神の作り方神の作り方
僕は、何も取り柄のない子供だ。
何の取り柄もない…だからこそ害もない、そんな子供だ。
そう言う意味では親の育て方、住んでいる村ーーすなわち環境が良かったのだと思う。
両親を含む、村に住んでいる害のない人々。
ただ無邪気なだけの、害のない人々。
僕は、そんな害のない「村」が愛しい。
ーーー村が干ばつで、飢饉が起きるまでは。
飢饉が起きた村は、一般的には人身御供として、子供が生贄になる。
村で一番幼いのは僕だ。僕はきっと生贄になるのだ、と思っていた。
そして実際、僕は選ばれた。
予想とは変わった形でーーー
*
「生贄」という体裁を嫌ったのか否か、村長は僕を、神として祀りあげることにしたらしい。
村に形だけでも神を作り祀りあげ、雨乞いと同じように、神に信仰を集めて捧げ、干ばつした村に雨を降らせるつもりらしい。
まず、身体を清められた。
ーー神に相応しい身なりであるように。
次に、長時間の瞑想を日課にするよう、命じられた。
ーー神に相応しい、豊かな気を養うために。
次に、髪を切ることを禁じられた。
ーー神に相応しい豊かな気を、髪に気を留めるために。
次に、言葉使いを徹底的に修正させられた。
ーー神に相応しい言葉使いで、話せるように。
最後に、神に相応しい倫理観を叩き込まれた。
ーー神の視点で、物事を判断できるように。
神としてあるべきことを叩き込まれていく度、私の中の「何か」が削がれていきました。
「何か」が削がれていく度に、元々黒かった私の髪は、白く透き通っていきました。
最初は、私の髪が白くなっていくのを
「神に近づいている」と喜んでいた村人達も、私の黒髪の割合が少なくなっていくにつれ、畏怖の眼差しで私を見るようになりました。
挙句の果てには、私の両親は「早く人間に戻ってください」と泣き出す始末。
なんと傲慢なのでしょう。
だから私は可能な限り、穏やかに努めて答えたのです。
「これが、貴方達の望んだことでしょう?」とーーー
私の言葉を本当の神様が聞いていたのか、その後急激に天気が崩れ、干ばつだった村が全て水に沈んだのは笑えましたね。
これはきっと、神を冒涜した罰なのです。
行き着くべき結果だったのです。
ーーーそして私は人としての生を終え、本当に神になりました。
*
神になってだいぶ経ちましたが…
それでも私は、何も取り柄のない神です。
何の取り柄もない…だからこそ害もない、そんな神です。
今は亡き両親を含む、村に住んでいる害のなかった人間達。
ただ無邪気なだけだった、害のない人間達。
私は、そんな害のなかった「村」を……それでも愛しく思うのです。
おかしいでしょう?
きっとこの感情は「私」の毛先だけ黒い髪が完全に白くなるまで、残り続けるのでしょうね。
ーーー以上が「神」の作り方です。
参考になりましたか?
ご静聴ありがとうございました。
貴方に「神」の加護があらんことをーーー
end