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    刺星の声|星空の下で淡白な不破が初恋を自覚する話 はじめ僕の中での彼女、苗字名前の印象と言ったら、実のところ全くもって無かったのだから悲しいものだ。
     いや、全くないと言ったら嘘になるのだけれど、生憎と関わりがない女子生徒の事をわざわざ目で追い、その体に意識を捧ぐような趣味を僕は持っていない。一応男として生まれたなりに性欲というものは持ち合わせていたけれど、それも生身の媒体がなくても事足りていたので、それ程体に負担は掛かっていなかったと思う。
     おかげで僕は良い意味で異性というものに興味を持たないまま、十七年の人生を過ごして来た。“淡白”と言う言葉は僕の為にある言葉だと幼馴染みの悪友に言われたので、全く持ってその通りだと納得の末頷き同意をした所、友人達全員に呆れられたのだからどうしようもない。お前と仲良くなりたい女子はいくらでも居るんだぞ、と焼きそばのような髪の友人に熱弁されても、僕の興味は揺らぐことなく、視線の先には大抵活字が居た。
     これは流石に宜しくないと、祭り好きの友人を筆頭に友人達に合コンに連れ出された時期もあったが、興味が無い物をそう簡単に好きになるのは難しい。いつしか彼等も諦め、僕は平和に図書館へ通い本に埋もれながら十七回目の夏、心行くまで青春を謳歌していた。
     だから、彼女の印象が無かった事に対しての罪悪感からくる悲しさではなく、勿体無い事をしたという後悔の念から来る感情だと言っておこう。

    「つべこべ言わずに、職員室に来い!」

     いつもの通り、委員会の仕事を終えて下校時刻に間に合うように図書室の施錠をしていた時。後ろの方からざらざらした、明らかに苛立った様子が感じ取れる怒鳴り声が聞こえた。
     ここは大人しく聞こえなかったフリをするのが世の為人の為、主に自分の為にもなると解っては居るのだけれども……

    「木下先生っぽかったな、今の声」

     木下先生と言えば、自分の学年の生活指導の先生で幼馴染みや自分を含めた友人達が一番世話になっているであろう先生だ。ついでに言えば一番怒鳴られているのは僕達だと言っても過言じゃない。
     という事は、やっぱりまた怒られている可能性が番高いのは、あのやんちゃな友人達である可能性が高い。

    「う~ん。行ってみて、まぁ、助けられそうだったら声をかけてみるか」

     情けは人の為ならずとは言うけれど、正しくこの言葉は男子高校生の友情の為に生まれた言葉だと思う。何にしろ男と男の間の友情という物は恩を売れる時に売っておかねば、何かあった時のごり押しは効かない。まぁ、かといって事の重大さは問われないので、弁当を忘れた時の購買のパン代を借りる為だったり、テスト前のノートの見せ合いでその恩もパァ。大体そんなもんだ。だから気楽に一緒に馬鹿をしていられる。
     持ちつ持たれつ、良くも悪くも運命共同体。それが僕らの合い言葉。

    「木下先生、また三郎達が何か悪さでも……」
    「ん? あぁ、不破か。委員会の帰りか?」
    「え、あ。はい」
    「うむ。ご苦労。だが鉢屋や尾浜達はここには居らんぞ、残念だったな」
    「いやぁ、ははは……」

     流石に長い付き合いをしているだけあって、木下先生の勘は鋭い。ここに立ち寄った理由を見透かしたその言葉には、苦い笑みで返す他無い。
     薄っぺらい作り笑いを顔に貼付けながら、ふとじゃあ誰が怒られていたのだろうという疑問が浮かぶ。木下先生の機嫌を損ねない程度にその奥をそっと盗み見れば、小さく縮こまっている女子生徒の姿があった。
     たしか同じクラスの子だったはずだ。名前は何だっただろうか。何度か図書室でも見かけていたので、多分向こうはこちらの事は知っているはずだ。
     さて、一体何て名前だっただろうか……

    「あの、木下先生。一人称……」
    「あぁ、そうだ。お前はこれから職員室に……」
    「ですから先生、違うんです……これは一人称の物ではなくて」

     そう言って彼女が学生鞄を胸に抱きしめる。
     もう長い事スポーツに使っていなさそうな、ちょっと表現が酷いかもしれないけれど、お世辞にも運動が得意とは言えなさそうな随分と華奢な腕だった。握ったら長年文化部に在籍している僕の握力でも、ぽきんと簡単に折れてしまいそうだ。その細い腕が必死に黒い鞄を抱え、意地でも離すまいと頑張っている。
     長いストレートの黒髪がぱさりと音を立てて鞄に被さり、更に抵抗の意思を示すが所詮女子高生と男性の力だ。徐々に鞄が木下先生の手に引き寄せられる。寧ろそのまま彼女ごと木下先生に持ち上げられそうな気さえしてきた。
     話の流れから察するに、問題のブツが入っているのはその鞄のようだったので、思わず動けずにその攻防戦を眺めていると、彼女の髪の毛の合間から名札が垣間見えた。

