程距離内だ。)」
     だが、見つかるはずが無い。DIOの頭上、ヤツが見上げなければ見つからない時計台の屋根裏に花京院は隠れている。
     花京院の眼下で、DIOが動き、傷ついていく。
     ハイエロファントの触脚を切ろうとしているのが見えるが、その瞬間にエメラルドスプラッシュが撃たれ、DIOは手も足もでないという状態であった。
    「(……このまま、行け。)」
     花京院は!一気に結界を狭め、エメラルドスプラッシュの間隙を狭めた!
     もはや飛び交う弾と弾の間には、アリも挟めないという程に!
     結界の外から、花京院は心の中でセリフを決める!
    「(触れれば発射される『法王』の『結界』は!
     すでにお前の周り半径5M!
     お前の動きも『ザ・ワールド』の動きも手に取るように探知できるッ!
     くらえッ!DIOッ!逃げ場のない世界で、エメラルドスプラッシュをーーーッ!)」
     そして!無数のエメラルドスプラッシュがDIOを襲った。

     ――だが、次の瞬間。
     花京院はDIOと目があった。

     そして、結界内に無数に打ち込まれたエメラルドの中心にいたのは、花京院自身だった。
    「しまっ……。」
     矢継ぎ早にエメラルドスプラッシュが撃ち込まれッ!
    「ガハッ……。」
     胸を!
    「グッ!」
     頭を!
    「ウアッ!」
     足を、腹を、両腕両掌、靴越しに足の指1本1本までも!
    「アアアアアアアアアアアアアアアッ!」
     エメラルドスプラッシュが撃ち込まれた!時を止めて、DIOと、位置をすり替えられていた!
     気を失いかけるが、花京院は持ち直す。そして、屋上の淵まで後ずさりし、逃走を開始するが!
    「!?なんだ、これは!」
     自分の両手首に、スタンドの糸が巻きついていたことを理解した!引っ張っても切れない!
    「ほう……、気づいていなかったのか。」
    「な、……。」
    「私の背後から、頭を挟んでエメラルドスプラッシュを撃つ、というのはいいアイデアだったな。」
     悠々と、DIOの声が響いた。もう、ヤツはふらついていなかった。
    「だが、その瞬間にハイエロファントの腕に、……『ストーン・フリー』という名前のスタンドでできた、糸を絡ませてもらった。」
    「くッ……。」
    「お前の身体にスタンドが戻ると同時に、お前の身体本体に糸が巻きつくようにな……。」
     花京院は逃げられない!ひっぱってもまるで、操り人形のようにDIOから逃げられなかった!
    「だがッ!」
     DIOの頭から、DISCを抜き取れば糸は取れる!本体はなおもビルから落ち、逃げようと後ずさりを続け、ハイエロファントの腕が伸び、DISCを抜こうと試みる!
     しかし、その必要はなかった。腕が伸びる前に、DIOは頭からDISCを抜いた。
    「……。」
     投げ捨て、DISCは散りになる。花京院は糸が切れ、ビル屋上から落下し始めた。
     ――そして、次のDIOの攻撃に抵抗できなかった。
    「冥土の土産に、これでお前にトドメを刺してやる。」
     DIOが出し、頭に差し込んだのは『スター・プラチナ・ザ・ワールド』のDISCだった。
     ――花京院にとって、戦うなんて、傷つけるなんてできないスタンドだった。
     ハイエロファントはDIOに近い。……もう、花京院の身を守るために戻しても、……間に合わないだろう。
    「覚悟はいいか?花京院。」

     ……承太郎に殺されるなら、寂しくなんてないさ。
     
     花京院のまぶたの裏に浮かんだのは、承太郎の顔だった。
     気づけば、ザ・ワールドも拳を構えていた。

     ――オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァーッ!

