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GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

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    Twitterまとめ2ざあざあと雨が雷雨と記憶と眼球はガラス玉ではないけれど夏の暑い日に君が笑うこどものような振るまいではらりはらりと落涙す吉祥果であれI will follow himいつかハロウィンも口唇の色今宵も月が昇る捩じ伏せる往き来する書 (現パロ同居千ゲ)柳の揺れるcafeteria(現パロ)ざあざあと雨が「千空ちゃん! あそこ! ひとまずあの樹の下っ!」
     ばたばたと痛いほどに大量の雨が空から降ってきていた。雨粒なんてかわいいものじゃないよ、こんなの。ホースで水をぶっかけられているみたい。
     一際大きい広葉樹を指差して、競い合うみたいに二人で葉の下に駆け込んだ。
    「くっそ、間に合わなかったか……」
    「しょうがないねぇ、すぐ止みそうなのが救いだよ」
     ぜえぜえ、はぁはぁ、息を荒げて、体力のないヒョロガリコンビの俺たちはヘトヘトになって木の根に座り込む。
    「あー、しんど……溺れるかと思った……」
    「あ゛あ゛、だな……」
     川に落ちたのかってくらい、お互いにずぶ濡れだ。びしょ濡れになりながらの全力疾走、ジーマーでもう勘弁。あとちょっとで村まで、というか屋根のある所に辿り着けそうだったのにね。
    「あはは、流石に千空ちゃんのくせ毛もこの雨の前には下を向くねえ」
     顔にべったりと濡れた髪を張り付かせる千空ちゃんを笑いつつ、手を伸ばして指先で髪を払う。その鬱陶しそうな顔は髪の所為と俺の仕草のどっちが原因? なんて思ったら余計おかしくなってしまった。
    「そういうテメーも髪食ってんぞ」
     笑っていたら千空ちゃんもそんな事を言ってこちらへ手を伸ばす。知らず僅かに引いた我が身に一瞬手が止まるが、すぐにまた今度は身体ごと俺に寄って俺の頬を引っ掻くように指で髪を払った。ざり、と荒れた指の感触に肌が粟立つ。
    (……参ったな)
     互いに互いの頬へ手を伸ばしたまま、動けずに居た。木の葉に打ち付ける雨の音。地面を跳ねる雨の音。合間を縫うように聞こえるお互いの呼吸の音。何もかもから切り離されて、現実をふと見失う。
     どうしようもなくて見つめ合う中、瞬きした彼の睫毛からころりと水滴が転がり落ちた。頬を伝い、顎を伝い、滴る雫がいまにも落ちる。
    (もったいない)
     強烈な湧き上がる衝動に身を任せ、顔を寄せ舌先でその雫を受け取った。駄目だいけない、その自戒は余りにも遅すぎた。
     頬を掬い上げられ、口吻の位置を修正される。指先をくすぐる濡れた髪、掌に感じる冷えた頬、ぬるい唇、熱い舌、湿った吐息、覆い隠す水の音、雨の匂い、背中にあたる樹皮の痛み。
    (参っちゃうよねえ、まったくさぁ)
     閉じていた目をうっすら開く。近すぎて見えやしないだろうに、彼もまた俺を見ていた。息苦しい程に口付けておきながら、俺を観察する冷静さは残っているらしい。
    (溺れて浮かされることも出来ないなんて)
     俺もまた、衝動に抗えない癖に理性を手放せるほど溺れられない。彼の冷静な姿を見る度、理性はすぐにでも引き返してくる。いっそ形振りかまわぬ生き物になってみたい、でもそんなものに引き摺られる男に惚れたわけじゃない。道半ばの今、俺に溺れるような千空ちゃんは千空ちゃんじゃない。
     下唇を甘噛みして、口元の雨水なんかすっかり舐めとってしまった顔を離す。やっとピントの合った顔はすっかり上気していて、きっと俺も同じような顔をしていることだろう。
     呼吸を整えてから、俺は訊ねた。
    「雨の匂いって、何か名前あったよね?」
    「ペトリコールのことか?」
     何で今それを聞くのか、と疑問に思っているだろう事は分かるけれど敢えて触れず、千空ちゃんの肩越しに雨空を見る。少しばかり止んできたようだ。
     記憶と匂いの関係を千空ちゃんなら当然知っているだろう。でもきっと彼はその知識を今思いだすことはない。俺も教えるつもりはない。けど、ペトリコールという名札の記憶のカテゴリに『俺が質問した』というファイルが入ったことだろう。いつ、どこで、どんな時にそれを問いかけたかという情報と共に。
     いつかの雨の日にそれを思いだしたら千空ちゃんは何を思うかな、果たしてこんなちょっとした悪戯は成功するのか不発に終わるか、どうだろう。
     ……なんてのは副産物で、本当はただ、俺の記憶の紐付けがしたかっただけ。
    「雨、止んできたよ、千空ちゃん」
     この口吻の香りは、ペトリコールというらしい。記憶の箱の中にそっと、その名前を押し込んだ。
    雷雨と記憶と ばたばたと先を駆けていく小さな背を必死に追う。落ちてきた雨粒よりも、先ほどから鳴っている大きな雷の方が問題だ。やれやれ、ついこの前もあったんだけどなぁ似たような事。ツイてないもんだねぇ。
    「ゲン! ゲン、こっちなんだよ!」
     スイカちゃんが叫んで、岩陰に飛び込んだ。大きな岩と岩の隙間で彼女は手招きをしている。
    「さっすがスイカちゃ~ん、って狭ッ! ねぇこれ、俺入れるかなぁ……」
     お邪魔しまーす、と腰をかがめて岩の隙間に潜る。あ、意外といけるわ。でもいくらスイカちゃんが子どもだからと言っても、並んで座るのはぎゅうぎゅう過ぎる気がするんだけど。
    「うう、お空が怒ると怖いんだよ……」
    「そうだねぇ、雷は危ないからねぇ……ところでスイカちゃ~ん、悪いんだけど狭いからさぁ、俺の膝に座って貰っていーい?」
    「わかったんだよ!」
     自分の身体を抱きしめるスイカちゃんに声をかけ、俺の胡座の上に座ってもらう。雨で濡れて寒かったから、子ども体温があったかい。スイカちゃんも何となく肩の力が抜けたようだ。
    「ゲンはあれ怖くないんだよ?」
    「怖いっちゃ怖いけど~……スイカちゃん、どういうところが苦手?」
    「うーん……いきなり鳴る、音……?」
    「ああ、ゴロゴロッとかピシャァン! とか大きく鳴るもんね」
     話す間にまた空が光る。良かった遠そうだな、と眺めていたら予想よりも大きな音が響いた。ひゃ、と目の前から小さな悲鳴が上がる。
    「スイカちゃん、次に空が光ったら数を数えてみよっか」
    「何でなんだよ?」
    「いーから、いーから。あっ、光った。ハイ」
    「いーち、にーい、さーん、よ」
     四、を数える前に雷の音が響く。今度はスイカちゃんも怯えなかった。
    「怖くなかったんだよ!?」
    「おめでとー」
    「何でなんだよ!? ゲン!」
    「そうねぇ。準備が出来たからかなぁ、気持ちの」
    「準備?」
    「そー。雷ってね、ホントのすぐ傍じゃなければ光ってから音が鳴るの。ほら光った、いーち、にーい、さーん、鳴った。ね? 鳴るぞー来るぞーって思って待っていたら驚かないでいられるでしょ」
     なんて言いつつ、あまりにも大きな音だと驚いたりするんだけど、それは言うまい。ばらばらと降る雨と光る空を眺めて、二人でしばらく数えあげる。
    「なんで、音は後から聞こえるんだよ?」
    「あ~、やっぱり聞いちゃうよねぇ~それ」
     何て説明しよう。千空ちゃんならなんと言うんだろうか。でもまぁ、細かいことは戻ってから千空ちゃんに説明してもらえばいいかな。
    「そう例えば~……あっちの山の方でまず雷が落ちるでしょ? スイカちゃん、あっち、とても遠いよね」
    「うん、とっても遠いんだよ」
    「だから、あっちから俺とスイカちゃんの所にやってくるまで時間かかっちゃうの。光もね、雷のピカッとしたのが俺たちの所にやってくるまでに本当は時間があるんだよ、速すぎて時間差があるなんて分かんないけど」
    「そんなに!?」
    「そんなに。それでね、光より音の方がかけっこ遅いのよ。だから一緒に走り出しても音は俺たちんとこ到着するのが遅いの」
     光の速度だとか音の速度だとかまでは俺には分からないし、簡単ではあるが今スイカちゃんから求められている問いの答えにはなっただろう。……何かのクイズ番組で聞いたことあった筈なんだけどなぁ、光は一秒で地球を何周するでしょうかみたいなの。思い出したらなんか気になってきちゃったなあ、戻ったら教えてもらおう。
    「千空もゲンも、色んなこと知っててすごいんだよ」
    「んー?」
    「スイカも、二人みたいに何でも知ってたら、もっとお役に立てるんだよ……」
    「いやぁ、あれは例外っていうか規格外というか、ねぇ……? 千空ちゃんほど何でも知ってる人、俺たちの時代ですら普通は居ないのよ? それに俺たちとスイカちゃんじゃ生きてきた長さが違うんだから知ってることの量も違うよ」
     この子も、目がマトモに見えなくて苦労したんだろうなぁ。そんなに必死になってほしくないんだけど、小さな子に。役に立たないと居ちゃいけないなんて思わないでよ。
    「スイカちゃんだってたくさん色んな事を知ってるじゃない」
    「?」
    「今日だって、ここをスイカちゃんが知ってたから俺たちはあの怖ーい雷とこの土砂降りの雨が終わるのをここで待っていられるんだもの。それってジーマーでゴイスーなことよ?」
    「スイカ、お役に……」
    「立ってる立ってる。お役に立ちまくりだよ~、スイカちゃんはいつでも」
    「へへへ……何だか照れるんだよ……」
     被りもので表情は分からないけれど、嬉しそうで恥ずかしそうで誇らしそうな気持ちが全て声に出ていた。うーん、かわいい。
    「あっ、ゲン! 雨止んできたんだよ!」
    「そういえば、いつの間にか雷も収まってたねえ。ああ良かった」
     石化前の世界でだって、落雷で亡くなる人はいくらでも居たのだ。ただでさえここでは怪我も病死も、昔ならささいなことでしかなかった類のものですら死因になり得るのだから用心に越したことはない。今更だけど、よくそんな雷使って磁石作ろうとしたよねジーマーで。危ないことこの上ないわ。
    (やるしかないから、やっただけなんだろうけど)
     出来ないなら出来ないで別の方法を考える、それでも現時点での最善と思ったら危険を理解した上で行動する。精神力だの胆力だの、そんなもんで納得できちゃうもんじゃないのになぁ。
     雷ひとつ取ってもそうだ。スイカちゃんは本能と経験で、雷が何かを理解していないけれど恐ろしい。俺は落雷での感電死や火傷、山火事なんかを漠然と知っているから恐ろしい。きっと千空ちゃんは更に死亡事故例とか具体的に落雷でどうなるかを知っている事だろう。怖ろしく思う感情は三人とも同じでも、その解像度には隔たりがある。
    (同じ解像度の世界は、多分、見られないんだろうなぁ、俺には)
     それでも俺は、同じ視界が得られなくても、それを見て抱く君の感情を理解したい。俺の持つ技術のすべてを駆使して、千空ちゃんの感傷の傍らに立ちたい。
    「ゲン? どうしたんだよ?」
    「メンゴ、ちょっと考えごと~。じゃ、帰ろっかぁ」
     立ち上がったスイカちゃんが、不思議そうに俺の袖を引っ張った。へらりと笑って誤魔化して、よいしょと隙間から出て伸びをする。
     雲の切れ間から光が差しこんできた。水気を含んだ草木や苔は鮮やかさを増し、葉の上の露は輝きを反射させる。水と土と青臭さの混ざる空気を吸い込み、この前とは違う匂いだなと、思う。思ってしまった。
    (――あの匂いを、ペトリコールと、言う)
     呪文は軽やかに記憶の鍵を開け、不埒な光景を脳裏へ明け透けに映し出す。有無を言わさぬ指先、子細洩らさず読み取ろうと観察する静かな赤い瞳、やわらかく口内で絡む熱、鼻を掠める雨の匂い。
    (……いやいやいや、バイヤーすぎるでしょ、流石に今は)
     いたいけな子どもと一緒に居る時に思い出すとかゴイスー罪悪感なんだけど。
    「自業自得とはいえさぁ……」
    「じごーじとく? って何なんだよ? ゲン」
    「へっ? あ、ああ、ええと前に自分でやった事が後になって悪いことになって返ってくること、かなぁ。銀狼ちゃんがよくやりそうなやつ」
    「ふぅん……ゲンたちの言葉は難しいのがいっぱいなんだよ」
     何か悪いことがあったのかと聞いてくるスイカちゃんをはぐらかす。さして気にせず、スイカちゃんは跳ねるように歩き出した。俺は先を行く彼女の背中をのんびりと追う。千空ちゃんも変なタイミングで思い出していたたまれない気持ちを味わえばいいのに、と八つ当たりみたいなことを考えながら、口の端に落ちた水滴をぺろりと舐めとった。
    眼球はガラス玉ではないけれど 痛っ、という小さな呟きに振り返る。
    「どしたの? 千空ちゃん。何かにぶつけた?」
    「いや、目が……」
    「目ぇ?」
     俺の問いかけに答えながらも、千空ちゃんは手に持っていた器具を机へ置き、下を向いて何度も瞬きを繰り返していた。ああ、なるほどね。
    「なに、ゴミでも入った?」
    「あ゛あ゛、多分……クソ、とれねー」
    「ちょっと失礼」
     近寄り、両手で顔を掬って上向かせる。目蓋を閉じないよう、軽く指で抑えてから覗き込んだ。
    「ああ、睫毛が落ちたみたいね。てか千空ちゃん、目の水分少なくない? ぺったり白目にくっついてるけど」
    「痒い」
    「そう? 白目のとこならそんなに気にな……あ~、毛先が黒目んとこ触れてるね。なら取ろっか」
    「……、は?」
     何を言ってんだコイツ、とでも言いたげな声だけれど、そのまま俺が何しようとしてるか気付かないでいて頂戴ね。暴れられたら危ないし。
     頬に添えてた手にさりげなく力を込め、目蓋もしっかり固定する。相手がいまだ訝しげなままであることを確認して、今のうちにと行動に出た。
    「……っ!?」
     顔を出来るだけ近付け、湿った舌をついと伸ばす。ひくりと彼の喉が鳴ったのが聞こえた。ふに、と舌先が張りのある表面にくっつき、明らかに異物感のある睫毛に触れる。ほんの僅かに押しつけ、唾液と舌で睫毛を絡め取って顔を離した。ついでに一歩後ろへ退く。
    「……、はい取れたよ、お疲れさん」
     顔を背け、んべ、と舌に引っ付いた違和感の元である睫毛を指で摘まんで捨てながらそう労るが、反応が返らない。
     あれ? と思って顔を戻したら、真っ赤な顔で絶句している千空ちゃんが其処に居た。青い顔じゃないんだ?
    「何してくれてんだ、テメー……!?」
    「まぁまぁ、そんな大したことじゃないじゃん」
    「アレが大したことじゃねーってか?」
    「そういうことにした方が都合良いでしょ、千空ちゃんにとっても」
     本当のことを言うと、俺も何をやってんだって気持ちは多少あるんだけどね? でも何故だか千空ちゃん相手なら大体のことは出来ちゃう不思議。俺も甘いねー、大概。
     ケロッとした顔の俺を見て、千空ちゃんが苦い顔をする。それから額に手を当てて、深々と溜め息を吐き
    「他の奴にはすんなよ、変態ヤロー」
    と悪態をついた。
    「しないって」
    「……顔洗ってくる」
    「いってらー」
     ちなみに変態は否定しない。千空ちゃんの綺麗な赤い目なら舐められるなって思っちゃった俺が正常とは思わないので。
    「……おい」
    「はいはい、なに?」
     ふらりと立ち上がって出て行こうとした千空ちゃんが振り返る。
    「次に見つけたら、俺はテメーに同じことをするからな」
    「オッケ~、それじゃ見つかる前にさっさと自分で対処するね」
     この野郎、と言いたげに口の端をひくつかせてから千空ちゃんは出て行った。 ひらひらと手を振ってその背を見送った。
     ……千空ちゃん曰くの変態的で大したことを俺相手に出来ちゃうわけね? 同じ気分を味わえってことかもしれないけど、一矢報いるのにそんな身体の張り方しないでいいのに。
    (しかし、まぁ……)
     夢想する。近付く顔、伸ばされる舌、湿った温もりを有り得ない場所で享受する瞬間。
    (普通に興奮しそう)
     変態ヤローを否定できないどころか全面肯定しなきゃいけないかもしれない、それはちょっと情けないなと俺はちょっぴり肩を落とした。
    夏の暑い日に君が笑う 蝉時雨とはよく言ったものだ。降り注ぐ合唱を身に浴びながら、額の汗を拭う。ヒートアイランド現象を起こしていた当時の東京よりはマシとは言え暑いものは暑い。だというのに一歩後ろを歩く男は、自分よりも着込んでいながら涼しげなポーカーフェイスのままホント暑いねぇなどと白々しく口にしている。
    「嘘くせぇ」
    「ドイヒー! あっついに決まってるじゃん、夏の真っ昼間でクーラーもないんだから」
    「んじゃそりゃ格好つけの痩せ我慢か? 熱中症でぶっ倒れてもしらねーぞ」
    「んー、暑いとは思ってるけどわりと平気なのよね、俺。でもそうだなぁ、倒れて俺の治療にリソース割くのは得策じゃないし、気をつけるよ」
     ご心配どうも~、と言いながら彼は何処ぞから竹の水筒を取り出した。
    「……夏だなぁ」
     水を飲みながら、自明の事をぼそりと呟く。
    「一昨年の夏は、千空ちゃんたちと出会ってこんな世界で発電する様を見て」
     飲む? とばかりに水筒を差し出してくるのを断って、自分の水筒に手を伸ばした。俺が飲むのにつられてもう一口、奴も水を飲む。
    「去年の夏は、大樹ちゃんたちと作り上げた青々と風になびく麦畑を見て」
     悔しいもんだねぇ! 告げられた言葉とは裏腹に、その声の様子はすこんと突き抜けた夏空のような晴れやかさがあった。
    「夢を見せるのは俺の仕事だったんだけどなぁ」
    千空ちゃん、と奴が呼ぶ。
    「来年は、何が見られるかな」
    「さぁな」
     不確実すぎて今現在では何も言えることはない。こんなにも日々は目まぐるしく動いている。ただ、これだけは言えるだろう。
    「また驚くようなもんが待ってるだろうよ」
     それを見るのも作るのも、俺たちだ。そいつは良いねえ! からりと言い放って、一歩踏み出し俺と並ぶ。短い前髪が、汗で貼り付いているのが見えた。
     そうして彼はいつもの如く小首を傾げると、
    「期待してるよ、千空ちゃん」
    日射しの下、心底楽しそうに笑った。
    「あ゛あ゛、期待しとけ。たっぷりとな」