    「あぁ! そうだ! 苗字さんだ!」
    「わ、きゃあ!?」
    「うぉう!?」

     白熱した戦いは、彼女が驚き突然鞄から手を離した形で幕を閉じた。引き合いの中心に置かれていた鞄は、哀れにも宙を舞いその中身を騒がしい音を立てながら廊下へぶちまけ、役目を終えた。お疲れ様としか言いようが無い。
     驚きのあまり鞄から手を離した彼女は見事に廊下にひっくり返り、木下先生も転がりはせずとも数歩後ろによろめいて壁に手をつき体勢を立て直している。
     どう考えても原因は僕だ。
     彼女が犯した悪行はどうあれ、流石に申し訳ない事をしたと思った僕は手を差し出した。木下先生とのやり取りから頑固な印象があったが、意外にもすんなりとあの華奢な腕は僕の手を掴んでくれた。

    「ありがとうございます」
    「いや、今のは僕がいきなり叫んだのが悪かったし」
    「全くだ」
    「あはは、すいません。木下先生もお怪我はありませんか?」
    「不破、お前それ白々しいぞ」
    「一応先生の事も心配してるんです」
    「一応は余計だ」

     先程とは別の笑みで会話を続けていると、苗字さんは黙々と散らばった鞄の中身を拾い始めた。彼女に続いて僕や木下先生もそれらを拾い集めるが、ふとその問題になっていたのであろう物が目に入る。

    「……千枚通し?」

     女子高生の鞄から、そうそう出てくるにしては無骨すぎるそれ。
     工作系の授業はここ最近ない上、授業で使うにしても学校の工作室に道具は用意されているものだ。そもそも生徒が学内へこんな危険物を持ち込むのは使用目的が無い限り許されない。

    「あの、それは……」
    「ねぇ、もしかして苗字さん、天文部だったりする?」
    「え?」
    「あ、でもうちの学校天文部って無くなったんだったっけ? じゃあごめん、僕の勘違……」
    「あってます! いや、天文部はまだ仮で残っているんです。けど、部員が全然足りなくて……わ、一人称天文部の最後の部員で、今は部活ではなく同好会って感じで……すいません、べらべらと」
    「え、あ、ごめん。別に謝らせるつもりじゃ……」
    「不破、あんまりからかうな」
    「いえ、からかっているんじゃなくて。なるほどなあと納得してたんですよ」

     何を言っているんだと睨む木下先生は、いつもの悪戯を怒られてる時の目をしているようでくすぐったかった。
     元から彼女を疑っていなかったのか、はたまた僕達よりも信頼があるだけか。明らかに後者の方が理由だろうが、苗字さんの弁明をするならやってみろとその目は種明かしを待っている。

    「これ、プラネタリウムに使うんだよね」
    「……あ、はい! 部員の勧誘に体験して貰おうと思って……あ、でも予算は頂いていないので、まだ本体に使う電球と回転台は買えていないんですけど……」
    「プラネタリウムって、あの大きなホールとかでやる……あれか?」
    「あれ程大掛かりなものじゃありませんけど、縮小版のような物が手作り出来るんですよ。先生の持ってるその黒い画用紙、一枚頂いても良いですか?」
    「あ、あぁ……」
    苗字さん、一枚使っても良いかな?」
    「画用紙は予備も含めて多めに持って来ているので、いくらでもどうぞ」
    「ありがとう。えっと、こんな感じに穴を空けて……木下先生、これは何座でしょう?」
    「な、何座って言われても」

     木下先生から見て窓と画用紙が重なるよう翳し、木下先生に光の穴を見せる。
     いきなり名指しされた事に驚いたのか木下先生は、まるで油断していた授業で当てられた生徒のように狼狽している。流石にいきなりはまずかっただろうか。
     ちらりと苗字さんを見れば、彼女は既に答えが解っている様だったので目で答えを促してみる。

