証明の首枷「そういえばリドル先輩ってケイト先輩の首ははねないですよね」
何の気なしに言ったのであろう監督生の方を見てリドルは目をぱちくりさせる。
「……キミは時々とんでもないことを言い出すね」
「前にも似たようなことを言われた覚えがあります」
「思うところは皆同じ、ということだね」
こめかみを押さえながらリドルは溜め息を吐く。
「……ケイトの首をはねると人出が減って困る場面が多くてね」
「あ、ユニーク魔法」
「ご名答」
「でもゴーストの結婚騒動の時はそんなこと気にしなくても良かったんじゃ……」
「……ああなるほど、キミが疑問を抱いた理由はそれか」
納得した様子でリドルは頷く。
「真意の全てを話すことは出来ないけれど一つだけ、キミの誤認を訂正しておこう」
「訂正?」
「ケイトの首をはねる時はあるよ。例えば──彼がキミとのデートに行く前とかに、ね」
「……え?」
どうしてそんなことを、と訊ねようとした監督生の口を後ろから伸びてきた手がそっと塞ぐ。
「もー、リドルくんどうしてバラしちゃうのー?」
「ささやかな意趣返し、とでも言っておこうかな」
「うえーんユウちゃん助けてー、リドルくんがいじめるー」
「ちょ、動けな……」
腰に回された腕の力が思いの外強いことに狼狽える監督生にリドルは憐れみの視線を送る。
「……ボクはそろそろ失礼させてもらうよ。これ以上惚気に当てられたくないからね」
「えっちょ、」
「じゃあオレたちはあっちに行こっかー」
「いやあの、」
ろくに抵抗出来ないまま監督生はケイトに引きずられ、それを意に介した様子も無くリドルは去って行く。
「……一応聞いても良いですか?」
「聞くって何を?」
「リドル先輩に首をはねてもらってる理由です」
「あー……やっぱり誤魔化されてくれない?」
「寧ろこんなことで誤魔化せると本気で思ってたんですか」
図書室の死角、明確な目的が無ければ足を運ぶことが無い区画で監督生はケイトに口内を執拗に犯されて息も絶え絶えの状態になっていた。
──筈なのに平時と変わらぬ落ち着いた口調で監督生が話しかけてきたことにケイトは苦笑いを浮かべる。
「……証明をするため、かな」
「証明?」
「今ここにいるオレが本物だっていう証明。リドルくんだから出来ることなんだ」
自分の首を指先で軽く叩きながらケイトは薄く笑みを浮かべる。
「オレくんは首をはねられるのと同時に消えちゃうからね」
「……随分と物々しい証明方法ですね」
「ちょっと怖いけど確実性はバツグンだよ」
「じゃあどうしてそれを自分と……会う前にやってもらうんですか?」
「えー、それも知りたいのー?」
「自分が関係していることですしね」
「しょーがないなー」
溜め息を吐いた後、ケイトは監督生の耳に舌を這わせる。
「っひ、」
「このイタズラを堪えきれたら教えてあげる」
耳を犯すような甘い声に監督生は頬を紅潮させた。