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    【落乱夢再録】個性あり主短編まとめまだ広い背中に慣れないけれど二人乗りこそ青春です!視線が外せない一目惚れしたときからまだ広い背中に慣れないけれど「おい」
    「ひいっ」

     この世の中、容姿も去ることながら、地上を生きゆく人間は様々な性格を持ち今日も生きている。人はそれを簡単に纏めて個性と呼ぶが、それは必ずしも万人が万人を受け入れられるとは限らない。
     いくら博愛主義者が世界中の人を愛そうとしても、相手が受け入れなければそれまでの関係。上辺だけのお付き合い。ライトは消え、ジ・エンドの文字が浮かび、エンドロールが流れ幕は閉じられる。
     そう、人間の相性というものがあってこそ、人とのお付き合いが始められるか決まるのだ。
     もう一度言おう。人間相性というものがあってこそ、人とのお付き合いが始められるか決まるのだ。

    「ひぃとは何だ、情けない。そもそも私に対して失礼だと思わないのか」
    「……すみません」

     一人くらい苦手な人間がいたって良いじゃないか。
     ついでに言えば、関わらないと死ぬという訳でもない。
     関わらなくて済むようにしてくれたって、罰は当たらないんじゃないかと神様に切実に願うが、生まれてこの方叶った試しはない。
     神様は結構意地悪だ。

    「全く、お前はいつまで経っても変わらないな」
    「ほ、放っておいて下さいよ、立花先輩」
    「おい」
    「何でしょうか」
    「二人きりの時は先輩と呼ぶなと言ったはずだ。いつも通り名前で呼べ」
    「……はい」
    「それから敬語。私は嫌だと言ったはずだが」
    「すみ……ごめん」
    「はあ、本当に。学習しないあたりも変わらないな、お前は」
    「そ、そういう仙蔵だって!」
    「何だ?」
    「……何でもない」

     目の前でふんぞり返っている男の姿に、私の口からは文句よりも溜息が出る。
     頭脳明晰・容姿端麗・運動もそつなくこなす、言わば優秀な人物。性格は見ての通り多々難ありだけど、でも誰よりも仕事も勉強も出来るから意外と信頼もある。エリート街道まっしぐらと言ったら言葉が悪いかもしれないが、将来有望株と既に言われている超人間。
     これが一つ上の私の幼馴染み、立花仙蔵のプロフィールだ。

    「それで、今日は何の用?」
    「ああ、そうだ。お前の学習スピードが亀並みなことに驚いて忘れていた」
    「亀……あの、用は?」
    「お前をからかいに来た」
    「帰って良い?」
    「冗談だ。生徒会から学級委員会に頼みがある。これがその資料だ」
    「……見せて」
    「勿論だ。職員会に通すためには、打ち合わせないとまずい。事前に学級委員会とも一度軽く会議をしたい。空いている日を教えてくれ」
    「ちょっと待って。今スケジュール帳見るから」

     実の所、私は仙蔵が得意ではない。どちらかといえば、仙蔵のような人間は苦手な部類だと自覚している。
     仙蔵絡みで面倒な事に巻き込まれるのはよくある話だし、最近それに慣れつつある事でクラスメイトの竹谷にかなり心配された。あの竹谷に言われたとなれば、それは相当な侵食具合なのだろう。もう手遅れかもしれないけど。
     それでも、私の仙蔵への苦手意識は慣れる事なく残っているし、寧ろ年々悪化している気がする。

    「来週の木曜日なら、大丈夫じゃないかな。鉢屋と尾浜は同じバスケ部だから、木曜日はまとめて空いてるはずだし。後輩は居る?」
    「いや、一年まではこの案は職員も聞き入らないだろう」

     パラパラと手帳の頁を捲りその前後の確認もするが、やはり次の職員会議に間に合うのはその日だけだ。

    「じゃあ、二人に今連絡して聞いてみるよ」
    「ああ、頼む。ところで……」

     スカートのポケットからスマホを取り出し、メッセージを打っていると仙蔵がこちらに近づいてきた。内心逃げたい気持ちでいっぱいなのを、ぐっと堪えて携帯のボタンを押す事に意識を集中する。
     口は災いの元、触らぬ神に祟りなし。余計な事を言って仙蔵に変に絡まれるのは、真っ平ごめんだ。
     今までそれで何度振り回されたことだろう。