     その汗ばむ額を拭ってやりたくなる、この感情は何と名付けるべきなのか。衝動のまま伸ばした手を受け入れた相手は、何も言わずにただ笑みを深めていた。
    こどものような振るまいで 今日も今日とて参謀殿は、我等がリーダーの隣で賑やかしをやっている。ある時は大袈裟に文句を言い、ある時は称賛で他をおだて上げ、または周りを笑わせ、……そうして人を手玉に取っては二人で悪い顔して笑い声を上げてみたり。
     何というか、その振る舞いって。
    「若いよねえ」
    「そりゃそうよ、まだ十代の子らも多いんだもん」
    「いや君が」
    「二十歳そこそこで老けてる方がイヤでしょ~? 何を言うのよ、羽京ちゃん」
     大した差でもないのにオッサンみたいなこと止めて、と呆れた顔でゲンは手摺りに寄りかかった。
    「船の上なんて閉鎖空間でノリ悪い真似してたら一気に空気悪くなるでしょうよ」
    「合わせてるだけ、って?」
     嘘だぁ、とくすくす笑えば、ドイヒー! なんて、おちゃらけた文句を返してくる。
    「必要としない場面でまで大人らしくする意義、此処であると思う? 羽京ちゃん」
     かと思いきや、次の瞬間には年相応それ以上の落ち着きを持った男がそこに現れるのだから、まったく彼は侮れない。
    「俺はねぇ、若いんじゃないの。青いの」
    「ふぅん?」
    「そんでもって、遅蒔きの青春を謳歌してんの、今」
     にぃと笑う彼は言う。
    「羽京ちゃんもどう? 楽しいよ、がきんちょで居るの」
     ふと、昔に見たテレビ特番を思い出す。そういうコイツは19歳、そんなテロップを貼りつけられた、青さよりも老獪さを思い浮かべるような胡散臭い芸能人あさぎりゲンの姿。
     あの日の画面の中とはかけ離れた若者が、目の前に居た。
    「楽しいんだ?」
    「楽しいよ、ジーマーで」
    「そう。じゃあ僕も、たまにはそうしようかな。照れない程度に」
     くつくつと笑う僕に、彼も似たような笑いを返す。秘密の共有みたいな気分だ。
    「ゲーンッ! 千空と龍水が呼んでっぞーッ!」
    「わかった、今行くー! ありがとークロムちゃーん!」
     少し離れた所からかけられたお呼びに、ゲンは手を振って応える。どうやら休憩のお喋りはここまでらしい。
    「ねぇ羽京ちゃん。クロムちゃんはただ俺を呼んだだけだし、面子的に今から大人らしくメンタリストのお仕事してこなきゃだと思うんだけどさ」
    「うん?」
    「今のやりとり、若い子どころか小学生の遊びのお誘いみたいじゃなかった?」
    「ぶっ!」
     そんな、ガキ大将ふたりに悪知恵を与えに行くみたいな! 思わず二人でゲラゲラと笑いながら、早く行きなと彼の背を押す。まだ笑いの収まらない顔で振り返ったゲンは僕に手を振り、僕もまた手を振り返す。
    (そんな安穏としたもんじゃないのに)
     ほんとに学生時代みたいだなんて、思ってしまった。
    はらりはらりと落涙す 夜更けにふと目が覚めた。真っ暗な部屋の中、隣の寝床に膨らみが無いことに気付く。便所にでも行ったのだろうと寝返りを打つが、そういえばあの男が刺されて殺されかけたのは夜中だったと思うと何だか妙に気になるものだ。三度寝返りを打ち、諦めて起き上がる。一応様子を見に行くか。
     天文台の出入り窓を開け、外を見やる。目当ての人間は探す必要もないほど、すぐ見える場所に立っていた。そんな所で何をやってんだか。
     姿は確認出来たのだから寝床に戻れば良いものの、こちらに背を向けてただ立ち尽くすのが気になり降りることにした。
    「何してんだ、寒いのに」
     決して大きくない声の筈なのに、澄んだ空気はよく音を響かせる。
    「……っ!?」
     俺に気付いて振り返ったゲンは、滂沱の涙を流していた。明らかにビビって立ち止まる俺を見て、フッと微かに笑みを浮かべる。
     何だ、どうしたんだ、一体。狼狽えたまま近寄り、濡れた頬に手を伸ばす。触れるよりも先に指先は絡め取られ、やんわりと振り払われた。
    「……、どうした?」
     動揺の所為か、心臓が早打っている。当たり前だ、俺はこんなものは知らない。嬉しさや悲しさ、大きな感情の波から溢れ出るのではなく、ただ静かに流れるまま落涙する人間の姿など俺は知らない。
     俺の問いに、ちょっと待てと掌で制される。鼻を啜り、深呼吸をして息を整え、ややあってから彼は口を開いた。
    「……泣くことを目的にして映画見たりしなかった? 石化前」
    「……、あ゛?」
    「スッキリしたくて。なんていうか、デトックス? 的な」
    「……つまり」
    「シリアスな理由は何も無い」
     瞬きでまた睫毛についた涙がはたりと落ちる。理由は、無い。そうか、なんだ、ああそうか。
    「夜中に泣いてる野郎が立ってるとか絵面バイヤーよね。驚かせてメンゴ、千空ちゃん」
    「あ゛ー……や、いい、気にすんな」
     口元に手をやり、デカい溜め息を吐きながら顔を俯かせる。自分でも力が抜けるのが分かる、どんだけ緊張してたんだこの身体は。
    「男がそう簡単に泣くもんじゃねーだろ」
    「感情の発露を無理矢理に抑え込むのは身体に悪いもんだよ~」
     人前でガッツリ自分のメンタルをコントロールしている奴の言う事かよ。いや、だからこそなのか。
    「泣かない矜恃も大事だけどさぁ、泣くのだって大事なもんよ」
    「そんなもんか」
    「そんなもんよ。泣きたくない、っていう駄々よりはよっぽど大事」
     俺は断然泣く方を選ぶね、どこか意地の悪い笑みを浮かべてゲンは言う。
    「泣かないならそれでいいけど、泣きたくないだけなら俺に当たりにおいでね、千空ちゃん」
    「なんだそりゃ」
    「自分より怒る人を見ると冷めるでしょ? 俺を代わりに泣かせば良い、そうして泣いた俺を見たら涙も引っ込むかなって」
     そんな時があったら声をかけなよ、穏やかな顔でゲンが言う。
    「俺はこの通りいくらでも泣ける人間だから」
     先ほど触れられなかった手を取られ、俺の手の甲を使って頬に残る涙を拭う。
    「寒いし、寝よう」
     ぱっと手を離すと、彼はさっさと俺の横をすり抜けて戻っていく。その背を見つめながら思う。
     たとえ泣いたことにシリアスな理由は無かろうと、泣くために思い描いたものはあるだろう。お前は何を思って泣いたんだろうか、泣いてくれたんだろうか。
     濡れた手の甲を服で拭う。身体はすっかりと冷え切っていて、思わず鼻を啜り上げた。
    吉祥果であれ ちょっとした連想からつい思い付きを口に出してしまったのは、俺にしては些か軽率だったかなぁと、思わないでもない。
    「千空ちゃんが柘榴の実を食べていなくて良かったねぇ」
     透き通る美しい柘榴色の飲み物、彼の為に作られたノンアルコールカクテルを飲んでいた司ちゃんは、何を言われたのか分からないと言いたげにキョトンとした顔を俺へ向けた。
    「美味しい?」
    「美味しいよ、うん、ゲンのは?」
    「ピリッとした風味がゴイスー美味しい。流石フランソワちゃんだよね~」
     後半はカウンターの向こうで控えるフランソワへ聞こえるように発言する。目礼する相手へひらりと手を振ってから、俺は司ちゃんに向き直る。
    「変なこと言ってメンゴ、司ちゃん。ちょっとした連想でポロッと口走っただけ。気にしないで~」
    「連想、かい?」
     ああ気になると目が言ってる、ゴイスー見てくるね司ちゃん……いや、言っても良いんだろうけど。今ならもう。
    「う~ん……じゃあ、わりと無神経なことだけど言うね?」
    「うん、心の準備をして聞くよ」
    「ありがと。ペルセウス、ギリシャ神話、グレナデンシロップ、柘榴、ペルセポネ」
    「……ええと?」
    「冥界下りの話、聞いたことない? ……ああ、図書室にあるファンタジー児童小説とか子供向け神話集とか読まないタイプの子だった?」
     肯かれてしまった。そこ説明するのちょっと居たたまれないなぁと思いつつ、自分で蒔いた種だしね。
    「冥界に拐かされたペルセポネはそこで出された柘榴を食べてしまった為に地上へ戻れず冥界で暮らすことになりました」
     本筋をばっさり省いたあらすじに、フランソワちゃんがチラリと俺を見る。いいじゃん、今ここの会話で必要なとこだけ抜粋したって。
    「ああ、うん、それは……」
     説明を聞いて司ちゃんは苦笑いだ。そりゃそうよね、要は『千空ちゃん死ななくて良かったね』って殺した相手に言ってるんだから。無神経なこと言うよって注意したじゃん、だから。
    「今のだいぶ端折ったから、気になるなら他の人から聞いてね」
    「そうするよ」
     誰なら神話とか詳しいかな、フランソワちゃんも教養として知ってそう。あと女の子たちや漫画やゲーム好きだった子なら、おっとそれなら漫画家の基本先生も? ああ、それにしても。
    「柘榴って色んなイメージ持ってる果物だよねぇ。子孫繁栄や豊穣、魔除けを表す縁起物だったり、人の肉を食べる代わりに与えられる物だったり、さっき言ったみたいに冥界で差し出される果物だったり」
    「へぇ……ゲンも物知りだな」
     この果実が司ちゃんを表すものだとは俺も思っていないけれど、でもさ、今なら君はこの花言葉を受け止められるんじゃないかなぁ、なんて。
    「司ちゃん。柘榴の実の花言葉を教えてあげる」
     コーラを一口、喉を焼く。これから告げる言葉への先渡しのちいさな罰みたいに。
    「愚かしさ」
     司ちゃんが、僅かに目を細める。俺はその目を見返した。
    「もうひとつ。結合、だよ」
     少し手を伸ばし、コーラのグラスを無理やり司ちゃんのグラスへ打ち付けた。チィン、と高く音が響く。驚いたような顔をする司ちゃんへ、俺は笑った。
    「これだけじゃ何だから、柘榴の明るい話をしてあげようか。あのね司ちゃん、柘榴の花ってタコさんウィンナーにゴイスーそっくり」
    「……タコさんウィンナー?」
     煙に巻かれたような顔で司ちゃんが繰り返す。司ちゃんの口から『タコさんウィンナー』って単語出ると変な感じ。
    「そう。いつか村で時期を迎えたら、未来ちゃんたちと探しに行こうか」
    「……タコさんウィンナーが入った弁当って、食べたこと無かったな」
    「俺も無いのよね~実のところ。フランソワちゃ~ん! 機会があったら作って! タコさんウィンナー!」
    「畏まりました」
     やったね、と笑う俺を見て、司ちゃんも笑う。それから自分のグラスを見つめて、残りを一息に飲み干した。
    I will follow him あれ?静かだなぁ、そういえば。作業中、少し集中力が切れたところで状況に気が付いた。話しかけるのは大体俺の方からだから俺が話さなければ静かな空間ではあるんだけれども、と傍らへ振り返る。
    「……あらら」
     図面の修正をしていた筈の千空ちゃんが、頬杖をついて静かに眠っていた。
    (このまま石化したら、一級品の芸術作品になりそう)
     微動だにせず目を閉じ、呼吸を確認したくなるほど、ただ静かに眠りの水底へ沈んでいる。人間の在り様だけでなく居眠りする姿まで美しいとは、まったく恐れ入っちゃうね。
    (……わりと無防備な子だよなぁ、千空ちゃんてば)
     害なすつもりは欠片もないけど、敵陣から寝返った俺の傍でよく居眠り出来るよねぇ、ジーマーで。気を張りすぎて眠れないよりはずっと良いけれどさ。俺もこの村に来て随分と眠れるようになったし。
     ……ああ、そっか。そうだよな。千空ちゃん、一番最初に一人で起きたんだもんな。思いついて、腑に落ちた。独りで半年生き延びたんだ、人の気配はさぞ落ち着くことだろう。
     独り起きて、待ち続けた一人が起きて、起こした男は友と呼ぶ前に敵となり、昔馴染みたちと別れ、そしてようやく仲間を得て。
     ラボの外は音でいっぱいだ。風や揺れる木々の葉擦れや鳥の鳴き声、そんな自然の音だけでなく、カセキちゃんやクロムちゃんが進める工作の音、コハクちゃんたちが訓練をする気合いの声とぶつかり合う物音、時々銀狼ちゃんの泣き言と金狼ちゃんの叱る声、たまに子供たちが高らかに笑う声も聞こえてくる。
     人が生きる声を子守歌に落ちる微睡みは、どれほど心地良いことだろう。
    「I will follow him, Follow him wherever he may go……」
     何だっけな、歌詞。すべては覚えてないけど、貴方についていく、何処へ行こうと貴方の傍に、そんな感じの歌。
    (皆、君についていくよ。千空ちゃん)
     歌詞は分からないからハミングで誤魔化して、俺は作業を再開する。そう長い仮眠ではないだろうから、このまま居よう。起こさないよう何処かへ行くのではなく、僅かな物音と大して上手くない鼻唄と共に、眠る君の傍らに。
     そうして君が目覚めたら、おはようと声をかける人間のひとりでありたい。
    「For nothing can keep me away, He is my destiny……」
     いつの間にやら頬杖が崩れて机に突っ伏し、すっかりと寝入った様子を横目に見やりながら、俺は小声で歌い続けていた。
    いつかハロウィンも「渋谷のハロウィンとかゴイスーだったよねぇ、あの頃」
     着手した電球作りはなかなか難しいらしい。失敗もまだ多いし、ペースアップ出来るのはまだまだ先だろう。夜、疲れた顔で寝床に戻ってきたわりにまだ寝るつもりがなさそうな千空ちゃんへ、そんな話題を振ってみた。
    「あ~……あれな。うるっさそうな……」
    「いやぁ、実際ちょっと近寄りがたかったねぇ俺でも。俺どっちかっていうと、ちっちゃな商店街とかやってる子供向けの企画のが見てて好きだったかも」
    「ほーん」
    「千空ちゃんは……あんまりそういうの興味なかった?」
    「あ゛あ゛ー……まぁ」
    「うん? なんだか歯切れの悪い」
    「俺自身は興味ねえ……が、周りが、な」
    「ふぅん?」
     あら、そういうのも話してくれちゃうんだ。適当に誤魔化すかと思ったのに。
    「周りってご家族? お父さんがイベント好きだったとか。あ~……待った、千空ちゃんが優しくても直近の年齢で親に大人しく従うわけがないし宇宙飛行士の訓練あるなら傍には居ないか、ちっちゃな子供の頃になんかハロウィンの思い出があるわけね?」
    「何も言ってねえのに当ててくんなよ」
    「ふふん、ゴイスーっしょ?」
    「いっそ怖ぇわ」
     別にその話だけじゃねえけど、と視線を逸らしながら彼はげんなりとした顔で曰く。
    「……保育園児くらいの歳に着させられた仮装の写真をいくつになってもハロウィン近付くとネタにして話してくるし、写真をわざわざスマホで撮ってあるしそれを他人に見せようとしやがる……!」
    「わあ親バカ」
    「ありゃ馬鹿親だ」
    「そういうこと言わないの」
     いや先に失礼なこと言ったの俺ですけど。許してね、千空ちゃんのパパさん。
    「どんな格好だったの?」
    「言わねー」
    「けちんぼ」
    「何とでも言え」
    「ふん。でも売ってなさそうだし作るの大変だったろうねぇ、宇宙飛行士なんて」
    「は!? 待っ、ハァ!?」
    「ふはははははは当たったぁ! 読みなし完っ璧にただの当てずっぽうの勘! です!!」
    「こっわ、テメー何だよ!?」
    「メンタリストで~す!」
    「それ言っときゃ許されると思ってんだろ?」
     意味分かんねえ、と千空ちゃんはドン引き顔で俺を見る。いや、単に運が良かっただけよ? ヤベー奴を見る目しないで、泣いちゃうわよ俺。
    「……まぁ、子供に着せるツナギを改造したような雑なヤツだったわ」
    「あ、教えてくれんのね」
    「ククク、もうバレたから隠す意味もねーだろ」
     案外と話に乗ってくれるもんだな、と思いながら俺は千空ちゃんの次の言葉を待つ。あ、ちょっと楽しそうな顔。
    「……んで、まぁその話がな、大樹から杠にバレて」
     何を思い出しているのだろう、ああ、いい顔するねぇ、君はホントに。人を想う時に、ホント、良い顔をする。
    「なら次は、完璧な宇宙飛行士の衣装を作り上げる! って、張り切ってやがったっけ」
     アイツ大樹には何を着せるつもりだったんだかなぁ、なんて千空ちゃんは笑っていた。
    「まっ、もう無理だがな。暫くは」
    「うん、そうね。暫くは」
     暫くは、だけど。含みのある互いの言葉に目配せし、間を置いて同時にニヤリと笑みを浮かべる。そうだねぇ、千空ちゃん。
    「ハロウィンパーティーも復活させよっか、日本式のどんちゃん騒ぎ版で」
    「元々は収穫祭だしな、丁度良い」
    「村にたくさん楽しいこと増やさないとねぇ」
     君が宇宙飛行士の仮装をする日も、もしかしたら本物の宇宙飛行士になる日も、そう遠くないのかもしれない。
    「楽しみだねえ」
    「あ゛あ゛、そうだな」
     なんだかとても愉快な気分。思わず今日は夢見が良さそうだと言ったら、何が気に入ったのか千空ちゃんは嬉しそうに笑っていた。
    口唇の色 気が付いたら隣の男は寝落ちていた。道理でよく捗ると思った、静かだったのか。
     このまま寝かせておくか、叩き起こして寝床へ行かせるか。生憎と俺に意識のないコイツを連れて行けるほどの力はない。
    (よく寝てんなぁ)
     人のことは言えないが、コイツも睡眠時間を削って行動するのに躊躇いがない側の人間だ。芸能人なんて生活リズムもバラバラだっただろうし。……しばらく放っておくか。眠れる時は眠った方が良い。
     机に突っ伏した横顔は、長く伸ばした白いアシンメトリーの向こうに透けている。見えるようで、見えない。見えない。見たい。
    (……自覚が無ぇワケじゃねーんだ、が)
     顔が見たい、なんて感情の故くらい気付いている。そこまで鈍感なわけじゃない。だが本当に『そう』なのか未だに疑っている。
     俺はただコイツに乗せられて気分良くなっているのを勘違いしているだけなのではないかと。互いにしか分からない在りし日を語る時間の慰みと一体感を勘違いしているだけなのではないかと。誰にでも向ける優しさと笑みを勘違いしているだけなのではないかと。信頼を、共犯意識を、友愛を、敬愛を、親愛を、取り違えているだけなのではないか、と。
    (……この好意の)
     カテゴライズが、いまだに俺には出来かねている。

