やや個性あり夢主短編まとめ|振り回される恋はやっぱりかわいい短編集お姫様抱っこはパワフルに
お願いがあるのと、僕の大切な可愛い彼女からそのお願いをされたのが5分前。
快くそれを受け入れ、彼女の話に耳を傾けたのが4分前。
その話を聞き終えたのが、つい先程の話。
そして、今僕は……。
「わあ、やっぱり! 雷蔵なら出来ると思ったんだ!」
「ああー……うん。それは、良かった……ね」
「ね? 言ったでしょ? 空手部やるようになってから、私凄い筋肉付いたって!」
「うん、でもね、こういうのはやっぱり……女の人がやるのっておかしくない?」
「そう? でもそうしたら男の人である雷蔵がされちゃいけない、なんて決まりも無いよ?」
「そうだけどさぁ………お姫様だっこはないよ、うん。やっぱり変」
「ええ〜」
そう、僕は今彼女に抱き上げられている。
抱きしめられているのではなく、抱き上げられているのだ。
いくら部活で筋肉が付こうが、僕が身長の割に軽い方だろうが関係ない。
流石にこれは許可を出すべきではなかったと後悔するも、時間は元には戻ってくれない。
抱き上げられた僕は、ただただ時間が過ぎ去るのをおとなしく待ち、一刻も早く彼女に地上へ降ろしてもらうのを願うばかりだ。
「結構良いと思ったんだけどなあ」
「いや、端から見れば楽しいかもしれないけど、僕はどちらかと言えば……」
「そっか! じゃあ三郎に見せようよ! 三郎なら絶対良いって言ってくれる!」
「止めて! それは駄目、絶対駄目!! 呼ぶとか絶対駄目!」
「大丈夫だよ〜、このまま移動も出来るから〜」
「いやそういう事を言ってるんじゃなくて! 教室から出て他の人に見られたらさすがの僕も困るの!」
「ええ〜、せっかく頑張ったのに」
「そういうのは、二人っきりのおうちデートの時にでも聞きたいんだけど」
「う、うちでなんか出来ないよ! 学校でしか無理!」
「何でそこまで学校にこだわるのさ……」
とほほ、といった具合に僕が苦笑すれば、僕の可愛い彼女はこう答えた。
「だって、二人っきりのうちでは雷蔵に甘えたいじゃない」
「……恐れ入りました」
結局僕はそのまま隣の教室の三郎の元まで運ばれ、それはそれは面白楽しく遊ばれました、とさ。
相合傘の下で
「あ、中在家先輩!」
「………」
「図書委員のお仕事ですか?」
「………」
「私はこれから学級委員長委員会です!」
春雨が降る、午後の学園。
事務室から預かった学級調査のプリントを片手に、事務室の小松田さんから借りた傘をもう反対の手に持ち、図書室前を通った時、中在家先輩と会った。
先輩の手には結構な量の本が積まれている。
「良かったら、入って行かれますか?」
「………」
「書物用の蔵に行くんですよね? でしたら大丈夫です! 通り道ですから!」
「……ありがとう」
「いえいえ! お任せ下さい!」
中在家先輩を傘に入れ、二人並んで歩き出す。
先輩は私よりも何寸も背が高いから、少し背伸びをして傘を持つ。
憧れている先輩の隣で、息をするのもやっとだけれど、先輩のためならここは頑張り所。
大事な図書が濡れないように、慎重に、慎重に……。
「………」
「へ? あ、す、すみません! 先輩のお話、聞いてませんでした……」
全身全霊傘に集中していたら、先輩の声を聞き逃した。なんという失態。折角声をかけて貰ったと言うのに、それを無視してしまうなんて申し訳なさを通り越して土下座したい。
ああ、でも私が土下座してしまったら、先輩の本が雨で濡れてしまう!
これはどうやって謝るべきか。
「傘を」
「え」
傘、といきなり言われ、私の頭がついに真っ白になる。
脳内で如何にして先輩の本を濡らさずにして土下座をするかなんて、考えている場合じゃなかった!