    「お前、今日はこの後暇か?」
    「え?」
    「この後予定はあるのかと聞いている」
    「あ、ある」
    「それは何だ」
    「何でそんなこと」
    「良いから答えろ」
    「……日直の日誌。職員室に出しに行くだけだよ」
    「よし。じゃあ日誌を出したら、今日はそのあと私に付き合え」
    「は?」
    「出掛けるぞ」
    「はあっ!? な、何で?」

     神様は意地悪だ。

    「買い物に行く。雑貨屋と服屋と、喫茶店の新メニューのケーキを食べて、それから……」
    「ちょ、ちょっと待って!!」
    「お前、明日誕生日だろう。彼女の誕生日を祝わない彼氏がどこにいる。だが私は明日は生憎生徒会で動けん。だから先に祝う」
    「ご、強引」
    「どうとでも言え。連絡は終わったか? さっさと行くぞ、時間がもったいないだろう」
    「うわっ! ちょ、手、いきなり引っ張んないで! 転ぶってば!」
    「お前は本当に鈍くさいな」
    「鈍くさいって! 大体仙蔵だって……」
    「何だ」

     私の手を引く仙蔵の背中を見て、言葉が止まる。
     昔は私より小さな背中だったのに、今じゃ私の背丈も追い越して大きくて広い背中だ。
     あんなに小さかったのに。

    「……いつの間にかデカくなってるし」
    「は?」
    「何でもない!」

     神様はついこの間まではただ単に怖かっただけの相手に別の感情を植え付けて、別の恐怖を作り出した。
     嫌われたくない。だから、いつの間にか彼女となった私は仙蔵と関わるのがちょっと……いや、かなり苦手になった。
     でも。

    「どうした?」
    「何でもないってば。所で仙蔵、そっち行くと職員室だよ」
    「当たり前だ。日誌を出しに行くのだからな」
    「日誌、教室なんだけど」
    「お前という奴は……」
    「な、何!? 急に呼び出した仙蔵だって悪いでしょ!!」
    「いい加減要領よく動けるようになったらどうだ。二度手間だろう」
    「う、ぐ」
    「拗ねるな。早い所教室に行って、さっさと学校を出るぞ。帰りが遅くなる」
    「はあい」

     案外その神様の意地悪も、苦手の意味が変われば悪くないなとは思える位に、私は彼にぞっこんなわけで。

    「ならキビキビ歩け。ちんたら歩いているなら置いていくぞ」
    「あれっ!? 私祝われるんじゃないのっ!?」

     結果的に、私はやっぱり神様の掌の上で転がされているのだろう。
     その前に彼にころころと転がされて、遊ばれているのだけど。

    「所で何で体育館裏に呼び出したの?」
    「お前が怯える姿を見ようと思ってな」
    「……私、やっぱ趣味悪いのかな」
    「何を今更」
    「え、仙蔵、それまさか渾身の自虐ネタっ!?」
    「置いてくぞ」
    「嘘うそ、ごめん、だから本当に置いてかないで!!」
    二人乗りこそ青春です!「うぎゃああ!!」
    「五月蝿い!! 耳元で叫ぶなバカタレ!! 叫ぶならもうちょい色気のある声で叫べ!!」
    「いやいやいや、無理無理!! 無理だって!! つか、叫ぶなとか叫べとかどっちだよ!! 我が儘だな!!」
    「誰が我が儘か!! 俺は大人しくしろと言ってるんだ馬鹿者」
    「馬鹿はどいつだ、お前だ文次郎!! 良いから私を自転車から降ろせ!!」
    「女が汚い口の聞き方するな!!」
    「喧しい!! こちとら命の危機なんじゃボケ!!」
    「ぬわんだと!!」
    「やるか妖怪隈ギンギン!!」
    「誰が妖怪だ!!」