     手を伸ばす。そろりと指で白絹を掻き上げる。見えた。間抜けな面。
     俺がこの好意に何某かのラベルを貼って差しだしたら、この男は受け取るだろう。どんな名前が貼られていようと、笑って受け取るのだろう。その方が都合が良いから、と。コイツ自身がどう思っているかを二の次にして、上手くいくならそれでいいかなんて打算で諸手を広げるんだ。
    (少なくとも、俺は)
     平気でそうするだろう、コイツの献身は疑っていない。
     半開きの口が目に止まる。間抜けに見える原因これだな。口。口唇。下の唇は口内の粘膜に繋がっている。口内の粘膜は腹の裡に繋がっている。繋がっているのに、この口が開いてもコイツの腹の裡は見えやしない。
    (なあ、テメーの好意はどこまで割り引いて考えりゃいいんだ?)
     親指の腹で下唇に触れる。少しカサついた表面は、俺の荒れた手よりも柔らかい。色味は良好、健康で何よりだ。これくらい分かりやすければ、俺も馬鹿みたいに自惚れていられたんだがな。
     針小棒大なその好意の正しいサイズが知りたい、嘘だったならそれでもいい、少し……いやかなり凹むだろうが構わない、腹の中の本音を聞かせろ、違う、本音を読ませるだけの綻びを見せろ。その隙間に爪を立てさせろ。曝かせろ。その見えぬ腹の裡を、この手で、俺によって、何もかも。
    (その無体をお前が許す相手でありたいと思う、この感情は)
     恋や愛と呼ぶには、随分と強欲なのではないだろうか?
    「……寒そうだな」
     何か上掛けになるものでも持ってくるか。コイツに風邪を引かれても困るし、それが俺や他に伝染ったらもっと困る。
     ゆっくりと手を引いて、音を立てぬようにその場から離れる。
    「あ゛ー……っとに厄介なもんだ」
     この感情のカテゴライズが出来るのは、それを認めることが出来るのは、いつだ。
     そして俺は合理的からはかけ離れていると承知の上で、今日もまた脳内ファイルを名称未設定のまま放置する。
    今宵も月が昇る 今日の空には引っかき傷のような月が昇っていた。あんな細い月ではあるが、夜闇をきちんと照らしてくれている。眠らぬ街に住んでいた頃なら昇っていることにすら気付かなかったかもしれないような、細い月。
     あんなでもあると助かるものだねえ。そう、一歩先を歩いていた千空ちゃんへ告げると、彼も空を見上げながら
    「あんな、なんてもんじゃねーくらいおありがてえわ」
     と応じてくれた。

