なみだあめそのひとしずくは何の前触れもなくぽたりと落ちた。
「え、」
突然の出来事に呆然としている間に次の雫が頬を伝う。
「あれ、何でオレ、泣いてんの」
目が熱い。
声が震える。
どうしてこんな、急に──
「ケイト先輩」
名前を呼ばれてはっと我に返る。
そうだ、ついさっきまでユウちゃんと次のデートでどこに行くかを相談してたんだった。
「……ちょ、ちょーっとだけ待っててね!すぐに──」
「いえ」
その一瞬で何が起きたのか、理解するまでに十秒近くの時間を要した。
理解した直後、自分の顎がユウちゃんの肩に乗っかっている事実に困惑した。
「あ、あのー……ユウちゃん?」
「──涙、自然に治まるまでそのままでいてくださいね」
「えっ、」
「無理矢理堪えたりとかしちゃダメですよ?」
背中をぽんぽん叩かれながら窘めるように言われて、これじゃまるで母親にあやされる小さな子どもみたいじゃん。
オレの方が年上なのに。
「はぁ……」
カッコ悪いなぁ、今のオレ。
涙は全然止まらないし、何か喋ろうにも話題が全く思い付かない。
けーくんらしさゼロで泣けてきた。
いや別の理由で泣いてるのが現状なんだけど。
「……雨、まだ止みそうにないですね」
そういえばさっき窓の向こうで小雨がぱらついてたような、そうでもなかったような。
「今日はあっちもこっちも涙雨。晴れ間がのぞくのはもう暫く先になるでしょう」
「へ?」
唐突な天気予報に一瞬思考が停止する。
涙雨って何だっけ。
意味は確か──
「……あー、そういうことかー……」
外の雨とオレの涙。
どっちも当分ぐずついたまま。
つまりさっきの天気予報は現状のまとめだ。
「……あのさ、ユウちゃん」
「はい何でしょう」
「雨が止んだらキスしてくれる?」
「──良いですよ」
見えないけど多分笑ってるんだろうな、ユウちゃん。
「あーあ、早く止まないかなぁ」