愛が重め
「公式の番組で堂々と推し語りをできる幸せ! これぞ奇跡! って感じだねえ」
「番組の趣旨が違う」
「えぇ? どこが違うのかな、始。十年分の君の好きなところ、素敵なところ、尊くて素晴らしいところをファンの皆と語らう番組でしょ?」
「……それは、そうかもしれないが」
「ふふ、照れてる君も素敵だよ。十二回もMCをしておいて、今さら気づきましたなんて顔するところも」
「うるさい。司会をしてる時なんてのは、全然別の視点から俯瞰して全体を見るものだろ」
「確かにそうなのだけどね。始だってMCをしながら、それぞれの月のゲストの子の好きなところ、衒いなく話していたでしょう?」
「…………」
「皆、君の言葉を聞いて照れてもいたけれど、それ以上に喜んでいたよね?」
「それは、」
「特別な場での特別な言葉。しかも大切な人が自分を褒めてくれるだなんて。記念の日の最高の贈り物さ」
「そうだと、いいな」
「顔を見ればわかるでしょ? 大丈夫、全部届いているよ」
「……そうか」
「だから僕も、盛大に! かつ豪快に! 始のあんなことやそんなことまで素晴らしいレアエピソードを添えて! 力強く発信していきたいと! 思います!」
「待て、レアエピソードってなんだ」
「レアはレアさ。普段お目にかかれない始のとっておき秘話! 人をダメにするクッションに埋もれてぽかんって口を開けて寝てる始の可愛さだとか、たい焼き食べたいって寝言言ったあとにちょっと自分の手をもぐもぐしてた話とか! 写真もあるから詳細もバッチリさ。寄ってきた黒田の耳をかぷってやったのがもう本当に可愛くて……!」
「…………隼。ちょっと話があるんだが、いいか?」
「え? 今君とお話をしてるところだけど……、もしかして二人っきりの秘密のお話かな? キャー! どうしよう!」
「大丈夫だ。すぐに済む。記憶もすっぽり抜けるから、頭もスッキリするぞ?」
「来た! ハイ来た! 物理トークですねわかります! 始の身体と僕の身体でせめぎ合い!」
「隼、遠慮するな。逃げなくてもいい。優しくしてやるから」
「始がカッコいい! でもスマホの写真と僕の秘蔵の記憶はいくら君でも渡せない……っ。始、君の愛を抱きしめられない僕をどうか許して……!」
「変な言い方をするな。……こら、待て!」
「キャーーーーーーーーーー!!」
「俺はぜってえ突っ込まねえぞ!」
「あ、あはは……。お二人とも、楽しそうですね」
「本番大丈夫なのかなあ……。ああ、何だかハラハラしてきた」
「夜は心配しすぎ。問題ないよ、二人ともイチャついてるだけだから」
「る、涙……。あ、隼さんが捕まった」
「綺麗なジャーマンスープレックスですね!」
「何でそこは嬉しそうにするんだよ、夜」
「おーい、皆、お茶が入ったぞー! おやつは俺のサバイバルロケでゲットしてきた何かのフライだ! さあ召し上がれ!」
「わあ、ありがとう海」
「待って涙、一応中身が何か確認しよう?」
「何のフライだよ! 具体的に言えよ!」
「見た目の色も形も食欲をそそる。ふんわりと香辛料が香って食欲を刺激する……レシピが気になるなあ」
「真面目か!」
「俺も貰っても?」
「お、始。カタは着いたのか?」
「沈めてきた。配信は無事にできると思いたい」
「そりゃ良かったな。ほら始、あーん」
「あ、……ん。美味いな、コレ」
「そりゃあ良かった!」
「ふ、ふふふふふ……。よくわからない何かのフライをあーんしてもらって食べる始! 尊い! 大丈夫、バッチリ録画したから! 愛のジャーマンスープレックスで頭の空き容量が増えたからね、全部僕にまかせて!」
「これだからプロセラは……」
「という春さんの目がイキイキとして楽しそうなのであった」
「新、余計なツッコミは話が拗れちゃうよ!」
「あのフライなんだろう? すっごく美味しそう! くうー! 気になるう!」
「駆さん、どうどう。あとで皆で配信見るから、その時に慌てなくても食べれるからね!」