     また別の日、この日も似たように細い月が昇っていた。傾いた月を見て、クロムちゃんが思い出したように話す。
    「ああやって傾くとゲンが笑うのに似てるよな」
     俺あんなんだっけ?片側がニヤニヤ上がってる感じっていうなら、まあ似てるのかも?
    苦笑して肯かずに曖昧にしていたら、クロムちゃんは更に言う。
    「でも千空も言ってたぜ? 分かる、似てる、って」
    「……それ、いつの話?」
    「あ? えーっと……」
     告げられたのは、空を見上げた日よりも、前。多分、あの日にはまだ記憶にも新しい頃。
    「どうした?」
    「ん~? 二対一なら似てるってことにしよっかなぁ~って」
     口の端を上げてニッコリと笑えば、やっぱり似てるって、とクロムちゃんが満月みたいに明るく笑う。
    (あんな、なんてもんじゃねーくらいおありがてえわ)
     ただ月に対して言っただけかもしれなくてもさ、勘違いでいいから今くらいは自惚れてもいいかな。
     そうだなぁ、今はか細い月だけれど、俺の本領は人が増えてからだしね。その頃には半月くらいのお役立ちになるから、その時には直接褒めてくれよ? 千空ちゃん。
    捩じ伏せる「なんでこんなコトやんなきゃいけねーんだよ!!」

