前寮長の噂「っだーもう!リドル寮長やっぱ厳しすぎ!」
「また何かやらかしたの?」
「エースが文句言う時は大体エースの方に非があるんだゾ」
「お前らちょっとはオレに同情してくれない?」
すっかり見慣れた友人たちの掛け合いにデュースはくすくすと笑う。
「そういえば前の寮長はハートの女王の法律に関してゆるゆるだった、ってダイヤモンド先輩が言ってたな」
「オレその頃に入学したかったなー……絶対今より楽だったし……」
「無い物ねだりとは感心しないね」
「ふなっ!?」
「ろ、ローズハート寮長!?」
いつの間にかエースの後ろに立っていたリドルは各々の反応に肩を竦める。
「……ところで監督生、放課後は空いてるかい?」
「えっ、自分ですか?一応空いてますけど……」
「ならうちの寮へ遊びにおいで。お茶とケーキをご馳走するよ」
「ふなっ!本当か!?」
「寮長ー、オレたちもケーキ食べたいでーす」
「君たちはハリネズミのエサやり当番があるだろう?」
リドルの冷たい一言にエースはぐ、と言葉を詰まらせた。
放課後、監督生とグリムはハーツラビュル寮の中庭で開かれたささやかなお茶会に参加していた。
「──おいしい、です」
「このオレンジタルト、酸味と甘味のハーモニーが絶妙なんだゾ!」
「それは良かった」
「何せリドルが手塩をかけて作ったものだからな」
「トレイ!」
「悪い悪い、でもこういうのはちゃんと伝えた方がお互いのためになると思うぞ?」
「んぎぎ……」
トレイの言い分にリドルは唸り声を上げた後、溜め息を吐く。
「……話を変えようか。監督生、昼休みにデュースが話していたことを覚えているかい?」
「昼休み……?」
リドルの質問に監督生は首を傾げる。
「──あ、リドル先輩の前の寮長のことですか?」
「そういえばそんな話をしてた気がするんだゾ」
「君は彼についてどんな印象を抱いたんだい?」
「えっ、自分が……ですか?」
「それは俺も聞いてみたいな」
「う、うーん……何となく、ですけど……ケイト先輩みたいだなー……って」
「──へぇ」
「──ほう」
監督生の見解にリドルとトレイはほぼ同時に目を細める。
「……すみません、変なこと言って……」
「謝ることは無いよ。何かを説明する際に身近な人物を例えに出すのはよくあることだからね」
「そうそう、お陰で監督生が前の寮長に対してどんなイメージを抱いてるかよく分かったしな」
「……お二人は知ってるんですよね?前の寮長が誰だったのか」
「勿論さ。でも教えてはあげられないね」
「まぁそうですよね……」
「悪いな」
少し残念そうな顔をする監督生の頭をトレイはわしゃわしゃと撫でる。
「でもキミのイメージに近いものを見せることは出来るよ」
「へ?」
「……リドルくーん、もしかしてそれがオレを呼び出した理由?」
「ふなっ!?ケイトオマエ、いつの間に来てたんだゾ?」
驚くグリムには目もくれず、ケイトはじとりとリドルを睨む。
「ケイト、この状況で自分が今何をすべきか……キミならもうお分かりだろう?」
「……全くもう、しょうがないなぁ」
ブレザーの胸ポケットから取り出したマジカルペンを軽く振り、ケイトは装いを改める。
「その格好は──」
デザインこそリドルが身に纏っているものと全く同じだが、印象はまるで違う。
「どう?リドルくんのコスプレだよー」
「し、身長の圧が凄いです……」
「何かいつもよりデカく見えるんだゾ」
いつもより高い目線に対する驚きは確かにある。
しかしそれ以上に──
「見とれちゃった?」
「っ……は、い」
「そっかそっかー」
赤面しながら俯く監督生の頭を撫でながらケイトはとても嬉しそうに笑う。
「折角だし写真を撮ってやろうか?」
「あ、ちょっと待って」
そう言ってケイトが杖に変形させたマジカルペンを軽く振ると今度は監督生の装いがハーツラビュルの寮服に変化する。
「へ!?」
「それじゃトレイくん、撮影よろよろー」
「あの、」
「監督生、目線はこっちに向けてくれ」
「ちょ、」
瞬く間に写真撮影は終わり、トレイは投げ渡されたスマホをケイトに放り返す。
「はーいお疲れさまー」
再びマジカルペンを振って互いの装いを元の制服姿に戻した後、ケイトは目を白黒させている監督生の肩を軽く叩いた。
「──しかしまぁ、ボクのコスプレとはうまいことを言ったものだね」
「嘘じゃないところがまたうまいよな」
「二人ともしつこいなー、いい加減怒るよー?」
冗談半分に言いながらケイトはスマホの画面──ついさっきトレイが撮った写真に視線を落とし、微笑を浮かべた。