    「琴座……ですよね?」
    「正解! 流石天文部!」
    「へぇ……」
    「これに、こうして、こう穴を空けて行けば……はい。先生もこれなら解りますよね」
    「あぁ、これあれか。夏の大三角の……」
    「鷲座と白鳥座、上がベガで左下がデネブ。右下のアルタイルを繋いで先生の仰った夏の大三角の出来上がりですね!」
    「これを球体型に折って、暗い部屋で中からライトで照らすんです」
    「ほぉ、こりゃ見事なもんだ」
    「不破くん、本だけじゃなく星座にも詳しいんですね」
    「うん。小学生の時、友達と一緒に天体観測をした事があって……あれ? 僕苗字さんに自己紹介した事あったっけ?」
    「いえ、でも不破くんは……」
    「そりゃあ知ってるだろうさな、お前等は学内でも十分有名な悪戯小僧集団だからな」

     ゆらり、と隣で見ていた木下先生の影が揺れる。やばい、やり過ぎたかもしれない。にっこりと笑う口元がどうにも怖い。これは地雷踏んだかな、なんて呑気に考えてしまうのも日頃の行いの悪さだろうか。
     今一つ友人達と一緒に悪さをちょいちょいやっているせいで、こういう事に関して僕は鈍くなっているのかもしれない。

    「あはは。お褒めに預かり光栄です、木下先生」
    「褒めとらんわ!」
    「いや、でもこれで先生の勘違いで苗字さんを職員室に連れて行かずに済んだじゃないですか、たまには僕たちも役に立つもんですよ?」
    「本当にあるかないかのたまだろう」
    「たはは……」

     はっきり言うなぁと笑えば、そんな僕に合わせて苗字さんも笑ってくれた。
     そう言えば何か言いかけていたようだったが、一体何と言おうとしてくれていたのだろうか。
     その事に気が付いたのは夜布団に入り、電気を消した部屋から星を見上げた時に彼女の笑顔を思い出したからだ。
     まるでチカチカと輝く星の光を見た後のように、瞼の裏から彼女の顔が離れない。

    「変わった笑い方をする人だったな、苗字さん……」

     その晩、布団の中から比較的見つけやすい季節の星座を指で繋げ、僕はそっと眠りについた。

    ◆   ◇   ◆

     あれから何度か苗字さんを委員会や文芸部の活動中に図書室で見かけ、僕らは話をするようになった。彼女も部活動の時間帯は大抵天文系の書棚の前をうろうろしていたし、話すと言っても貸し出しの時に二言三言交わすような挨拶と、ちょっとした世間話程度。それだけの関係だ。
     それだけ、なのだ。本当に。

    「なぁ、雷蔵」
    「ん~、何?八左ヱ門?」
    「最近雷蔵、本から顔を上げてる時間増えたよな」
    「え、そう?」

    いつもの如く屋上に忍び込み、五人でお昼を食べていた時の話だ。

    「何々? とうとう雷蔵にも気になる子が出て来たの!?」
    「八、その話俺も混ぜて!」
    「お前等、ちょっとは静かに出来ないのか……で、どこの豆腐屋の話だ? 雷蔵」
    「兵助ェ……」
    「な、何だお前等揃いも揃って!」

     ケラケラと僕を肴に笑う友人達を眺めながら、何か違うなぁと考える。ただ何が違うのだと今ここで尋ねられても、何も答えられないのだがやはり何かが違うのだ。思わずそれが顔に出ていたのだろう、幼馴染みが僕の眉間に人差し指をツン、と当てて来た。

    「ここ、皺になってる」
    「え? 嘘?」
    「嘘吐いてどうすんだ」
    「あー、それもそうか……」

     僕が笑ってそう返せば、今度は三郎の顔に皺が出来た。

    「三郎、皺出来てる」
    「気に食わん」
    「え、僕が笑ってるのが?」
    「違うわ! 雷蔵が、この俺に、何も、言ってくれないのが気に食わん!」
    「えぇー、またその話……」

     生まれた時から共に育った三郎は、家族ではないものの家族以上の存在だ。竹馬の友とも違う、近い言葉で表すのなら双子のような関係。その三郎の問題と言えば定期的にこうして僕が隠し事をすると、もしくは何か報告し忘れると拗ねるのだ。
     勿論何から何までお互い話している訳ではないけれど、どうやら三郎はその報告する内容にある一定ラインを課せているらしい。もう彼とは長い事一緒に居るけれど、どうにもその曖昧なラインが未だに僕はわからずに居る。
     もっとも、その境目も三郎の機嫌によって上がったり下がったりするようなので、もう把握をする事は諦めているのだが。