     わりと近くで叫ばれた声に、反射のように身が竦む。
     落ち着け。大丈夫。急に聞こえた大声に驚いただけ、そう見えているはず。
    「ちょっと~、びっくりしたなぁ、もう」
     強張る背からは力を抜け。冷える指は一度握りしめてから解け、なに見えやしない袖の中のことだ。冷や汗? 知ったことか。喉が引きつる? そんな事はない、ゆっくりと、穏やかで軽薄でヘラヘラとした声なら、ホラ、変わらずに出ている。大丈夫。

     心拍数があがる?誤魔化せ。
     手足が震えそう?誤魔化せ。
     視線がうろつく?誤魔化せ。
     笑顔がひきつる?誤魔化せ。

     この身は誰のモノだ?
     俺のモノだ。
     この恐怖は誰のモノだ?
     ……俺のモノ、だ。
    (それならば、御せるだろ?)
    「まあまあ、そう言わないでよ~マグマちゃん!」
     飼いならせ。殺されかけた記憶など。


    「で。実際どうなんだよ、テメー。マジで平気なのか?」
    「はい?」
     なんで俺、引きずられてきたと思ったら千空ちゃんに面談受けてるんですかね?
    「はい? じゃねーよ、マグマと居るのは大丈夫なのかって聞いてんだよ」
    「いや、先にソレ言ってくれないと俺でも分かんないからね? 千空ちゃん」
     しくじったな、バレてたとは。どこで気付かれたんだろう。千空ちゃん忙しいし、そこまで見られてはいなかったと思うんだけど。
    「ククク、俺の目は誤魔化せてもコハク先生の目は誤魔化せねーんだよ」
    「あら、千空ちゃんは誤魔化せてたのね。流石は俺」
     そっちかー! コハクちゃんかー! あのチートかってレベルの視力と野生の勘で気付かれたのかー! ……たまーに、マグマちゃんとの間に入るように立ってくれてたのは気のせいじゃなかった訳か。やさしいねぇ。
     俺は降参、と言うように両手を上げた。
    「平気かって聞かれたらそうでもないって答えるけど、大丈夫かって聞かれたら大丈夫って答える程度のことだよ」
     嘘じゃない。無理して大丈夫って言ってるわけじゃない。だって現在進行形で俺は『大丈夫』になろうとしてるわけなので。
    「殺すつもりでフルボッコにしてきた相手に何も思わず平気でいられる奴が居ると思う? 俺、不良にカツアゲされたこともない穏やかな生活してたのよ?」
     痛かったし辛かったし怖かったよ。千空ちゃんたちがすぐに手当てしてくれなかったら死んでたよ、殴り殺されてたよガチで。
     そんな原始的で圧倒的な暴力の記憶が簡単に消えるわけがない。べったりと身体に染みついているさ、そりゃ。
    「てわけで、反射でビビるのはもう仕方ないのよ。だから平気とは言えない、まだ。……いやぁ、何て言うかさ、マグマちゃんって善人ではないけど素直だし、そもそも生き方のルールが違いすぎるんだよねぇ。だってあっち何も思ってないでしょ、俺フルボッコにしたこと。一緒に生活するんだもん、こっちが割り切るより無くない?」
     俺がやられた理由も、邪魔な余所者を排除しようとしただけ、ってのはやられた俺はたまったもんじゃないけど理解できちゃうし。暴力的で短気で理不尽だけど、納得したら素直だし自分より強い相手にやられたら従うし、あと乗せやすくてチョロいとこもあるし。
     殺されかけた俺が言うのも変なんだけど、多分そこまで嫌いじゃないんだよねぇ、俺。マグマちゃんのこと。恨むほど嫌いになれないというか。だから、そういうものと割り切ることは、出来そうなのだ。
    「千空ちゃん」
    「おう」
     千空ちゃんは差し出口を挟まずじっと俺の話を聞いていた。きっと俺の言葉に嘘がないか観察しているんだろう。そういう勝負で俺に勝てると思ってる? と言いたいところだけど、今回は俺なんにも誤魔化してないからね。観察するだけ無駄よ。
    「マグマちゃん、要るでしょ?」
    「……、おう」
    「うん。俺も要ると思う」
     ただでさえ人手が足りない中、彼は使える人員だ。多少性格に難はあれど、俺なら人を動かす術を心得ている。そんな小手先の細工がなくても人を動かせる男もこうして目の前に居る。
     臆病な俺の恐れなんか天秤にかけるまでもないのよ、千空ちゃん。
    「大丈夫よ~、千空ちゃん」
     震える身体も、冷や汗も、上がる心拍数も冷える指先も縮む臓腑も、それら全てを人前で隠し通すストレスも、何もかも。
    「たかが殺されかけたくらいで俺の心が折れるとでも?」
     君に必要なもののためなら、捩じ伏せるくらい出来なくっちゃねえ。
     笑う俺を千空ちゃんは何故か驚いたような顔で見て、口元を片手で覆うと俯いてしまった。
    「……テメーのメンタル、化け物かよ」
    「ガチのお一人様サバイバルを半年生き抜いた千空ちゃんにそれ言われるの心外なんだけど?」
     俺よりバイヤーな男が何を言うか。
    「褒めてんだよ」
    「ありがとう」
    「あ゛ー……何の手助けも要らねーって言われてるようなもんなのは癪だが……」
    「うん?」
    「……かっこいいな、テメー」
     ぼそっと、千空ちゃんが、呟いた。