     委員会が長引いた放課後の空は、夜に向かって駆け足だ。
     帰宅時間を盛大にオーバーする事で有名な生徒会会計の私と文次郎は、大抵二人で一緒に帰る。帰るお家はご近所、幼稚園に入る前からの顔馴染み。
     要は幼馴染みになる訳だけど、残念ながら二人の間に漫画やアニメよろしくラブロマンスが生まれる事など一度もなく。小学校から高校まで一緒な為に、周りから初めは冷やかされるのだが、本当に何もないと悟ったのか友人達は文次郎のもの字も言わなくなってきた。そんな、地味に疲労感漂う高2の春。
     今じゃ周りの女子達の意識は新任の山田先生やまだまだ若い土井先生、隣のクラスの善法寺くんや食満くん辺りに向いているようだ。いやはや皆さんお疲れ様ですと、お弁当の唐揚げを頬張りながら穏やかな気持ちで桜を眺めたのは今日のお昼の事だ。
     そんな事はさておき。

    「だあーかあーら!! 降ろせっつってんの!」
    「断る!! 大体今何時だと思ってる!!」
    「あーもうお前は年頃の娘を持った父親か!? 寧ろ最近の父親のが物分かり良いんじゃないの?」
    「バカタレ、誰が父親だ!!」
    「お前だ阿呆文次!」
    「俺かよ!」

     問題はこの文次郎である。
     いつもは並んで大人しく家へと歩くのだが、今日は何を勘違いしたのか文次郎が自転車で学校に来た。
     一緒にちんたら歩かせるのも悪いので、帰りはお先にどうぞと言ってみれば一緒に帰ると言い張った。
     聞けば女一人を歩かせる訳にはいかないと言う彼に、まあ何て紳士的な殿方なんでしょうと感動した10分前の自分が憎い。
     というか返せ、私の感動。

    「んだあ、もう嫌、マジ勘弁してよ!!」
    「もうこんなに暗いんだぞ、早く帰るにはこれが一番手っ取り早くて安全だろう」
    「手っ取り早くても、安全のあの字もねーよ!! うちの高校何処に建ってるか知ってますよね? お山の真ん真ん中にあるんですよ? しかも通学は路坂道なんですよ?」
    「だから何だ」
    「絶叫系が嫌いな私が、この急で長い長い下り坂を2ケツで下りるとか無理だっつってんの!!」

     というか普通に危ないでしょ! と、鼻を鳴らす私は悪くないと言い切れる。いや、恐怖心のが一番勝ってるんだけれども。
     だと言うのに、気が付けば半ば強引に自転車の荷台部分に乗せられ、出発進行発車3秒前! という感じの今、私は全力で抵抗していた。
     でもどう考えたって、急で長い下り坂を2ケツで下るのは危険以外の何物でもない。

    「それともあれか? お前はどこぞの邦楽ミュージシャンの曲のように、私を自転車の後ろに乗せて青春したいってのか?」

     はっはーん、文次郎くんもそんなお年頃になったのねえと、井戸端会議に参加しているおば様方宜しく笑ってやると、文次郎は予想通り怒鳴り返して………来なかった。
     静かな夕方の春風が、二人の頭を撫でる。予想外の無言の反応に虚を突かれ、引っくり返った私の間抜けな笑い声がその場に響く。
     何とまあ、その虚しい事か。

    「え、えっと」

     身動きせず、前を向いたままの文次郎の背中が恐い。ヤバい、怒らせたかな。でもやっぱり下り坂は怖いんだよな。
     文次郎を怒らせようものならば、普通はもう少し焦るものなのだろうが、これが日常の私には痛覚が鈍って慣れてしまっている。
     よって危機感など皆無。

    「もーんじろっ」

     制服をぎゅっと後ろから掴み、文次郎の顔を覗く。そこには隈の出来た、通りすがりの子どもを全力で泣かせる程の怖い顔があるはずだ。これで拗ねると文次郎は長いので、早めに片付けないと本当に帰りが遅くなる。早い所機嫌を取らないと。
     そう思って、いつも通り覗き込んだ私の目に入ったのは、徹夜で染み付いた隈でも、子どもを泣かせる恐い表情でもなく、ましてや私がよく知る文次郎の顔でもなく。

