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    夏の化け物 入道雲と向日葵に誘われるように、その化け物は現れる。
     道に立ち竦んだまま久々知兵助は目の前に揺らめく陽炎を眺めた。否、陽炎というにははっきりとした輪郭を持っている。言うならば実体を持った黒い影、といったところだろう。ソレはただ何をするでもなく黒い靄に隠れたまま久々知を見つめていた。左には古びたアパート、右には雑草の生い茂る空き地が続く裏道は車の音すら聞こえない。少し前に通り過ぎた公園から響く子供の声と蝉の合唱だけが青空に溶けて消えていった。
     久々知はしばらくソレと向き合うように立っていた。日陰のない道に真夏の日差しは容赦なく降り注ぎ、アスファルトの照り返しが足元にまとわりつく。この季節に似合わぬ白い肌に汗を玉にして浮かべながら久々知は口を薄く開いた。吸い込む空気すら生温い。乾いていく口を意識することもなく、しばらくすると黒い靄はわずかな霞すら残すことなく消えた。
    「…………」
     額に溢れた汗を白いシャツで乱雑に拭うと久々知は再び歩き出す。彼の家はこの先だ。帰ったらまず水分を摂ろうと心に決めて久々知はアスファルトに靴音を鳴らした。

     ソレは決まって夏にやってくる。丁度今日のような、暑さで目がくらむほどよく晴れて入道雲が立ち上る日には決まって彼の前に現れた。
     初めてソレを見たのは小学校四年生の頃だった。親に言われて通っていたピアノ教室からの帰り道、肩にかけたカバンの中に忍ばせた氷菓子が溶けないよう家路を急いでいた。久々知はこの時にはすでに息の詰まるような暑さが苦手で、一刻も早くエアコンの効いた部屋に入ってしまいたいと流れる汗も気にせず坂道を駆け上っていた。坂の一番上まで上がり、荒くなった息を整えてから顔を上げる。
     まっすぐに伸びた視線の先に、ソレはいた。
     黒い影を揺らめかせながらこちらを見つめてじっと立っている。実在しているのか、暑さが見せた幻想なのか分からぬままに久々知は二、三歩後ずさった。向こうは動くわけでもなくただそこにあるだけだ。手に滲んだ汗をシャツの裾で拭いながら、久々知はそっとソレを眺めまわした。黒いモヤのような影はソレの中心から沸き立つようにして蠢いている。中心部は黒々としたものに覆われて何かはわからない。顔を上げててソレを仰ぎ見れば坂の下側に立つ久々知よりも十数センチほど大きいことがうかがえた。小学四年生ともなればもうお化けを信じる年頃でもない。見たこともない黒い影の正体に好奇心をくすぐられた久々知が手を伸ばした矢先、ソレはろうそくの火を消すかのごとく一筋の靄を残して消えてしまった。
     それが、彼が黒い影を初めて見た日のことである。
     それから毎年のように影は久々知の前に現れた。ただこちらを見るだけで手を出すでもなく、数分もすれば消えて行く。次第に久々知にとっては彼の来訪こそが夏の始まりの合図になっていた。