     エメラルドスプラッシュで受けたダメージで、胸が痛く、叫び声すら花京院の口からは出ることは叶わなかった。
     向かいのビルに激突し、コンクリートにひびを入れ、窓を割り、花京院は地面に落下した。

     そして、運命の時が来た。
     空から少年が墜落した音はすさまじく、カイロ市民は皆逃げていた。誰もいない。

     道路のヒビの上に、花京院が倒れていた。もう動けなかった。
     地面追突時に無意識で、ハイエロファントを盾に使った。
     だが左足が折れ、効き手である右手も、もう役に立たない。
     ただ、必死で移動し、壁にもたれて、……死を意識していた。
     
     花京院のもとに、帝王・DIOが降り立つ。
    『スター・プラチナ・ザ・ワールド』のDISCを、何の未練もなく投げ捨て、DIOがこちらを見降ろした。

    「……フン、手こずらせおって。」
    「……。」
    「花京院、聞こえるか。……呼吸音すら、聞こえぬが。」
    「……。」
    「生きているなら貴様、承太郎に助けを求めろ。」
    「……。」
    「愛しているのだろう?……今頃、心配しているかもなァ。『寂しく』ないか?」
     DIOがしゃがみ込み、……ついに、この男による被害者がでる。
     DIOは、長い爪のはえた右手を花京院に伸ばした。花京院の額から、血を抜き取るために。
     花京院から受けたダメージを、彼自身で回復するつもりだろう。
     徐々に、DIOの手が、爪が近づく。

     ――花京院は、呟く。
    「……この時を、……待っていた。」

     承太郎、今までありがとう。
     君と、……友達になれてよかった。
     君への恋心が、僕に『寂しい』という感情を教え、……僕を人間にした。……だから、

    「僕は 人間をやめるぞッ!……承太郎ッ!」
     花京院は!かろうじて動く左腕で!
    「何ッ!?」
     DIOの右手を掴み!
    「ウオオオオオオオオオオオオオッ!」
     その指を、歯で!噛みちぎった!
    「ウ、UGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
     生き物は、捕食の瞬間には油断する!自然界の法則を利用した、花京院の命をかけた最後の策であった!そして!
    「貴様の身体にナイフが突き立てられないというならッ!!鋭いもので、刺すだけだッ!!!!」
     花京院はDIOの指を!DIOの首筋、ジョナサンの身体との継ぎ目に突き立てたッッ!
    「グボアアアアッ!」
     くわえて!
    「ハイエロファント・グリーンッッッッッ!!!!!!」
     この隙を逃さない!
     ハイエロファントを、指でできた穴からDIOの体内に侵入させる!
     シュルルルルルルルル!と入りこみ、ハイエロファントは中から時計まわり、花京院はDIOの指で外から反時計回りに!
    「貴様の首を、切断するッ!!」
     DIOの腕が花京院の左腕を掴み、骨を砕く!だが、花京院は切断し続けた!
    「止めろ、この……、ころ……し……て…、や……」
     DIOが千切れいく喉で喋りきるよりも早く!首と胴体を切断し、DIOの指もくだけちった!
     いつの間にか花京院の首を絞めていた『ザ・ワールド』が!本体のダメージのフィードバックで首から切断され、稼働不可能になり、消えた!
     もうDIOは、時を止められない!しかしッ!!
    「GUAAAAAAAAAAAAAAA!」
     なおもDIOの首は飛び上がり、その血管が花京院の身体に向かって行った!
    「貴様の身体をオォ!のっとらせてもらう!」
     だが、花京院には策があった!
     彼の噛みちぎったDIOの指は、3本あった!