     その三分後にコハクちゃんとクロムちゃんが資材を運んでくるまで、気恥ずかしさと居たたまれなさに硬直した俺たちが居たとか居ないとか。
    往き来する書 (現パロ同居千ゲ)
    《買い物リスト
    ・牛乳
    ・お肉
    ・卵 》


     あ、しまった。
     明け方に帰宅し、仕事へ出掛けた千空ちゃんと入れ違いで起きた昼前。ポケットに入れ、そのまま忘れていたメモ書きを発見してスーパーへ行き、今日は色々安かったな~なんて思いながら家の冷蔵庫を開けて思ったのが先の感想。
     千空ちゃんも買ってくれてたのね、卵。俺も2パック買っちゃったんだけど。あっちゃ~、4パックは多いよねぇウケる。
     他にも何くれと買い出ししといてくれたらしい。色々あるな、ありがとう千空ちゃん。出るまでまだ時間があるし、野菜と豚肉でスペインオムレツでも作っておくか。


    《買ってくれていると気付かず、特売の卵を2パックも買ってしまいました。
    とりまデカいスペインオムレツを作ったので消費協力シクヨロ。》


     帰宅後、冷蔵庫に貼り付いたメモに気付く。アイツ今日も遅いのか。ここ一週間はまともに顔を見ていない気がする。
     大方、冷蔵庫の中身を見る前に何も無かった筈だからと買い出しにでも行ったのだろう。忙しい時くらい、こっちも雑事はやるってのに。
     追加のツマミを作って、オムレツと一緒にワインを飲む。酒は美味いが一人の晩酌は少し味気ない。
     それにしても、開封済みと未開封が一つずつ冷蔵庫にあり、更に未開封のパックが二つ台所に積み上がっているのウケるな。どんだけ玉子が好きな家だよ。あといくつ残ってるんだ、と開封済みパックを手に取り、ふと違和感に気付く。もしやと光に透かして見たらば案の定。……あの野郎。


    《開封済み卵パックに茹で玉子を混ぜるな》


     今日も今日とて午前様。ああ疲れた。何か飲もうと冷蔵庫を見たら貼ってあったメモに気付き、笑いを隠しきれない。
     さっすが、気付くの早いね。いいじゃない、日常にちょっとしたスパイスは必要でしょ? しばらくすれ違いになりそうだし、これっくらいのコミュニケーションは許してよ。
     冷蔵庫を開けたら買った憶えのないコーラが入ってた。この家でコーラを飲むのは俺だけ、つまりこれは俺の物。こういうのこそメモに残してくれたら良いのにねぇ。
     さて茹で玉子はどうなったかと言えば、転がり落ちないよう小鉢の中にころんと入っていた。多分これかな……ひとつか。ということはまだ気付いてないらしい。朝っぱらから見たらきっとウンザリするだろうから、明日起きてからメモに書き添えることにしよう。


    《開封済み卵パックに茹で玉子を混ぜるな
      ↑
     未開封に見えるパックにも混ざってるよ》


     帰宅したら、朝無くなっていたメモが復活していた。とんでもない書き添えと共に。アイツ阿呆なんじゃねぇか!?
     常温で置いてる方に仕込むことはないだろう、てことは冷蔵庫の未開封パックか。なるほど、よく見ると一度テープを剥がして開封した形跡が見える。こんな所で丁寧な仕事をするな。
     そちらから見つかったのはふたつ、昨日と合わせて三つの茹で玉子、か。日持ちしないってのにアイツ何やってんだよ。呆れながらも、ニヤニヤ笑いつつ玉子を茹で、パックに仕込みをしていたであろう姿を思い浮かべて笑いが込み上げる。まったく、しょうもないことしやがって。
     冷蔵庫から未開封じゃなかったパックを丸々取り出して机に放置する。風呂入っている間に常温に戻るだろう、煮玉子を仕込もう。こんだけあるんだ、1パック丸々使っても構わねえだろ。
     アイツが作った茹で玉子は、そうだな、玉子サラダにでもして食ってしまおうか。

    《面倒なネタを仕込むな。
    作った玉子サラダを夜食用に残しとく。食パン棚にあり。サンドイッチにするなら使え。朝飯の分は気にするな。
    明日早いから先に寝る、おつかれさん。》


     ぐったりして帰宅したら、テーブルに卵サラダとメモがあった時の俺の心情を述べよ。正解は、はちゃめちゃに嬉しい。深夜テンションで叫びながら寝ている千空ちゃんの部屋にダイブしたい気持ちを小躍りすることで紛らわす。やさしい! 千空ちゃんがやさしい! 何事!? ゆでたまご日持ちしないし、まとめて消費するのにサラダにしてくれたのかな。
     折角だしこんな時間だけど食べちゃおう、そうだレタスとかも挟んじゃおうかな。そう思って開けた冷蔵庫に、ウチで一番大きなタッパーが鎮座していた。うん? 何これ。
    「……、おいコラ」
     思わず言葉が漏れる。L寸の卵、こんなに煮卵にしてどうすんのよ? いや美味しいけどさ、一度にたくさん食べるもんでもなくない? それとも千空ちゃんはいくつも食べる派なんだろうか……。
     うーん……まあ、いっか。次に顔合わせた時に飲む用のビール、買っておかなくっちゃな。


    《卵サラダごちそうさまでした。美味しかったよ~ありがとう!
    今夜も深夜ラジオのゲスト出演があるので遅くなります。チキンライス作ったから、オムライスにして食べてね。
    追伸。いくらまだたくさんあって消費に困るからってほぼ1パックすべて使って煮卵を仕込むのはどうかと思います。》


     なるほど、あの悪戯の意味を理解した。顔を合わせて話せていなくても、自分のした行動に対し相手から反応があるのは楽しい。あれはツッコミ待ちだったのか。
     酒のツマミにすれば煮玉子なんかあっという間に無くなるわ、1パックくらい余裕だろ。……アイツあんまり好きじゃなかったのか? まあ、それなら俺が食えばいいだけだ。
     チキンライスをレンジで温め、その間に玉子を割りほぐす。それにしても以前バターライス派って言ってたのにわざわざチキンライス作ったのか、俺に合わせて。玉子サラダの礼代わりだろうか。
     鼻歌交じりで温まったチキンライスに炒めた半熟玉子を広げて乗せる。やや不格好だが構うものか。あっ、ケチャップ無くなったわ。
     深夜、ラジオを聞きながら論文を読む。適当に回して、やっとアイツの出ている番組を見つけた。
    『ーー腕が疲れるかもしれませんが、ぜひ試してみて下さい。……あ~はいはい、名前は知ってます! 食べたことはないけど! そうやって作るんだ~なるほど、試してみますね、たまごふわふわ。このあともじゃんじゃん卵料理のオススメお待ちしてま~す!』
    『あさぎりさーん、こんな時間に飯テロなリクエスト読むのしんどいんですけど』
    『まあまあ、そう言わないでよ~我が家の食卓を救うと思って!』
    『てか番宣で来たのに今夜ずっと卵の話してんじゃないですか、特番の話をしましょうよ! メンバト復活スペシャルやるんでしょ!?』
    『そうそう、来週木曜日です、見てね~! じゃあ次のお便りを』
    『そんだけ!?』
     ……、たまごふわふわ? たまごふわふわって何だ。ふわふわなオムレツの焼き方とかじゃなさそうだし、腕が疲れるかもってどういうことだ。メレンゲ? でも菓子じゃなさそうだったな、話の流れ的に。そもそもそれ料理名なのか? ……マジで何もんだ、たまごふわふわ。
     手近な紙に走り書きでメモをする。次に顔を合わせた時に教えてもらうか。


    《たまごふわふわ ←?》


    「続きまして~、あっ、また卵料理きた! みんなゴイスーやさし~い! ありがとね~!! ラジオネーム、イオンの靴やさん……えっ職場バレしてるわけじゃないよね? いいの? 『来週放送のメンバト、スタジオ収録観覧に当たって見てました! ハラハラする展開でとても楽しかったです!』ワオ、ジーマーで!? 嬉し~!」
    「へえ、そんな手に汗握る展開になるんですね! ……あさぎりさんが喋るより番宣になってません?」
    「ね~、ホントに。フォローありがと! 『卵料理でオススメしたいのはトマトと卵の炒めものです』……うん!? トマトと卵!? 『父が中国に旅行へ行った時に教わったそうで、卵を炒めたところにトマトを入れて炒めて味付けするシンプルな料理です。簡単で美味しいですよ』へえ~いいなぁ、これ」
    「他にも同じオススメきてますよ、トマトと卵。こっちの人は湯むきしたトマトを入れて仕上げに水溶き片栗粉を、だって」
    「味付けも塩コショウだったり醤油いれてたりニンニク入ってたり~って感じでバラバラだ。いかにも家庭料理ーって感じ! 作ってみよ~っと」
     喋りながら、手もとにメモを引き寄せて要点を書いていく。
     トマトは無いな、買いに行こう。やっぱり中華ならごま油で炒めた方が美味しい? ニンニクは入れよう、絶対。うーん、トマトの水分でべしゃっとしそうだし……水溶き片栗粉のレシピを採用。
    「えー、皆さんには見えてませんがあさぎりさん今、喋りながらメモとってます。ガチで献立の参考にするつもりですね、このひと」
    「いや、笑うことなくない!? ドイヒー! 最初っから卵買いすぎた俺を助けて~って言ってるのに!」
     そのまま料理の話を続けて、出演時間は終わってしまった。あとからジャーマネに『自由に喋っていいとは言いましたけどもう少し番宣もしてくださいよ』と呆れられてしまった。メンゴ。