    「……えっと、あっ、その……マジ?」
    「うるせえ」

     真っ赤な顔で口元を隠した幼馴染みに、数秒遅れで私の耳も赤く染め上げられた。
    視線が外せない ちらり、ちらりと視界に入るもの。
     仙蔵程ではないけれど、長く綺麗な黒髪を高い位置で結っている後ろ姿。
     触ったら潰れてしまうのではないかと思う程、華奢な肩。

    「……誰だ? アイツは?」

     七松小平太にとって、視界に入るものは数が限られている。
     おばちゃんの作る料理、バレーのボール、マラソンの目的地、野外実習での相手となる敵。
     同室の長次もその視界に入る、数少ない人間の一人だ。
     基本的に同級生は目に入れる事はあるが、その背中を見たからと言って足を止める事はそうそうない。

    「おい、文次郎」
    「何だ。委員会の予算ならあげんぞ」
    「そうではない。文次郎、お前はアイツを知っているか?」
    「ああ? 誰の事だ……って、お前、天井から降りて話したらどうだ」
    「おお、スマンスマン」

     小平太がにかっと良い笑顔で答え、文次郎の怒りの気を削ぐ。
     ここまで悪意の無い笑顔を向けられれば、普段なら軽く文句を言える気力もなくなると言うものだ。

    「で? 誰が何だって?」
    「おお、そうだ! 文次郎、お前はアイツを知っているか?」
    「どいつだ」
    「仙蔵のような長い黒髪で、私が触ったら壊れそうな奴だ!」
    「前半の説明は兎も角、後半の説明はお前の場合ほぼ全てだろう」
    「うむ。そうかもしれん。だが本当に私が触ってしまえば壊れそうなのだ、他に言い方など知らん!」
    「はあ……そうか。それは解った。だがな」
    「おお! 知っているのか!」
    「そんなありきたりな説明で解るかバカタレ!」

     文次郎が怒りのままに怒鳴る。
     しかし、この説明で誰か判断しろという方が酷な話だ。

    「ふむ……ではアイツは誰なのだ?」
    「知らん。第一お前が見たものを、俺がそのまま想像出来ると思ったら大間違いだ」
    「そうか! ならば……」
    「はっ!? ちょ、おい、小平太!」
    「文次郎、お前も一緒に来い!」

     小平太によって強引に、文次郎は部屋から担ぎだされる。
     しかしそうは問屋が卸さない。
     文次郎かて、ギンギンに日々鍛錬をしている身、戸枠にしがみついて抵抗する。

    「無茶を言うなバカタレ! 俺は会計の仕事がある、お前のその人探しに付き合っとる暇などないわ!」
    「大丈夫だ、アイツが見つかればすぐに終わるぞ!」
    「そういう問題ではないと言って……」
    「どうされたんですか、潮江先輩、七松先輩」
    「ぬ? おお! お前は!」
    「ぬおわ!?」

     文次郎は急に現れたくのたまに背後を取られた挙げ句、小平太が手を離したことで廊下に落とされた。

    「大丈夫ですか? 潮江先輩」
    「だ、大丈夫だ」

     現れたのは会計委員の一人で、今年五年生となったくのたまだ。美に対する研究心は人一倍誇り高く、くのたまの後輩たちからもその知識は一目置かれている。
     いつだったか、仙蔵と髪の美しさを保つ方法を論議した末に論破したとかで、彼女が原因で作法委員会から会計委員会が総攻撃を食らった事があった。その時は勿論会計委員会も援護はしたが、ほぼ一人で返り討ちにしたという恐ろしい女だ。作法委員会も作法委員会だが、彼女も割とやる事がえげつない。作法委員会と間違って会計に来たのではないかと思った程だ。
     普段は大人しいが、これでも戦場に立つと鬼のように駆け回り、女だてらに先陣を切ってゆく体力系の奴なのだから、人は見た目によらないというもの。

