戯言めいたお誘い「今日は何のお勉強中?」
「透明になる魔法薬の作り方……と言えば良いんでしょうか」
「それ一年がやる課題だったっけ?もう覚えてないなー……」
テーブルの上に広げられたテキストを覗き見ながらケイトは溜め息を吐く。
「使う材料の種類も作る行程も多くて覚えるのが大変なんですよね」
「確かにこの量を覚えるのはキツいだろうねー、デュースちゃんがオーバーヒートしてる姿が目に浮かぶなー」
「覚えようとするだけデュースはマシな方ですよ。グリムなんて完全に放棄してますし……」
「そういえばそのグリちゃんはどこに行っちゃったの?」
「さっきラギー先輩から連絡があって、マジフト部の練習に混ぜてもらってるみたいです」
「あららー、じゃあ後で迎えに行かないとだねー」
「何もトラブルを起こしてなければ良いんですけど……」
「グリちゃんはトラブルメーカーだからねー」
ここにはいないお騒がせモンスターの姿を思い浮かべながら監督生とケイトはほぼ同時に肩を竦める。
「そういえばユウちゃん知ってる?透明になる魔法薬って効果が強いと姿だけじゃなく存在そのものも消えちゃうんだって」
「存在そのもの……ですか?」
「単に認識されなくなるだけじゃなくて、その人が存在していたことを証明するものがぜーんぶ最初から無かったことになるらしいんだよね」
「はぁ……」
曖昧な返事をする監督生の頭を撫でながらケイトは目を細める。
「本当にそうなるのか、今度試してみない?」
「……ケイト先輩、相当疲れてます?」
「真っ先にそれを聞いてくるあたりユウちゃんがオレのことどう思ってるかおおよその見当がつくなー」
苦笑いを浮かべつつケイトは監督生の頭を撫でていた手を頬に滑らせる。
「どうせ消えるならユウちゃんと一緒が良いな、って思っただけだよ」