    《トマトの卵炒め
    ・湯むきする
    ・卵を炒めてからトマト
    ・つぶさないよう炒めて塩コショウ
    ・水溶き片栗粉 》

    「あっ」
    「お帰り。お疲れさん」
    「えっ、まだ起きてたの千空ちゃん!? もう三時回ってるよ」
    「……おかえり」
    「ただいま。え~、何ソレ千空ちゃんかわいいー!」
     ラジオの収録が終わり戻ってきたら、千空ちゃんはまだ起きていた。また論文でも読んでいたんだろうか? 明日には久々に顔見られるかなーと思ってたけれど、それより早く会えたのは嬉しい。テンション上がって抱きついたら、されるがまま受け止めてくれた。珍しいな、千空ちゃん眠くてあしらうのも面倒くさいのかな。
    「なあ」
    「はぁい?」
    「たまごふわふわ」
    「……ん?」
     なんか千空ちゃんの口から、らしからぬ単語が出てきたな?
    「たまごふわふわって何だ?」
    「ラジオ聞いてたの?」
    「あ゛ー……ちょうどその話が終わった辺りからな。その単語だけしか聞けてねえから、気になってた」
    「……それ聞くために起きてたの!?」
    「それだけが理由なわけねぇだろ」
     それより早く答えろとばかりに背中の服を引っ張られる。ねえ、さっきからゴイスーかわいいことしますね、君!? どうしちゃったの!? などと思いつつ見た目は平然と、引き剥がされないのを良いことにくっついたまま解答を差しだした。
    「郷土料理みたいなもんかなぁ。だし汁へふわっふわに泡立てた卵を落とす感じのやつ。江戸時代に食べられてたとか、そういうの。ちゃんと文献残ってるのよ」
    「ほーん」
    「食べたいなら明日作ろっか? 俺やっと明日オフだし、明後日も出るの昼からだから」
    「ん」
     手でメレンゲ泡立てるの疲れるんだけど、千空ちゃんが食べてみたいというなら作って進ぜよう。
    「あとトマトと卵のやつも作るね、食べてみたいんだ」
    「煮玉子も味染みてるぞ」
    「そーね、じゃあ昼間の内にビール買って冷やしておくね」
    「おー、頼むわ。早めに帰れるようにする」
     気のせいか、離れようとしても抱き寄せられているような。嬉し恥ずかし、というよりも俺もシャワー浴びたいし千空ちゃんもいい加減寝た方がいいから離れたいんだけど。
    「あー……のさ、千空ちゃん? くっついたの俺なんだけど、そろそろ離れていい? さくっとシャワー浴びて寝たいんだけど……」
     恐る恐るそう言うと、ぱっと手が離された。逸らされたバツが悪そうな横顔を、思わずまじまじと見てしまう。
    「……、わりとさみしかったとか?」
    「ちがう」
    「俺はさみしかったけど~?」
    「テメーそんな性格してねえだろ」
    「そこまで断定すんのはドイヒーじゃあない? 事実だけど」
    「事実ならいいだろ」
      これでも一緒に住んでるのにこうもすれ違うのはツマラナイなぁって思ってたよ? ジーマーで。さみしかった、ていうのとは違うだけで。
     そっか、そっかぁ。千空ちゃんは俺とお話出来ない数日がさみしかったわけね。
    「んっふふふ、同じお布団で眠ったげようか~?」
    「あ゛? 馬鹿言ってんじゃねーよ。徹夜で仕事行けってか?」
    「うん?」
    「テメーも折角の休みにへばって半日ベッドに居るのは御免だろ?」
     ええと。それは。つまり?
    「俺そういうつもりで言ってませんけど!?」
    「俺はそういうつもりで受け取るぞっつってんだよ。疲れてんなら、とっとと風呂入って寝ろ。俺も寝る」
    「っ……そうさせてもらいます~」
    「添い寝は明日頼むわ」
     えらいサラッと言いますね!?
    「スマートになりやがりまして、こんにゃろ……!」
    「おー、どっかのオニイサンの仕込みが良いもんで~」
     くあ、と大きな欠伸をして、千空ちゃんはオヤスミと言い置いて部屋に入ってしまった。
     くっそ、負けた! 何の勝負していたわけじゃないけど多分これは俺の負けだな、なんか悔しい。絶対、千空ちゃん俺とすれ違いでさみしかったから良い口実見つけて俺の帰宅待ってたんじゃん、くっついても嫌がらなかったのもそういうことじゃん! でも俺が疲れてるの分かってるから見逃したわけでしょ、たかが一晩の徹夜くらいで仕事に支障でないの知ってるからな! チクショウ、大愛してる!! ……うん、これ深夜テンションだな。寝よう。
     ええと、明日起きたらトマトと三つ葉とお酒買いに行く、メモ……は今はいいか、他の買い置き要るものチェックしてからで。
     よし、寝よう。その前にシャワー浴びなきゃ。ああ、それから無駄毛の処理と肌の手入れもしておこう。ああ、なんて健気な俺なのかしら。
     さあ、明日に備えなければ。きっと良い一日になる。くつくつ笑ってたら、大きな欠伸が出てしまった。
    柳の揺れる 視界の端で、また揺れた。
     その方向を横目で覗えば、サボってんのかそれとも何か探ってるのか、白黒の後ろ頭がペラペラと村人たちへ喋りかけている。風がまたあの男の上着の裾を揺らした。
    「なあメンタリスト」
    「はいはい、何よ千空ちゃん」
     俺の呼びかけにすぐさま応じて、裾を翻してやってくる。
    「聞きてえんだが」
    「うん」
    「テメーがいつも俺の視界に入る位置に居るのか、俺がテメーを視界にいつも入れようとしてんのか、どっちだ?」
    「ゴイスー直球でクッソ恥ずい質問ぶつけてきたね。それ知って何かあるの?」
    「俺が納得してスッキリする」
    「スッキリするかぁ? それ……うーん、そうねえ」
     頬を指で掻き、困ったような笑みを浮かべ、いつものように小首を傾げて答えを述べた。また揺れる、今度は白い髪。
    「用事で離れなきゃいけない場合を除いて、基本的には何かあった時の為に千空ちゃんの近くに居るようにはしているね。極力。だから、まあ、視界には入りやすいと思うよ」
    「おう。で?」
    「えっ、まだ続けろっての? 慮ってあげたのに? ………いやあ、そりゃ俺は確かに視界に入りやすいとは思うけど意識して君の視界に入ろうとはしてないし、いつも、ってなるともう千空ちゃんの作為が、あるんじゃないかなあ、と……」
    「そうか」
    「ご納得?」
    「おう」
    「……あ、そう」
     俺のが恥ずかしいんだけど何なの一体、とぼやきながらも、村人に名前を呼ばれれば鮮やかに表情と声音の明るさを変えて立ち去った。ふわりと、裾をまた揺らして。
     なるほど。納得した。スッキリした。
    (自覚以上、だ)
     ならそういう事も、あるんだろうと先日のミスを思い出す。
     揺れる柳の葉枝にテメーを見出して呼びかけたなんて話をしたら、恥ずかしいことを、と言って笑うのだろうか。白い髪をそっくりに揺らして。
     そんな益体のないことをふと、考えた。
    cafeteria(現パロ)「.……選べないっ」
    「いや、はやく選べよ」

     テーブル席の向かい側、ケーキのメニュー表を見つめて苦悩する男を千空は呆れて眺めていた。
    「だってさぁ、どれも美味しそうじゃん」
    「どれも似たような甘いモンじゃねえか」
    「えっ正気?」
     心底信じられないという顔で、ゲンは千空を見返す。
     自分が行きたくて選んだ店ではあるが、なんとも連れてきた甲斐のない事を言うものだ。
    「ちゃちゃっと決めろよ、そんな迷うほどのことか?」
    「んー….どっちにしようか迷ってんのよ、チョコレート」
    「ほーん」
    「ザッハトルテ美味しそうだけど、こっちのカシスショコラってやつも絶対に間違いないじゃん?」
     甘さをとるか酸味とのマリアージュをとるか……と呟くゲンの姿を横目に、千空は店員の呼び出しコールを押した。
    「えっ、ちょっと千空ちゃん!? 俺まだ決めてない!」
    「飲み物はコーヒーでいいだろ?」
    「いやカフェオレ。って、そうじゃなくて!」
     結局どちらか決めきる間もなく店員が注文をとりにやってくる。いいや、この子にどっちがオススメか聞いて決定しよう、と内心肩を落としていたら。
    「ザッハトルテとカシスショコラ、コーヒーとカフェオレ。以上で」
     どちらかではなく、どちらも注文されてしまった。
     注文を復唱し、店員は去っていく。
    「……んだよ」
     店員の居た側から千空が視線を戻すと、目の前には居心地が悪いほどに見つめてくる顔があった。
    「イケメンなのは顔だけにしといてくれない? 俺の心臓が保たないから」
    「なんだそりゃ」
    「いいの? 千空ちゃん自分が食べたいやつ違ったんじゃないの?」
    「言ったろ、どれも似たような甘いモンじゃねえかって」
     確かに自分で選んだものは違うケーキだった。けれど所詮はその選択を翻したって構わない程度の興味だ。譲ったところで問題ない。
    「そういう事にしておいてあげる~、ありがとう千空ちゃん! 有名店なのに連れてきた甲斐がないとか思ってメンゴ!」
    「テメーそんなこと思ってたのかよ」
    「だって折角なら満足して欲しいでしょ? 例え俺がゴリ押しで選んだ店でもさ。興味なさすぎるのはちょっとさみしいじゃん?」
    「.……まったく興味なかったらそもそも否定して来てねーよ」
    「そっか、そうだね。千空ちゃんだし」
     じゃあ次は千空ちゃんが食べたいやつ一緒に食べようね、とゲンが笑う。どうやらまた来ることは決定事項らしい。
    「そりゃ、おありがてぇことで」
     そんなことを言っても、また今日と似たようなことになるだろう。拘りのない身なので一向にそれで構わないが。

