ハナダイと小エビと生態系「小エビちゃんってさぁ、よくここまで生き残れたよね」
「あっそれはオレも思ったッス」
突拍子もないフロイドの発言とラギーの同意に監督生は目を丸くする。
「え、ええと……確かに自分は魔法を使えない雑魚ですけども……」
「いやそこは重要じゃないから気にしなくて良いッス」
「違うんですか」
「違いまぁす」
間延びした口調で返しながらフロイドは監督生の頭に顎を乗せる。
「今重要なのはぁ、小エビちゃんが雄でも雌でもないってことの方~」
「……それってそんなに重要なんですか?」
「メチャクチャ重要ッスよ、死活問題と言っても良いぐらいッス」
やけに必死なラギーの言い分に監督生は困惑する。
「その、具体的にはどう──」
「ユウさんのように生殖機能を持たない個体には餌として捕食される未来しか無いんですよ」
さらりと会話に混じってきた上に物騒なことを宣ったジェイドに監督生は驚愕の眼差しを向ける。
「まぁこれは海での話、ですけどね」
「いやー今のは笑えないッスわー……」
「じゃあオレが面白い話をしてあげる~」
「正直不安しか無い……」
「小エビちゃんはハナダイの主食が何か知ってる?」
「知りませんけど……」
怪訝な顔をする監督生の返答にフロイドはジェイドと顔を見合わせ、ほぼ同時に笑みを浮かべる。
「答えはねぇ、小型の甲殻類」
「例を挙げるなら小エビ、でしょうかね」
「っ──」
監督生が青ざめたのと同時にラギーが表情を歪める。
「二人とも、今の流れでそういう話をするのは正直どうかと思うッスよ……」
「ほーんとそれなー」
「えっ?」
キョトンとする監督生にいつの間にかラギーの後ろに立っていたケイトが微笑みかける。
「おやケイトさん、いつからそこにいらしたのですか?」
「んー、ついさっき?」
「ぜ、全然気づかなかったッス……」
「ところでフロイドくーん、ユウちゃん引き取らせてくれなーい?」
「んー……良いよぉ」
「え、」
随分あっさり解放されたことに驚愕する監督生の手を取り、ケイトは薄く笑う。
「──ぁ、」
「じゃあオレたちもう行くねー」
足早に去って行く二人の背中を見送りながらラギーはぽつりと呟く。
「監督生クンは果報者ッスねぇ」
「──さっきの話」
「っ、」
「真に受けちゃダメだよ?オレもユウちゃんも魚じゃなくて人間なんだからさ」
ケイトの優しい声色と困ったような笑顔に監督生は安堵の息を吐く。
「そもそも子どもを生めるかどうか、なんてユウちゃんを大事にする理由とは何も関係ないしね」
「へ、」
間の抜けた声を上げた監督生を抱き締め、ケイトは目を伏せる。
「餌になんかさせないよ」
「……ケイト先輩?」
「誰にも譲らない」
必死さが滲むケイトの声に首を傾げつつも監督生は何も言わずにそっと抱き締め返した。