もう恥ずかしさを通り越して泣きたい位だ。
けれども先輩はそんな私に構う事なく、私の手から傘を奪うとまた小さな声でこう言った。
「……私が持てば、お前が濡れないだろう」
そう言って、私の濡れた肩を見る先輩の目は優しかった。
おかげで私が先輩の言葉を理解するのに、しばらく時間を要したのはこれまた恥ずかしい話である。
結局私はその後先輩が本を書物用の蔵まで置きに行った後、学級委員長委員会の部屋の前まで送っていただいてしまった。
何とまあ、その幸せなことか!
あまりにも幸せで嬉しくて、浮ついていたせいで鉢屋先輩からデコピンを食らってしまった。
「鉢屋先輩、雨の日も悪くないもんですね!」
そうご機嫌に言う私に、「お前がニヤニヤと気持ち悪く笑うのが雨の日なら、俺は晴れの日を所望するね」と言われたのはまた別の話。
朝の待ち合わせ
「……あ」
「え? あ、食満だーおはよー」
学校への登校なんてものは、一年も通えば大抵同じ時間に通うメンツも決まって、見慣れない奴がいるとすぐ気づくもんだ。
「お、おはよう。珍しいな、今日はバスじゃねぇんだ?」
「うん。今日から徒歩」
「定期でもなくしたのか?」
「はっずれー」
「ああ、何だ。ダイエットか」
「違う! 私今年の身体測定でそんなに体重増えてないし!」
登校時間には少し早い通学路に珍しいがあるとすぐ気づいたのは、前々から教室でその後ろ姿が気になっていたから。
「冗談だって」
「本当かなあ?」
「怒るな怒るな。ほれ、飴やるから」
「え? 良いの?」
「この前喉枯れた時に伊作が寄越したんだけど、俺あんま舐めねえから」
「善法寺くんらしいねえ〜」
まだ恋と呼んで良いのかわからない、淡い感情を持っていたからかもしれないが、決して下心があって声を出して存在アピールをした訳ではない。
決して、断じて違う。
「食満、いつもこの時間に登校してんの?」
「まあな。早めに行かねえと今日の委員会の予定組めねぇから」
「流石委員長。お勤めご苦労様です」
「そういうお前も、今日はやけに早いな。バスだともっとゆっくり来るのに」
「家から徒歩で学校まで何分かかるか知らなかったからさ。遅刻したら嫌だし、早めに出た」
「真面目だな」
「えっへっへっ、真面目ちゃんだよお〜」
「その変な笑い方止めろ、キモいから」
「ひっどーい! でもまあ、これでしばらくは徒歩通続けられるから良っか」
「何でだよ?」
「食満が居るじゃん」
ケロッとした顔で答えられて、一瞬言葉に詰まる。
そんな俺を気にすることなく、彼女は俺よりも小さな足で忙しそうに歩く。
「バスだと友達が途中で乗って来るから、何て言うか寂しくないんだけどさ、徒歩って一緒に歩ける人がいないとただ黙々と歩くだけじゃん?」
「その友達と通学しなくて良いのかよ」
「いやあ、それがその子彼氏出来ちゃって」
「あ、ああー……」
さっきの会話の答えをやっと理解する。大方その友達が彼氏も一緒に通学したいとか、言い出したのだろう。よくある通学デートってヤツだ。
確かに、それは一緒に通学するとなると心苦しい。
「と、いうわけで、私は今日から徒歩通なのです! 徒歩通先輩の食満先輩、何卒ご指導よろしくお願いしまっす!」
「おう、頑張れ」
「んじゃ、明日から朝はさっきの角で毎朝待ってるからね」
「は? お前それ本気かよ?」
「本気だよー」
「……まあ、せいぜい俺が通る時間までに来て、遅れないようにするこったな」
「あ、酷い。見てろー絶対遅刻なんてしないで皆勤してやるんだからな」
「へえへえ、そりゃご苦労さん」
素っ気なく答えていながら、胸中でこれからさっきの角で毎朝待とうと決めた事に、隣を歩く彼女は気付いただろうか。