    「夏の化け物?」
     エアコンのよく効いた教室は学校のものよりも快適で、風を送るために二枚持ってきた下敷きを手で遊ばせながら尾浜勘右衛門は丸い目を訝しげに細めた。
    「そう、毎年いるんだけどなんか今年はおかしくてさ」
    「いやいや待ってよ。俺、そんな話初めて聞いたんだけど」
     久々知はそうだっけ、と首をかしげると特に気にもとめずに尾浜へ意見を求めた。
    「毎年のことだからもう言ったと思ってた」
    「いや聞いてないよ……大丈夫? 暑さで頭やられた?」
     塾の休憩室はお昼も過ぎたことから人がおらず、二人の話し声だけが響いている。尾浜は久々知の幼馴染である。今だにこのマイペースを貫く友人の発言には振り回されてばかりだと言わんばかりにため息を落とした。
     高校二年生にもなれば来年のことを考えて塾に通う人たちも増える。久々知が塾に行くと知ってついてきたものの彼自身は勉強に興味があるわけでもない。胡乱な目線を変えることはないが、彼の話を効いてる方がマシだと缶コーヒーを喉に流した。
    「それで、その夏の化け物がどうしたの」
    「いやよく分からないんだけどね。今まではずっと俺の方を見てるだけだったんだよ。それなのに今年から突然こっちに手というか影を伸ばすようになって、あと毎日どこかしらで出てくる」
    「うわあ毎日って……ソレ兵助にしか見えないの?」
    「どうだろう。俺が一人の時しか出てこないから分からないな」
    「まあでも危害を加えてこないなら……うん、大丈夫だろう」
     尾浜はそれらしく頷いて見せるが二人とも霊やお化けというものを信じていない。それを知った上で相談を持ちかけた久々知はどこか遠くを見るように目を閉じて薄く笑った。
    「ごめん、変な話したね」
    「いや、兵助が何か気にするなんて珍しいし面白い話も聞けたから構わないよ」
     人好きのする顔に笑みを浮かべると尾浜は席を立つ。それに続くようにして久々知も立ち上がった。今日はまだ目にしていないから、帰り道にはアレに会えるかもしれないと頭の片隅で思考する。ゴミ箱へ放り投げた空き缶が軽い音を立てた。
    「あっ……」
    「どうした?」
    「ごめん勘ちゃん先行ってて」
     教室とは反対側の入り口へ向かって走り出す。背後から戸惑うように名前を呼ぶ声が聞こえたが足を止めることは出来なかった。
    「……いない」
     入り口を出て裏手に回る。先ほどまで座っていた休憩室が見える窓を目の前にして久々知はため息まじりに呟いた。
     あの時確かに視界の端で黒い靄がちらついたはずだと辺りを見渡すがコンクリートの壁と薄汚れたフェンスがあるだけだ。換気扇から溢れ出す熱気に眉をしかめて元来た道を辿る。もしかしたら姿を見せないだけでずっと自分を見ているのではないか。ない唾を無理に飲み込むと軽く頭を振る。尾浜の言う通り暑さで頭がおかしくなったのかもしれないと緩く握った拳で軽く眉間を叩いた。
     足早に教室に戻れば授業は始まっており、着慣れぬスーツに身を包み窮屈そうに笑う講師は珍しく遅れてきた久々知を叱ることなく席に着くよう促した。横に座る尾浜が小声で大丈夫かと聞いてくる。久々知は曖昧な笑みを浮かべ、頷くことしかできなかった。
     授業は緊張を含んだ講師の努力によってチャイムと同時に終わりを告げた。夜まで授業を受ける者もいるがノートと筆記用具をしまうにぎやかな音の方が目立って聞こえてくる。まだ一年もあると思えば今年のうちに遊んでおきたいのが本音というもので、周りの生徒が競って塾から飛び出すのを横目に久々知はゆっくりと鞄に物を詰めていた。尾浜はそうそうに荷物を詰め終えて暇そうに久々知を眺めている。
    「ねえ兵助、さっきの話だけど」
    「ん? ああ、本当気にしないでくれ。暑さで頭がやられたんだよ」
    「そうじゃなくって、ソレは多分兵助のことが好きなんだよ、ずっとお前のことを見ていたいくらい……だから、まあ大丈夫だよ」
    「え……?」
    「じゃあ俺今日は用事あるから先に帰るな」
     そう言い残してさっさと教室のドアをくぐり抜けていった。一人残された久々知の手はを止まっている。先ほどの言葉が強く脳裏に響いていた。
    「俺のことを好き……?」
     幽霊など信じておらず、夏になると放送される心霊番組のアラを探して笑っているような彼が言った言葉にしては少々不自然である。昼間に一瞬だけ見えた影は本当にずっとこちらを見ていたのかもしれないと、背筋に一筋の汗が流れた。
     軽妙な音を立てて、電灯のスイッチが落とされた。