    「毎回言ってると思うけど、僕は何かを隠してるつもりはないんだけど……」
    「雷蔵おおおおお」
    「あー、もう、くっ付かないで暑いから。それで? 三郎は僕に何を話して欲しいってのさ」
    「何で委員長見てんだよ、何? 委員長に何か俺の事言われたの? 俺の普段の悪行バレたの? 怒ってんの?」
    「はあ? え、っていうか委員長って?」
    「ああ、三郎もやっぱ名前ちゃん見てると思った?」
    名前ちゃん? え、だから誰……」
    「誰って、俺等のクラスの学級委員だろ。苗字さんだよ」
    「あ、ああ……苗字さんの事か」

     八左ヱ門の説明で、ようやく合点がいった。三郎はひとつの物事に進むと決めたら割と周りを見ない為、誰かが大抵その合間に解説する手間がある。
     普段それは自分の役目な為、僕を中心に暴走されるのは慣れていない。

    「ほら俺と三郎ってこれでも学級委員じゃん?」
    「自分で“これでも”なんて言ってる辺り、特にな」
    「兵助五月蝿い」
    「でも確か学級委員長の代理って、三郎だったよね? 副委員長でやってるって言ってたじゃん」
    「表向きはね。でも実質、三郎と同じ副委員長の名前ちゃんが委員会の面倒見てるようなもんなんだよね」
    「三郎、人に迷惑をかけるなとあれ程……」
    「あれなんか俺に良くない方向に話傾いてね?」
    「いやでも雷蔵、これが案外一番上手く行くんだよ。三郎、目立つところでは強い奴だから表で何かある時は三郎が出て、裏ではそれを名前ちゃんしっかりと手綱握ってくれてるんだよね。それでついたあだ名が委員長って訳」
    「あー、何か解る。代理やってるとやっぱ後ろ盾居てくれないとキツいんだよなぁ~」
    「俺のところは顧問が割とこまめに面倒見てくれるから、まだマシな方だな」
    「そりゃ土井先生はマメな先生だし」
    「そんな訳で。名前ちゃんのおかげで俺も後輩の面倒見ておけるし、まぁキチンとした委員長が在籍しない委員会にしては、顧問が信頼して手を出さない程度には上手く行ってると思うよ」

     本人も自分は縁の下の力持ちタイプだって言ってたしね、なんて勘右衛門がにこやかに話す。

    「でも委員長と雷蔵が関わり合った何て知らなかったな。何かあったの?」
    「何かって……」

     皆が怒られてるのだと勘違いして話しかけました、なんて言って良いものか。でも事実は事実だし、下心があった末に顔見知りになりました?いやそれじゃあ誤解を生んでしまう発言になってしまう。
     だからと言って気にならないと言えば、それは嘘になる。自分でも最近ちょこちょこと教室の中の彼女を探している事には気付いてはいたし、何よりもまたあの笑った顔を見たいと思っているのだから彼女に興味が無いとは言い切れない。

    「悩み出したな」
    「悩み出しちゃったな」
    「悩んじゃったね~」
    「……何だよ」
    「まぁ、素直に祝ってあげたら? 三郎」
    「嫌だ!」
    「お前な、いい加減雷蔵離れしろよ! 見ろよ、雷蔵困ってるだろ?」
    「断る! 俺と雷蔵は一心同体で……」
    「キモい! 三郎めっちゃキモい!」
    「五月蝿いほっとけ!」
    「そもそもお前がそうやって雷蔵にべったりしているから、雷蔵の奴彼女も作らずに活字とばっか仲良くして……」
    「うーん、そうだな。また笑った顔が見たいって、思ったのは本当かなぁ」
    「え、雷蔵?」
    「うん。何かこの間会った時変わった笑い方をする人だなぁって思って、それで……」

     ぼつぼつと自分の考えを述べる。
     一通り話し終え、どんな反応をされるのかと恐る恐る横を見れば、友人の一人は嬉しさのあまり一人男泣きをし、一人は祝詞を上げ天に感謝し、若干一名は乾涸びているというか完璧にいじけて壁をがりがりと爪で引っ掻いている。大分カオスな光景が広がっていた。一体何故こうも普通の反応がないものか。
     これは言って良かったのか悪かったのか、流石に後悔の念が出始めた。まぁ、隠してもどうせこの友人達だ、そのうちバレてしまうのが落ちなのだが。
     その中でたった一人、大人しく弁当の揚げ豆腐を食べていた友人が平然とした顔で言った。

    「ところでその委員長っていうの、何て種類の豆腐?」

     誰かまともな奴は居ないのか。

    ◆   ◇   ◆

     委員会もないまま迎えたその日の放課後。
     さて、帰り支度をして部活動に精でも出そうと図書室に向かっている途中、ふと階段の踊り場の人影に気付き足を止めた。

    苗字さん?」
    「え? あ、不破くん。これから部活動ですか?」
    「うん。苗字さんも?」
    「はい。今確認していた所なんです」
    「確認?」
    「この間お世話になった、これです」