     折角なら満足して欲しい。ああ、まったくその通りだ。

     楽しそうにケーキを待つ顔を眺めながら、千空は笑みを誤魔化すようにそっと口元を覆った。
    桐人 Link Message Mute
    2022/06/02 22:06:52

    Twitterまとめ2

    TwitterであげていたSSのまとめです。千ゲ多め。司+ゲとか羽+ゲとかもあります。
    pixivより転載。初出2020.12.4

    #dcst腐向け #千ゲン

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    • そして男は居なくなり、(復興後if)復興後も一緒に暮らしてたのに、ある日ふらっと行方を眩ませるあさぎりの話。大丈夫です、ハッピーエンドです。
      pixivより転載、初出2020.10.29

      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • Home,sweet home(現パロ)『その夏に出会った年上の男は親しげに別れを告げて夏の終りに行方をくらませた。あとに死体をひとつのこして』

      という感じの夏と洋館とハーブガーデンを舞台とした現パロです。
      上の通りなので、人は死ぬしゲンは関わってるしモブがとても目立ちます。バッドエンドにはなりませんのでご安心ください。
      pixivより転載。初出2021.8.10

      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • そして男は居なくなり、(番外編) # 千ゲン結婚week にかこつけて、本編のあとの後日談を書きました。

      #dcst腐向け #千ゲン

      pixivより転載。初出2021.5.30
      桐人
    • そして男は居なくなり、(書き下ろしweb再録)再録本『そして男は居なくなり、』の書き下ろし等を公開します。
      お手にとって下さった皆さま、ありがとうございました。
      pixivより転載。初出2022.2.28
      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • 彼を見ている彼を見ている男性モブ視点の千ゲン。時間軸は宝島への出航まで。あさゲに惚れてしまった青年が失恋するまでのお話です。 #dcst腐向け #千ゲン

      pixivより転載。初出2021.5.11
      桐人
    • Twitterまとめ1Twitterに載せた小話たちのまとめ。千空さんあさぎりさん多め。
      この頃はまだ左右が決まってなかったのでどっちつかず感があります。
      #dcst腐向け

      pixivより転載。初出2020.8.17
      桐人
    • ハロウィン衣装コラボパロ話ハロウィン衣装コラボにときめいた末のパロ話です。何か物語が始まりそうですが、何も始まりません。 #dcst桐人
    • dcst小話集pixivに個別で載せていた短編類をまとめて掲載します。

      ・健やかなれ、科学の子(石神親子推しぎりゲンが科学少年を尊く思う話)
      ・星空の彼方に歌姫は居ない(唯一残った旧世界でヒトが作りし美を敵を欺くための道具に堕とすことを罪と感じる倫理観を持って地獄に落ちると評したあさぎりとその罪を肯定したにきちゃんの話)
      ・利己主義者のささやかな献身(あさぎりと献身について話す羽京さんの話)

      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • Twitterまとめ3Twitterで載せた小話たちのまとめです。
      千ゲがメインですが、羽+ゲとかひとつだけクロルリもあります。
      pixivより転載。初出2021.5.5

      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • いつか居た子は司さんを子ども扱いするあさぎりさんの話と、司さんを子ども扱いするあさぎりさんを子ども扱いする羽京さんの話。
      やや小説2巻のネタが入ってます。

      Twitterにて載せた二編のまとめ。

      初出2020.8.10、pixivより転載

      #dcst腐向け
      桐人
    • アンモライトは光り輝くフォロワーが『アンモライトの異形頭に見えるようになってしまった千kさん』という私の性癖ドストライクなネタをくれたので書きました。

      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • title ofTwitterの企画タグ # 絶対に被ってはいけないバソプ千ゲン小説 で書いたもの。
      pixiv初出2021.3.12

      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • Twitterまとめ4Twitterにのせていた短文まとめ。カプは千ゲのみですが、羽京さんがよく出ます。
      ひとつ140字から、長くても2800字程度まで。
      # イラスト投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる というタグや、フォロワーさんの短歌やイラストに寄せたss、診断メーカーのお題で書いた作品が含まれています。

      pixivより転載。初出2021.11.10

      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • dcst小話集2pixivに個別で載せていた話をまとめました。
      誕生日ネタと、 # 千ゲ歌会 で詠んだ短歌ネタと、初期ぎりネタです。
      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • Twitterまとめ5Twitterに載せていた小話たちのまとめです。
      千ゲが基本ですが、金狼さんがホラーな目に合う話や司+ゲやコハ+ゲや羽+ゲや羽京さん夢風味や冷凍つかさんを想う千(not恋愛)や、とにかくごった煮です。
      pixivより転載。初出2022.2.21

      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • ラーメン食おうぜ!(現パロ)現パロ的な謎時空にて、石神親子とあさぎりが仲良くラーメンを食べに行く話。やや千ゲ。
      pixivより転載。初出2020.11.6
      #dcst腐向け #千ゲン
      桐人
    • 雨音のスキャット石世界で千空さんが目覚めるまでの3700年間で居たかもしれない名前も残らなかった誰かの物語を語ろう、という企画に寄せた作品です。
      左足がまともに動かせない少年とまともに話せないけれど大きな声が出せる子どもの物語

      pixivより転載。初出2022.3.26

      #周縁の人々ウェブ企画 #dcst
      桐人
    • Twitterまとめ6Twitterに載せていた小話たちのまとめです。
      dcst、CPとしての千ゲあるいはReSoの千ゲが中心

      初出2022/2/22~2022/6/6
      桐人
    • dcstホラー 小話まとめ # dcstホラー というタグでTwitterに載せた小話まとめ。
      pixivより転載、初出2020.8.21

      #dcst腐向け
      桐人
    • あの公園には手品師が居たとあるフォロワーへ寄稿したものとなります。
      時間軸は石化前。高校受験を控えた夢主が、公園で出会った『先輩』に勝手に憧れて勝手に失恋するタイプのお話。
      pixivより転載。初出2020.9.1

      #dcst夢 #あさぎりゲン
      桐人
    • それらすべては人間でした5/4 エピソード追加しました

      周縁の人々の概念。
      石像が元人間とは知らない、いつか居たかもしれない村の人の、真実を知ったら後悔しかない行動のお話。
      前に考えた『それらすべては人間でした』という短歌の下の句になぞらえた短編。

      思いついたら増えるかもしれない。 #dcst #周縁の人々
      桐人
    • ワレラ鳥獣ニアラズ(蛇と蝙蝠/異形パロ千ゲ)これは御前試合で八百長を誘うコマでデフォルメに書かれた蛇の千空さんが好きすぎて見えたオタクの幻覚による異形パロです。
      2024年1月インテで薄い本になりますが、全文ここに載せてます。
      桐人
    • I'm here学生時代にやってたサイトが消せないまま残っていることを発見したのでこの際、その時の晒してていこうと思います。

      2006年単行本発売当時に書いた『モブとして登場後に存在するのに居なかった食満と竹谷が「ずっと前から出ています」で再登場するまでの話』
      自分に名前すらないことやサザエさん時空でずっと1年が繰り返されていることをメタ視点で知ってしまった二人がいる、そういうやつです。
      今ほどキャラが固まってなかった時代かつ当時自分がハマっていた別のものの影響も見えるのでいま見ると微妙なところが良くわかる。
      ご笑納ください。

      パスは『ずっと前から出ています』の収録巻数です。
      桐人
    • 彼女はこの地に佇んで(周縁の人々ウェブ再録)2021.11.7発行の合同誌『周縁の人々』より。
      ストーンワールドの歴史の中でもしかしたらあったかもしれない「誰か」の話、として書いたものです。

      こちらにて他参加者の作品全文公開しています。よろしければ合わせてごらんください。
      https://fierce-roll-e0a.notion.site/Web-5bdb898af12f418b9c59761128e4dfdf
      桐人
    • Bonus Track(Home,sweet home再録本書き下ろし)以前再録本として発行した『Home,sweet home』の書き下ろし分をweb公開します。お手にとってくださった皆さまありがとうございました。桐人
    • ひびをおもう千ゲとひびの話桐人
    • 地に足のつく気球に乗る千空さんとあさぎりさんの話。桐人
    • 自分の特徴あげてもらってそれ全部封印したSS書くタグのやつタイトル通りのものです。 #dcst

      ↓封じられたもの一覧↓
      ・ゲが干空ちゃんはつくづくツラがいいなあと心から思ってる
      ・かっこいいゲ
      ・丁寧な背景描写
      ・周縁のひと
      ・いなくなるゲ
      ・プライド高いゲ

      ひとつめはアウト判定がでた話、ふたつめは同じ話にいつもの手癖を足した話、みっつめはアプローチを変えてリベンジして書いた話です。
      桐人
    • Twitterまとめ7TwitterにのせたSSまとめ。
      ~2022/11/27
      #dcst
      桐人
    • 指が踊るマッスルパスができるあさぎりさんが見たい!から書き始めた話桐人
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