     塾の入り口は残念ながら手動である。高校生にもなる男子の手でも少しばかり重いと感じさせるそれを押し開ければ全身を生温い風が包み込んだ。
    「やあ兵助、一人なんて珍しい」
     後ろからかけられた声に振り返れば視界に灰色の頭が飛び込んできた。
    「八左ヱ門、お前も授業が終わったのか?」
    「朝から始まってようやくな。まだ一年もあるというのに親ときたら……」
     小学校、中学校時代の同級生で久々知にとっては幼馴染にあたる竹谷八左ヱ門は久々知の肩を軽く叩くと一歩前を歩き始めた。机に向かうより外を走り回る方が好きな男はそれによく似合う日焼けた腕を空へと伸ばす。日の長い季節、空は夕方という時間を過ぎてようやく夕闇を垂らし始めていた。
    「まあ八左ヱ門も大学進学するつもりなら早く始めて損はないんじゃないか」
    「俺は兵助ほど律儀ではないんだよ。遊べるうちに遊んでおきたいんだけどなあ」
     肩をすくめて苦笑いを浮かべる。それでも性根は真面目な友人は指定された授業に一つも欠かさず出席していることを久々知は知っていた。竹谷はすでに気分を切り替えたのか道の隅に貼られた祭りのポスターを凝視していた。そのあまりの熱心さに久々知は彼が次に発する言葉を容易に想像することができた。
    「なあ兵助、祭り行こう」
    「やっぱり、言うと思った」
     眉を八の字にして久々知は口元を緩めた。彼に倣いポスターを見る。赤い文字で大きく記された日付が指し示すのは明後日で、その日は奇しくも休校日だった。満面の笑みと言うべき表情でポスターを指差す男に向かって首を縦にふる。竹谷がその場で握りこぶしを突き上げた。
    「よし、兵助が良いって言うなら何の問題もないな。勘右衛門と雷蔵には俺が声をかけておくから」
     普段からともに行動することの多い二人の名前を早口でまくしたてると背負ったリュックから携帯を取り出す。手早く何かを打ち込みまた元のようにカバンへしまい込んだ。男らしい粗野な仕草の似合う風貌ではあるが歩きながら携帯を触ったりはしない律儀さに久々知はバレないよう頬を緩めた。
    「よかった二人も来れるってさ」
    「じゃあ四人で、だな。明後日の五時に駅前で大丈夫か?」
    「わかった、二人にも伝えとく……このまま夏らしいことも出来ずに終わるかと思ったけどよかった、よかった」
     ふと思い返せばすでに夏休みの折り返しも過ぎていて、夏らしいことなどした記憶のない久々知もそれに頷いた。来年は忙しいだろうから今年の祭りは全力だな、と言えば竹谷も肯定するように大きく笑う。二人で話しながら夕闇の中を歩いていれば駅前に着くのはあっという間で、それぞれ反対の方向に家がある二人は手を軽く振って別れた。
     久々知の家は駅から数十分ほど歩いた場所にある。閑静な住宅街といえば聞こえは良いが、実際は売却された後に買い手が付かなかった空き地や築年数が十年を軽く超えているような家々が並んでいた。横を向き、夏の太陽を浴びて無造作に生い茂った空き地を眺めながら人気のない路地を進んだ。長く伸びた影が次第に薄くなっていく。夜が近付いているというのに頬を撫でる風は生ぬるく、久々知は無意識に呼吸の回数を増やしていた。
     浅い呼吸の中で家路を急ぎ、ようやく家に着いた、と顔を上げた矢先、目の前を黒い影が過ぎ去っていった。まるで、自分の前に伸びていた影が自分の足で駆けて行ったかのようだ。慌てて己の影に視線を落としたがすっかり夕闇から夜へと移り変わったために影は見えなくなっていた。
    「…………」
     背筋に一筋の雫が流れていく。妙に冴え渡った感覚が気持ち悪い。
     久々知は逃げるように玄関の扉を開けた。