     1本口から勢いよく吹き出し、DIOの片目に突きささる!吹き出す血が、顔全面を覆う!
    「うげええええええ!」
    「これで!何も見えまい!」
     ハイエロファントがもう一本の指を持ち、DIOの脳天に突き立てた!
    「ぐああああああああああああああああああああああああああああ!」
    「ハァハァ、まだだ……。」
    「ぐあっ、こんな………、はず…………では……………。」
    「見苦しいぞ……、負けを認めろ、……承太郎も仲間の命も、渡さない!」
     DIOから離れたジョナサンの身体は、少しずつ崩れ始めていた。
     承太郎ならDIOにトドメを指す前に、治るまで待っていただろう。
     花京院は、覚悟が違った!
    「だが……花京院!貴様の……身体を……よく見……てみろ……ッ!」
    「……!」
    「今の貴様の姿……、果たして……人間と言えるか?仲間の元になど、帰れる姿では……あるまい!」
     花京院の身体は、DIOの返り血で汚れきっていた。
     指を噛みちぎり、夜叉の如き面構え。……とてもじゃあないが、「友達」として仲間には会えないだろう。
     カイロの街も破壊した。承太郎の信頼も絆も裏切った。……仲間のことも、ずっと裏切っていた。
     ――だが、花京院の覚悟は、どんなことをしても、DIOを倒し、仲間の命を救うことにある!
     彼は、この結果承太郎に嫌われても、仲間の命を助けられればそれでいいと!
     自身の恋心より、仲間の命を優先したのであった!
    「DIO……。」
    「ぐッ……。」
     これで、終わりだ。
     ハイエロファントは首の中から、DIOの頭部に侵入した。
    「我が名は、花京院典明。」
    「やめ………、ろ。」
    「承太郎を愛する、厄病神だ。……そして、どの世界でも、仲間の命を選んだだけだ!」
    『法王』は無慈悲な爆発を繰り返したのであった!

     ……周囲には、DIOの頭の残骸が、飛び散っていた。
     これで勝った。
     ビルの向こうから、太陽が登り始めていた。
    「……。」
     勝った……、これでホリィさんは、……承太郎や皆も、救われた……。
     花京院はそんなことを思った。
     彼自身は、動けなかった。足も、腕も。
     ……だが。
    「DIO……さ……ま……。」
     太陽を背に、2人の男が近づいてきた。
     1人は、ハートをあしらったレオタード姿。もう1人は、特徴的な痣を顔に持つ男。
     ――ヴァニラ・アイスと、テレンス・T・ダービーであった。
    「DIO様……、DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様DIO様アアアアアアアアアアアアアアアアア、ゴフッ、ア嗚呼ああああああああああアアアアアア!」
     髪を振り乱し、自ら引き千切り、ヴァニラは歯をガタガタ言わせ、……血涙と共に嘔吐した。対照的に氷のように冷静に、テレンスが言う。
    「……花京院。これは貴方がやったのですか?」
     テレンスの能力を花京院は思い出そうとした。……だが、その前にテレンスは言った。
    「そうですか。……DIO様をこのような、目に。」
    「生かしてはおけんッ!よくもよくもよォくも!貴様アアアアアァァァァァァァァッ!」
     そして、フツッ、と音がして――、花京院は気を失った。
     失い、死を覚悟した。

     ああ、ちょっとだけ、承太郎に助けて欲しかったなあ。大変だったもんなあ……。
     最後にもう一度だけ、……『そこんとこだが、俺にもようわからん』って、言って欲しかった。

     ……寂しいなあ。















     花京院の運命は、ここまでだった。……かもしれない。
     だが、確実に言えることがあった。
     それは、『花京院が命がけで守った仲間達と、築いた友情は本物だった』ということだ。
     ヴァニラとテレンスの前に、2人の男が立ちはだかる。
    「まーったく、コイツ本当に無茶しやがって。」
    「……だが、子どもが頑張ったら、大人が助けてやるべきだろう。俺は彼と、約束した。」
    「あいよ。一応、こっちは花京院より年上だしな。……助けてもらった借りも、ある!」
     彼等の傍にイギーが現れ、砂を集め、優しく花京院の身体を運ぶ。……やれやれだ。
     そして!
    「『魔術師の赤』!」
    「『銀の戦車』!」
     モハメド・アヴドゥルとジャン=ピエール・ポルナレフ。
     ――彼等が、ヴァニラ達を討伐した。
     こうして、無事5人と1匹が生還した。花京院の望みは、叶った。

    To Be Continued...

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    2022/07/30 22:10:57

    厄病神のラブ・コール【花承・WEB再録】4

    4章 銃口を自分の眉間に突きつけ、お前と踊るのも悪くない #ジョジョ-腐向け #花承

    2015年2月1日 GoldenBlood15発行

    さあ、殺し合いをしよう

    ピクシブ再録時コメント
    最初に、ちょっと書き下ろし入れてまーす

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
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