    「そうですか。なら、結構です」
    「あ、ああ……」
    「ところで先輩、まだ用具委員から予算案が提出されておりません」
    「何!? あのバカタレ、また期限を守ってないのか!?」
    「いえ、期限は明日の夜までです。ですが、前回の件もありますので、これから忠告しに行ってこようと思うのですが、よろしいですか?」
    「ああ、頼む。放っておけばあの阿呆はすぐ忘れるからな」
    「分かりました。出来るだけ早く戻るよう努力しますが、もし長引いた時はちょっと暴れてくるやもしれません」
    「程々にしておけよ」
    「はい。加藤君たちの帳簿の確認は私が帰ってきてからいあたしますので、先に昨日の続きをやっておいて頂ければ助かるのですが……」
    「ああ、言っておこう」
    「ありがとうございます。では、失礼します」

     颯爽と歩いてゆくその姿は、本当に凛々しい。
     艶やかな黒髪も、体力勝負を得意としていながら細身であるその体も。
     まるで黒猫を見ているかのような、そんな錯覚を覚えさせられる。

    「おい、文次郎」
    「何だ、バカタレ」
    「あの娘は何だ?」
    「あれはうちの委員だ」
    「そうではない。あの娘の名前は何だと聞いているのだ」
    「……小平太、お前、もしや」
    「あの背中から、私は何故か目が離せん。なあ、文次郎。彼女は何者だ」

     目の前で首を傾げる同級生に、文次郎は言葉を失うばかりだ。

    「なぁ、文次郎。何故彼女は私の目を奪うのだろうな?」
    一目惚れしたときから「誰かあ、助けてくださーい……」
    「あの、大丈夫ですか?」
    「え?」

     忍術学園に入学した最初の週。
     今では日常と言われた僕の不運の中で、はじめて巡り会い、僕を助けてくれた彼女。そこから僕の、大切な友となった彼女。
     彼女はくのたまだったけれど、誰にでも優しく困っている人には分け隔てなく手を差し伸べた。同じ保健委員ではなかったけれど、一年生や後輩たちが怪我をしていればすぐに背負ったり、手を引いて優しく連れて来てくれた。
     僕はよく彼女に尋ねたものだ。何故そんなに優しく出来るのかと。
     その度に彼女はこう口にしていた。

     「優しさが何かわかるなんて、私は馬鹿だからわからないんだ。でも、人の憂いに寄り添える人になりたいの」

     あれから時は経ち、僕らと同い年の彼女も、くのたまの最高学年になった。忍たまよりも生き残るのが厳しいと言われるくのたまで、最高学年として忍術学園に残っているのは彼女だけ。食堂で一人、食事を進める背中を、僕は何度か見かけた。
     その度に声をかけようとして、かけられない僕が居た。
     そのうちに後輩達と一緒に食べている姿を見て、安心したような、後悔したような気持ちが僕の中に残った。

    「ねぇ、留三郎」
    「何だ? 変な薬なら飲まねぇぞ」
    「違うよ。飲みたいなら飲ませてあげても良いけど」
    「冗談だよ……それで、どうした?」
    「留三郎に大切な友達が一人、いたとして」
    「友達ね」
    「その人が一人きりでご飯を食べていたら、君は声をかけるかい?」
    「ま、かけるんじゃねぇの?」
    「そうだよねぇ……」
    「珍しいな、お前がそんな話をするなんて」
    「かけられなかったんだ」

     床についた時、隣の留三郎に声をかけた。僕の自己満足の質問に、いつも通り答える彼の言葉は淀みない。

    「大事な人なんだ。でも、声をかけられなかった」
    「珍しいな」
    「そうなんだ。どうして声をかけられなかったのか、解らなくて。それに……」
    「それに?」
    「僕は、その人の隣に誰かが座るのが嫌だった。僕であって欲しかった。声をかけられなかったのに、おかしな話だよ」
    「そうか」
    「そうなんだ」