     次の朝、眩しさに目を覚ませばすでに日は高く登った後だった。今日と明日は塾もないためゆっくり過ごすことができるからといって、あまりに遅い目覚めは頭痛を運んで来る。鈍い痛みを抑えようとこめかみを軽く揉みながら久々知は顔を洗うべく立ち上がった。お盆を過ぎているため両親はとうに仕事へと向かっている。リビングに置かれたメモにはお昼は自分で用意しろと書き残されていた。
     癖のある黒髪はブラシで整えた程度ではまとまらない。洗面台で顔を洗ったついでに少しは努力したものの、どうにもならなかった髪を指で撫でつけながらもう片方の手でパンをトースターに突っ込む。ジリジリとタイマーが回る音を背景に冷蔵庫から豆腐を取り出した。
     豆腐と食パン。
     一般的な食べ合わせとしてはあまり見ないものだ。しかし久々知にとって食べ合わせは大したことではなく豆腐が美味しければそれで十分に気持ちが満たされる。小気味良い音を立てたトースターからパンを取り出せば綺麗な狐色に焼きあがり、豆腐は冷奴として小鉢に盛り付けられている。両親、特に母親がいればまず苦言を呈されるであろう食事に手を伸ばしながら今日はどうしようかぼんやりと思案を始めた。
     特にこれといった趣味をもたない久々知にしてみればただ自由なだけな時間というのは案外不自由なものである。竹谷のように虫採りに駆け回る歳でもなければ、尾浜のように街を遊び歩こうにも暑さに辟易してしまう。勉強は得意だが別に趣味ではないので休みの日まで自主的にやろうとも思えない。悩み始めて数十分、エアコンで快適な温度に保たれていたからか、不意に欠伸が漏れた。
    「……雷蔵が移ったかな」
     眠気を払うように声を出しながら、よく悩んでは終いに寝てしまう友人の姿を思い浮かべた。「せっかくだし図書館にでも行くか」と呟いて空になった皿を片付け始めた。