     話終えると同時にすっと出されたのは、あの黒い画用紙だ。

    「もうすぐ文化祭があるので、出し物の準備にプラネタリウムをしようと思って。部員確保にも繋がるかもしれませんし」
    「一人でやってるの?」
    「まぁ、部員は一人だけですし……」

     眉を八の字に下げ、彼女がふにゃりと笑う。
     違う。これでもない。
     僕の中で何かが文句を言う。

    「あれ? でもプラネタリウムの回転台ってまだ……」
    「それについては、ちょっとした策を練ってあるんです。見に来ますか?」
    「良いの?」
    「不破くんに時間の余裕があるのでしたら、是非。他者の意見を取り入れて置きたいですし、それに……」

     この間のお礼もしてませんから。
     小首を傾げて言うその様は、放課後の西日に照らされてより一層輝いて見えた。
     結局僕は素直に彼女の申し出に応じ、図書室の手前にある科学室に来た。
     たった数十メートルのその道での時間が、こんなにも濃くも短く感じたのは初めてだった。

    「あ、そうだ……」

     扉に手を掛けた苗字さんが、慌てて扉を閉めて僕に振り返った。

    「不破くん、目を閉じて頂いても良いですか?」
    「目?」
    「はい。プラネタリウムの試験をしたまま踊り場に出ていたので、まだ部屋の中が暗いんです。今先に目を閉じてから入った方が、光に目が慣れるまでの時間を考えると早くて楽ですから」
    「そっか」
    「でも目を閉じたまま歩くのは危ないので……」

     ぎゅっと、左手に柔らかい感触。
     明らかにこの間触れた時と何かが違う気がする。

    「机にぶつからないように、不破くんの手は一人称が引きますね」
    「あ、はい」
    「じゃあ、目を閉じて下さい」

     僕が目を閉じたのを確認してから、扉を開ける音がした。
     暗闇の中を歩く恐怖よりも体中の全神経が左手に注がれ、その手中にある彼女の華奢な掌を潰さないように優しく包む事に僕は精神を統一する。

    「どうぞ。目を開けてみて下さい」

     囁くような小さな声で、彼女が言った。
     窓ガラス一面に張られた画用紙が、余計な外の光を遮断し室内に小さな穴から細い光を招き入れ、そこには確かに星が在った。
     これをずっと一人で作っていたのか。図書室で天体の本を借り、一人でずっとこれを作り続けていたのか。
     そう考えるだけで、目の前のこの光景がとても愛おしい物に思えた。

    「……綺麗」
    「良かった!」

     きらきらと瞬く手作りの星に、彼女の笑顔が共鳴するように輝く。
     これが見たかったのだと、安堵した。
     隣で薄らと見えるだけのはずの彼女の笑みはとてつもなく明るい。でもその代わりこの真っ暗な世界には、君と僕の二人しか居ないのだと痛感し、続いて満足感に襲われた。
     二人の間を埋めるように瞬く星の振動が僕には心地よく、また恐ろしい程もどかしくもあった。

    「綺麗だ、本当に」
    「じゃあ、頑張った甲斐があったって事ですね」
    「あの、さ」
    「はい。何でしょう」
    「天文部って、掛け持ちOKだったり、する?」
    「…………」
    「あ、無理だったら良いんだけど、僕星好きだし……」
    「もちろん!」

     隣でそう嬉しそうに言う君の、ふわりとしたその微笑みの儚さに。
     僕は生まれて初めて恋をしました。
    綾川 Link Message Mute
    2026/03/20 21:59:44

    刺星の声|星空の下で淡白な不破が初恋を自覚する話

    興味がなかったはずなのに、気付けば目で追っていた。
    触れた手の温度が、どうしても離れない。
    淡白な不破が、たった一人に心を奪われるまでの話。

    夢主固定寄り/自己投影非推奨。キャラ同士の関係性重視。
    お相手視点。解釈・心理描写中心。
    転生学パロ、青春ど真ん中。

    以前サイトに置いていた小説を加筆修正したものになります。
    初出:個人サイト(閉鎖済み)
    表紙:https://www.pixiv.net/artworks/119681227
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    #夢小説 #女主人公 #落第忍者乱太郎 #忍たま乱太郎 #落乱夢 #忍たま夢 #落乱 #忍たま #不破雷蔵 #現パロ #学パロ

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