     なんとも言えない無言の時間が二人の間に流れた。
     これ以上聞いて欲しくないような、でも、最後まで尋ねて欲しいような気分だった。

    「……お前は、その友人が〝大事〟と言ったな」

     重い口を開くように留三郎が話し出した。

    「本当に、そこには情があったのか」
    「あるに決まってるだろう!」

     いきなり何を言い出すかと思えば、というのはこういう事だろう。
     思ってもみなかった言葉に、僕は素直に憤慨する。

    「伊作、何もお前の気持ちが悪いとは言ってない。ただ、その感情は確かに友情だったのかと俺は聞いているんだ。解るよな、意味」
    「友達、じゃなかったかって事かい?」
    「どうせお前の事だ、あの娘の事を言っているんだろう。ほら、忍術学園で初めて落とし穴に嵌まった時の……」
    「気付いてたのかい!?」
    「俺が何年お前と同室していると思ってるんだ」
    「あー、あはは……」
    「兎に角。お前は、自分の気持ちを一度見直してみるべきだ」
    「そんな事言ったって、それじゃまるで……」

     彼女の事を、僕が好きだと言っているみたいじゃないか。
     非難めいた声で留三郎を問いただすが、それに彼は答えなかった。夜の空気が冷えてきて、そろそろ眠る時間だと教えてくれる。布団に潜りながらも、思考は止まらない。
     ただ、眠りに身を奪われそうな僕の耳に聞こえた同室の言葉だけは、はっきりと聞こえた。

    「少なくとも、俺はアイツにお前が出会った時から〝そういう感情〟を抱いていたと思っていたがな」

     僕には彼女を守る自信はない。何せ天下の不幸大魔王と言われている僕だ。勿論認めた訳じゃないけれど。
     それなのに、彼女の隣に居たいと願う僕がいる。これではまるで、なんて話じゃない。本当に、留三郎の言った事が真実のようだ。
     気付きたくなかったのに、と叫ぶ内なる僕が居る。知りたくなかった、見たくなかった、分かってしまったらそばにられなくなると恐れる僕が居る。
     では何故恐れるのか。この感情は何だというのか。
     この気持ちは何だ。どうしてこう感じる。
     夜を越え、朝を迎えた僕の目を見て、留三郎は気持ちのいい顔で笑う。

    「いい顔してんじゃねえか」
    「そっちもね。ねえ、留三郎」
    「おう、なんだ」
    「あの子に会いに行って、ちゃんと言ってみようと思うんだ」
    「そうか。なら、さっさと行ってこい」

     学園で初めて落とし穴に落ちたあの日のように、今日も元気に転んでも、仕掛けに引っかかっても足を止めずに先へと進む。くのたま長屋に一番近い塀、彼女が朝の散歩で通るその場所に僕は急いで向かう。
     僕のこの気持ちを伝えるために。
     一目見た時から、君に惹かれていたことを伝えるために。
    綾川 Link Message Mute
    2026/03/13 22:34:07

    【落乱夢再録】個性あり主短編まとめ

    ●まだ広い背中に慣れないけれど/立花仙蔵 ※転生学パロ
     →苦手なはずの幼馴染と、気づけば恋人になっていた話
      初出:個人サイト(閉鎖済み)

    ●二人乗りこそ青春です!/潮江文次郎 ※転生学パロ
     →喧嘩ばかりの幼馴染が、ふとした瞬間に崩れる距離感
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    ●視線が外せない/七松小平太
     →初めて「気になる」を知る男の話
      初出:個人サイト(閉鎖済み)

    ●一目惚れしたときから/善法寺伊作
     →友情だと思っていた感情が恋に変わるまで
      初出:個人サイト(閉鎖済み)

    固定寄りの夢主とキャラクターの関係性を主軸にした短編集です。
    自己投影よりも「関係性を読むタイプ」の方向け。
    善法寺夢は相手視点です。
    以前サイトのWEB拍手に置いていた小説を加筆修正したものになります。

    表紙:https://www.pixiv.net/artworks/51141453
    本投稿において、商用・非商用問わず、転載・再配布・利用・加工・AI学習等への使用を一切許可していません。また、個別の許可申請につきましても対応しておりません。

    #夢小説 #女主人公 #ネームレス #忍たま乱太郎 #落第忍者乱太郎 #忍たま #落乱 #忍たま夢 #落乱夢 #立花仙蔵 #潮江文次郎 #七松小平太 #善法寺伊作

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