     女子のように見目に気を使うわけではないので準備自体はすぐに済んでしまった。昼日中の一番暑い時間ではあるが市立の図書館は夕方には閉館してしまうため行くならば早く行った方が良い。ハードカバーを数冊入れても問題がないような大きめのトートバッグを下げて兵助は家を出た。
     コンクリートの照り返しは暑さを助長し、日差しも相まってわずかに眩暈を覚えた。図書館まではしばらく歩く必要があるため足早にコンクリートを踏みつける。
     ゆらり、と影が過ぎった。
    「…………!」
     暑さのあまり俯いていた顔を上げれば昨日と同じ影が佇んでいる。形をもたない陽炎の如く揺らめくソレは久々知をじっと見つめているように思える。もはや日課なのかと問い詰めたくなるほど毎日姿を現わしているため恐怖心はなかった。昨日の夕方のような不快感もない。少しずつ近づいて来る影から逃げることもせず、久々知はふと口を開いた。
    「お前、俺のこと好きなの?」
     その瞬間、影は霧散した。
     たった一瞬、その瞬きの間にとめどなく揺らめいていた陽炎は夏の重苦しい空気の中へ逃げて行く。いつもは透けながら空気へ身体を揺らすように消えていくそれが弾ける様を見せた。こちらが言ったことに対する予想外の反応。久々知は目を丸くすることしかできなかった。心臓が普段よりも大きく脈打った。
     整わない脈を戻そうと歩幅を緩めて歩き出す。コンクリートの先を眺めても、黒い影が現れる気配はなかった。仕方なしに図書館までの道をたどる。自動ドアをくぐり抜ければ冷風が頬を撫でた。身体中の汗が冷やされていく。久々知はようやく呼吸が落ち着くのを感じた。
    「やあ兵助、君も来てたんだ」
     後ろからかけられた声に振り向く。よく見知った茶色の頭が見えた。「雷蔵」と名を呼べば人の良さを滲ませた笑顔が目の端に現れる。久々知にとって大切な三人の友人の一人、不破雷蔵が図書館にいることは珍しいことではない。特に驚くこともなく久々知は不破と向き合った。
    「今日も塾はお休み?」
    「今日と明日は休み、ハチも勘ちゃんも大喜びで遊びに行ってる」
    「兵助は図書館で勉強?」
    「いや暇つぶしだよ。俺は二人と違って趣味もないし」
     暑くて外も勘弁とでも言わんばかりにガラス戸の向こうを睨めば不破は曖昧に笑みを浮かべた。彼はすでに両手で持ちきれないほどの本を抱えている。
    「そうだ雷蔵、何かお勧めの本ないかな」
    「お勧めねえ……最近はまってたり気になってたりするものはある?」
     裏表のない顔を晒しながら見つめられる。黒髪が冷風に揺らされてうなじをかすめた。
    「……化け物、かな」
    「ホラー?」
    「あ、いやそうじゃないんだけど……なんか幽霊みたいなのがただ道端にいるような、そんな感じの」
    「ふーん……よく分からないけどこの辺りでも読む?」
     もう返すから、と手に持っていた本の山から一冊の文庫を示した。『雨月物語』と記された本は読み手が少ないのか、紙自体から埃の匂いが立ち上った。
    「雷蔵ってなんでも読むんだな」
     友人の読書範囲の広さに呆れながらもそれを受け取った。
    「まあね。その中の「浅茅が宿」って話なら兵助が読みたいものに近いかもしれない」
    「へえ、どんな話なんだ?」
    「恋しい人を残して出かけた男とそれを待つ女の話だよ」
    「ふーん……読んでみるよ、ありがとう」
     そう言って、久々知は差し出された本を手に取った。
    「まあこれとは違って追いかけ続ける者もいるわけだけど」
     小さく付け足された言葉は静かな館内ですら耳を澄まさなければ聞こえないほどだった。どこか遠い目をして微笑む不破は「じゃあまた、明日の祭でね」と足早に去ってしまう。久々知は持ち上がった違和感を飲み込んだまま閲覧席に向かい、空いていた椅子を引いた。
    「浅茅が宿」は中の方に置かれていたためざっくりとページを開いて始まりを探す。原文と訳文が同時に載っていないため、少し迷って訳文のページを開いた。古文は苦手ではないが、純粋に物語を楽しむなら慣れ親しんだ語句で記されている方が良いのは明白だった。

     それは、稼ぎの為に京へ上った男と約束を過ぎてもなお男を待ち続ける女の物語で、何年も後に男が家へと帰った時に待っていたのは妻の亡霊だったというのだから綺麗ではあるがなんとも虚しい話ではないか、と久々知は本を閉じて目を細めた。
     女が待っていたから良いものの、もし女の亡霊が力尽きていたら男はどうしたのか。きっと女の元へ帰る為に彼もまた亡霊のようになってしまったのではないか。それに女が待っていてくれる保証もなかっただろうによくも女の元に帰ろうと思えたものだ、少なくとも自分は死んでなお来ない迎えを待てはしない、と思い目を伏せる。
     「結局、アイツも戻って来なかったじゃないか」
     誰にも聞こえないほど小さく零れ落ちた言葉にガタリと椅子がなった。
    「アイツって誰だ……?」
     ごく自然に浮かんだ思考についていけない。そのことに背筋がぞわりと震えた。隣に座っていた老人が一度だけ奇妙な物を見るようにこちらへ視線を寄越した。久々知はそれに気付くこともなく震える手で本を閉じる。薄い唇から漏れ出す呼吸が間の抜けた音を立てていく。本を戻そうと立ち上がり、目の前に広がる窓の外を見れば、先に霧散したはずの黒い影が再び揺らめいていた。
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    2022/09/10 23:32:47

    夏の化け物

    #鉢くく
    別サイトからの移転です。
    初出:2017年9月12日

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